第33話.地中海海戦 下
その後も熾烈な砲撃戦は続いた。
結果、日本側は重巡洋艦「最上」「那智」軽巡洋艦「大淀」、駆逐艦「不知火」「天津風 」を損失、「山城」中破、「比叡」、「大和」が小破したがドイツ側は戦艦こそ失わなかったし沈没艦は日本より少なかったが損傷した艦が多くまともに戦闘を続行できる状態ではなかった。
ちなみに「プリンツ・オイゲン」はこの戦いにおいて無傷で生き残っている。流石は幸運艦であった。また日本の幸運艦「雪風」も無傷で海戦を生き残った。
---戦艦「大和」---
「そうか、我が軍の損害はそんなに大きい物なのか」
「独軍には戦没艦が見られなかった様子、海戦は我が海軍の負けです」
「長官はこの事を知っておられるのか?」
「おそらく、しかし……」
その頃北村は…
「大損害を被ったのは事実だ。だがこれで独海軍の戦力が大幅に低下した事には変わりない。今ならやれる!。早朝の攻撃隊発艦に向けての準備は?」
「順調であります」
「よろしい、引き続き準備を急げ」
「はっ!」
その時、1人の男が慌しい様子で入ってきた。
「何事か!?」
「報告!イタリア空軍の爆撃機襲来!その後方にドイツ空軍機多数!」
「予定を狂わされた……」
っがそれも仕方がない。
アフリカ大陸の北もヨーロッパもすべてドイツが押えており制空、制海権はドイツのものなのである。ここで北村は後悔し始めた。
地中海を決戦場に選んだのは間違いであったと。
「対空戦闘用!」
「発艦急げー!」
零式、烈風、あらゆる艦戦が敵空軍機迎撃の為に発艦を急ぐ。その結果なんとか空軍機襲来までには間に合う。
その隙に残存航空機によるマルシャル艦隊撃滅を北村は立案、それも実行されようとしていた。
「発艦始め、発艦始め」
その頃、日本本土では…
現在日本本土防衛を行うのは根こそぎ動員によって動員された錬度の低い兵士ばかりである。
だからといってこれ以上の動員は難しい、流石の大日本帝国も人的資源が枯渇し始めていたのである。
それでも内地は非常に重要な場所である。ここですべてが生まれるのである。
そこで新たな兵器が今日も日本の空を飛ぼうとしていた。極秘の為地方の空港に移されてその航空機は試験飛行を行おうとしていた。
「うわぁ…でけぇ!これが我が海軍の新型陸上攻撃機か」
それはアメリ軍のB-17を参考に開発された陸上攻撃機「連山」である。
連山が実戦配備されれば日本の爆撃機事情も改善される事になる。ようやく日本が列強に並ぶ4発重爆撃機を手にした瞬間でもあった。
開発は空爆がなかった事により順調に進み本日こうして試験飛行を行おうとしていた。これまでも試験飛行は行われたが今回は爆弾を満載にした場合の試験飛行である。
「すばらしい航空機ですな、これが50機もあれば…」
「いや、今年中に100機はほしい所ですな」
「100機?……」
「お任せあれ。中島の威信に賭けて100機だろうが1000機だろうが10000機だろうが生産してみせますよ!」
「よっ!日本版B-17!」
「今頃どうしてるんだろ?主力は?」
「大西洋とか地中海とか大陸で大暴れしてますよきっと」
男の言う通り、今日も激闘が繰り広げられた。
日本軍はかなりの妨害を受けたが経験と数が物をいいドイツ軍を圧倒した。
その後日本軍攻撃隊はマルシャル提督の艦隊を攻撃、空母3隻を撃沈、駆逐艦1隻も血祭りにあげた。空軍機の攻撃により日本側も損害を増やすがドイツ側はさらにひどい状況に陥る。
本格的な海戦終了後も伊号潜水艦による雷撃で戦没する艦が続出した。
海戦の結果は以下の通りになった。
日本側:
沈没:
空母3 重巡3 軽巡2 駆逐艦5
大破:
空母1 駆逐艦1
中破:
空母2 戦艦1、重巡1
小破:
戦艦2 駆逐艦3
ドイツ側:
沈没:
空母4 戦艦1 重巡3 軽巡2 駆逐艦8
大破:
空母1 軽巡1 駆逐艦1
中破:
空母2 戦艦1
