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015 神の所業


 ――ピィーイーー!


『アテンション。〈ビーバーダム〉クルー諸君、艦長からのお話だ』

 タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦〈ビーバーダム〉艦橋。担当クルーが笛の音と共にアナウンスを行い、続けて艦長が艦内へ語りかける。

 

『よう、ルーカス・フラーだ。俺の声も飽きたか? フン、もう少しだけ聞いてくれると嬉しいんだが。……今日は天気が良い。雲ひとつない、いつも通りの良い天気だ。そして、いつも通りの1日が過ぎるのだろう――』

 年季の入った蒼い瞳と白髪混じりの茶髪。大きめの手で包み込むようにマイクを掴み、ゆったりした口調で語るフラー大佐。


{――さて、本艦は所定の交戦海域へ到達した。マインズアイからの指示があり次第、敵艦隊の撃滅を行う。諸君の実力をほんの少し見せてくれるだけで良いだろう。これは実戦だが、何の問題も無く遂行できると確信している。では、諸君の健闘を祈る}


 実戦と聞けば多少なり緊張はするだろうが、彼らは世界最高峰の練度を誇るイージス艦のクルー達だ。()()()()()()というのは常日頃から鍛えている。

 クルー達は真剣に、そして時折笑みを浮かべながら艦内アナウンスへ耳を傾けていた。




『――進路(ゼロ)(ワン)(ファイブ)

(ゼロ)(ワン)(ファイブ)アイ・サー!』

 操艦士官が舵を切り、2隻のイージス艦は緩やかに進路を変更する。

 JTIDS(戦術データ・リンク)も良好。地平線の向こうであれ、〈マインズアイ〉との連携によって正確に敵を捕捉し、撃破できる。




<<マインズアイよりビーバーダム、イーサン・ロドリゲス。敵戦艦は〈ストックポ(寸胴)ット〉としてマーキングしておいた。存分に撃ち込んで構わん。対象までおよそ130マイル(約240Km)、……エンゲージ(交戦開始)!>>


『フン、存分にと言われてもな。……弾薬には限りがあるだろうが。無駄打ちは出来んぞ』

 マインズアイからの指示を受けた後、吐き捨てるように独り言を放つフラー大佐。


『〈ビーバーダム〉CICより全艦艇へ。目標ストックポット。本艦および〈イーサン・ロドリゲス〉にてハープーンを同時発射し、敵戦艦の無力化を行う』

 なるべく敵に隙を与えず撃滅するのが理想といえよう。弾着のタイミングを揃えるため、2隻からの同時発射で敵を狙う。

 ストックポ(寸胴)ットの無力化を確認した後、主砲を用いた攻撃にて、敵帆船集団の航行能力を可能な限り奪う予定だ。


『――ターゲットストックポット、ロックオン。……ハープーン発射!』

 2隻のイージス艦に備えられたVLS(垂直発射装置)が開き、2発のミサイルが垂直上昇する。そのまま空中でシンクロするように方向を変え、水平線の彼方にある目標(ターゲット)へと向けて飛び去って行った――。






