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余談 クソ男の学内生活

 僕は学校に行きたくない。


 単純に面倒くさいからだ。



 けれど、その面倒くさいという理由の殆どは、勉強である。


 僕は勉強が嫌いだし、勉強も僕のことが嫌いだ。だから授業は受けないし、出席もしない。


 けれど、学校から勉強という要素を抜き出せば、学校は嫌いではない。寧ろ結構好きだ。


 故に僕は授業に出ず、こうしてこの部室で寛いでいるわけだ。



 あと、これは後づけの理由にはなるが、先生達には僕のことを、可哀想な存在だと思って貰う必要がある。


 ……いや、これだと語弊があるな。僕は先生たちにとって、「庇護欲を掻き立てる存在」である必要がある。



 僕は将来、この世界で一番偉い人になりたいんだ。

 そんな将来の備えとして、手始めに僕はこの学校を支配しようとしている。


 いわばこれはチュートリアルだ。そして、僕がこの学校を支配するためには勿論、先生達の協力も不可欠だ。


 いくら僕が勉強が嫌いで、勉強が出来なかったとしても、それを理由に授業に出ないというのは先生からしても良い印象は持たれないだろう。


 例え僕がこんなにもイケメンであったとしても、だ。



 故に僕はこの部室で演じる。


 《《過去のトラウマから人前に出るのが怖いけれど、勉学には懸命に取り組もうとしている健気な生徒》》というものを。


 僕がこうして、手の空いている先生から勉強を教えてもらっているのも、演技のひとつなのだ。


 僕の学年で授業を取り扱う先生殆どに対しては、この演技を行っているのだ。



 まぁ黒瀬先生はチョロかったから別だけど。



 真理を教えよう。


 イケメンとは、大体誰からも好かれるのだ。


 僕がこうして懸命に何か取り組んでいるだけで、普通の人よりも魅力的に見えてしまう、それがイケメンだ。僕ってば罪な男。



 勿論人の性格ってのは個人差があるから、「部室で勉強をする」という形を取っている僕を良く思わない人だって存在するだろう。


 けれど、人というのは大抵、自分に懐いてくれている人間を好意的に受け取るものである。大抵だけどね。



 「こうですか?先生」


 「ああ、良く出来ている。ではそろそろ次の単元に移ろうか」


 「はい! ……やっぱり先生は教えるのが上手いですね」


 「時宮の飲み込みが早いだけだ」



 今の時間は数学の先生が数学を教えてくれている。数学は比較的楽だ。傘下の得意教科だから。


 昨日貰った無線機での話し相手。勉強が得意な傘下に先生の授業を代わりに聞いてもらって、解いてもらう。


 僕は傘下の言葉をノートに写すだけ。とっても簡単な仕事。



 ちなみに僕は先生の話を何一つとして分かっていない。

 中学の勉強もろくに出来ない僕に、高校の勉強なんて分かるわけないじゃないか。なんだよチェバの定理って。





 どの先生の手も空いていない時は、保健室の先生からカウンセリングを受けて過ごしている。



 保健室の先生が持ち場を離れるのは些か問題もあるだろうが、先生の方から来てくれているので僕は悪くない。ちょっとしか悪くない。


 まあ先生も女性だし、僕のことがかっこよくてかわいくてしょうがないんだろうね。

 はてさて、先生が僕の本性を知ったらどうなるだろうか。いやあ気になる。



 「最近、ちょっとだけ人と喋ろうかなって思えるようになったんです」


 「本当? それは良かった。頑張ったんだね、虹彩くん。辛いことがあっても乗り越えようとするのは、すごいことなんだよ」



 どうも凄い人です。


 いやあこの先生と喋っていると自己肯定感が上がるから良いね。健康に良い。



 余談だけれど、僕のこの過去設定なんかも、僕の傘下に考えてもらってる。傘下様々。


 僕は小学校時代から傘下を集めているから、今は70人くらい居るんじゃないかな?

