第9話,ミッドウェー海戦
昭和17年6月5日……
いよいよこの時が訪れた。
連合艦隊は6隻の空母、4隻の空母を加えた大艦隊を率いてミッドウェー島を目指していた。
北村の記憶では日本海軍はこのミッドウェーを巡る戦いにて、赤城、加賀、飛龍、蒼龍の主力4隻を一挙に失い太平洋戦争の主導権を失い、この海戦の敗北は太平洋戦争の転換点と称される事になった。
しかし、今回は状況が少しばかり違っていた。
日本海軍にとって今回の最重要目標は潜んでいるアメリカの空母である、その途中で邪魔なのはミッドウェー基地の航空機であった。
「では長官、やはりミッドウェー基地は攻撃するのですか?」
「基地を叩かなければ空母艦載機以外にも敵が増えてしまう、時間的にはまだ余裕がある。急ぐんだ」
「了解」
井上はアメリカの航空兵力を減少させるべくミッドウェー基地の攻撃を行う事にし、翔鶴、瑞鶴から140機あまりの艦載機が出撃した。
最もこの攻撃はあくまで基地に損害をあたえるだけであった本来の目標は空母である、それに備えてほかの空母4隻では準備を進めていた。
一方、ミッドウェー基地を攻撃に行った部隊は……
「……来るぞ!ジャップだ!!」
「対空戦闘用意!!」
ミッドウェー島のアメリカ兵達は迅速に戦闘用意を行った。
またカメラマン達はこの映像をとるべく、日本機のほうにカメラを向けていた……そしていよいよ時は訪れたのである。
「よ~そろ……てっ!!!」
九九式艦上爆撃機を始とする各機から爆弾が投下される、中には高射砲などに撃墜される機もあったが日本軍は確実にミッドウェー基地に損害を与えてゆく。
「よし無電だ!我目標を爆撃す!効果甚大!」
「ふぅ…しかし敵さんも撃ってきますなぁ」
「それはそうだ。敵さんだって必死なんだよ」
今回もやはりアメリカ軍は航空機を攻撃に投入するか退避させ、戦闘機には迎撃を行わせた。
しかし日本軍は地上撃破を狙わず滑走路を狙って爆弾を落したりした。
これができたのも史実より航空機の数が多かったからである。
その結果滑走路は穴だらけになりミッドウェー基地の滑走路は使い物にならなくなった。
またミッドウェー基地より出撃した多くの戦闘機は………
「…食らえ!!」
ドドド…
………日本海軍の主力戦闘機、零戦に撃墜され迎撃に失敗する。
しかも滑走路は穴だらけ、基地も甚大な被害をうけてしまい余計である「カワ・カワ・カワ」という打電も行われなかった。
ミッドウェー基地を攻撃した航空機は次々と空母へ帰還してきた。
「どうやら作戦は成功のようですな長官」
「うむ、しかし最重要目標は空母だ、あれを叩くまでは油断してはならない…いや、ミッドウェーを完全占領するまでは絶対に油断してはならない」
その後、史実ならミッドウェー基地から攻撃隊が発進するが滑走路がひどい有様になっていた為、攻撃隊の発進が行えなかった。
そのせいかフレッチャー少将も日本の機動部隊がどこにいるかまだ探していた。
「くそ、日本艦隊はどこだ!?」
「敵の攻撃隊がこう飛んできたから…」
「いや、それを当てにしてはならん。航空機は大空を自由に動ける。だからここに空母があったとしてもここからこうやって飛んでくる事ができるんだ」
フレッチャーは手を使ってそう説明する。
「それに日本軍の航空機は航続距離が長い。もしかすると我々が思っているよりも遠くにいるかもしれない」
「はっ、申し訳ございません」
「まあ…君が謝る事はない。これは我が海軍全体の責任だ。まさか日本があんなに強かったとは…まったく予想外だ。しかしそうこう言っている場合ではない。ここで日本艦隊をどうにかしなければ。我が海軍はエセックス級が歓声しないかぎり大暴れする事が出来ずねその間に日本はさらに勢いを増す。それにナチス・ドイツだっているのだ。奴らははっきりいって強い……いや、今は日本だ。くそ、日本艦隊はどこだ!?」
フレッチャーは焦りを見せていた。
アメリカ海軍の威信にかけてもこの戦いには勝たなければならない、しかもここで負ければ自分も責任を問われる。
フレッチャーとしては絶対にこの戦い、勝たなければならないのである。
一方の井上も同様だ、しかし彼らはフレッチャーとは違い少し余裕がある感じであった。
「長官」
「発艦始め」
日本海軍はすでに米艦隊の位置を知っていた。
井上は北村の言葉はすべてメモにとってありそのメモからアメリカ艦隊の位置を予想、索敵機を向わせやや東であったがほぼ同じ位置でアメリカ艦隊を発見したのである。
既に準備を終えていた艦載機は出撃、第1次攻撃隊は121機の大規模な編隊であった。
日本軍機の襲来はアメリカ海軍も知る。
F4Fが急いで発艦する。
「急げ!急げ!日本機を迎撃しろ!!」
甲板で怒鳴る将校、はたしてワイルドキャット隊は期待に答えられるだろうか。
「右下方敵機!」
「制空隊が迎撃に行きます!」
明灰白色の零戦が増槽を捨てて迎撃に向う。
アメリカの直掩機との間で空中戦が行われた。
「…っ!!」
ワイルドキャットに向って機銃を放つのは斉藤茂一等兵曹、これが始めての艦載機により実戦であった。
以前は陸上基地の部隊に所属していたが急遽この作戦の為に連れてこられたのである。
彼は1機に火を噴かせる、これで5機目の記録だ。
「よしっ!」
彼はフィリピン戦に参加した経験がありその時に初撃墜を果たす、その後もスコアを稼ぎ現在に至る。
「…ん?磯部少尉殿…」
斉藤は手で上から敵機が来ると磯部という男に伝えた。
磯部にはそれが通じ、なんとかワイルドキャットの攻撃をかわした。
精鋭である日本海軍航空隊の搭乗員の技量は凄まじいものであった。
さらに零戦の性能自体が高く空中戦は一方的なものであった。
ただ、アメリカ軍も連敗というわけではなかった。
「……行くぞ!」
「はい!!」
「……食らえ!!!」
防弾なんておいしいのっていう零戦は火を噴いて太平洋に散る。
この時、ロッテ戦法、あるいはサッチウィーブが行われ一部の零戦が撃墜された。
戦闘機が大活躍している頃、攻撃隊はホーネットに向って攻撃を仕掛けていた。
九九式艦上爆撃機が複数、ホーネットへ急降下を敢行。
1機目は大きく外れるが2機目は至近弾、3機目はようやく日本艦隊の位置を確認し攻撃に向おうとした艦載機群のど真ん中に落ちた。
ドグワーン!!
