第20話.アメリカ本土爆撃 計画編
昭和18年3月10日……この日は陸軍記念日である。
昭和16年12月8日の開戦以来、負けなしである帝国陸軍の勢いは海軍同様に凄まじいものであった。この日、皇居前広場にて天皇親臨の下、分列行進がいと厳かに執り行われた。
この頃になると天皇も公に姿を表すようになっていた。
国内はまだ、日中戦争の時と同様勝利の喜びに満ちていた。
同様にドイツでも国民は勝利の報を聞き、手を挙げてジークハイルを唱えていた。
それに便乗する形でイタリアもドゥーチェ、ムッソリーニを称えるかのように国民は皆ファシスト党を支持していた。
こうなったのも開戦依頼枢軸国が勝ち進んでいるからである。2人の男の頭によって……
北村とメッケルは同じ軍人でありただ違うといえば年齢と階級、陸軍か海軍か、そして日本人かドイツ人かである。どちらも戦後世界出身であった。
最初はこんな事をしてよかったのだろうかと葛藤していた、メッケルはすぐに馴染んでしまったが北村は違い今では後悔さえしていた。
その北村は現在、ハワイはホノルルにいた。
「あれ?北村中将殿、お久しぶりじゃないですか?」
「ん?君は佐近少佐か?」
「いえいえ、実は先月昇進しまして。今は中佐ですよ」
「ほおそうか。偉くなったものだ」
それは同じ同志である。
佐近正治は現在海軍中佐、開戦前からの知り合いで戦後の海上自衛隊に最も興味がある男である。その為北村は開戦前、よく佐近に海自時代の事を話していた。
「ははは、しかし中将もすっかり帝国軍人らしくなりましたね」
「いやいや、それほどでも…それに自分は帝国軍人とは違って精神的に弱い。今だって後悔しているよ」
「後悔?何故ですか?日本は勝っているんですよ?確かに負けるという当初の予定からは大幅に逸れていますが勝ってるんだからいいじゃないですか?」
しかし北村は負けたほうが日本人の為であると考えていた。
そうしなければいつまでもこの勢いでやっていく事になり戦後日本よりも早い段階で滅びてしまうかもしれない。そう、自分達が最強であるという謝った自覚によって自ら破滅の道を歩む可能性があるのだ。
しかし、ドイツが相手となると話は別である。
ナチスが全世界を手に入れればそれこそ世のバランスがかえって崩れてしうかもしれない。決してナチスがすべて悪いわけではないしほかの国も同様なのだが世界制覇だけは阻止する必要があった。
世界制覇を阻止する。これはドイツに限らずどんな国であろうと実行を始めたら阻止する必要がある。今回それがたまたまドイツであるかもしれないという事であろう。
北村自身、実はドイツが好きでそこまで悪くはしたくない、でも世界制覇だけは阻止する構えであった。
っがこのような世界をつくってしまったのは自分が大日本帝国の人間に歴史を教えてしまったのが原因でありその責任は重大で何度死んでも罪は償えないと考えていた。
そう、まさに今。歴史を改変してしまった事に後悔しているのである。
あのままほっといて史実通りの展開で戦争を進ませ日本を敗北させ、自分もどこかの海戦で死んだほうがよかったのかもしれないと彼は考えていた。
それを説明しようと思えば簡単だが、左近にはわかってもらえないであろうと考えた彼はあえて、適当に話を流した。
「…まあ、いろいろな……でも佐近の言うことにも一理はある、勝っているからこれでいいのかもしれない」
「…ですよね?はははは、やっぱり勝ち戦に限りますよぉ」
丁度その時、注文したものが届き、何か飲み物を2人は口に入れる。
「はぁ…あっ、そういえば中将。フィジーやサモアを攻略したのはいいのですが…この後どうなるんですか?」
それは難しい質問であった。
シーレーンを遮断したはいいがこの先の対米戦略はまだ決まっていない。つまりこの先アメリカとどう戦えばいいのかがわからない。実に日本海軍らしい、戦略概念の低さである。
また補給などの面からこれ以上の戦線拡大はほぼ不可能、むしろ戦線を縮小したいぐらいであった。
ところがそういうわけにもいかないのが現実、日本はその低い国力で現在の占領地を維持する必要があった。
アメリカでは反攻に向けて大量の艦船が建造中でパナマ運河の修理も急ピッチで行われていた。
現にエセックス級の一番艦である『エセックス』が就役、ニ番艦の『ヨークタウン』もあと1ヶ月で就役する事になりカサブランカ級1隻も進水間近であった。
しかしパナマ運河の修理や搭乗員の養成、艦艇の数などの関係で本格的な反攻は昭和19年2月以降と予想されている。日本海軍としてもそれまでには多数の空母を用意しておきたい。
今の所大和型の3番艦であったが空母に改装中である信濃が史実と違い急いで改装が行われてい為、遅くても翌年春には竣工、大鳳も同じ頃に就役予定で雲龍型も現在各造船所で建造途中であった。
航空母艦『伊吹』も昭和19年には完成予定であった。
…っとはいえ、日本の造船力はアメリカの足元にも及ばずこれでも足りないぐらいである。そこで日本海軍は戦時急造艦として搭載機21機、乗員556人の簡易で小型な空母を最近旅順に築いた工廠で建造を開始、カサブランカ級よりもさらに小型でしかも最高速度20ノットと低速、空母としての性能は低いものの他の空母に比べれば比較的短期間に建造できるというメリットがある。
早速1番艦『札幌』と2番艦『小樽』の建造が開始され昭和20年までに目標10隻を揃える予定であった。
果たして日本海軍の足掻きは通用するのであろうか?それは誰も知らない。
それにそうなる以前に米国との講和→対独戦突入となる可能性が高い、しかしドイツやイタリアも空母を建造しているという噂なので航空母艦をそろえておくに越した事はない。
…しかし対独戦ではなく対米戦が続く可能性もある、それらを踏まえ北村は独自にこんな作戦を考えていた。
「そうだなぁ……米国本土爆撃、潜水艦による艦砲射撃なら今までにもやったが……本格的にやる必要があるかもしれない」
「しかしどうやって?米国はその潜水艦による攻撃でかなり哨戒機を飛ばしているという噂ですが?」
「それだ、機動部隊をどうアメリカに悟られずに本土に近づけさせるかだ。もうパナマの件もあるから星条旗を掲げて本土に近づく…なんて事はできないだろう。そこでいい事を考えた。二式大艇があるだろう、あれを使うんだ」
「あ…あれをですか?」
確かに二式大艇の航続距離ならロサンゼルスあたりなら飛んでいける、しかし帰りの燃料がない、北村はハワイ攻略時にアメリカからぶん取ったタンカーと潜水艦を向わせ途中で給油させる計画を立てていた。
「もちろんそれだけじゃ危険だ。自分は今ハワイにいる艦隊を囮としてできるだけ米本土に近づく」
「!!……それって…果てしなく危険なのでは?」
「危険なのは承知している。だからこそだ……なぁに、敵の攻撃は艦載機がなんとかしてくれるはずだ」
「す…すごい、本格的な米本土攻撃作戦………これは、日米講和に繋がるかもしれません!」
「うむ、可能性としてはゼロではない……まあ、とりあえずは我が国のドーリトルや盟友、中国の蘭州のお返しをしてやろう」
「自分も応援させていただきます」
その後、この作戦は承認され実行される事になる。
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なお明日より数日ほど作者、ちょい用事の為次回更新は土曜か日曜になりますのであしからず。