脇道22 :栄冠は輝く-2 野球の話5
野球をする人が一番好きなのは、やはりバッティングでしょうね。
バットを振り回すのは気持ちいいし、いい当たりを打った時、手に残る感触は堪えられない物があります。
どん詰まりの感触は耐えられない物がありますが。
プロ入りしてピッチャーになった人も、バッティング練習は喜んでするといいますし。
指名代打制のあるリーグのピッチャーはしないそうで、良く平気だなと思います。
でも、現在ではバッティングは簡単には出来ない。
広場のそばの家のガラス窓をホームランで割った、などというのは遙か昔話です。
今では広場は公園など管理されているところにしかなく、そこらは殆ど野球禁止です。
バッティングをしようと思うと、どこかしらの野球チームに入らないといけない。
これも野球人口減少の一因でしょうか?
バッターの大事な相棒はバットです。
野球マンガには時たま、バットにこだわるシーンもある。
雷に当たって折れたトネリコの木から作られた私のバット、とか。
日本では最上の材料がトネリコだそうで、それに次ぐのがアオダモと聞いた事があります。
太い幹から4本以上のバットを削り出すとか。
ですが、適切な太さの木から1本を削り出すのに拘る野球選手のマンガも見た事がある。
トネリコもアオダモも、今は希少になっているのだとか。
どなたか、自分の山林にトネリコやアオダモを自生させて下さる方はいないでしょうか。
使いもしない(使ったら不味い)日本刀にすら、日本の社会はいろいろ力を尽くしているというのに。
日本のバットが材料がないせいで途絶えたら寂しいと思うのです。
私も自分のバットを持ちたかった。
ですが、高校野球は金属バットで、それは部費で購入されていて、私は下手くそでした。
部室には先輩が使っていた古いひびの入った木製バットなども放置されていて。
(高校生が部室の掃除などするわけがない。)
それらは独特のバランスで、ああ使いこなせるようになりたいなあ、と思いましたが。
現実の私は、バッティング練習でどん詰まりしか打てないのでした。
あれは今でも不思議です。
どん詰まりを打つとバットを持つ手がしびれて、凄く痛いです。
痛みを覚える練習は上達する、という説はあれは嘘です。
どれだけ痛い目に遭っても、どん詰まりしか打てないやつはいる。
まあ、いいです。
不思議なのは春や秋、寒い時分はどん詰まりを打つと手がしびれるのですが、夏になるとしびれなくなる事です。
もちろん、春も秋もバッティング練習前には充分汗をかいて身体は温まっている。
なのにしびれます。
時たま、プロ野球のオープン戦、春先の試合でどん詰まりを打った選手を見ると、手がしびれて大変だろうなあ、と同情しますが。
彼らは平気な顔をしています。
プロだから顔に出さないのか、それともしびれていないのか。
判るはずもありませんが。
まあ、もう二度とあのしびれは味わえないのかと思うと少し寂しく思います。
軟球では、どれだけどん詰まってもしびれませんし。
高校野球では、練習は先輩や監督の言うとおりに行います。
バッティング練習だけでも、素振りからフリー、シート、トスにティー。
今ではそれぞれの練習の意味が判っていますが、当時は何のためにするのかよく判らずに夢中でこなしていました。
あの頃、今のように意味が判っていれば練習の仕方も変わっていたのに。
まあ、シートバッティングだけはバッティング練習と言うより、守備練習でしたが。
出来れば、時間を遡って当時の私に教えてやりたい。
例えば、普通フリーバッティングの前にバントの練習をします。
本格的なものではなく、1~2球の儀式、挨拶めいた物ですが。
プロも必ず行う。
あのバントがどれだけ大切な物か、こんこんと説教してやりたい。
かなりいい加減にしてましたからねえ。
バッティング理論などという物は、到底わかりませんが。
それでも、今になってバッティングというものがどういう物か、判って来たように思います。
