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婚約破棄された令嬢ですが、国の仕組みを直したら評価が逆転しました 〜聖女よりも必要だった“地味な才能”で、辺境から王国を立て直します〜  作者: 花守いとは
第1部

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第56話 形にしない選択

 朝、

 机の上に小さな箱が置かれていた。


 飾り気はない。

 贈り物にしては、簡素だ。


「……これは?」


 近くにいた侍女が、少し困ったように言う。


「アルト様から、と」


 それ以上の説明はなかった。


 箱を開ける。


 中には、

 指輪が一つ。


 宝石はなく、

 細い金属の輪。


 儀式用でも、

 装飾品でもない。


 日常で身につけられる形だった。


 私は、しばらくそれを見つめた。


 胸が、ざわつく。


 拒絶ではない。

 戸惑いだ。


 形を与えることが、

 怖いわけではない。


 だが、

 問いは残る。


 ――今、必要か?


 昼。


 城壁の上で、

 アルトを見つけた。


 指輪のことは、

 まだ口にしない。


 風が、

 静かに吹いている。


「……忙しそうだな」


「ええ」


 いつも通りの会話。


 だが、

 私の中では、

 静かな波が立っていた。


 夕方。


 私は、指輪を持ったまま、

 中庭に出た。


 日が傾き、

 長い影が伸びる。


 アルトが、

 こちらに気づく。


「……見たか」


「ええ」


 それだけで、

 話は始まった。


「……急がせるつもりはない」


 アルトは、先に言った。


「ただ、

 形があってもいいかと

 思っただけだ」


 言い訳でも、

 押し付けでもない。


 確認だ。


 私は、正直に答えた。


「……嬉しいです」


 指輪を、

 軽く握る。


「でも」


 言葉を選ぶ。


「今は、

 形にしないでいたい」


 アルトは、

 驚かなかった。


 少し、

 考えただけだ。


「理由は?」


「形があると、

 安心してしまうから」


 私は、ゆっくり続ける。


「安心は、

 悪いものではありません」


「でも、

 選び続けなくなる気がします」


 それは、

 私自身への警戒だった。


 アルトは、

 しばらく黙っていた。


 そして、

 静かに頷く。


「……分かった」


 それ以上、

 何も言わない。


 引き止めない。

 傷ついた素振りも見せない。


 それが、

 彼の選び方だった。


 私は、指輪を差し出す。


「……これは」


「預かっておこう」


 アルトは、受け取った。


「必要になったら、

 また出す」


 それでいい。


 夜。


 部屋に戻り、

 窓を開ける。


 星が、

 穏やかに瞬いている。


 形にしない選択は、

 拒絶ではない。


 信頼の形だ。


 今は、

 選び続けることを

 手放さない。


 それが、

 私たちの答えだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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