第57話 時間が答える
季節は、少しだけ進んだ。
劇的な変化はない。
だが、確実に違う。
朝の空気がやわらぎ、
城の庭に緑が増えた。
私は、以前と変わらず仕事をしている。
前に立たない。
判断を奪わない。
必要なときに、
言葉を添えるだけだ。
「……これで、いきます」
若い文官が、迷いなく言う。
「はい」
私は頷く。
それで、話は終わる。
アルトも、変わらない。
指輪の話は、
一度も蒸し返されなかった。
それが、
何よりの答えだった。
形にしなかった選択は、
宙に浮いていない。
時間の中に、置かれている。
昼、
領内の村で、
小さな相談を受けた。
「……決めるのが、怖くて」
「怖いままで、
決めてください」
以前と同じ言葉。
だが、
受け取られ方が違う。
「……分かりました」
その声は、
震えていなかった。
夕方。
アルトと並んで、
城壁の上を歩く。
話題は、
取り留めのないもの。
収穫の見込み。
道の補修。
最近の天気。
未来の約束は、出ない。
それでも、
不安はない。
「……時間は、
残酷だな」
アルトが、ぽつりと言う。
「はい」
私は、空を見る。
「でも、
正直でもあります」
続くものは、続く。
終わるものは、終わる。
私たちは、
終わらなかった。
夜。
自室で、
灯りを落とす。
指輪が、
どこかにしまわれていることを思い出す。
忘れられていない。
だが、
急がれてもいない。
それが、
ちょうどいい。
時間は、
答えを急がない。
だが、
嘘は残さない。
形にしない選択は、
時間の中で、
静かに証明されていく。
私たちが、
毎日、ここにいること。
それ自体が。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




