第43話 言葉にしない告白
変化は、いつも静かに始まる。
「……最近、お二人は」
朝の打ち合わせの後、文官の一人が言葉を濁した。
「いえ」
私は首を振る。
「業務上、特に変わったことはありません」
それは、事実だった。
指示も、役割も、距離感も。
何一つ、変わっていない。
――にもかかわらず。
「……そうですね」
文官は、それ以上何も言わなかった。
だが、その目には
理解している色があった。
昼、城内の回廊を歩いていると、
アルトが自然に隣に来た。
呼び止めたわけでもない。
歩調を合わせただけ。
「……午後の視察だが」
「南区画ですね」
「同行するか」
「ええ」
短い会話。
確認だけ。
それでも、
周囲の空気が、少し変わる。
以前は、
“領主と助言者”。
今は――
並んで決める二人。
誰も、
それを言葉にしない。
視察先で、小さな問題が起きた。
「……判断に、迷っています」
現場の責任者が、正直に言う。
「基準では、こちらですが……」
私は、アルトを見る。
アルトは、私を見る。
どちらも、先に答えない。
「……どう思いますか」
責任者が、私に尋ねる。
私は、少し考えてから言った。
「私ではなく、
あなたが決めてください」
責任者は、息を吸い、
判断を下した。
結果は、悪くなかった。
アルトが、短く言う。
「良い判断だ」
それだけで、十分だった。
夕方。
戻りの道すがら、
アルトがぽつりと言う。
「……最近、楽だ」
「何がですか」
「決める時に、
一人で背負わなくていい」
それは、
告白のようで、
告白ではない。
私は、歩みを止めずに答える。
「私もです」
それ以上、言わない。
言えば、
形が変わる気がした。
今は、
このままでいい。
城に戻ると、
侍女の一人が小さく笑った。
「……雰囲気が、柔らかくなりましたね」
「そうですか」
「ええ。
前よりずっと」
私は、否定しなかった。
説明もしなかった。
説明する必要が、
もうない。
夜。
中庭で、
星を見上げる。
アルトが、少し遅れてやって来た。
「……邪魔か」
「いいえ」
並んで、空を見る。
沈黙は、気まずくない。
むしろ、
心地いい。
「……言わなくていいのか」
アルトが、低く言う。
私は、少し考えてから答えた。
「今は」
短い言葉。
だが、
意味は通じている。
誰かに証明する必要はない。
名前をつける必要もない。
選び合ったことは、
もう、行動に出ている。
それで十分だ。
告白は、
感情を伝えるためのもの。
だが今、
感情はすでに
日常になっている。
翌朝。
二人で並んで歩く姿を見て、
誰かが小さく頷いた。
噂は、立たない。
祝福も、騒ぎもない。
ただ、
皆が理解しただけだ。
――ああ、
この二人は、もう決まっている。
言葉にしない告白は、
最も静かで、
最も確かなものだった。
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