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さん。文官じゃなくて何でも相談員だった。

プロローグの続きが今話です。

「で、どーすんの?」


 私は向かい側に座るご婦人に尋ねた。

 事の始まりは五日前。

 文官というか雑用係というか、そんなんで王城で雇用された私が、ディオさんって男性を上司に仕事を始めてから三ヶ月が経過した頃のこと。

 特技という程のものでもないのだが、親戚をたらい回しにされて人の顔色を窺うように生きてきたことによる副産物のようなもので。……そこまでいいモノでもないけど。

 人が悩みを抱えている時の顔色は判別出来るようになってしまった。

 如何にも悩んでますって顔だけでなく、悩み事なんて無い、といつも通りの顔をしている人まで判別がつくことになって、逆に気持ち悪いと人から更に疎まれる原因にもなったコレ。

 こっちの国に来てからも、ついそれを発揮してしまい。まぁ要するに上司であるディオさん。ユディット王子にアランさんまで悩み事があるでしょう? と見抜いてしまったせいか、いつの間にか文官よりも何でも相談員になってた。

 特にユディット王子は面白がって私の所に行け、と人を寄越すようになってしまい。王子の命を受けた人が何がなんだか分からないまま、私に悩み事があることを見抜かれて内容を相談してくるようになった。

 最初は警戒されてたから口を割らなかったし、相談することも物を失くした程度だったけど、失くした物を探すのも副産物で特技になっていた私が。


「いつまで持っていたか。普段とは違う行動……特に普段は通らない場所を通らなかったか。或いはいつもと違うバッグを使用していないか。いつもは持たない持ち物を持っていなかったか」


 などと質問して記憶を思い起こさせるようにすれば、大抵の人があっ……という何かを思い出した顔になり、思い出した所を探せば失くした物が見つかることが評判となってしまったようで。今では相談員という名の愚痴聞きになっていた。その愚痴聞きだが、仕事に関する愚痴ならば優先順位を付けてみる。その日中に何をするか、明日でも間に合う仕事ならばその日のうちに終わらせる仕事から始める、など当たり前な事なのだが、そんなことを考えもしなかったという顔の人達が効率良く仕事が出来るようになったことも更に評判になったらしい。

 いや、当たり前のことなんだけど。なんで誰も気づかないのよ。……ということで。愚痴聞きから何でも相談員に進化していた。ーーいや、そんな進化欲しくないんだけど。

 そのうち、上司や同僚とのトラブル相談。借金をしてみたいなんてちょっとヤバイ相談。果ては恋愛相談までされて、上司や同僚のトラブル相談は、相手の性格に合わせたアドバイスを。

 借金は利子がつくと返すのが苦しくなるから、節約することに頭を切り替えるよう代替案を出し。

 恋愛相談は分からん、とぶった斬った。

 ブラック企業に居たから仕事関係の人間模様相談は何となく分かるし、借金は親戚をたらい回しにされていた頃、奨学金の返済でヒーヒーしていた親戚を見たことがあったから案が出せただけ。

 恋愛? 好きな人を作るよりも生きるのに必死な人間にそんな暇は無いからアドバイスなんてあるわけがない。でも。借金と同じで親戚をたらい回しにされていた頃、浮気や不倫に嘆き苦しみ怒り荒れ狂う親戚のおばさん達やお姉さん達を見て来たので、それに関してはアドバイスが出来る、と相談に乗っていた。

 先ずは、浮気や不倫をしていた相手を、相談してきた人はどうしたいのか、という所から始まる。別れたいのか再構築したいのか。それによって助言する内容も変わるから。

 そうしていつの間にか三ヶ月が経過し、その間に城勤めの人達の話だけでなく。その身内……奥さんとか旦那さんとかお子さんとかが相談に訪れるようになった。不貞調査は出来ない事もない、と請け負っている。その分の給料はディオさんに報告して上乗せしてもらってる。

 不貞調査って一口に言っても要するに勤務時間が決まっている職業の人の身内なので所謂アフターにちょこちょこと調べれば、大抵引っかかるので。中には本当に仕事が忙しくて不貞をしている暇も無い人もいる。それも報告すれば、依頼して来た方は、頑張ってくれているのに疑って恥ずかしい、と家族仲が良くなるというメリットもあるそうだ。

 でも。

 目の前で、夫の不貞を明かされて泣いているご婦人も、そのうちの一人。

 私の所にきて夫の不貞調査を依頼し、結果不貞が事実だった事にショックを受けて泣いている。気持ちは分かる。好きなだけ泣かせてあげたいとも思う。

 でも敢えて、私は問うのだ。

 どーすんの? と。

 ご婦人はまだ涙も残り真っ赤な目をしながらも、ハッと我に返って。


「どう、したらいいのか……」


 まぁ大抵、不貞が事実だと発覚した場合、皆がこう言う。そりゃそうだ。疑惑の場合は、違うと信じたい。と思って依頼してきているから。確信があっても、その確信が間違いだと信じたくて私の元に来る。でも事実だったと知って、どうしていいか分からない、と悩むのは当然のこと。


「暫く考えてから決断します?」


 ただ、私の仕事はここまで。

 別れるにしても再構築するにしても、依頼人が決める事だし、離婚すると決めてもそれはもう私の仕事じゃなく手が離れた後のこと。

 自分で依頼して来て不貞が事実だった事にショックを受けて、こんな結果を望んでいたわけじゃない、なんで調査をした、と怒る人も居る。理不尽なことを言っているのは、おそらく本人も承知。それでも言いたくなるのだと思う。だから私はただ黙って聞いておく。

 信じたくないのに、結果が突き付けられる。

 親を亡くしている私にも覚えがある感情。

 誰に当たり散らかせばいいのかも分からない。

 でも世の中の理不尽に怒らずにはいられない。

 それが私に対しての怒りになってしまうのも、仕方ないこと。

 少しでもそれでスッキリするのであれば、只管聞くのもまた、私の仕事の一つなのかも、しれない。

 目の前のご婦人は泣いて泣いて泣いた後。


「ありがとうございました」


 ただ礼を口にして帰って行った。

 泣いた後の表情がスッキリしていたけれど、それが事実を知った事によるスッキリ感なのか、泣いて気持ちの整理が出来た事によるスッキリ感なのか、離婚するか再構築するか決断まで出来た事によるスッキリ感なのか。

 そこまでの心情は私には読み取れなかった。

 神だかなんだか知らないけど、私を日本からこの国へ寄越した存在は、この、読み取れなかった心情がある、という事を、私は感情を読み取れる万能な人ではない事を教えたくて連れて来たのかもしれない、と。

 この後起こる胸の痛む事件で、考えさせられる事になるとは、この時の私は知らなかった。

お読み頂きまして、ありがとうございました。


オムニバスのつもりで考えていた本作ですが、どうもオムニバスにならない事に気づいてタグを変えました。

オムニバスだと思われた方、すみません。

別作品でオムニバスにトライしたいと思います。(構想まるで無いので、トライ出来たらいいな、感覚です)

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