第47話 それぞれの場所で
知らせは、報告という形で届いた。
特別な文書ではない。
日常業務の一部として、淡々と。
「……中央政務院の件です」
文官が、簡潔に告げる。
「元政務官は、地方監査局へ配置換えとなりました」
私は、資料に目を通し、静かに頷いた。
降格でも、追放でもない。
ただ、
中心から外れただけ。
「そうですか」
それ以上、言葉は要らなかった。
元婚約者は、
今、地方都市にいるらしい。
大きな裁量はない。
だが、仕事はある。
誰も、彼を特別扱いしない。
誰も、過去を蒸し返さない。
それは、
罰ではなく、現実だった。
彼はもう、
誰かの判断を奪う立場にはいない。
それだけだ。
「……聖女様についても」
文官が続ける。
「施療院での活動が、
少しずつ評価されているそうです」
「奇跡は?」
「ほとんど、使われていません」
私は、少しだけ微笑んだ。
祈りは、
奇跡のためだけにあるものではない。
それを、
彼女自身が選んだのだ。
昼、
アルトと並んで歩く。
「……聞いたか」
「ええ」
短いやり取り。
誰かの“その後”は、
もう物語の中心ではない。
それぞれが、
自分の場所で生きている。
それでいい。
午後、
私は施策の進捗を確認した。
新しい制度は、
完璧ではない。
だが、
修正されながら続いている。
私が口を出さなくても。
「……十分ですね」
独り言。
かつて、
すべてを握ろうとしていた自分を思い出す。
今なら、
それがどれほど危ういか、よく分かる。
夕方。
小さな村から、
感謝の手紙が届いた。
判断を、自分たちでできるようになりました。
それだけの一文。
だが、
胸に深く染みる。
私は、返事を書かなかった。
制度が、
代わりに答えている。
夜。
中庭で、
アルトと星を見上げる。
「……皆、
それぞれだな」
「はい」
私は、頷く。
「それで、
世界は回ります」
誰かが中心に立たなくても。
誰かが奇跡を起こさなくても。
風が、静かに吹く。
婚約破棄から始まった物語は、
もう復讐を必要としていない。
代わりに残ったのは、
選び直した人生だ。
それぞれの場所で、
それぞれが生きている。
それが、
何よりの決着だった。
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