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ある音楽家の異世界暮らし  作者: 雨晴罔象
~第1楽章~ 仲間
12/37

〈第11音〉孤独な科学者

ヒロイン登場。


第12部分目にして、やっと本編が始まります。

◆ソアン=ガルヴァ◆


「う……ん……」


目が覚めると、俺はベッドの上で横になっていた。窓から、トマトだろうか、赤い実が実った小さな畑が見える。


「ここは……?」

「あ、目が覚めた?」


 ガチャ、とドアを開けて部屋に入ってきた人物がそう言った。金色の髪の、とても優しそうな女性だ。水の入ったコップの乗ったお盆を抱えている。その腕にはあの『腕輪』が。


「あなたは?」

「私はハヅミ=バーマレー。ハヅミって呼んでね。これ、どうぞ」


 水の入ったコップを受け取る。手には無数の切り傷が。


「ありがとうございます。僕の名前はソアン=ガルヴァです」

「敬語は使わなくていいよ、こっちが緊張しちゃうから」

「わ、分かった。それで、ここはどこ?」

「ここは私が住んでる家。ターナーって町の外れにあるの。王都から南の方にある小さな町だよ」


 ターナー、初めて聞く名前だ。


「畑で野菜に水やりをしてたら突然、ドンって音がして見に行ったら君が倒れてたんだけど、何があったの?」

「えーと、実はこんなことが――」


 ~(説明中)~


「――そんなことがあったんだ……」


 ハヅミがそうつぶやく。


「そう。だから俺は学校の方に向かおうと思ってる。まあ、あの先生の焦り様無事ではないと思うけど……。ここから北の方に行けばいいんだよね?」

「そうだけど、もう行くの? 体は大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だよ。この通り」


 肩を回したり足を上げたりして見せる。


「だからもう行くよ。いつまでも世話になったままというのも申し訳ないし、介抱してくれてありがとね」


 荷物を持って部屋を出ようとすると、


「あ、ちょっと待ってて。私もちょうど王都の方に用事があるから一緒に行くよ。準備してくるから先に出てて」


 彼女はそういうと足早に階段を下りて行った。


 用事って何なんだろう。


――――――――――――――――――


 家から出て待つこと数分、彼女が出てきた。


「お待たせ。じゃあ行こうか」

「用事って言ってたけど、ハヅミは王都に何をしに行くの?」

「ポーションを作るための素材を切らしてしまって、それを買いに行くの。それが結構レアなやつだから、王都じゃないと売っていないのよ」

「ポーション作れるんだ」


 俺がポーションを作ろうとしたときは、クリフの言った通りにやっても一回も成功しなかったんだよな~。俺が魔法使いじゃないから上手くいかないらしい。まあ、「それにしても上手くいかなすぎです」とクリフに言われたが。

 ……そういえば目が覚めてからクリフの姿を見てないな。一体どこに行ったんだろう。飛ばされたときにはぐれたんだろうか。


「実は私、この町でポーションをつくってるのよ。実はポーションの納期が近づい――」

「おいハヅミ!」


 あたりに大声が響いた。声のした方向を見ると、この村の人らしき男が機嫌の悪そうな顔でハヅミを見ていた。


「まだポーションはできないのか!」

「すみません! これからポーションを作るための素材を買ってくるので、帰ったらすぐに作ります!」

「早くしてくれ! ったく、普通のポーション屋なら魔法ですぐに作れるのに……」


 ん? 普通の(・・・)ポーション屋なら?


「できる限り早く帰ってくるので、もう少し待っててください!」

「ほんとに急いでくれよ!」


 男は文句を言いながらどこかに歩いて行った。


「ごめんね。見苦しいところを見せちゃったね」


 ハヅミがばつの悪い顔をする。


「全然。気にしてないよ。それよりさっきの人が『普通のポーション屋なら……』って言ってたけど、どういうこと?」

「あー、実はね、私、魔法使いじゃないんだ」


 ……え?


「えっと、ポーションって魔法使いじゃないと上手くできないんじゃないの?」

「それに関しては私のスキル、『科学者』で補ってるの」


 『科学者』。『職業系スキル』か。


「ヒドロコっていう薬草を使ってるから、確かに回復魔法のエキスを使う普通のポーションとはちょっと違うね。ほかにもこんな薬草を使って作ることもあってね……」


 ハヅミのポーションについての説明を受けながら王都へ向かって歩いて行った。


――――――――――――――――――


 その日の夜は宿屋に泊まることにした。ターナーの隣町、ゴーラルにある宿屋だ。もちろん、部屋はハヅミとは別である。

 夕食は「マキュの煮込み」と「プー」だった。これらの食材についてよく知らなかったので宿の人に聞くと、煮込みの方については、マキュという野菜を様々なものと煮込んで作った料理で、「プー」は麺を使った食べ物で、ゴーラルの伝統的な庶民料理だと聞いた。


 初めて食べる料理を楽しんでいると、ハヅミが「実は……」と話を切り出してきた。


「実は、ソアン君に頼みたいことがあってね」


 食事の手を止める。


「どうしたの?」

「私が王都に薬草を買いに行こうとしているのは知っているよね?」


 うん。確かにそう言ってたな。


「あれは嘘なの」


 ……え?(本日二回目)


「本当はソアン君と一緒に行動したくて町を出てきたんだ」


 ……え?(本日三回目)


「あのー、それはどういう……」

「あ、ごめんね。順を追って話すね」


 そう言ってハヅミは理由を説明しだした。


「まずは私のことから。私が奴隷なのは知ってるよね」

「――! うん」


 知っていた(・・・・・)とはいえ、思わず息をのむ。現代日本の日常会話の中で「奴隷」などという言葉は聞かなかったからだ。


「やっぱりこの『スラ―ヴの腕輪』は目立つか」


 ハヅミが、怒りとも悲しみともとれない顔で『腕輪』をさする。


「私が奴隷になったのは、6年前。私が6歳の時に、両親が奴隷商に、私を売ったの。それからの生活は、過酷そのもの。毎日毎日、朝から晩まで働かされ、食事は一日一回、スカスカのパンと、ほとんど味のしないスープだけ。お風呂は四日に一回で、石畳の冷たさを、感じながら寝ていた」


 ぽつり、ぽつりとハヅミが話し出した。その言葉を聞くにつれて、あたりの音が急に遠のいていった。


「今の主人は、部屋を与えてくれたから、そこまで酷くはないけど、やっぱり、生活はつらい。だから今日、主人が出掛けてる隙に、出ていこうと思ったの。でも、一人じゃ心細い、と思ってたら、ソアン君が現れた。あなたは私が奴隷だとわかってても、普通に接してくれた。だから、あなたに付いて行きたいと、そう思ったの」


 共感など到底できないハヅミの悲惨な話を聞いて言葉を失う。


「改めて言うけど、私も一緒に連れて行ってくれない?」


 期待するような目で俺を見る。

 次の言葉を口にするために俺は息を吸った。

楽しんで頂けたでしょうか。良ければ誤字脱字、アドバイス等、教えてもらえると嬉しいです。


『科学者』、やっと出て来させられた~!

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