第16話,ニューカレドニア突進作戦
9月5日、まだ日が上る前……クマックの浜付近には海軍の艦艇に護衛された多数の輸送艦が揃っていた。客船までもを動員したこの大作戦で日本軍5万が上陸予定であった。
神州丸などの陸軍船舶の姿も健在だ。
「このニューカレドニア島はアメリカ軍の重要拠点でありここの攻略こそが実に、大東亜戦争勝利への鍵となる。我が軍はまずモンバニアを確保後ウァイエムを攻略、ニューヘブリデスとの連絡をとれるようにした後南下を行い最終的にはヌメアを目指す………だが、この作戦は問題が多い、一つ目は我が軍は既に補給線が延びきっており弾薬は持ってきたもののその後の補給を考えれば3ヶ月が限度だ、二つ目は補給が満足に受けられない中、メヌアまで進撃する必要がある。第三の問題は我が軍は現在5万だが敵は8万、装備、補給などあらゆる面で敵は勝っている。これらの事を踏まえ今年度中にニューカレドニアを攻略しなければならない。その事を考えればマレーの虎、山下中将が行ったような突進作戦を敢行する必要がある。ひたすら前進して残っている敵は後続部隊に任せよ」
今村中将は参謀達に説明する。
今回の彼の相手はダグラス・マッカーサー大将である。マッカーサーはつい先日ニューギニアから逃げてきたばかりである。
ニューギニア戦線は日中講和後の予備兵力などからの援軍によって残るは南端のみとなりマッカーサーは最後の抵抗を行い日本側に2万人の戦死者を出させるが勝利の波に乗った日本軍を食い止める事はできず彼はオーストラリアを経由してニューカレドニアへ逃げた。
現在はアメリカ、オーストラリア軍の残党との戦闘が行われているがすでに全島を占領したも同然でニューギニア戦線は日本軍の勝利に終わった。
「ニミッツの野郎、絶対ニューヘブリデスじゃなくてニューカレドニアだぞ!?」
「海軍は陽動に引っかかったのでしょうか?」
「くぅぅ………このままではニューカレドニアもフィリピンやニューギニアの二の舞だ!!」
「しかし、今の所敵軍が上陸した気配もはりませんし、報告によりますと敵の輸送船団はニューヘブリデス諸島へと向っています、おそらく救援でしょう」
「………」
マッカーサーの脳裏に不安が過ぎる。
彼は海軍とは違いニューカレドニアに攻めてくると考えていた、実際にそうなってしまい陸軍の発言力が上がり開戦以来負け続きである海軍の発言力は大きく下がってしまうのだが。
その頃、日本軍は……
「上陸用意!!」
日本陸軍、遂に動く。
上陸用舟艇を降ろした後、縄梯子で輸送艦から降り上陸用舟艇に乗り込んだ。時間はかかるが通常の輸送艦になっている兵士にはこれぐらいしか方法がない。
それでも日本兵は作業を急ぎ比較的短時間の間に作業を終えた。
一方揚陸艦であり今村中将も乗っている神州丸からは戦車や歩兵を載せた舟艇が次々と降ろされ砂浜へと向かっていた。ちなみにこの世界において神州丸は雷撃を食らわなかったそうだ。実に幸運である。
しかし…日本陸軍を持っていたものはアメリカ軍の火砲であった。
「ジャップが来たぞー!!」
「総員戦闘配置につけ!!!」
アメリカ兵は急いで戦闘配置につき、砲弾を装填、照準を合わせ砲撃を開始した。
凄まじい砲撃に日本陸軍の上陸用舟艇は晒され撃沈されるものもあった。しかし日本軍の夜襲は決して失敗とはいえなかった。
砲火を越えて砂浜に上陸した日本兵は果敢に突撃を開始、徐々にアメリカ軍との距離を縮め始めた。
しかし距離をつめれば今度は機関銃の餌食になる、日本兵は機関銃に苦戦した、しかし戦車部隊が果敢にも突撃を開始、機関銃の弾を跳ね返しつつ陣地に迫った。
「目標は敵の戦車だ!!ジャップのもろい戦車など全部ぶっ壊してやれ!!!」
「撃……!!!!」
しかしアメリカ軍が日本軍に対応するのは少しばかりか遅かった。
砲撃していれば日本軍の戦車など簡単に撃破できただろう。ところが日本軍は砲撃前に砲撃、陣地に次々と砲弾を叩きこみ自軍の戦車が撃破されつつもアメリカ軍陣地を次々と破壊していった。
歩兵の活躍も戦車部隊の活躍に劣らない、鉄の雨を越えてきた日本兵はトーチカに手榴弾を投げ込んだ。
「…ん?…に、日本軍の手……!!!」
グワーン!!
