第29話 期限という名の答え
それは、通達という形で届いた。
丁寧な封蝋。
簡潔な文面。
逃げ道を残さない言葉選び。
「……期限、ですか」
私は文書を読み終え、静かに呟いた。
王国改革の次段階に向け、
主要関係者による協議を実施する。
貴女の出席は不可欠と判断する。
期限までに、意思表示を求める。
日時と場所。
――王都中央政務院。
もはや「打診」ではない。
最終確認だ。
「……ついに来ましたね」
文官の声は、硬い。
「はい」
私は、書簡を机に置いた。
これは脅しではない。
拒否すれば、
王都は「改革の主導権」を明確に握ろうとする。
受ければ――
再会が、確定する。
昼過ぎ、私は一人で執務室に残った。
期限まで、あと十日。
短い。
だが、長くも感じる。
これまで、私は距離を取り、
線を引き、
選ばされる立場を拒んできた。
それでも、
王都は引き下がらなかった。
――ならば。
「……会うしか、ありませんね」
小さく呟く。
避け続ければ、
物語は動かない。
そして、
逃げる理由も、もうない。
その夜、アルトと向き合った。
私は、通達を差し出す。
「期限、か」
彼は、短く言った。
「はい。
これ以上、引き延ばせません」
沈黙が落ちる。
外では、風が木々を揺らしている。
「……行くのか」
問いは、重かった。
「行きます」
即答だった。
「ただし」
一拍、置く。
「条件があります」
アルトは、視線を逸らさなかった。
「聞こう」
「私は、
“説明”をしません」
はっきりと告げる。
「過去を語らない。
選択の理由も、感情も」
王都が求めているのは、
“納得できる言い訳”だ。
それを与えれば、
また枠を作られる。
「私は、
結果だけを示します」
アルトは、少し考えてから言った。
「……冷たいな」
「いいえ」
私は、首を振った。
「区切りです」
説明しないという選択は、
逃げではない。
過去に、戻らないという意思表示だ。
アルトは、やがて頷いた。
「分かった」
そして、低く言う。
「俺も行く」
その言葉に、胸が一瞬、跳ねた。
「……それは」
「同行ではない」
彼は、静かに続ける。
「辺境伯として、
改革当事者としてだ」
立場は、対等。
守る側でも、守られる側でもない。
「……ありがとうございます」
「礼は要らない」
前と同じ言葉。
だが、意味はさらに重くなっていた。
翌日から、準備が始まった。
資料の整理。
成果の要約。
数字の精査。
すべてを、淡々と。
「……怖くはありませんか」
文官が、ふと尋ねた。
私は、少し考えてから答える。
「怖いです」
正直だった。
「でも」
顔を上げる。
「もう、失うものはありません」
失ったと思っていたものは、
すでに別の形で取り戻している。
居場所。
役割。
そして――
並ぶ人。
出立前夜。
私は、一人で領地を歩いた。
灯りのともる家々。
静かな生活の音。
ここは、私が選んだ場所だ。
王都に行くからといって、
失われるわけではない。
「……行ってきます」
誰にともなく、呟く。
これは、帰還ではない。
確認だ。
あの場所に、
私はもう属していないと。
王都では、
再会の準備が進んでいた。
元婚約者も。
聖女も。
そして、私を“使えると思っていた人々”も。
期限は、答えを迫る。
だが、
答えは、もう決まっている。
私は、選ばされない。
選ぶために――
王都へ向かう。
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