後日談
ちょっとだけエッチな表現が出ます。お嫌いな方は飛ばしてください。
「レオンハルト、なんで黙っていたの?」
エルフリーナは少々おかんむりだ。
「私がエルフリーナ様に懸想していたことですか? さすがに、婚約者がいると分かっているのに口説く訳にはいきませんからね」
「け、懸想って...!それっていつから、じゃない!そっちじゃなくて王弟って...」
「ああ、いつからと言うのは照れますね...。まあ、その琥珀色の瞳で『素敵な騎士様ね!エルフリーナを守ってくれるの?』と言われた時でしょうかね」
「それ、初めて会った時じゃないの!」
両手で顔を覆うエルフリーナ。
「まあ、守ってくれるの?なんて殊勝な言葉は次の日からぶっ飛びましたけど」
じとっとした目で見られる。
「うっ!だってヴィッツリー家の子供は騎士団と共に大きくなるのよ!」
「だからって木剣を振り回す令嬢がどこにいますか?おまけに護衛騎士を出し抜いて街に遊びに出掛けるわ、悪ガキと喧嘩して鼻血を出して帰って来るとか」
エルフリーナは慌ててレオンハルトの「しー!」と口を塞ぐ。
しかし、その塞いだ指を甘噛みされて驚き仰け反る。
「!」
「嫌ですか?」
「いいいいい嫌とかそういう問題じゃないでしょう!?」
レオンハルトは不敵に笑うと口に含んだ細い指を自分の指に絡める。
いつの間にか指から腕に忍び寄る気配に体を引くが遅かった。
エルフリーナの背中には硬い腕が回され、すっぽりと胸の中に包まれている。
「エルフリーナ様...」
大型犬のように首筋に鼻を擦り付けてくる。
触れるか触れないか、ほんの僅かしか肌に触れていないのに、吐息が上書きするように熱を孕んでいる。
「だ、黙っていた理由がまだだわ!」
ぐいっと胸板を腕で押す。
レオンハルトは不機嫌な顔をして
「私があなたをどう見ていたかですか?可愛らしい子供であった頃からその瞳に見つめられるとなぜか胸が疼いたんです。それまで女の子に興味なんて抱かなかったのに、不思議ですね...。それからどんどん成長してなだらかだった胸元が豊かになり、腰つきが丸みを帯びてきているのにあなたという人は無邪気に抱き付いて来たりして、本当に私だから良かったものの...」
「わーーーーー!!」
手をぶんぶんふって言葉を散らす。
「大体、剣の鍛練時に『胸が大きくなったから潰すのになにを使ったら良いと思う?』なんて聞く方が悪いんですよ。しかも自分でこう、持ち上げて」
「そんなことしてない!...してない、はず!だって女性騎士がいなかったんだもん!レオンハルト以外に聞く人がいないじゃない!」
にやりと笑うと満足そうに頷く。
「そうです、私以外に聞くべきではないです」
「ぐぬぬぬ」
真っ赤になったエルフリーナが呻く。
全然レオンハルトに言い勝てない。
だって当たり前だ。気がついた時から従騎士として寄り添っていて誰よりも近い人だ。
しかしそのレオンハルトに恋心を抱かれていたなんて、気がつかなかった。
「...私がもしパウル様と結婚しようとしていたら、どうするつもりだったの?」
ちょっとだけ好奇心が沸いて聞いて見る。
レオンハルトは急に暗い目を光らせると
「大丈夫です。そんなことになる前にパウルが命をかけて断りたくなる手筈は整えておきましたから」
「なに!?手筈って、そして手配済みって!?」
怖い怖い怖い!
レオンハルトはほんのりと微笑むと
「エルフリーナ様は知らなくて結構ですよ」
知らなくて良かったです!
レオンハルトは嬉しそうにエルフリーナの髪を撫でる。
その様子を遠い玉座からハインツ国王とエルフリーナの父であるヴィッツリー侯爵が複雑そうな顔で眺めている。
「なあ、良かったのか?」
国王がちらりと振り返って、ぼそりと聞いてくる。
「良いのかも、悪いのかも、言える訳ないでしょう」
後ろに立つヴィッツリー侯爵の声には力が入っていない。
王子による婚約破棄という王家最大の失敗劇をひっくり返して、見事純愛劇に持っていった王弟。
国の最強の守りを誇るヴィッツリー侯爵家が王家に対抗すればいかに王家と言えども国を揺るがす大惨事になるところだった。
ヴィッツリー侯爵家は中央での出世欲がないので、エルフリーナが泣かされれば対立も辞さない。その流れに王家に不満がある貴族が追随したら...つまりは国が分裂する危機であったのだ。
「あの手腕があるんだ、俺の代わりに国王やってくれれば良かったのに」
言ってはいけないぼやき言葉が零れでる。
芸術肌の国王は一生絵を描いて生きることが夢だった。
「ハインツ、お前だからまとまっているんだ。適材適所ってやつだよ」
ヴィッツリー侯爵は慰めではなく、本気でそう思う。
この二人、学園時代の同級生で親友だった。
だからハインツ国王がエルフリーナを不幸にするなんてことは万が一にもあり得なかった。
それを承知の上で心で付け加える。
『大体、自分の甥の婚約発表で見初めた子供を王位継承権を棄ててまでも辺境まで追いかけてくる奴が国王になんてなってみろ。エルフリーナになにか少しでもあれば、国が滅んでいたわ』
ぶるり、と身震いがでる。
13年前、パウルとエルフリーナの婚約式に出席したレオンハルトがその次の月にはヴィッツリー領にやって来たことを思い出す。
『若干12歳で王都から単騎で乗り込んで『エルフリーナ様の従騎士になります!』って、おかしいだろ!?なんでしてください、でなくてなるって決定しているんだよ!』
それ以来、レオンハルトは片時もエルフリーナの側を離れたことがない。
目を向けるとホールの端で何を言い合っているのか、レオンハルトが手を伸ばしてエルフリーナに叩かれている。
『まあ、大切にされることだけは間違いないな』
愛娘の結婚で感慨にふけることができなくなったのは、果たして良いことなのか、悪いことなのか、親として判断がつけにくいところだなあ、と思うヴィッツリー侯爵であった。
数あるお話しの中から読んで頂き、ありがとうございます!
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