52 炎の柱 1
空が輝いた。赤く。
いや、光ったのは岩山の頂上。だがその強烈な輝きに蒼穹までが照り映える。
ヴェインを取り巻く樹海の縁には人々がいた。
怯え惑い、訳もわからず岩山を飛び出してきた者達、結界の消失に励まされて自ら新たな生活を夢見て出てきた者達、『危険だから出てくるように』というレイリアの心話に応えた者達と、その者に説得された者達、誰かにくっついているうちに知らず外へ導かれてしまった者達……。
皆、少人数でかたまり、隠れるように樹海のあちこちに散らばっている。
そのすべてが大地を揺るがす轟音を聞き、常ならぬ光に故郷を仰ぎ見た時、彼らの家、彼らの街、彼らの国であった岩山は一瞬にして中腹より上を失った。
炎が、噂に聞く炎の国の火の山でさえこれ程の火は噴くまいと思われる業火が地下から噴出し、巨大な岩山を蒸気に変えてしまったのだ。
「炎の柱……」
左手でレイリアの肩を抱いたレヴァインは眼を細めて天を貫く一本の巨大な炎柱の輝きを見つめていた。
「ライガ様、フェヴェーラ、アシェラト、シェヴィン……」
皆の安否を憂い、両手を握り合わせたレイリアだが、まだ何が起こったのか飲み込めていない。紅の炎が金色の火の粉を踊らせながら、夕焼けよりも赤く空を染める様に魅せられているだけだ。
柱は空気を貪り喰らい、間隙に風が流れ込む。
渦巻き集う風が髪を乱し、樹海の湿気を天へと押しあげる。
見る間に黒雲がわき、空が翳る。
そしてようやく、自分達の見ている情景の意味が心に染み込んできた。
「ヴェインが……! 大勢いたのに! まだ、みんな。
消えてしまった……燃えて……。
まさかこんな……まさかこんなにも……」
レイリアの漏もらした言葉は、激しさを増していく風にあおられた木々のざわめきで掻き消されそうになる。
「ライガの力か? それとも……。なんてこった。なんて……」
炎から眼を離せぬまま、レイリアを抱くレヴァインの手に力がこもる。
「大勢いたはずなのよ! まだ、ヴェインに! あの中に!」
レイリアが声を荒らげた刹那、空に閃光が走り、雷鳴が轟いた。
「私がもっと……もっとちゃんとみんなを連れ出していたら……」
「馬鹿な事を言うな!
わかるもんか!
わかる訳ないだろう、こんな、こんなとんでもない事になるなんて。
おまえのせいじゃない。おまえのせいでなんかあるもんか」
引き千切られた葉や小枝が宙を舞い始め、大気を切り裂く無数の稲妻に誘われるように雨が降り始める。
雷鳴 ――
冷たい雨に体を打たれてシェヴィンは目を覚ました。
体の下に朽ち葉、周囲には丈高い木々。空は薄暗く、風が唸り、雷光が閃いている。
そこまで認識して、とび起きた。
「アシェ!」
辺りに人はいない。剣も、弓もない。記憶がよみがえる。
アシェラトの祈り。彼を安全な場所へと願う心が、心話など使えない彼の心に響いてきた。あれは夢でも幻でもない、そう確信できる。
あれは妹の最期の祈り。
「アシェラト……」
嵐はシェヴィンの号泣を包み、洗い流した。
覚えているのは、現世を離れようとしていたライガの魂を引き止めようとした事。
感じたのは、ふたつの魔石と彼の魂の間を循環する大いなる力。
鼓動が魔法の律動となり、冷たくなっていくライガの体にぬくもりを取り戻そうとした彼の心が熱く燃えたった。燃料となる情動を引き出す為に、理性が引きはがされていく。
またしても魔力を制御しきれず、翻弄されてしまったという悔悟の念が芽生えたが、すぐに強まる魔法の波動におし流された。
最後まで彼の意識にあったのはただひとつ。
ライガを、彼の魂の半分を取り戻す事。
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