表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された令嬢ですが、国の仕組みを直したら評価が逆転しました 〜聖女よりも必要だった“地味な才能”で、辺境から王国を立て直します〜  作者: 花守いとは
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/72

外伝 第二話 『祈らない日』

 祈れば、治る。


 それは事実だった。


 手をかざし、言葉を紡ぎ、光を落とせば、

 熱は下がり、傷は塞がる。


 人々はそれを「奇跡」と呼んだ。


 だが――

 今日は、祈らないと決めていた。


---


 施療院の窓から、朝の光が差し込む。


「聖女様、こちらの子を……」


 母親に抱えられた少年は、高熱で朦朧としている。


 祈れば、一瞬だ。


 額に触れ、目を閉じるだけでいい。


 だが私は、まず問いかける。


「昨日からですか?」


「はい……夜から急に」


 脈を測り、喉を見る。

 水分は足りていない。


「水は?」


「嫌がって……」


「少しずつで構いません。口を湿らせるだけでも」


 母親は不安げに私を見る。


 祈らないのか、と。


---


 奇跡は、強い。


 だが、強すぎる。


 それに頼れば、原因を見なくなる。

 生活を変えなくなる。

 誰も学ばなくなる。


 かつての私は、

 「救う」ことが役目だと思っていた。


 今は違う。


 支えること。

 続けられる形を残すこと。


---


「今日は、薬湯と冷却で様子を見ましょう」


 母親の目が揺れる。


「……祈りは?」


 期待と、不安と、少しの失望。


 私は、まっすぐに答える。


「必要なら、使います」


 今は、その時ではない。


---


 昼過ぎ、少年の熱は少し下がった。


 母親は、ほっと息をつく。


「……ありがとうございます」


 その言葉に、胸が静かに満ちる。


 奇跡は使っていない。

 だが、救われていないわけではない。


---


 施療院の奥で、一人になる。


 手を見つめる。


 この手は、奇跡を落とせる。


 だが、すべてを治せば、

 この町は弱くなる。


 奇跡は、最後の一手でいい。


---


 夕方、年配の医師が言った。


「今日は使わなかったな」


「ええ」


「迷わなかったか?」


 少しだけ、考える。


「……迷いました」


 正直に答える。


 祈れば感謝される。

 期待にも応えられる。


 だが、それは

 私が中心に立つことと同じだ。


「それでも、使わなかった」


「はい」


 医師は、静かに頷いた。


---


 夜。


 施療院の灯りを落とす。


 外では、子どもたちの声がする。


 奇跡がなくても、

 この町は回っている。


 私は、聖女である前に、

 この場所の一人だ。


 祈らない日もある。


 それでも、

 十分だ。


---


 もし、強さとは何かと問われたなら。


 私はこう答えるだろう。


 使える力を、

 使わないでいられること。


 それもまた、

 強さだと。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