番外編 十年後、選び続けた先で
朝の光は、相変わらず穏やかだった。
城と呼ばれていた建物は、
今では「役所」と呼ばれている。
装飾は減り、
人の出入りは増えた。
それを、
誰も寂しいとは思っていない。
「……次は、この案件ですね」
若い担当者が、資料を広げる。
私は、机の端からそれを眺めていた。
前に立たない。
判断もしない。
ただ、
必要なときに、そこにいる。
「迷っているなら、
判断理由を書き出してみて」
それだけ伝える。
若者は、
深く頷いた。
外に出ると、
風景が少し変わっている。
新しい家。
広がった畑。
舗装された道。
だが、
一番変わったのは――
人の顔だ。
自分で決めている顔。
「……また、考え事か」
隣に、アルトが立つ。
昔より、
少しだけ白髪が増えた。
「いいえ」
私は、首を振る。
「確認していただけです」
「何を」
「……ちゃんと、
続いているかどうか」
アルトは、
小さく笑った。
「十年経って、
まだそれを気にするのか」
「ええ」
私も、笑う。
「油断すると、
前に立ちたくなるので」
左手の指輪は、
もう特別な意味を持たない。
外すことも、
つけ直すことも、
考えない。
ただ、
そこにある。
選び続けた結果として。
午後、
子どもたちの声が聞こえる。
学校帰りだ。
「……あの人、誰?」
「昔、
偉かった人らしいぞ」
「今は?」
「……普通の人?」
その答えに、
私は満足した。
夕暮れ。
二人で、
城壁だった場所に立つ。
今は、
ただの展望台だ。
「……満足か」
アルトが、
昔と同じ質問をする。
私は、
少し考えてから答えた。
「はい」
即答ではない。
だが、
揺れはない。
「今も、
選んでいますから」
選ばれなかった人生は、
終わらなかった。
形を変え、
速度を変え、
誰かの中心にならないまま、
続いている。
それは、
派手ではない。
だが――
確かに、満ちている。
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