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ある音楽家の異世界暮らし  作者: 雨晴罔象
~第2楽章~ 目標と敵
35/37

〈間奏〉我が一生

この形式初めて

―私は5歳の時火災にあい、両眼の視力を失った。それからというものの食事や着替えなどすべてのことを人に手伝ってもらわないとできなくなってしまった。特に勉強については視覚を使うものは全くできなかったので、難儀な子供時代を過ごした。


―私の力が発現したのは10歳のころである。その日の体の感覚が通常と全く異なっていたことを今でも覚えている。手を前に突き出し、その違和感を外に出そうと意識すると突然ドンッという音がした。と同時にあったかく優しい、安心するような心地に包まれた。ふと戸の方に耳を傾けると、使用人がドタドタバタバタと走る音が聞こえ、「大丈夫ですか! お怪我はありませんか!」とキンとするような声で話しかけてきた。おそらく部屋にはちょっとした惨状が広がっているのだろう。そのことに対して申し訳ないとは思っていたが、それと同時に力を得たことの高揚感が胸に広がっていた。


―私が成人となる年。私は冒険者になる決意をした。当然家族や周りの人からは、やめた方がいい、無理だろう、といった反対の声を聞かされた。だが私の決意は揺るがない。「絶対に、後世に語り継がれるような凄い冒険者になる!」と豪語した。私のこの決意の底には、昔読み聞かせてくれた物語がある。私は小さいころからその物語に出てくる主人公に憧れていたのだ。そんな人物になりたいと願っていたのだ。


―旅は順調だった。仲間にも恵まれた。ダンジョンの魔物を倒しては珍しいお宝を見つける日々を過ごしていた。仲間には本当に感謝している。こんな全盲の私とともに旅に出てくれたのだ。そのお陰で私は子供時代の何倍も楽しい時間を過ごすことができたのである。


―それから数10年後。予想外のことが起きた。旅の疲れを癒すために訪れた街がドラゴンに襲われたのである。私の仲間は、状況が確認できず狼狽える私を庇ったために命を落としてしまった。その事実に打ちひしがれていると、爪の音だろうか、ブワッという音が私めがけて近づいているのを感じた。正直この時の私は生きることを諦めていた。こんな巨体にこの自分が勝てるわけがない、と。どうすることもできなかった。ただただ縮こまり、来る死を待つしかできなかった。


―その時だった。ドラゴンの爪がすぐそこに迫る中、私は時間の流れが遅くなっていることに気づいた。人間、死を悟った時はこういう風になるのだろうか。走馬灯のように楽しかった思い出が頭をよぎっていく。その中で一際異なっていたのが、冒険者になると決意したあの時の夢である。そこで私はハッとした。私はあのような主人公になることができたのか? あの主人公たちはこんな状況で諦めていたか? 自分に問う。その答えはもう知っていた。私は先ほどの諦観の態度を捨て、「うおぉーーー!!!」と雄叫びを上げてドラゴンにとびかかった。


―何時間経ったのだろう。あるいは何日、あるいは数分かもしれない。私は倒れて動かないドラゴンの横で仰向けになっていた。自分の状態から、数日は十分に体を動かせないことが分かった。「なんとか勝てた……」という言葉が口から漏れた。達成感とたくさんの人を失った悲しみとが心の中を巡る。今は休もう。そう思い目を閉じた。


―数年後、私は冒険者を辞める決断をした。理由について誤解のないように言っておくと、心が折れたためではない。長年の夢が叶ったためである。余生はかつての仲間を弔う旅に出よう。あいつらの墓の前で大好きだと言っていた食べ物を共に食べよう。大好きだと言っていた場所に行こう。大好きだと言っていた音楽を聴こう。大好きだと言ってた家族に挨拶に行こう。そう計画をしながら荷物をまとめた。


―以上が我が一生である。「いい年した大人が夢を語るだって?」と笑う人もいるかもしれない。だが私は、それが子供の時のだろうと、夢の力を侮ってはいけないと考える。夢というのはいつでも、我ら人間の原動力であった。そこらにある人工物すべては誰かの夢が形になったものであるはずだ。私は全盲になった時、夢がなければきっと生きる気力を失っていただろう。それには絶望の崖に落ちそうになっているあなたを引き上げ、救い出せる力がある。だからあなたには夢を持ち続けて行ってほしい。これを私の最後の言葉とする。


【シャーロック=ベイズ著『我が一生』より一部抜粋】

楽しんで頂けたでしょうか。良ければ誤字脱字、アドバイス等、教えてもらえると嬉しいです。

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