小破:
空母3 重巡1 駆逐艦2
海戦は日本の勝利に終わり傷ついた北村艦隊は基地へ帰投した。
しかしただでさえ海軍力で劣っていたドイツ海軍は壊滅的な打撃を受け、二度と攻勢に転じる事はなかった。折角ゲーリングを排除してまで手に入れた大艦隊は一回の海戦で壊滅したのである。
日本側も大きな損害を被った。
多数の艦艇、ベテラン搭乗員を損失し機動部隊の完全復活は時間がかかりそうである。以後日本海軍機動部隊はそれほど活発な行動を行わなくなってしまう。それは日本の工業力を考えてこれ以上の損失は避けなければならないからだ。
しかし日本海軍の活躍によって地中海の制海権はほぼ連合軍のものとなりその活躍ぶりは各国海軍から祝電を受けるほどであった。
その勝利の一方で講和への糸口を日本は探していた。できる事ならドイツを潰したくないからである。
そこで考えたのはヒトラーの暗殺であった。ヒトラーを消せばドイツは元に戻るのではないかと考えたのである。
そこでヒトラー暗殺計画は実行されたが失敗、その結果関与が疑われたものは処刑されるか自殺を迫られたのであった。
あのロンメルでさえも関与を疑われたが彼を救おうとする者がいた。それは彼と同じ大陸にいる山下大将であった。
一度名将と話がはたかった彼は自殺する前につれてくるように指示、日本陸軍から2人が派遣されロンメルと交渉を行おうとした。
「私は軍人であり、最高司令官の命令に従う」
「…そうですか……我々日本陸軍は閣下の家族の身の安全も保障します。従って明日より早速救出作戦を行いたいのであります」
「お気持ちはありがたい。だがそれはできない。ヨーロッパは厳しい、今や敵対勢力となってしまった日本人やそれに似ている黄色人種がいるだけで粛清の対象になってしまいますぞ」
「そこで閣下のご協力を要請したいのです。ドイツ人がやれば問題ないでしょう」
「……日本陸軍は何を考えているのかね?」
「…講和、ですかな?無駄な戦いは避けたいのです」
っというのが表向きの理由だが実はロンメルのアフリカ軍団を戦力に加えたいというのが本心である。だが当然ロンメルはそれに素直に従おうとはしなかった。
「…わかりました。ですが家族の身の安全だけは保障します。閣下、それまでお元気で」
その二週間後、2人の将校はロンメルにとって見覚えのある者達を連れてきて再び訪れた。
「エルヴィン!」
「な、どうしてお前がここに?」
「あそこの日本軍のお2人が」
2人はロンメルに対し敬礼をした。
「生きておられたのですか」
「なんとかな、まあ明日にも死ぬ予定であったが」
「それで、前の話の続きです。家族の身の安全はもちろん保障します。貴方はナポレオン以来の戦術家、味方のみならず我々、ドイツにとっての時にも人気があります。貴方の死はとても思い、どうか自ら命を絶とうとせず日本に入らして下さい。衣食住、ドイツに比べれば質素ではあるかもしれませんがすべて提供します」
「……」
彼の暗殺への関与は不明である。
しかしこのままでいけばドイツが負けるのは目に見えていた。ロンメルは様々な事を思い頭を抱えて悩んだ。
「エルヴィン…」
夫人は心配そうに彼を見る。
「……家族の安全は頼む。だが私がいなくなれば大いに問題が起こる。誰かの裏切りによって負けたと認識させては困るのだ」
「…閣下」
そう言ってロンメルは無言で去っていった。
数日後、ロンメルは敵の攻撃によって戦死したとされ英雄扱いになった。日本の工作も空しく、砂漠の狐と言われた名将ロンメルは亡き人となってしまった。
ドイツ国民はもちろんその敵も涙する出来事であった。誰よりも悲しんだのは家族とロンメルを助けようとした2人の日本軍将校であった。
さらに和平も失敗、戦争はまだ続く事になる。
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本日旅より帰りました。