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婚約破棄された令嬢ですが、国の仕組みを直したら評価が逆転しました 〜聖女よりも必要だった“地味な才能”で、辺境から王国を立て直します〜  作者: 花守いとは
第1部

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第45話 並ぶ人

 変わったのは、肩書きではない。


 距離でも、態度でもない。


 ただ――

 周囲の扱いだった。


 朝の会議。


 以前なら、

 アルトが意見を述べ、

 私が補足する形だった。


 今は違う。


「……この件は?」


 誰かが、自然に私を見る。


 そして、

 私がアルトを見る。


 どちらが先でも、

 どちらが後でもない。


「現場に任せよう」


 アルトが言う。


「記録だけは、残してください」


 私が続ける。


 それで、決まる。


 誰も、

 違和感を覚えない。


 会議後、

 文官の一人がぽつりと呟いた。


「……もう、お二人は」


 言葉を探して、

 結局、飲み込んだ。


 私は、微笑む。


「並んでいるだけです」


 それ以上の説明は、不要だった。


 昼、

 領内の学校を視察した。


 新しい教育方針の試行だ。


「……判断を、

 子どもに任せるのですか」


 教師が、不安そうに尋ねる。


「小さな選択から、慣れていきます」


 私が答える。


 アルトは、

 その横で静かに頷いた。


 反対もしない。

 押し付けもしない。


 それが、

 彼なりの信頼の示し方だった。


 帰り道。


「……前に立たなくなったな」


 アルトが言う。


「はい」


 私は、素直に答える。


「前に立つ必要が、

 なくなりました」


 それは、

 後退ではない。


 並走だ。


 夕方、

 市場で声をかけられた。


「……お二人を見ていると」


 年配の商人が、

 照れたように言う。


「安心します」


「何がですか」


「決める人が、

 一人じゃないことです」


 私は、思わず笑った。


 それこそが、

 私たちが目指した形だった。


 夜。


 城の外れで、

 並んで星を見上げる。


 以前と、

 同じ景色。


 だが、

 心の在り方が違う。


「……婚約の話は?」


 アルトが、静かに尋ねる。


 探る口調ではない。

 確認だ。


「急ぎません」


 私は答える。


「今は、

 この形を大切にしたい」


 アルトは、少し笑った。


「同意だ」


 並ぶ人。


 それは、

 守られる人でも、

 導かれる人でもない。


 互いに、

 選び続ける存在だ。


 婚約破棄の夜、

 私は一人だった。


 だが今、

 隣には人がいる。


 肩書きではなく、

 約束でもなく。


 選択の積み重ねとして。


 翌朝。


 城は、

 いつも通り動き出す。


 特別な儀式も、

 発表もない。


 だが、

 誰もが知っている。


 この領には、

 二人の“並ぶ人”がいると。


 並ぶということは、

 支え合うことではない。


 同じ方向を見て、

 同じ速度で歩くことだ。


 それができる人を、

 私は選んだ。


 そして、

 彼もまた、

 私を選んだ。


 それだけで、

 十分だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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