手榴弾1個の威力は弱い、しかし恐ろしいのは爆発よりも破片であった。
兵士達は破片にやられてしまう。
日本軍は380人の犠牲を出しながら朝までには3万人を上陸させクマックの砂浜を確保、日本軍は航空支援が不足しており機械化も十分ではないがそれでも歩兵を自転車に乗せて、日本版の電撃戦を開始し始めていた。
日本軍の上陸をある程度予想してクマック付近に築いていた飛行場はその日のうちに陥落、滑走路に被害が少なかった為翌日には隼を始めとす陸軍航空隊の航空機が到着した。
その後も日本陸軍は止まる所を知らずに進撃を続けた。
「この、モンバニアの山に築かれた敵陣地には約1万の敵兵力がある、ここの突破はウァイエム攻略にも直接影響する。連隊は夜間に戦車で夜襲、翌日歩兵主力を向わせこれを叩く!」
この夜、15両の戦車を含む少数の部隊がアメリカ軍陣地へと迫った。
一方のアメリカ軍は音がしてきたので起き上がり周囲を確認する。
「な、なんだ?………!!…敵襲!!!」
このアメリカ兵には林の向うから日本軍の戦車が近づいているとわかり、すぐに味方にそれを知らせた。
味方は銃を持って外にでて、砲兵隊は自分の砲へ、戦車隊も戦車に乗り込もうとした……その時であった。
日本軍の攻撃は開始されたのであった。
しかし日本軍戦車部隊は苦戦する、スチュアート、シャーマンを前に戦車隊は壊滅状態になりそうであった。
「来るぞ!!よけろ!!」
「無理だ!!」
「ああああ!!!!」
日本軍は体当たりを行ってまでアメリカ軍の戦車に対抗した。
早朝までに攻撃部隊の80%を消耗したが歩兵主力が到着、アメリカ軍との激戦が展開され日本軍は半数以上を失ったがアメリカ軍を後退させる事に成功、後続部隊との合流を果たし再び進撃を始めた。
その頃、ヌメアではニミッツとマッカーサーが喧嘩をしていた。
「なにをしているんだ陸軍は!!糞も日本軍の進撃を止めれてないだはないか!?」
「あんたが敵の陽動作戦に引っかかるから敵の上陸を許してしまったんだろ!!今や日本軍は勝利の波に乗り破竹の勢いで勝ち進んでいる!!」
「ニューカレドニアは死守せよと大統領閣下は言っていた!!ここで耐えれば日本の国力が尽きるだろうと!!そもそも我が海軍はようやく空母レンジャーとサンガモン級2隻を太平洋艦隊に回してもらったばかりだ!しかしそれでも正規1隻、護衛2隻、敵の空母戦力には敵わない!!これでどうやって敵の機動部隊と真正面から戦えばよいというのだ!?船団護衛ぐらいにしか使えないだろうマッカーサー大将!!え!?」
ようやく空母3隻を手に入れたアメリカ海軍、しかしそのかわり大西洋の空母戦力がさらに減ってしまいナチス・ドイツの勢いがさらに増してしまう原因になった。
今や負け続きのアメリカでは国内でも日本と講和しなんとか日本とドイツを切り離して日本を対独戦に参加させろという声が大きくなっていた。
確かに日本は陸軍力は兵器の質などの面で信用できない所もあるが海軍力なら十分な補給さえあれば十分ドイツと戦えるかもしれない。
問題はUボートのみだろう。
しかしルーズベルトは開戦時、あんなに勢いよくあんな事をいったのだから今更講和には持っていけない、しかし支持率は低下していき今選挙があっても確実に落選するのは目に見えていた。
ルーズベルトは完全に窮地に立たされていた。だからニューカレドニアを死守せよとの命令を出したのである。
しかし、ニューギニアから送られてくる援軍、日本海軍機動部隊の航空支援、主要な飛行場を占領次第に飛行場を修理して戦闘機や攻撃機を配置し航空支援を行い陸軍航空隊、そして戦車と歩兵のすばらしい連帯と優秀な工兵、装備などあらゆる面で劣っていても錬度や士気の面ではアメリカ軍よりも高い日本陸軍、アメリカ陸軍は今村中将の作戦、そして勝利の波に乗った日本軍の前に主要な戦いに敗退していきついに10月10日には島の半分が占領されてしまった。
日本陸軍ですら予想もしていなかった快進撃である。
そしてその後も日本陸軍は弾薬の事を気にしアメリカ軍の反撃をうけつつ12月8日の開戦記念日にはヌメアを占領、ニミッツとマッカーサーはサモアに逃れた。
日本軍はこの戦いで35000人の将兵を失う事になりこれはフィリピン攻略戦の時よりも大きな損害であった。
しかし時は少しさかのぼって10月、新たな作戦が発動しようとしていた。
それは、パナマ運河攻撃作戦である、連合艦隊司令長官山本五十六が立案した本来ならばやりたくない事が沢山詰め込まれている作戦である。
昭和17年1月に将来の空母不足を懸念して史実よりも早くに買収され空母に改装された『冲鷹』、しかし見た目は少し変であった。商船のような見た目になるように色が塗られ旗も軍艦旗ではなく星条旗が掲揚され艦載機も鹵獲したSBDドーントレスとF2Aバッファロー及びF4Fワイルドキャットであった。
このほかにアメリカ風に改装されたタンカー1隻がついてくる。
日本軍は嫌がったもののパナマ運河攻撃は太平洋と大西洋数ヶ月~1年間封鎖するという目的から絶対に必要な事であった。
そこでできるだけ艦船をパナマ運河に近づけさせアメリカ軍から鹵獲した航空機で攻撃を行うという無謀にも思える大作戦が発動しようとしていた。
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