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クソ男とバンド結成

 「いきなり何よ……バンドって」


 あまりにも唐突に、何の前触れもなく言われたので、私は困惑を隠せなかった。


 時宮は、「良くぞ聞いてくれた」 と言わんばかりに得意気な表情になって、昨日と同じように教室の隅に追いやられていたホワイトボードを運び、その上から字を書く。



 ……何て書いてんのそれ? 「バソバ才1よう」?

 ……あ、「バンドをしよう」か。本当に字が汚い。



 「今の統治部に最も必要なものは知名度! いくらこのような素晴らしい部活であっても、目についてもらわなければ意味はない。そこで、バンドだ!」


 こいつ説明下手すぎでしょ。というか素晴らしい部活って自分で言う……?



 「つまり、バンドメンバーが統治部に入っている、というのを利用して、新規の人を集めるってこと?」


 「その通り!」


 聖くんはなんでさっきの文脈からここまで読み取れんの?テレパシーでも使えるの?



 「ちょっと待ってよ! そもそもなんで唐突にバンドが出てくるワケ? 大体、あんたの理論で言えば、バンドを結成しても、そのバンドがそもそも知名度がないんだから、根本から間違ってるでしょ!」


 「その点は……、どうするんだろうね?」


 「はぁ!!?!?」


 こいつ自分の言葉に責任というものを乗せてなさすぎでしょ! 言いたいことだけ言って、理由はペラッペラって何なの!?



 時宮はおっ、とした表情で、何やら耳に手を当てだした。しばらくして……



 「冗談冗談。ちゃんと理由はあるよ。まあ聞きなって」


 「さっきからそれを聞かせろって言ってるでしょ……」


 「うーん、何から話せばいいか……。とりあえずバンド結成の理由かな。僕はあまり説明が上手じゃないから、前日に原稿を書いてきたんだ。読みながら話させてもらうよ」



 そう言って、時宮はスマホを取り出した。



 「まず、バンドでなければいけない理由だけれど、これは特に無いね」


 「強いて言うなら単純に、伊吹が軽音部に入りたかったって言ってたから思いついた感じ。せっかくだしこの学校に軽音部を作るのもありかなーって思ってね」



 ……何こいつ。急にかっこいいこと言いやがって。……そんな事言われたら何も言い返せなくなるじゃん。



 「けれど、バンドを組む理由は他にもある。伊吹は元々、ここに軽音部があったら良かったのにって思ってたんだよね?」


 「そりゃあ、まぁ」


 「《《自分が思ったことは、既に一度誰かが思ったことだと考えろ》》。……僕の好きな言葉だ。こういう感じで、伊吹が思ったということは、この学校にいる他の子も、この学校に軽音部があればいいのにって思ってるはず。だから、そういう人たちにとって、バンド結成や軽音部設立は目につきやすい」


 「……なるほど」



 ……まともなこと言ってる時宮って滅茶苦茶かっこいいんだけれど、普段が普段だから、結局ムカつく。



 「もう一つ。この学校には文化部発表会って言って、文化部が自分の活動を一斉に発表して、新入生にアピールするっていう学校のイベントがあるんだよ。それが丁度5月中旬に行われる」


 「そう言えば先生からもその話聞いたような気が……」


 「このイベントは学校主催だから、学校全体の目につくし、新しい部活でも出場できるから、超都合が良い」


 「この学校に新しく軽音部が出来たってなったら、経験者の居ない、みんな初めての状態でのスタートになるわけだから、初心者でも安心。きっと新入生も沢山興味を持ってくれるはずだよ」



 まぁ、理にはかなっているし、私自身、別にバンドを組むことに反対したいわけじゃない。


 寧ろ軽音ができるならやってみたい気持ちはある。……これなら乗ってみても良いかも。


 そう思ったが、ここで1つ疑問が生まれた。



 「ちょっと聞きたいんだけど。バンドなんて2人で出来ないでしょ? 確か部活って部員が3人以上、顧問が1人以上必須って聞いたことがあるけど、残りのメンバーはどうするの?」