「消火急げ!!」
「まだまだ来ます!敵の急降下爆撃機!!」
凄まじい対空砲火を潜り抜け、九九式艦上爆撃機は攻撃を行う、さらに九七式艦上爆撃機も対空砲火で撃墜されながらも雷撃を敢行した。
「ううっ!!!」
ホーネットに2本の魚雷が命中、艦体は大きく揺れた。
さらに爆弾が2発命中する、さらに1本の魚雷。ホーネットは大炎上し消火は困難であった。
「ホーネット大破炎上中!!我の攻撃効果甚大!敵大損害被る!」
さらにエンタープライズも無傷ではなかった…魚雷2本をうけ中破した。
日本海軍攻撃隊はホーネットを大破させエンタープライズも中破させるという大戦果をあげた、一方で日本艦隊もエンタープライズの艦載機に襲われていた。
翔鶴、瑞鶴の直掩機と対空砲火が米艦載機を次々と撃墜する…しかし勇敢な1機のドーントレスが…
「!!」
井上はこの目で見たのであった。
「瑞鳳が!!」
瑞鳳に爆弾が命中したのである、瑞鳳は火災を起こしていた。
「長官!瑞鳳が!!」
「わかっておる!!」
井上はそう言い切った後外を睨むように眺めた。
幸い瑞鳳は沈没こそしなかった、しかし着艦が不可能になってしまう。
ほかには重巡1隻が大破、駆逐艦1隻が中破しエンタープライズの艦載機は勝利の波に乗り快進撃をづつ蹴る日本軍に対してよく戦った。
しかし……アメリカは制空権を損失、その頃ミッドウェー島へは金剛などの戦艦4隻から激しい艦砲射撃が行われ、2時間後には陸軍が上陸を開始した。
さらに手持ちの空母1隻が甚大な被害を受け陸軍上陸後1時間もしないうちに、ホーネットは海へと沈み始める。
フレッチャーはこれ以上の攻撃は危険、エンタープライズだけでも持って帰ろうとし帰投を始めるが…
グワーン!!
「ううっ!!な、何事だ!?」
「敵機の姿は見えません……」
「だとすれば……はっ!?潜水艦!?」
それは伊-168であった。4本放ったうち、2本が命中、さらに1本を中てさらに1本は駆逐艦「ハンマン」に命中し、ハンマンはすぐに沈没、エンタープライズもやがて沈没した。
幸いフレッチャーは無事であり味方艦に助けられ真珠湾に帰投しようとする…しかし…
「…突撃ぃぃ!!!」
北村艦隊の激しい攻撃により真珠湾は再び攻撃される。
またしても大戦果をあげた日本海軍、続いて陸軍10000人がオアフ島に上陸。ハワイ諸島には5万のアメリカ軍がおりその中のオアフには20000人の守備隊がいた。
兵力では半分の日本陸軍だがこれまでどおりの快進撃を見せ、この一週間後ホノルルは陥落する。
その後もアメリカ軍は抵抗を続けたが6月23日、遂に降伏。
ほかの島へ上陸した部隊もアメリカ軍と戦闘を行い各地でアメリカ軍は降伏していった。
結果的に23日までにアメリカ軍守備隊は全島で降伏、ここにハワイの戦いが終了した。
折角復活しかけていた米太平洋艦隊であったがこの戦いによりまたしても開戦時のような、正確に言えばそれよりも危機的な状況に陥る。
未来を知っていた日本、なにも知らず史実に近い作戦を行ったアメリカ。
その結果は見ての通りとなった。
しかしアメリカはその物量をもっていずれ日本に対し反攻する、日本は資源が乏しく工業力も低い。
ミッドウェー、ハワイを占領したはいいが大日本帝国はこの後、いつまで戦っていられるであろうか?
勝てるのか?それとも長期戦化して結局は敗戦か?
この戦争が始まって約半年……戦局を左右するのはまさにこれからである。
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