〈間奏〉ある家族の一時 - 2
三週間もこいつと戦いました。
◆(三人称視点)◆
「今日は……これ! これは読んだことない」
子供が一冊の本を棚から取り出し、母親に渡す。
「わかった、これね」
母親が本を手に取り椅子に腰かける。
――――――――――――――――――
「ある王国に1人の少女がいました。名前はミハエラント=エージェスと言います。ミハエラントは生まれながらにして貴族だったので、毎日おいしいご飯を食べ、たくさん遊び、大きい布団で眠る、そんな誰もが憧れるような生活をしていました」
そんな生活が羨ましかったのだろう。少年が小声で「い~な~」と言う。
「ある日のこと、ミハエラントは偶然、家の使用人が冒険者についての話をしているのを聞きました。その内容は、モンスターがたくさん出てくる洞窟を探検したり、宝を求めてダンジョンを攻略したり、さらにはドラゴンと戦ったりと、ミハエラントにとってすごく魅力的なものでした」
「それはそうだよ! 僕だってそんな冒険してみたいもん!」
くすっと母親は子供に笑いかけた。
「ミハエラントは『冒険をしてみたい』と思いました。ミハエラントはその時ちょうどスキルを手に入れたばかりだったので、すぐ近くの森に出発しようとしました。もちろんほかの人にばれないように。ばれたら連れ戻されてしまいますからね」
「おおー、秘密作戦みたいでかっこいい……!」
「彼女は毎日のように近くの森に出かけてはモンスターを倒していました。気分は一流冒険者。ばったばったと敵を倒していき、遂にはその森でミハエラントに敵うモンスターはいなくなってしまいました」
子供の目はキラキラしている。
「『今日も森に行こう!』と、ミハエラントが森に入ったその時、」
その言葉に子供がはっとする。
「目の前には、その口だけで人ひとり平らげてしまいそうな、その手だけで家ひとつ壊してしまいそうな、その足だけで山ひとつ壊してしまいそうな、それはもう大きな鳥が現れました」
「大丈夫かな~」
「『グギャーーー!!』。その鳥の鳴き声を聞き、ミハエラントは怖くてその場から動けなくなってしまいました。もうだめだ。鳥の口が迫ってくる中、ミハエラントはそう思いました」
子供もつられておびえる。
「どーーん!! あたりに爆音が響きました。少女はその音にびっくりして目を開けました。すると、さっきの鳥がすぐそこの地面に横たわっているではありませんか!」
「お~~!」
と歓声をあげる。
「少女が何が起こったかわからず茫然としていると、『大丈夫ですか? ケガなどしていませんか!?』、謎の女性の声が。見ると全身半透明の神秘的な人物が。驚いていると、『びっくりさせてしまい済みません。私は妖精、名前は―――といいます』。妖精は自己紹介をしたようですが、少女には名前の部分が聞き取れませんでした。少女は自分の名前をいったあともう一度妖精の名前を聞きましたが、やはり聞き取れません。『人間と妖精の言語が異なるためでしょうか』、妖精はそういいます。仕方がないから少女は彼女を、妖精さん、と呼ぶことにしました」
「僕たちと妖精の言葉って違うんだね」
「そうみたいね」
子供は妖精の国に思いを馳せながら話の続きを聞く。
「ミハエラントと『妖精さん』は友達になりました。森を探検したり、おいしい木の実を食べたりして一緒に過ごしました。ミハエラントが15歳になった時のこと、妖精さんが『実は言わなければいけないことがあります』と。その話によるとミハエラントは魔王を倒す勇者で、妖精さんはミハエラントを導くという使命を受け、こちらの世界へと来たのだと言います」
「お~、勇者! かっこいい!」
「その話を聞いてミハエラントは驚きました。『こんな私が勇者!?』。そんなことはこれまで一度も聞いたことがなかったので信じられませんでした。困惑していると、『あなたは気づいていないかもしれませんが、あなたには今持っているスキルの他に、もう一つスキルがあります』」
「ふんふん」
と相槌を打つ子供。
「『それは、―――という力です』。また妖精の国の言葉でしょうか、何と言ったのか聞き取れませんでした。『まあ使ってみてください。方法をお教えします』。妖精さんに教えてもらいながら力の使い方を学んだミハエラント。ここからは彼女の冒険を紹介、」
「わくわく」
「……しません」
「えーーー!?」
嘆きの声が響く。
「ミハエラントのこの後の物語はよく知られていません。しかし、ミハエラントは世界を救ってくれたに違いありません。なぜかって? 外を見てください」
「ん~?」
ひょこっと子供が窓から顔を覗かせる。そこには透き通った青い空、風になびく緑の木々、そしてまぶしく金色に光る太陽があった。
「私たちがこのような美しい風景を見られるのは、きっとミハエラントが魔王を倒してくれたからでしょう」
パタン、と本が閉じた。
「冒険の話が聞けなかったのは残念だけど、その子が世界を救ってくれたんだね! すごいな~」
「でも、なんで話が残ってないんだろうね」
「ん~……」
子供は腕を組んで考える。
「知られたくない恥ずかしいことがあったからかな?」
「ふふ、そうかもしれないわね」
カーテンが風ではためいた。
楽しんで頂けたでしょうか。良ければ誤字脱字、アドバイス等、教えてもらえると嬉しいです。