 「それに、知名度目的っていうんなら、統治部だってまぁ、文化部の中には入るだろうから、そこで大々的に宣伝すれば良いじゃん」



 時宮はポカンとしていたが、すぐにスマホを確認して、「あぁ!」 と言って普段の顔に戻った。……いや、ちょっとニヤッとしてるな。



 「言ったでしょ? ひじりんは広報担当。残りのバンドメンバーはこの学校の一般生徒から集めてもらう。伊吹にも勿論協力してもらうよ。なんたって、軽音部が出来るかもしれないチャンスなんだからね。顧問の先生に関しては、僕がなんとかしておくよ。最悪黒瀬先生に頼めばやってくれるだろうしね」


 「広報一緒に頑張ろうねっ!」



 聖くんマジで可愛いな。



 「んで、結論から言うと、統治部はこの発表会に出れない。何せ非公式の部活だからね。活動内容的にも、この学校が認めてくれるとも思えない」


 「つまり、統治部の《《表の顔》》が必要ってこと?」


 「そういうこと!軽音部にはその表の顔になってもらう」



 まぁ言われてみればそりゃそうか。……認めてくれないって自覚はあったんだ。



 「……まぁ、そういうことならやってみようかな」


 「お、いいね! その調子。許可も得られたということで改めて、君たちにはバンドメンバーを集めてもらうという任務を行ってもらう! 動き出しは明日から! 頼りにしてるよ? なら今日は解散!」



 時宮はそう言って手をパンと叩き、お開きにした。……軽音部が、できるかもしれない。


 ……今日の出来事はこの学校に来て初めて、楽しそうと感じたものだった。





 「聖くんはさ、なんで時宮の傘下に入ったの?」


 活動終わり。用事があるから、と言って先に帰った時宮。


 残った私達2人はこれから一緒に任務(?)をすることになるからと、親睦会も兼ねて一緒に下校していた。



 そこでふと気になったこと。あれだけ沢山の人を集めている時宮のことだ。さぞ人望はあるだろうし、私もまあ一応、あいつのことは信用できると思っている。


 けれど、時宮の言った「世界を統治」という目標。


 高校生にもなれば、そんなもの馬鹿馬鹿しいと思うのが普通だろうが、あれだけの人が集まっていたのには、何かきっかけがあるんじゃないかと思ったのだ。



 「……僕と虹彩くん、同じ中学校でね。その頃から交流があるんだ」



 「僕、見た目も性格もこんなのだから、小中どっちも周りから変なやつって思われてて。……結構バカにされたり、色々されたんだ」



 聖くんは自分の青い髪をくるくると弄りながらそう話す。


 ……こんなに可愛い子を虐めるなんて許せない。そいつら蹴散らしてこようか? 私殺る時は殺るよ?



 「それが中学2年の夏くらいまで続いてたんだけど、夏休み明けに、虹彩くんが僕の学校に転入してきたんだ。……まあ、僕とは二年とも別のクラスだったけどね」



 へえ。あいつ転校生だったんだ。



 「……虹彩くんの人気、本当に凄かったよ。学校中に物凄いイケメンが転校してきたって知れ渡って、元々彼氏が居た女の子なんかも、みんな虹彩くんのこと好きになっちゃってさ。殆どのカップルが別れちゃったとも聞いたよ」



 うわあ。想像が容易に出来る、ってのがまた……。あいつの人生ルックスで殆ど回ってんのね……。



 「……それでか知らないけれど、男の子達からはすっごく恨みを買ってて、女の子達からは高嶺の華扱いされて、学校で孤立してたの。……まあ虹彩くんも自分からあんまり人に関わる感じでもなかったからアレだけど」



 「それでさ、中学2年の秋に修学旅行があったんだけど、原則男女別々で3、4人のグループで行動しなくちゃいけなかったから、グループ決めが行われたの」


 「みんな次々とグループ作っていく中で僕と虹彩くん、あと今日一緒に居たリーゼントの牙王くんが最後に残って。僕達は余り物グループってことで一緒になったんだ」



 さっきまで少し辛そうな顔だった聖くんの表情が、少しずつ明るくなっていった。



 「牙王くんも当時無愛想ではあったけど、話すことはできたし、僕も別に虹彩くんには恨みもなかったから、折角グループになったからってことで沢山虹彩くんに話しかけたの」


 「そしたらさ、虹彩くんが僕達のこと気に入ってくれて、修学旅行の後も3人で関わることが多くなったんだ」



 ……なんか凄いメンツ。……でもあのリーゼント、無愛想って感じはしなかったけどね。まあ怖い人ではあったけど。



 「……そんな時にさ、学校でちょっとした事件が起きちゃったんだ」

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