 名前覚えてないだけでまだ居るかもだけど。ほんと、僕の傘下になるとか馬鹿だよね。僕滅茶苦茶無能なのに。人生イージーモード。





 僕は学食に行かない。


 この学校を統治するための計画的に、僕が早い段階から人前に出ることはなるべく避けたいのだ。


 だから登下校もワザと遅い時間にしてるし、大抵は学校の裏門から入る。


 昨日僕が用事があると先に帰ったのは、運動部の練習が活発だったからだ。下校時にばったり遭遇してしまうことが無いように。


 とにかく人前に出るのを今は避けたいのだ。だから学食に行かない。



 けれど腹は減る。


 だがこの世界には素晴らしい文化、お弁当というものがある。平日は母さんと姉妹がローテーションでご飯を作ってくれる。



 「この感じは、彩芭姉さんかな?」



 僕はみんなよりも遅く起きるから、今日の当番が誰なのかとかは分からない。


 でも、流石に何年もお弁当を食べていると、盛り付けや味付けなんかで何となく誰の作った弁当かは分かる。今日のは多分彩芭姉さんだ。



 ツンデレな彩芭姉さんのお弁当の特徴は、栄養バランスの整ったおかずに彩りのある盛り付け。


 そして、人参がハートマークだったり、海苔がハートに切られてたりと、さり気ない愛情表現が特徴だ。かわいいやつめ。美味しく食べさせてもらおう。





 放課後は統治部の活動だ。


 昨日、一昨日は伊吹が見学していたから色々活動していたけど、今日はひじりんとバンドの活動をしているだろうから、久しぶりに普段通りの活動だ。


 普段の統治部はカウンセリングのような活動をしていて、黒瀬先生が連れてきた生徒の相談を片っ端から乗っている。



 今日は特に来なさそう。先生からも予定ナシと来たし、ひじりんからも、メンバー集めの準備に取り掛かるから今日は顔を出せないと連絡が来た。まあしょうがない。



 なら、僕は僕の仕事に取り掛かろう。




 「……隠密隊、集合」




 僕がそう言うと、遮光カーテンから、4人の不審者が現れた。



 彼らは隠密隊。四つ子の兄弟姉妹だ。


 みんなずっと、この教室のカーテンの中に隠れていたのだ。



 「やっと呼んだか?時宮」


 「うん、報告をお願いしようかな」



 「了。まずは茉白伊吹の評判について。一昨日以前のデータは少ないが、少ないということはそもそもあまり話題に挙がらなかったということだろう」


 「だが、昨日今日と他クラスの男子がしばしば話題に挙げていた。と言っても、彼女とすれ違った者が『あの子可愛い』と言う風なものなので、知名度は乏しいが」


 「ふむふむ」



 彼女はしっかりおめかしすれば美人になる。いずれ学年内で噂になってもらうくらいになれば、今後の統治部の計画的にも良い方向に傾くだろう。



 「おーけー、ありがとうね。じゃあ次」


 「では私が。この学校における生徒会の役割をお話します。……結論から言うと、存在はするものの、特に何か重要な活動や改革などは行っていない印象です。顧問のせいというよりも、生徒会に回される仕事がそもそもあまり無いという印象を受けました」


 「りょーかい、ありがとう。次は自分から案件を持ってきた場合どうなりそうかを調査してほしいな」


 「分かりました」



 んー、もしかしたら生徒会は使い物にならないかもなあ。

 生徒会が絶大な権力を持っている、なんて漫画やアニメの世界だけだ。現実は非情。



 「次」


 「んじゃ私だね。学年ごとのカーストについて。1年はグループはまだ出来かけってところだけど、カーストは何となく決まったかなあ。上位カーストに位置する人間のグループに入れれば、そこがトップカーストになりそう」


 「2年、3年のカースト、グループ表は殆ど決まってるから、PDFで送っておくね」


 「確認しとく、ありがとうね」



 PDFって何? まあとりあえずこの辺はデブゴンに回しておくか。



 「最後は俺だな。学内での出来事や不満、その他諸々の話題を聞き取れるだけ聞いてみた。録音機などで大規模に収集したから、精度も中々だと思う」


 「情報をまとめたのはデブゴンだから、あいつは既に目を通している。資料はPDFで送っておくが、詳しいことはデブゴンに聞いてくれ」


 「おっけー。みんなありがとう」



 またPDFだ。分かんないんだけど。まあいいや。後でデブゴンに聞こ。




 隠密隊に帰宅を促し、デブゴンと《《あいつ》》に隠密隊からの資料を送り、僕の今日の仕事は全て終わった。なのであとは帰宅するのみ。


 彩華姉さんに車を出してと連絡して、本日の僕の学校生活が終わる。




 さて、明日も頑張ろう。……僕じゃないよ?

傘下がだよ?

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