第51話 見ている人たち
最近、城の空気が穏やかだ。
それは、誰かが強くなったからではない。
誰かが前に立っているからでもない。
ただ、
判断が滞らなくなった。
それだけのことだ。
「……お二人は」
若い文官が、年配の文官に小声で言った。
「変わりましたね」
「いや」
年配の文官は、首を振る。
「変わっていない。
馴染んだんだ」
それが、一番近い表現だった。
会議室。
議題は、今年の収穫見込み。
「……この場合は」
若手が意見を述べる。
アルトが、黙って聞く。
彼女も、黙っている。
どちらかが口を開くのを、
皆が待つ。
だが――
待たない。
「では、この方針で進めます」
若手が、自分でまとめた。
誰も、止めない。
「……いい会議でしたね」
終わった後、
誰かがそう言った。
賛辞は、
二人に向けられていない。
昼。
城下の食堂で、
噂話が交わされる。
「……あの方たち、
もう夫婦みたいだな」
「式は、まだらしいぞ」
「でも、
急ぐ必要はないだろ」
誰も、確定を求めていない。
それが、
この領らしさだった。
午後。
施策の報告に来た使者が、
戸惑いながら言った。
「……どちらに、
お話を通せば?」
「両方でなくていい」
別の文官が答える。
「内容に応じて、
決めればいい」
それが、
自然になっていた。
夕方。
城壁の上を歩く二人を、
下から見上げる人がいた。
並んで歩く姿。
距離は近いが、
寄り添いすぎていない。
「……安心するな」
誰かが言う。
「前に出る人がいなくても、
回っている」
それは、
最大の信頼だった。
夜。
年配の文官が、
帳簿を閉じながら呟く。
「……あの方たちは」
一瞬、言葉を探し、
「未来の話を、
もう終えている」
そう言った。
約束ではない。
宣言でもない。
生き方として、
もう始まっている。
城の灯りが、
静かに揺れる。
二人は、
それを知らない。
知らなくていい。
見ている人たちが、
すでに理解しているからだ。
――ああ、この領は大丈夫だ。
そう思える夜だった。
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