に。色々聞いた。……異世界転移、らしい。
フォルトラ王国という全く知らない国名を出された私。好みの男性は、名をユディット・フォルトラ。冗談や嘘偽りなく王子様って話。王子。身分制度が理解出来ないから不敬とかあったらどうしよう。
王子様は私に自分が着ていたマントを掛けてくれた。
「その格好は目のやり場に困るし、あなたも寒そうでしたから」
「ありがとうございます」
礼を言ってから名を名乗ってないことに気づく。
「あの、日本では身分制度が無いので不敬になってしまうのかもしれませんが」
「あ、いいよ。大丈夫。偶に異世界からの客人が来ることがあってね。身分制度がある所から来る人もいれば、無い所から来る人もいる、と文献に書いてあったから気にしないで」
「文献……という事は、資料として残される程、異世界から来る人が居る、と?」
「へぇ、君は頭が良いのだね」
いや、ちょっと考えれば分かるでしょ。あ、そうだ。名前。
「葵って言います。家名が柚原。アオイと呼んでもらえれば。ユズハラは呼び難いと思いますので」
「アオイ、ね。分かった」
それから第三王子(つまり兄が二人居るということか)であるユディットが城に連れ帰ってくれて、色々と聞いたんだけど、やっぱり異世界転移っぽい。……認めたくないけど。
尚、フォルトラ王国だけじゃなくて色々な国に時折現れるらしいので、異世界人は世界共通認識らしい。でも王様とか政治の中枢に居る人達だけが知っている事らしい。異世界人が来るかもよ、と言っておいても来るかどうか分からないから混乱を防ぐためだ、とか。……成る程。
それに異世界人が来る時は、星が沢山流れるらしい。不吉扱いもされかねないとか。あー、日本も昔は流れ星って不吉とか言われてたもんねー。そういう感じか。
で。
肝心要。
異世界人は此方に来る事は出来ても彼方に帰る人が居ない、らしい。
帰る方法が分からないのか、帰りたくないからなのか、兎に角帰った人が居ないそうだ。
成る程?
うん、まぁ、私もどっちでもいいんだよなぁ。
親は事故死。一人っ子。親戚をたらい回しにされて疎まれた子ども時代。高校卒業後に一人暮らしで友人もいないんだよな。親戚をたらい回しにされたから友人作る暇も無かったし。親戚をたらい回しにされたのは、人の顔色を窺い過ぎていたから。オドオドしていて気味が悪いって言われてた。
という事で親戚とも縁切ったようなものだし。
仕事? うん、ブラック企業なモンで多分行かないならフェードアウトしたって思われるだけだし。住む所もブラック企業の寮だからまぁお察しだよね。
そんなわけで帰ることを諦めた。
帰れたらその時はその時だし。
ということで、先ずは今後のことを考える。
「王子様」
「殿下とお呼び下さい」
ユディット王子に声を掛けたら、側近兼護衛とやらの先程のアランさんが即座に言った。
「殿下。私は何が出来るとは言えない。でもお仕事を紹介してくれないかな」
「仕事? なんで?」
「働かないとお金がないし、住む場所もない。ご飯も食べられないのは困る」
「此処に居ればいいよ」
「城でしょ? 嫌です。無理。平民に城へ住めって無茶を言わないで下さい」
「平民なの?」
「身分制度無いからね。日本人は殆どが平民だよ。だから殿下を頼って申し訳ないけれど、住む場所とお仕事を紹介してください。働いてお金を稼いでご飯を食べられるようにしないと」
私の言葉にユディット王子とアランさんがジッとこっちを見る。えー、そんなマジマジと見てきて、なに? なんかおかしなことを言ってる?
「働かなくても美味しいご飯が食べられるし、城だから住む場所も困らないし、ドレスも好きに着られるよ?」
ちなみに私はドレスなんて着たことがない、と侍女服を借りて着てる。城にあるのは王妃様の着なくなったドレスか侍女かメイドの服くらい、らしい。
「ドレスなんて着ても動きにくそうで嫌。働かなくても美味しいご飯? それ、働いてる人達に失礼。他の人達は働いてお金を稼いでご飯食べたり服買ったりしてるんでしょ。私は異世界人だからって理由だけで何もしないでご飯食べるって贅沢。贅沢をするのは、その権利を有する人のみ。なんにも貢献してないのに贅沢を享受って、私が堕落するか、私という人間に反感を持つ人しか生まないから嫌だよ」
ユディット王子もアランさんも驚いた顔をした。だからなんでよ。当たり前だと思うんだけど?
「文献によると、以前来た、異世界人はそんな真面な思考じゃなくて、働かないのに贅沢にご飯を食べたりドレスを着たり宝石を買ったりしていたみたいだよ。アオイと同じニホン? から来たアオイと同じくらいの子」
「へぇ。日本人が来てたんだ。というか、なに、その我儘な子。ええと私と同じくらいって年齢?」
「そう。文献には十六歳って書いてあった」
「いやいやいや、十二歳も年下だから!」
「えっ、アオイ、二十八歳なの⁉︎ 私より年下だと思ってた! 私、二十歳だよ!」
ユディット王子は二十歳かぁ。アランさんも自分は二十二歳と言った。へぇ。二人とも、年上に失礼しましたって頭を下げて来たから、王子様に頭を下げられるのは嫌なのでやめてくれ、とお願いした。それにしても若く見えたのはちょっと嬉しいな。
まぁそんなやり取りしながらユディット王子とアランさんと話し合った結果、何が出来るかを知りたいって事になった。
まぁそうだよね。知らなきゃ仕事を紹介しようがないもんねぇ。
能力把握に問題を出したいって言われたんだけど、聞いて話すことは出来るのに文字が読めないし、書けないので文字を覚えることから始めた。
まぁここで生きていくなら読み書きが出来る方がいいよね。必死に覚えて此方に来て一ヶ月後、試験を受けた。
此方の国の数学と科学は高得点だったようだ。日本の中学生レベルだったから出来たんだろうね。フォルトラ語もそれなり。歴史は暗記だからね、やっぱり高得点。暗記得意なんだ。他国の言語? フォルトラ語を覚えるので精一杯だけど何か?
ということで、文官を勧められた。文官って何? って聞いたら、どうやら事務仕事っぽい感じ。それならいいかなぁ。城の文官なので、独身寮みたいなのを紹介してもらって、そこで暮らすことにした。
掃除? 掃除機が無いのか。箒がけ。まぁ出来るだろうね。洗濯? 洗濯機があった。掃除機無くて洗濯機がある意味が分からないけど、洗濯機万歳と思ったら二層式だった。全自動ではなかったか……。でも洗濯機は楽だよね。ありがとう、私の前に来ていた異世界人達。ユディット王子が言うには彼らの功績らしいので。料理? 竈? とか思っていたらガスコンロ。それも簡易コンロで一口だったけど、ガスコンロがあるだけ有難い。コレも異世界人達のお陰だとか。ヒャッフゥ! でもなんで掃除機無いのさ。意味不明。
というわけで、一人暮らし歴十年の葵さんは、家事も一通り熟せますので、独身寮生活問題無しになりました。
お読み頂きまして、ありがとうございました。