『――マジード提督……』

『フム。サダムよ、昨日のエンシェントドラゴンは不運であったな』

 魔導戦艦〈ハダーフ〉艦橋。マジードは腕を組み、じっと水平線の向こうを眺めている。


『……提督! エ、エンシェントドラゴンが、伝説の古代竜が、こうも見計らったかのような折に現れるものでしょうか』

 サダムは怖気付いている。昨日の()()()()()()()()()()による爆撃魔法は、あまりにも強力かつ的確。

 そもそも、数年ぶりに進軍を開始した途端、数世代に一度遭遇するかもわからないような伝説の生物が行手を阻むなど、到底承服し難い事実である。


『――まるでダナエ王国を守っているような……。こんな場所に現れるなんてあまりにも都合が良すぎる……いや、悪すぎる。我々にとって最悪の機運でございます』

 時間が経ち、冷静になってから思い返すと不自然な点があまりにも多い。明らかな軍事的意図のもと接近・攻撃して来たとしか思えない挙動であった。


『では、ダナエ王国がエンシェントドラゴンを飼っているのかもしれんな』

『そんな……』

 マジードの視線は動かぬまま。どこか悔しさを滲ませているような表情で、水平線の向こうを眺めていた。


『サダムよ。我々の戦果は何だ? 我々の全てはナールの威信の為にあった。それが今や、命の危機に怯えている有象無象ではないか』

 ダナエ王国を陥落させ、メソス海の実効支配を広げること。それが今回の出撃に課せられた最低限の責務でもあった。

 だが、それは果たせそうにない。


『……簡単な仕事だと思っていました。艦隊戦ならば我が方の圧勝でしょうから』

 戦艦は攻撃力こそが全て。国家の威信を賭けて開発したアダマンタイト砲弾は、地平線の向こうの敵を狙い撃つことが出来る。


『やり遂げた……。私たちは、確かに想像を超えた戦艦を造り上げたのです。もはや誰にも止められない、連邦の威光を天下に知らしめる時が来たのでは無かったのでしょうか』

 計画は困難を極めたが、サダムは、わずか5年で戦艦〈ハダーフ〉を完成させ、その驚異的な技術力によって自国の力強さを証明したことに、内心では自信と誇りを感じていた。


 だが――。


『あ、あのような機動力と高精度爆撃を併せ持つ敵ならば厄介。再び現れないとも……ぐぬ』

 負けた理由は明白だ。敵はそれ以上の高度な攻撃手段を有していた。


『そうだな。もはや避けて通れるとは思わぬ方が良いだろうな』

『あ……あまりにも、愚かでした』

 サダムは己の甘さに嫌気が差す。

 出撃するまでは想定すら出来なかった現実。やり場の無い悔しさが込み上げる。


『不甲斐ない。実に……まったくもって!』

 サダムは実績豊富な男だ。故に失敗は耐え難い苦痛である。

 彼はこれまで、あらゆる可能性を見出だし、どんな無理難題でもしっかりと解決してきた。

 だが、今回は見事に失敗した。彼にとって人生で初めて、そして最大の敗北を喫してしまったのだ。


『艦ならば、艦ならば負けぬ筈でした。地平線の向こうを狙い撃てる性能です。真似できる国などある訳が……まさか』

 まさに、これが恥ずべき程に偏狭な考え方であった。

 単なる砲弾の打ち合いの次元でしか戦いを想定出来ていなかったのだ。


『私もそう思っていたがね。……どうやら違った。それにな』

 サダムを一瞥し、マジードは淡々と語り続ける。


『我々の手が届かぬ所が……上空のみとは限らぬのでは無いかな』

『っぐぬぬ』

 マジードの指摘を否定する材料も見当たらない。


 確かに、〈ハダーフ〉は()()()()()()を撃滅することを想定して造られた。

 単艦で一国の海軍を圧倒する戦闘力――。それを上回る性能が要求された。最高の発明であった筈だ。


 しかし、敵は更に強大な戦闘力を有している。文字通り、手も足も出ぬ程に。


『最初は気性の荒いドラゴンの仕業かと思ったが、あっさりと引き下がっていったことに府が落ちぬ。とはいえ、あの攻撃は、流石に人間が繰り出せるものだとは思えぬが……』

『……確かに』


『そ、それに。自分達へ向けて飛んでくる砲弾は目障り極まりない筈。力を有しているのに殲滅しなかった……?』

 気性の荒い竜族の行動とは相容れなかった。力の差が瞭然だからこそ、敢えて放って置かれたようにも思える。随分と理性的な行動だ。


『……なあ、サダムよ』

『は!』


『連邦の集大成とも言える最大戦力が手も足も出せぬ。これは現実であろうな?』

『は……。如何様にも例え難い事です。し、しかしながら、まことの現実でございましょう』


 マジードはサダムの言葉に苦笑を浮かべ、再び拳を握りしめた。その表情には苛立ちが滲み出ている。


『では、この戦力差を把握している奴が連邦内に居ると思うか?』

『は……いえ。知っているならばこのような大損失を被る作戦など、立案にすら至らなかったかと』

 サダムの言葉に、マジードは激しく考え込むように首を傾げた。


 しばらく沈黙が続いた後、マジードは軽く息を吐きながら話を続ける。


『相手の力を過小評価し、自信過剰が興じて軽率な作戦を立ててしまったのが敗因であることは明白だ。我々は、もっと真摯に向き合わなければならなかったのだ……』と、彼は反省の色を滲ませた。


