〈第5音〉全校対抗戦
全校対抗戦って青春って感じがする。
◆ソアン=ガルヴァ◆
「「『火球』!」」
アルフとキエラは、流石経験者だけあって、俺よりも大きくて威力の高い火球を出した。
「「「『火槍』!」」」
そう唱えると、1、2メートルほどの大きさの燃える槍が10本くらい出現し、狙った方向に飛んでいった。アルフとキエラは俺の倍くらいの本数をだしていた。
練習量の違いでこれほどにも変わるのか。
「2人とも凄いな」
「いや、ソアンだって初めてにしては上手だぞ?」
「そうですよ。私が魔法を初めて使ったときは的に当たるどころか、すぐそこの地面に落ちてしまいましたもん」
ハハハと3人で笑いながらも、授業は順調に進んでいった。
「では、次に水魔法について説明する。水魔法は………」
――――――――――――――――――
その日の昼休み。
「さあ、ごはんごはん~♪」
弁当箱を取り出し開けようとする。
するとアルフが突然、
「そういえば、キエラのスキルって何なんだ?」
「あ、それ、俺も気になってた」
「私のスキルですか? 私のは『魔法構築』といって、文字通り自分で魔法を創ることができるんです」
「え! それってすごく強そう!」
「強いスキルではあるのですが、使いこなすには魔法に対する深い理解が必要で、小さい時に親に猛勉強させられましたよ」
「例えば、どんな?」
キエラの表情が暗くなったので聞くのが怖い。
「そうですね……魔道書一冊を隅から隅まで暗記したり、あとは親に会う度に、『火球』の射程距離を答えろ、だとか魔法についての問題を一問一答形式で出されたり、ですかね」
「うわ、すっご」
ここで付け加えておくと、魔道書一冊は、国語辞典一冊くらいの厚さである。それをすべて覚えるなんて芸当、俺には到底できない。
「勉強は嫌いにならなかったの?」
「まあ、挫折とかはありましたけど、私こう見えて負けず嫌いなところがありますから、絶対諦めてたまるかという気持ちで勉強してましたね」
「俺だったらすぐにやめてしまいそう」
と、アルフが言った。
「俺も同感、キエラはすごいな」
「ふふ、ありがとうございます」
「ところでキエラ」
「はい?」
「ずっと敬語で喋っているけど、もっとくだけた感じで話してもいいよ?」
「そうで……そう?」
「うん。そっちのほうがおれらも話しやすいし。な、アルフ」
「おう、そうだな。まあ、キエラがどうしてもと言うなら敬語でもいいけど」
「わかりまし……わかった」
「よし、じゃあ午後の授業の準備をしますか~」
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次の日。
「皆さんはじめまして、ダリル=セーシュです。昨日と一昨日は授業に来ることができませんでしたが、皆さんのために頑張りますので、よろしくお願いします」
朝のSHでダリル先生の紹介があった。
「一昨日言った通り、セーシュ先生は数学と魔法が専門だ。というわけで、セーシュ先生、2時限目のスキル練習の時間、よろしくお願いします」
「はい、わかりました」
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そして件の2時限目。
「それでは、ひとまず3人組にわかれてください」
『まあ昨日と同じがいいか。そっちの方がやりやすいし』
俺はアルフとキエラと組んだ。
「分かれましたね? これから各自で練習をしてもらいます。もしわからないこと、またはスキルが使えない等がありましたら、先生に質問してください。他の人のスキルを見てもいいですよ。それでは、始め」
先生のその合図で、クラスの1/3は自分の練習を始め、数人は先生に質問に行った。そして残りはというと、―――俺のところに来た。
「えっ? なんで俺のところに来るの?」
と、2人に聞くと、
「まあ、そりゃそうだよな。『職業系』のスキルは珍しいから、皆も見てみたいんだろ。かく言う俺も見てみたい」
「私も。ソアンのスキル見てみたい!」
俺は少し緊張しながら10mほど離れた訓練用の的に向かってスキルを使った。
「旋律 ヘ長調」
俺がそう唱えると、地面から2mくらいの土製の棘が勢いよく出てきた。
こんなんでいいんですかね?
「ど、どうかな?」
そう俺が聞くと、
「すげー!」「こんな魔法初めてみた!」「さすが『職業系スキル』だ!」
すごい歓声が起きた。
すると、ダリル先生も気づいたらしく、近寄ってきて、
「あなたが『職業系スキル』持ちね?」
「あ、そうです」
「すごいわ~この魔法! これなら再来月の全校対抗戦にも出れるかもね」
「おー! ソアンやるな!」
「お~……、うん?」
全校対抗戦――――それは、年に2回行われており、誰か2人がクラスの代表に選ばれ全学年全クラスが優勝を競い合う、第一の一大イベントである。
ちなみにこのイベントは全学年が争うので、1年生と6年生が戦うときもあるそうだ。年の差や経験の差があるから、1年生が勝てる訳が無いと思うかも知れないが、そんなことはないらしい。現に前回優勝したのは1年3組だったとか。
そういうこともあるので、その全校対抗戦は、別名『下剋上合戦』とも呼ばれている。
「どう?出てみない?」
「そんな大事な試合に自分が!? まあ出てはみたいですけど、もう1人必要ですよね?」
「そうなのよねー……」
すると、
「あの、私も対抗戦出てみたいです!」
と、キエラが元気よく立候補した。
「いいわよ。まあ、練習は来月からだけどね。他にも出たい人がいたら先生に言いに来てねー!」
ということで、俺たちは全校対抗戦(の練習)に参加することになった。
楽しんで頂けたでしょうか。良ければ誤字脱字、アドバイス等、教えてもらえると嬉しいです。