〈第9音〉対戦相手
最近とても忙しいです(言い訳)。
◆ソアン=ガルヴァ◆
2組と3組の戦いを一言で表すとこうだ。
「瞬殺(殺してはいないが)」
とにかく一瞬で終わってしまった。
戦いの一部始終を話すと、まず校長先生がスタートの合図を出す。
「それでは、両者向かい合って、初め!」
開始の合図と同時にローラン姉妹が消えた。正確には、姉のナタリーが遥か上空まで飛び、妹のカタリーが素早く地を駆けた。
すぐさま、ジオ=アドラムが焦った様子で周囲に霧を巡らした。目眩ましの為だろう。
その中から、
「キンッ……キンッ……」
という甲高い金属音が聞こえてきた。恐らくだが、ジオとカタリーが戦っているのだろう。霧が濃すぎて見えないが。
そこをめがけてナタリー=ローランが風の刃を飛ばした。それもかなりの範囲に。
もし観客席を防護する結界がなければ怪我人が出ていただろう。観客の悲鳴が上がる。
地上に目を移すと、その刃を打ち返そうと、ステラが火を槍状にして空に放った。『火槍』だ。
しかし、密度が違いすぎる。風の刃の多くは地面に着弾し、エメリー自身も攻撃を受けている。対するナタリーは無傷だ。
そして、いつの間にか金属音が止んでいる。
俺がそれに気付くと同時に、霧が晴れ、カタリーがステラに肉薄し、水を付与した剣で一閃。ステラのリボンが赤色になる。
試合開始から約15秒後の事である。
「―――………………っは! すみません! あまりの出来事に実況を忘れていました! 勝ったのは2組、ナタリー=ローランとカタリー=ローランです!―――」
観客も実況と同様、息をするのも忘れて試合に見入っていたようだ。静かだった観客席から歓声と拍手が沸き起こる。
「2組の奴ら、すごかったな!」
「3組! よく頑張った!」
「次の対戦相手が心配だな~」
観客からは2組に対する称賛の声や3組への労いの声、そして次の対戦相手、すなわち俺達への心配の声など様々な声が聞こえてくる。
「スゲー……」
「スゴすぎでしょ……。どうやって戦おう……」
これら2つの感想は俺の右隣から聞こえてきた。
「まあ、なんとかなるだろ。あんだけ練習したんだし」
「ソアン君のその考え方、羨ましすぎる……」
「さっきの試合を見た後なのに、そう言えるとは、すごい自信だな」
「何事も、やってみないと分からないからな」
さて、どう戦おうかな。
――――――――――――――――――
◆キエラ=サージェン◆
あの戦いから一夜、私たちは訓練場にて明日の2組との対戦に向けての作戦会議をしています。
「昨日の試合を見た限り、カタリーが前衛、ナタリーが後衛を担っているようだな」
「うん。そうだね」
いやー、強かった。
「キエラは2組の戦い方を見て、何を思った?」
「うーんと、バランスがよく取れてると思う。2人とも自分自身のスキルを上手く使ってたと思うよ」
私は正直な感想を伝えた。
「ああ。俺もそう思った」
「どうやって戦おう?」
するとソアン君は少し考えるそぶりをしてこう言った。
「俺が考えるに、当たり前だけど、2人のリズムに乗らないようにする必要があると思う。その点で3組の戦い方を参考にしよう」
「というと?」
「試合中、ジオがカタリーと、ステラがカタリーと1対1で戦ってる場面があっただろ? あれをやるんだよ」
「なるほど。ソアン君がカタリーちゃんと、私がナタリーちゃんと、っていう感じか」
ほうほう。
「そう。カタリーの方に2人でいってしまうと、ナタリーが魔法を自由にバンバン打てるようになってしまうからな。それは避けたい」
「うんうん。いい作戦だと思うよ!」
「まあ、こう言ったところで、うまく行くかは分からないけどね」
ソアン君が苦笑いをしながらそう言った。相手も強いからね。
「さて、日も沈んできたし、帰るか」
頭上を見ると、空が暗くなってきている。
「うん。明日、頑張ろうね!」
「ああ、頑張ろう」
そう言葉を交わし、私たちはそれぞれの部屋に戻った。
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◆ソアン=ガルヴァ◆
キエラと別れたあと、俺は自分の部屋の扉を開けた。
「ん、おお、お帰り!」
「ああ。ただいま」
部屋に入ると、アルフが迎えてくれた。
「明日の作戦会議をしてたんだろ? どうだった?」
「実際にやってみないと分からんが、勝算はあるかな」
「そうかそうか。それは楽しみだな」
「おう。楽しみにしててくれ」
「だが、本当に気を付けろよ。あのジオでも歯が立たない相手だからな」
アルフが心配するような目でオレを見ている。
「そういえば、ジオはアルフのライバルだったな。どうだ? 剣術大会の方は。順調か?」
「まずまずといったところだな」
「確かそっちも明日だったよな。応援してるからな、頑張れよ!」
「ありがとう。そっちも頑張れよ!」
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◆ソアン=ガルヴァ◆
翌日。
「さてと」
対戦場の上で、向かい側にいるローラン姉妹を見やる。あちらもこちらをじっと見ている。
「いよいよだね……」
キエラがボソッと呟く。ふとクリフを見ると真剣な面持ちをしている。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
「…………それでは、全校対抗戦1年生の決勝を開始する。両者向かい合って……なっ! なんだお前は!」
ドーーーーーーン!!!!!
解説席の方から、爆音と共に煙が上がる。
「えっ? なに!? なんなの!?」
キエラが悲鳴を上げる。観客たちも慌てた様子だ。
一体、なにがあったんだ?
楽しんで頂けたでしょうか。良ければ誤字脱字、アドバイス等、教えてもらえると嬉しいです。