『……フム』

 俯き、今度は何かを考えるように黙り込む。


『我らは死ぬべきか?』

『……』

 サダムが答えに詰まり、考え込む。周囲は深い沈黙に包まれていた。各々の吐息さえ聞こえるような、昨夜の混乱が嘘のような静けさだ。


 ナールの民は誇り高く、祖国の為に命を賭して戦う事が最大級の名誉ともされている。


 とはいえ――。


 今まさに、敵の攻撃が想定以上に強力だという事実は揺るぎない。自分たちの無力さ、力の限界を痛感せざるを得ないのである。


 立ち向かうという行為そのものが愚かだと思える程に――。


『ええい……! わ、私はどこまでも提督に付いて参る所存。来世で大臣の推薦を賜っていただ……ふべぇっ?!』

 すべてを言い終わる前に、サダムは突然マジードの拳によって打ち倒された。


『んなぁっ?』

 マジードへ向けて(こうべ)を垂れ、足下の一点を見つめていたサダム。しかし、突如として倒れ込んだ体を支え、手のひらで頬を押さえ、困惑した表情を浮かべていた。


『良い顔だ。気が変わった。我らもお前も、連邦の誇るべき優秀な人材だ。他の王族を差し置いて、首長は我々にお任せいただいたのだ! それが死んでしまったら、それこそ首長の面目を潰す事になるではないか』

 サダムを殴った拳をさらに握りしめ、熱く語り続けるマジード。決意は固まった。

 今は死ぬべき時では無いのだ。

 ここで得た情報は連邦の考えを根底から覆すに等しい。一人でもいいから、誰かが無事に生き帰り、ありのままの事実を首長へ報告するべきなのである。


『……はっ、ハハァッ? ええ? さ、左様でございますね――』

 サダムは訳も分からぬまま、激しく頷く。


『それじゃあ、避難だ! 乗員一人残らず、タヒーラに乗り込め!』


 〈タヒーラ〉は、ナール連邦の現首長、ディヤーブ4世が命名した脱出用艇である。〈イジプの地〉において「解放」を意味するこの言葉は、彼が自身の理念を象徴する言葉として選んだものだ。

 ナール連邦もまた、長年にわたる戦争で連邦が統一された際、多くの人々が故郷を追われ、自由を奪われて来た歴史がある。

 自らの権力の下にある人々を解放し、平等な社会を築くという野心の表れでもあるのだ。


『おい、お前たち魔導眼界を運ぶんだ』

 マジードが命令すると、乗員たちは決死の覚悟で脱出用艇〈タヒーラ〉に向かって駆けていく。


『……よっこら』『こっちは大丈夫だ。観測面は脆いぞ、ぶつけるな――』と、乗員たちが魔導眼界を運びながら声をかけた。


 魔導眼界自体は情報投影機能のみを有したクリスタルであり、3名ほどの人力で持ち運びが出来る。

 〈タヒーラ〉内にも小型の魔導眼界があるが、〈ハダーフ〉に搭載されているモノのほうが大型で感度が良いため、持っていくに越した事はない。


『――魔導眼界に反応あり! ……は、速い! 謎の飛翔体が高速で接近している様子――』

 魔導眼界を運んでいる観測士の1人が声を上げる。捉えた飛翔体は自分達の方角へ真っ直ぐ向かっており、大きさも昨夜の爆撃魔法と同じだ。


『急げ急げ。着弾する前に全員で乗り込むんだ』

『や、やはり提督の言う通り、連中の兵器だったというのですか。……底知れぬ国家だ――!』






<<――Tracking (目標を)the targe(追尾中)t……Target hit(命中!)!>>

<<Target d(目標を)estroyed(破壊した)>>

 ミサイル防衛士官が艦載のレーダー・ディスプレイで追尾情報を確認する。


『目標を破壊。……ですが、やはり沈没はしていないようですね』

『不思議な船だな』


 アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦〈イーサン・ロドリゲス〉CIC。戦況を注視しながら、艦長のサンダースと戦術オフィサーが言葉を交わす。


