第52話 小さな祝い
祝いは、予定されていなかった。
だからこそ、
自然だった。
「……集まっていただいて、ありがとうございます」
中庭に並べられた長机の前で、
年配の文官が、少し照れたように言った。
「本日は、
制度導入から一年という節目でして」
拍手は、まばら。
だが、温かい。
式典ではない。
報告会でもない。
ただの、集まりだ。
料理も、豪華ではない。
地元のパン。
煮込み。
果実酒。
「……このくらいが、いいですね」
私は、皿を受け取りながら言った。
「ええ」
アルトも頷く。
「気負わずに済む」
若い文官が、恐る恐る声をかけてきた。
「……失敗も、ありましたが」
「ありましたね」
私は、即答する。
「でも、
修正できました」
それで、十分だった。
失敗を祝う場ではない。
続けられたことを祝う場だ。
少し離れた場所で、
子どもたちが走り回っている。
誰かの家族だ。
「……連れてきても、
良かったんですね」
「ええ」
私は微笑む。
「働く場所が、
生活と切り離されていない証拠です」
アルトは、感心したように息を吐いた。
日が傾く頃、
誰かが杯を上げた。
「……これからも、
この領が、
自分で決められる場所でありますように」
短い言葉。
誰の名前も出ない。
それが、
この祝いの本質だった。
私は、杯を軽く掲げる。
アルトと、目が合う。
言葉は交わさない。
だが、
同じ意味を受け取っている。
夜。
片付けが終わり、
二人で中庭に残った。
「……こういう祝い、
悪くないな」
アルトが言う。
「ええ」
私は頷く。
「形にしなくても、
伝わります」
何を祝っているのか。
何が続いているのか。
言わなくても、
分かる。
星が、少しずつ増えていく。
この一年で、
世界は劇的には変わっていない。
だが、
確実に違う。
人が、
自分で考えている。
失敗しても、
戻ってこられる。
それを、
祝える。
小さな祝いは、
すぐに終わった。
だが、
その余韻は、
長く残る。
これから先も、
こんな節目が、
何度も来るだろう。
派手ではない。
だが、
確かなものとして。
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