バカな過去の私の代わりに、ここでこんこんと説明しましょうか。
バットとボール インパクトの瞬間
バッティングの目的はボールをバットに当てる事です。
ただ当てるだけでなく。
ボールの芯、飛んでくるボールの重心を、スィートスポットと言われるバットの最も太いところの軸芯に当てる事です。
絵で描くとこういう感じになります。
上級者は、インパクトの瞬間の手首の返し方や、ボールをバットに載せるなどという技術を駆使します。
それらは飛距離を伸ばしたり、打球の方向をコントロールする技術ですが。
まずは、ボールを正確に、バットに当てるのが基本です。
それに、それが出来れば大抵の場合、ヒットが打てます。
それには必要な技術が3つあると思います。
一つ目は、投手の投げたボールの軌跡と到達時間を正確に予測する能力。
当たり前です。
バットを振るのはボールを叩くためです。
でも、闇雲に振ってボールに当たるわけがない。
狙いを定めて、薪割りの斧を薪に向かって振るように、剣道の面打ちを相手の頭を狙って振るように、ボール目掛けて振ります。
ですが、当たり前ですが、振る時にそこにボールはありません。
なので、自分で予測した架空の位置のボール目掛けて振るわけです。
その予測が間違っていたら、バットを振った位置にボールが来なかったら。
如何に正確に振っても当たりません、よね。
ボールの軌跡を観測する手段は、自分の眼です。
動体視力を重視されるのは、動いているボールの早い動きを捉える事が出来るからです。
ピッチャーの手元を離れた直後は、飛んでくるボールを斜め前から見ていますから捉えられますが。
自分の手元、ちょうどミートポイント当たりだと、投球を至近距離で横から見るのですから捉えきれません。
王選手はバットに当たる瞬間までボールを見ていたと言いますから、どれだけ優れた動体視力の持ち主だったか、と思います。
遠くは割と正確に、近づくに従って軌跡は判らなくなるので、ある程度のところまでボールが来たら位置を予測します。
プロはボールをずっと見ながら、動きに合わせてバットをコントロールするそうですが、高校生にはまず無理です。
できるだけ正確に位置を予測するしか出来ない。
ボールの軌跡と予測位置
バットを振る時は頭を動かすな、と言います。
ボールの軌跡を観測するのは眼ですから、それの付いている頭が動いたら正確な観測が出来るわけがありません。
で、この予測能力を身体に染みつくよう毎日練習するわけですが、この能力はどうやら繊細な物のようで、すぐ狂う。
これを知ったのは野球をやめてから、バッティングセンターに遊びに行った時です。
打てるはずのボールなのに、打てるように振ってるはずなのに、まともに当たらない。
で、昔のようにバントをしてみたのです。
バントというのは普通のスイングのように大きく身体を動かさないので、ボールの軌跡を近い位置、見やすい位置で最後まで見る事が出来ます。
逆に言うと、バットに当たる瞬間までちゃんと見ていないとバントはうまく出来ない。
で、やってみると、身体が予測した位置と、実際バットを出して当たる位置が食い違っている。
何度かバントをして、正確に出来るようになってから改めてバットを振ると、きちんと芯に捉えられるようになりました。
それで理解したわけです。
フリーバッティングの前にするバントの意味を。
あれは予測能力の修正だったわけです。
お前、きちんとバントが出来ていないのにバッティング練習始めてただろう・・・・。
二つ目は、バットを狙い通りに振れる事。
球の来る位置が正確に予測出来ても、そこにバットを振れなければ当たりません。
何をバカな、とお思いでしょうが、これが意外と難しい。
試しにお箸か何かを1本、指2本で持って振ってみて下さい。
で、そのお箸で目の前に置いた小さな物、お豆でも何でもいいですが、それを叩く。
正確に、同じ場所を、叩き続ける事が出来ますか?