<<マインズアイより各艦艇。ストックポットの航行不能、および主砲の破壊を確認した。出撃中の2隻は接近し、帆船の無力化を実施せよ。こちらで引き続き監視する>>


『了解。標準速力で前進!』

 早期警戒機E-2〈ホークアイ〉もとい〈マインズアイ〉に搭乗しているCICオフィサーの指示に従い、2隻は速力を上げて帆船集団から1キロメートル程度の距離まで接近を行う。






『――なんという……』

『ま、魔導眼界の外から飛んできたぞ。こ、こんなにも簡単にハダーフが……全滅するとは』

 〈タヒーラ〉にて、変わり果てた〈ハダーフ〉を窓越しに眺める面々。やはり相手は古代竜ではなく、ダナエ王国の軍事戦力であるようだ。


『カ、カロネイディア帝国はここまでも強大だったのか? 今まで我々と互角だとばかり――』

『――トレンチ法国の介入では? 先ず我々ナール連邦を潰し、疲弊したカロネイディア帝国ごとじっくりと侵略するつもりかもしれませぬ』

 乗組員同士で議論が進む。脱出は間違いなく正解だった。〈ハダーフ〉に残っていれば、昨夜狙われた2番艦のように大勢の死傷者が出ていただろう。


『提督。これからどうすれば……』

 魔導眼界を眺めていた観測士が、疲弊を交えた表情でマジードへ問いかける。


『貴様は奇跡を信じるか?』

『は……ハダーフの竣工こそが連邦最大の奇跡であり、サダム様達の努力の賜物でもありました。今となっては、奇跡など――』

 近くで憔悴した表情を浮かべる乗組員にマジードが問う。もはや奇跡などない。帆船集団の兵員、約2万人を見殺しにするしかないのだ。


『彼らもまた、誇り高いナールの民です。我々3隻がやられたのは把握している筈。それでも進路を変えず、玉砕覚悟でダナエに一矢報いるつもりなのでしょう』

 憂うような表情で語るサダム。連邦の強固な結束は実に誇らしいのだが、例の爆撃には到底太刀打ちする術など無いのだ。

 犬死する彼らを見届けるしかない。


『――魔導眼界に再び反応。むむ、海上です。2隻いる。敵の戦艦かもしれません』

『なぜ爆撃じゃないんだ? たった2隻だと? こっちはまだ100隻も残っているのだ』

 そう言いながら、マジードも魔導眼界へ目を向ける。確かに、海上を移動する点が2つ確認できた。


『なかなか速いな。本当に船か?』

『優れた機動力も有しているという事でしょう。何から何まで、完璧だ』

 敵ながらに感服する。ハダーフでは成し遂げられなかった事を、彼らは実現しているのだ。


『提督、どうしますか?』

 サダムが問いかけるが、マジードは思案に暮れている。敵の船は帆船集団に向かっているようだ。地平線の彼方に居るはずだが、魔導眼界のような技術も確立しているのだろうか。

