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クソ男の革命

 高校3年の春休み。きっかけは、虹彩くんの些細な一言。



 「バンチョーさ、春休みに結構デカい抗争があったらしくって、大怪我しちゃったらしい。一ヶ月くらい入院になるんだってさ」



 この頃になると、学校ではずっと3人で過ごすことが多くなった。


 ……けれど僕は気づいてた。虹彩くんと牙王くんが特に仲良しで、僕はその2人について行ってるだけに過ぎないと。



 『この前バンチョーが仕切ってる族のメンバーがご飯ごちそうしてくれてさー』


 『昨日アニキとゲーセンでばったり会ってよー』



 互いのことをバンチョー、アニキと呼び合い、いつも楽しそうに話す2人。


 ……寂しいと感じたことがないと言えば嘘になるけれど、今まで友達もいなくて、阻害されていた日々と比べれば、それ以上を求めるのは贅沢なことだと思った。



 閑話休題。そんな牙王くんが入院。

 次の日になれば、この噂は学年――否、学校中に広まっていた。


 そもそもこの学校は、ヤンチャな人こそ沢山居るけれど、比較的治安は良い方と聞いたことがある。


 だからか、皆が想像するような不良は牙王くんだけだった。喧嘩もものすごく強いと聞いたことがある。だから悪目立ちしていたし、学校では虹彩くんの次に有名だった。



 ……結論から言うと、僕への嫌がらせが再発した。



 僕が3人で居るようになってからパタリと嫌がらせが無くなったことからも分かる。

 みんな僕と仲良くしてくれている牙王くんを恐れて嫌がらせをしなくなっただけ。


 だから牙王くんが一ヶ月入院というのを聞いて、みんなが僕へのフラストレーションをここぞとばかりに発散しにきたというわけだ。



 ……でもこの頃の嫌がらせが、一番ひどかった。



 「てめぇオカマのくせに去年から調子乗りすぎなんだよ!」


 「気持ち悪いぶりっ子のくせに銅本と居る時だけイキりやがって!」


 「虹彩くんに近寄らないで! 汚らわしい!」


 「あんたのせいで虹彩くんと話すことすらできないじゃん!」



 男の子は僕と牙王くんが一緒にいることを、女の子は僕と虹彩くんが一緒にいることに腹を立てて、皆から叩かれた。


 物もグチャグチャに捨てられて、2人とお揃いのストラップも踏みつけられて……。


 虹彩くんの居ないところで、みんなが僕に嫌がらせをしてきた。……いじめてきた。



 ……分かっていた。


 このことを虹彩くんに伝えれば、彼は優しいから全力で守ってくれる。


 牙王くんに相談すれば怪我なんて放って来てくれる。


 知っていたけれど、相談できなかった。


 信用できなかったからとか、迷惑をかけたくないからとか、そんな理由じゃない。


 ……僕と一緒に居ることで、いじめがエスカレートしてほしくないと、2人が僕から距離を置くかもしれない。それが嫌だった。



 「ん? お前何か怪我してね?」


 「あはは、昨日ちょっとこけちゃって……」



 だから、我慢しよう。一ヶ月耐えれば、元の生活に戻ると思って、我慢した。




 けれど、元の生活には戻らなかった。


 悪い意味で、じゃない。良い意味で。



 牙王くんが再び学校に来始めて3日後くらいに、体育館で全校集会があった。



 校長先生、教頭先生の話が終わり、生活指導部の先生が話し終わり、次は生徒会長の話。



 去年の秋から生徒会長になった虹彩くんが、前に立ち話し始める。





 「喜ばしいことに、この学校から退学者が現れました!」





 ……何の話かわからなかった。そもそも、退学なのに喜ばしいっていうのが理解不能だった。



 「退学者の方をお呼びいたします! 呼ばれた方は前へ! そしてこの学校から直ちに去りなさい」



 こうして、公開処刑が始まった。



 沢山の人の名前が呼ばれた。……僕のことを虐めていた人の名前が沢山挙がった。


 ……いや、《《僕のことをイジメていた人の名前だけが呼ばれた》》。



 「呼ばれたら前に出ろって言ったよね? ……まあいいや。君たちは僕の親友をイジメた罰として、この学校を去り、高校への進学を禁ずる」



 そう宣言し、彼は後ろのスクリーンから映像を流した。


 ……僕がイジメられている決定的瞬間を捉えたビデオだった。



 「先生ェ!!! 僕今こうして勝手に話進めてますけどォ! この動画には校章も写ってますしィ! 世間に広まるのは避けたいですよねェ!」



 虹彩くんは今まで見たことがないくらいに狂気的な表情で叫ぶ。


 体育館がザワザワとし出し、文句を垂れる者も現れてきた。



 「取引しましょうよ! こいつらに制裁を与えれば、こいつらを一生社会的に殺してくれるのなら、あんたらの学校の品位は下げないでやりますよ。断れば、どうなるか分かりますよねェ?」


 「呼ばれた奴は前に出ろってアニキが言ってんだろ!!!」



 牙王くんもそれに乗じて大声を出す。



 「あと10秒あげますので、それまでに僕の前に整列してください」


 「名前は割れてんだ。並ばなかったやつは俺が直々に殴り殺してやるよ!!!!」



 すぐに呼ばれた人が列で並びだす。だが――



 「逃げれると思うなよ?お前ら」



 呼ばれた人の内の複数人が、体育館から出ようと必死に逃げたが、先生に止められ、牙王くんに引きずられていった。



 「逃げようとした3人を公開処刑する!!!」



 牙王くんがそう叫ぶと、体育館の舞台裏からぞろぞろとガラの悪い人たちが現れ、3人を文字通り殺す気でリンチにした。


 ……先生は、目を背けているだけで、止めようとはしなかった。



 並んだ人の中には恐怖で気絶する者や失禁する者、泣き崩れて命乞いをする者も現れ、地獄絵図と化していた。



 それから次の日には本当に全員が退学になっていた。


 先生は何故かずっと怯えた様子だったし、このことについて触れるのはタブーということにもなった。



 ……誰も、僕たちに歯向かうことは無くなった。やり過ぎだとも思ったし、2人の手が汚れたことが本当に申し訳なく感じた。



 けれどそれ以上に、2人が僕のために戦ってくれた。


 僕を親友だと言ってくれた。


 「もう大丈夫だ」なんて言葉をかけてくれた。


 「気づくのが遅くなってごめん」なんて逆に謝られた。


 僕は今まで自分が抱いていた寂しさが本当にくだらなく、どうしようもなく傲慢な望みだったのだと自覚した。


 ……2人はこんなにも大切に思ってくれていたのに、何も出来なかった僕を痛感して、嬉しさと悔しさ、沢山の感情が混ざって号泣してしまった。




 「――だからついて行ってる。僕は2人に憧れて、2人のようになりたい、2人に並びたいって思ったから、虹彩くんのやることに全力で協力してる。……一生返せない恩返しだよ」




 暗い話とは裏腹に、聖くんはとても清々しい表情で、そう答えてくれた。

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