第44話 選び合う
決断は、唐突に見えるほど静かだった。
「……一つ、確認しておきたいことがあります」
朝の執務が一段落した頃、
私はアルトにそう切り出した。
「何だ」
「私は、この領に残ります」
回りくどい言い方はしなかった。
試す意図も、
探る意味もない。
ただ、
選択の共有だ。
アルトは、すぐには答えなかった。
驚いた様子もない。
だが、軽くもない。
「……理由は?」
「必要とされているから、ではありません」
私は、はっきりと言った。
「役に立つからでもない」
少し間を置いて、続ける。
「ここなら、
自分で判断して、生きられる」
王都では、それができなかった。
できるようになっても、
置かれる舞台が違った。
ここは違う。
前に立たなくても、
考える余地がある。
「……俺の存在は?」
アルトの問いは、
慎重だった。
期待も、
不安も、
混ざっている。
「大きいです」
私は、迷わず答えた。
だが、
言葉を選ぶ。
「でも、
あなたがいるから残るのではありません」
アルトの表情が、
一瞬、揺れた。
「あなたがここにいて、
私はここを選んだ」
順番は、
とても大切だった。
沈黙が落ちる。
風が、窓を鳴らす。
「……それで、いい」
アルトは、ようやく口を開いた。
「それが、対等だ」
その言葉に、
胸の奥が温かくなる。
「なら」
彼は、続ける。
「俺も、
ここに残る」
宣言ではない。
当然のような口調。
「領主として、ではなく」
少し、間を置く。
「一人の人間として」
私は、息を吐いた。
これでいい。
引き止め合わない。
縛らない。
でも、離れない。
それが、
私たちの形だ。
昼、
二人で並んで領内を歩いた。
指示は、
いつも通り。
距離も、
いつも通り。
だが、
決定的に違う。
互いに、
「選び続ける」ことを
知っている。
夕方、
文官が控えめに言った。
「……お二人は」
「変わりません」
私は、笑って答える。
「これからも」
その言葉に、
誰も異を唱えなかった。
夜。
自室で、私は思う。
婚約破棄の夜、
私は選ばれなかった。
だが今、
私は選んでいる。
場所を。
生き方を。
そして――
並ぶ人を。
言葉にしなくても、
もう迷いはない。
それが、
選び合うということだった。
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