 やはり殲滅が目的だろう。出来れば全軍で撤退し、立て直す機会を伺いたいところだ。彼らとの戦いは本当に避けられないのだろうか。




『戦闘準備を整えろ。大砲を仕込め』

 それぞれの帆船で戦闘準備が進む。乗組員たちは慌ただしく動き、大砲を搭載し、砲弾を積み込む。厳しい戦いが始まる事は皆も承知だ。

 無駄だと判っていても、準備だけは可能な限り万端に整えておく。自分達は誇り高き戦士なのだから。


『よぉ、最後の晩餐と行こうぜ。肉を焼けぇ!』

『おうよ、たらふく食ってやらぁ!』

 一部、景気づけとして数日分の食糧を一気に消費する船もあった。信仰により彼らは酒は飲まないが、まるで酔っ払ったようにはしゃぎ、赤子のように屈託なく笑う。

 そして、笑顔の奥に確かな覚悟も抱え、思い思いの時を過ごして行く――。




『――あ……敵影! 敵だぁ! 敵が見えたぞ!』

 マスト頂上の見張り台。望遠鏡を構えた船員が叫ぶ。備えられた花火を数発打ち上げ、全艦艇へ戦闘開始の合図を示した。






『――ほう、なかなか眼が良いようだな』

 〈ビーバーダム〉環境にて、フラー大佐が双眼鏡を構えながら呟く。100隻程の船から次々と花火が上がるが、祭りでは無さそうだ。

 普段見るような美しいモノではなく、あくまで戦闘開始などの合図用だろう。


『よほど警戒しているようですね』

『ああ、まるで威嚇しているハリネズミだ――』






『――ああ、ああ……もうこんな距離に。やはり、皆逃げないのだな』

 魔導眼界を眺め、〈タヒーラ〉の集会ホールで憔悴しきった表情を浮かべるマジード達。見たいか見たくないかと言われれば、絶対に見たくは無い。

 同胞が蹂躙される様を黙って眺められる奴がいるだろうか。非常に辛い現実だ。


『し、しかし。しかし! 例の爆撃魔法が繰り出されない。明らかな接近戦を狙っているようですよ』

 サダムが語気強めに語る。100隻が本気で立ち向かえば、数隻くらい白兵戦に持ち込めるかもしれない。人数ならば自艦隊が圧倒しているはずだ。


『……どうかな。あんな高度な戦闘力を持つ連中が、そう易々と白兵戦に持ち込まれるとは思わんがね』

 マジードは冷静だ。〈ハダーフ〉を失う以上の衝撃など存在しない。もはや何が起きても取り乱すことは無いのだ。






『目標の船団、マストを狙える射程に収まっています。近いモノは0.6マイル(約1キロメートル)!』

『――よし! イーサン・ロドリゲスより全艦艇。これより本艦の主砲攻撃にて、敵船団のマストの破壊を行う。不測の事態に備えたし』

 アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦〈イーサン・ロドリゲス〉の砲術士官。CICにて全艦艇へ向けて伝達事項を発信し、火器管制レーダー〈FCS〉とともに主砲の制御を指示する。


 なお、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦とアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦は、どちらもMK45-5インチ砲を搭載しているものの、両艦ではバージョンが異なる。

 この場において、帆船のマストを撃ち抜く能力はアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦である〈イーサン・ロドリゲス〉にしかない。

 〈ビーバーダム〉の主砲も帆船にダメージを与えることは可能だが、必要以上にダメージを負わせてしまう可能性がある。

 そのため、レーダー支援、およびミサイルによる対艦・対空警戒に従事し、〈イーサン・ロドリゲス〉が攻撃任務に専念できるようサポートするのだ。


『敵船のマストに照準合わせ。近い目標から順に狙え……Fire!(撃て!)

 〈イーサン・ロドリゲス〉の主砲が正確に帆船のマストを捉える。最大射撃速度は毎分16発。冷却や装填も踏まえ、ペースを調節しながら次々と撃ち抜いて行く。

 見張り役の何名かは海へ放り出されているようだが、大半は折れたマストにしがみ付き、困惑の表情を浮かべながら海上を漂っていた。


『ふむ、やはり反撃はしてこないか』

 再び、フラーが低い声で呟く。敵の船は16世紀あたりのガレオン船に酷似している。主な大砲はカルヴァリン砲だろう。

 せいぜい射程は300メートル。長くても1キロメートル弱だ。〈イーサン・ロドリゲス〉にとっては接近戦だが、敵にとっては射程外からの超遠距離攻撃であり、反撃の余地すら与えずに無力化を遂行できる。






『んな、な、な……』

『あ、あり得ぬ。こ、こんなことが……!」

 〈タヒーラ〉で魔導眼界を眺めるマジード達。得られる情報は限られているものの、先頭の船から次々と船速を失っているのだ。

 しかし、どれも沈んでおらず、まるでマストだけを正確に撃ち抜いているような、得体の知れない動きが繰り広げられている。

 つい先程まで憔悴しきった表情だったものの、今は驚愕驚きに加えて、言葉にならないほどのショックが滲み出ている。息を飲む音が聞こえるほどの静けさが部屋に広がっていた。




