〈第3音〉学校へ
雨晴罔象です。3話ではソアン君がいよいよ学校に行きます。どんな物語が待っているのでしょうか?
◆楽成奏一(ソアン=ガルヴァ)◆
「何って……えっと……」
「そんな魔法は今まで見たことはない!一体それはどんな魔法なんだ!」
兄ラティアスがさらに追及してくる。助けを求めてクリフのほうを見ると、
『『音楽家』のことを言ってもいいですが、あまり言いふらさないでください』
俺は頷き、兄にスキルのことを話した。
「そうか……そんなスキルが……」
「ところで、お兄ちゃんはどんなスキルを持ってるの?」
「俺は持ってないな。でも姉ちゃんは持ってたはず。確か、『火属性』だったかな?」
なるほど、この世界の人全員がスキルを持っているわけではないんだな。スキルを持っていないことに対するいじめとかもあったりするのだろうか。
兄に聞いた所、スキルは普通なら教会に行き、そこで神から授かるものだと言う。しかし例外として、俺のように教会に行かずにスキルを手に入れることもあると言う。(確かに、転生する前のソアンの記憶をたどっても、スキルを授かるために教会に行ったことはなかった)
その後は兄と別れ家に帰り、本を読むなどして1日を過ごした。(因みに、会話や本等の言語はもちろん日本語ではないのだが、そこはクリフが自動翻訳魔法を使って日本語に直してくれている。とてもありがたい。俺が書いた文字も丁寧に翻訳してくれる。便利だね)
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すっかりあたりも暗くなり、晩ご飯の時間になった。食卓には俺の注文通りのフライドチキンや、カボチャのスープ、レタスとトマトのサラダ、そしてパンが並んでいた。
「おかわりもたくさんあるから、いっぱい食べてね」
「いただきます!」
そう言うや否や、俺は唐揚げを頬張った。
「……!美味しい!」
マジで美味い。嚙んだ瞬間肉汁が中からあふれ出した。お母さん料理上手すぎる。
「でしょ?お母さん頑張ったんだから」
「うん。とても美味いぞナタリー!」
家族全員で母の料理を堪能していると、兄が話し始めた。
「父さん、今日ソアンがね、スキルで魔法を使ってたよ!」
「何っ!ソアン、それは本当か!」
「うん。『音楽家』っていうスキルなんだけど」
「えっ!『職業系スキル』なの!?」
姉が驚いた表情で俺に聞いてきた。
「『職業系スキル』?」
「あれ、前に話さなかったっけ。『職業系スキル』って言うのはソアンの『音楽家』みたいに、その名の通り職業に関するスキルのことなのよ。『属性系スキル』とか、他の系統のスキルよりも強力なんだけど……それを教会に行かずに手に入れたのね……」
そんなに凄いスキルだったんだ。
「しかも、もうスキルを使えるんだ。私でも、8歳になってようやく使えるようになったのに」
「そうなんだよ姉ちゃん。しかもその魔法であの庭の的を燃やしたんだよ」
「ほう、あの的を……凄いなソアン!」
かなり凄いことをやってのけたらしい。異世界暮らし1日目だから凄さが分からないが。
「ところで、父さん達のスキルは? お姉ちゃんのは『火属性』だっけ? お兄ちゃんから教えてもらったけど」
「父さんのはな、『水属性』と言って、水魔法が得意なスキルだな」
「私のは『鑑定』という、『能力系スキル』というスキルの一種で、結構レアなスキルなのよ?」
「そう。で、俺だけスキルがないんだよな……」
「そう落ち込むなラティアス。お前の剣の腕はそんじょそこらの奴らよりも強いんだから」
ジーンがラティアスの肩を撫でて慰める。
その後も今日あったことなど、色々な話をして、風呂に入り、床に就いた。
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そして六年の月日が経ち、俺は学校に行くことになった。家の前には俺たちを送っていってくれる馬車が止まっている。
「気をつけてね」
「たくさん友達を作ってこいよ」
「たまには帰ってきてね」
「うん。ありがとう」
「それじゃ、ソアン、行くぞ」
俺はラティアスに続いて馬車に乗り込んだ。ラティアスは3年前に俺が入学する学校、王立第一学院に入学している。
「いってきます!」
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王立第一学院(通称「第一」)は全寮制の学校で、基本長期休みのときにしか家に帰ることができない。また、六年間通うことになっており、卒業した後は研究者や騎士などになることができるそうだ。学校では基本的な学問はもちろん、剣術、魔法など、様々なことを学ぶことができる。
「時間もあることだし、ソアンに学校のことについていろんなことを話してやろう」
馬車の中ではラティアスに学校はどんなところだとか、楽しい点とか、この先生には気を付けた方がいい、とか色んなことを話した。
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「着きましたよ」
3時間ほど馬車で揺られ、王都メールンに着いた。
「凄い……人がたくさんいる!」
ザ・お上りさんの反応をするくらいには人がたくさんいた。彼らは買い物を楽しんだり商売で儲けたりと、それぞれの生活を送っている。
馬車で通りを抜けるのは難しいので手前で降ろしてもらい、歩いて第一を目指すことにした。
「ここだ」
「うわぁ……」
ラティアスに案内されながら20分ほど歩くと、王立第一学院が見えてきた。門のなかを見ると、入学生だろうか、こちらもたくさんのひとで溢れている。
「じゃあ、ソアンは受付に行って名前を言い、入学式に参加しろよ。俺は自分の教室に行くから」
「わかった。ありがとう」
受付を済ませ、俺は新しく始まる学校生活への期待を胸に、入学式の参加者の列に並んだ。
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