『んな、なんだあ、ありゃあ?!』

『あ、あり得ねぇ。マストだけを狙い撃ちしてやがる……』

 海上に漂うマストにしがみ付きながら、目を丸くして同僚と見つめあう帆船の乗組員。海に落ちていない者たちも呆然とした表情を浮かべ、次々とへし折られてゆくマストを目で追って行くのだった。


『せ、船長。もう30隻くらい止まっちまったぜ。白兵戦は無理だよこりゃあ』

 困惑の表情とともに目を細め、冷や汗を流しながら声を荒げる船員達。各船長も困惑の表情を隠せず、周囲の船員達と目を合わせるのがやっとだった。




『ま、間違いない。マストを撃ち抜いています。ご覧なさい、よく見ると小さい球を射出している。どうやら小口径の砲のようですが、恐ろしいほどに正確無比。まるで神の所業……』

『なんという事だ。よもやこのような次元の戦いっぷりを見せられるとは……』

 魔導眼界に額が付く程に顔を近づけ、互いに目を合わせながら語るサダムとマジード達。敵の強大さに呆気にとられるばかりであった。


『しかし、連中はあまり殺生は好まないのでしょうか。犠牲者はほとんど居ないでしょう。これも戦力差ゆえの慈悲なのでしょうか……』

『気に食わん。戦場で慈悲を受けるなど、戦士にとってこれ程の屈辱はあり得ぬ』

 眉間にシワを寄せ、面白くなさそうに声を上げるマジード。怒りの表情を浮かべてもいるが、内心は同胞の多くが生き延びている事に安堵さえ抱いていた。






『――最後の1隻……。マスト破壊、完了!』

 砲術士官が全目標の破壊を確認する。これでダナエ王国が侵略を受けるという驚異は取り除かれたが、敵の乗組員が海上に孤立したままだ。


<<――あー、テステス。イーサン・ロドリゲスさん。あ、いや、サンダース中佐さん……? 聞こえます?>>

 流暢な英語の若々しい声が無線から聞こえる。清々しい程に聞き取りやすく、好青年のような印象さえ受け取れる。


『んん? 誰だね? 私がサンダースだが』

 サンダースがCICの無線機で応答する。


<<ああ、どうも。申し遅れました。私はダナエ王国国王、ペルセウスと申します。この度は我が国の危機を救って下さり、ありがとうございます>>

 ペルセウスだ。山本がマクドナルドへ掛け合い、ヘリで彼を空母まで招き入れていた。すべての戦況はリアルタイムで共有されており、山本と高柳の驚きようも尋常でなかったらしい。


<<ほんと、呆れるほどに高度な技術なもんだ。まったく……>>

 山本の声が無線に紛れる。


『これはこれは。山本大将殿! ハハハ、恐れ入ります。さて、敵の船員達はどうしましょうか? 白旗を上げていない以上、近づくと大砲を撃ってくる可能性もありますが……』


<<あっ、白旗の概念はこの世界には無いです。彼らは負けを認めたら潔いですから、小型艦艇などで近づいてみたらどうでしょう?>>

『……なるほど。では、RIB(ゴムボート)を出しましょう』

 ペルセウスの提案に乗り、サンダースは艦に備えられている高速移動艇〈RIB〉を出撃させることにした。

 6名の隊員が乗り込み、水しぶきを上げながら帆船集団へ近づいて行く。互いの表情がわかる位置まで接近したが、もはや攻撃してくる様子は見られなかった。


<<戦闘終了。連中から敵意は感じられません>>

 隊員が無線で報告を入れ、〈イーサン・ロドリゲス〉を経由して全艦艇へ受信される。


『よかった。どうやら、これでひと段落ついたようですね』

 ペルセウスが安堵の表情を浮かべる。戦争を防ぎ、犠牲を最小限に抑えることができたことに、彼の胸中は穏やかな気持ちでいっぱいだった。

随分と久々になりました。

コンスタントに書ければよいのですが、やはり月あたり1本くらいが限界かもしれません。


生活費が・・生活費がなくて・・おーいおい;


【重要】

次話投稿時、既存の章、および投稿済の話を大幅に組み替えます。

理由としては、序章のアースガルズ編が長すぎるためです。


MMORPG アースガルズに関する内容は各話へ自然に組み込むようにし、よりストレスフリーで読める流れを構築いたします。

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