僅か2本の指を動かすだけなのに、結構難しいでしょう。
それを全身の筋肉をバランス良く調整しながら、最速のスピードで、結構重いバットで行う。
長嶋茂雄は、ボールを打つのではなく、ボールの中の芯、コルクの小さな芯が中心にありますが、それを打て、と言いました。
その通りで、ボールのどこかではなく、当に中心を打たなければヒットにはなりません。
これを練習するのがティーバッティングです。
ゴルフのティーのような、ゴム製の筒の上にボールを載せて打つ。
普通に打てました。
周りのみんなも普通に打てていましたから、誰にでも出来る物だと思っていましたが。
野球をやった事がない友だちにやらせてみると、まるで当たらない。
大体、バットスイングが安定しない、波打ってる。
なるほど、やった事がない人間には難しいのだな、と理解したわけです。
バットとコース
ティーバッティングは毎日のメニューではなく、雨などで時間が空いた時にやっていましたが。
もっと工夫してやれば良かった。
バットスイングはインコースとアウトコースではまるで違います。
普通に振って、手首、グリップが身体の前に来て、バットがボールに直角な位置に来る。
それが真ん中の球を打つ時のスイングです。
後は、ミートして手首を返すだけ。
インコースの場合はグリップを身体の前でなく、もっと横、振りすぎて行き過ぎるぐらいの位置まで持ってきて。
バットは身体に巻き付けてすり抜ける感じで、ボールに直角に当てて。
ミートポイントは前の方で。
逆にアウトコースはグリップを遅らせる感じで、身体の前より後ろで。
バットは放り出す感じで横に突き出して、ミートポイントは後ろ寄りで。
言葉でも、絵でも説明難しいです。
ボールのセット位置を工夫して、アウトコースやインコースのスイングフォームをもっと徹底的に身体に覚え込ませれば良かった。
それと、ボールではなくピンポン球、またはゴルフボールのように小さな的で練習すれば良かった。
バットではなく棒のような、もっと細い物で。
正確なスイングフォームを身につけられれば、少しでも打てるようななったのではないかな、と思います。
三つ目は自分のスイングスピードを正確に知る事。
頭で理解するのではなく、身体に覚え込ませる事です。
ピッチャーの投げたボールがミートポイントに来た時に振ったって、当たり前ですが当たりません。
キャッチャーミットに収まってから振る、という間抜けな事になるだけです。
ボールがミートポイントに来る前にスイングを始めないと間に合わない訳ですが。
ボールがどこに来たら振り始めるか、正確に見極めないといけない。
早く振っても遅く振っても当たらない、タイミングが合わない、と言います。
ピッチャーが狙ってタイミングを外すのはピッチングのテクニックですが、下手なバッターはピッチャーがしなくても自分でタイミングを外します。
ピッチャーの投げたボールを観測して、軌跡と同時に時間も計る。
指先を離れてからミートポイントまで何秒かかるか。
で、自分はバットを振り出してからミートポイントに持っていくまで何秒かかるか。
その差を体感的に割り出します。
そうすれば、どのタイミング、どこにボールが来たら振り出せばいいか、判る。
ですが。
どこにボールが来るか、ミートポイントはどこか。
投げられたボールをある程度の時間、観察しないと判りません。
で、判るまでバットを振れない。
振りながら目標を修正するなんてのはプロの技術です。
なので、どんくさいヤツはミートポイント、球の予測位置が判るまで時間が掛かり・・・。
振り始めが遅れる。
自分のスイングスピードが遅いにもかかわらず、のんびり振り始めますから。
当たったとしても最適なミートポイントの後ろ、どん詰まりになるわけです。
スイングスピードを上げるには素振りが一番です。
で、素振りはいっぱいしました。
プロがバット二本持ってやっていたり、ウェイトを付けてやっているのを見て、重いバットでやったりもしました。
が、方向性を大きく間違えている。
本当は、バットを振り出す瞬間、その瞬間をどれだけ鋭敏にするか、を鍛えるべきだったのです。
居合抜きで刃を滑らす瞬間のように、西部劇ガンマンが決闘でクイックドローの瞬間のように、100m短距離走スタートの瞬間のように。
身体は限りなく力を抜き、速く動くように。
筋肉に力が入っていては、筋肉は速く動きません。
一般的に力んでいる、と言う状態です。
神経は限りなく張り詰めて、瞬時に反応するように。
緊張すると自然に身体に力が入ります。
緊張しながら身体から力を抜く、というのは結構難しいです。
そうして、GO!、バットを振る瞬間を待つ。
外野守備でバッターのインパクトの瞬間、ダッシュを切る訓練は出来ていたのですから、バットスイングでそれに気付かないわけがなかったのですが。
かなり後までそれに気付かず、漫然とバットを振っておりました。
それはそれで、フォームやら筋肉やらの訓練にはなったのですが。
バットスイングの時間を身体に覚え込ませるのがトスバッティング、正確にはセットアップティーバッティングというみたいですね。
誰かに斜め下からボールを、ちょうどミートポイント辺りに投げ上げて貰ってそれを打つ。
打つのはボールが頂点に来た瞬間。
なので、下から上がって来るボールがどこに来たら振り始めればいいか、それを覚える。
そうすると、自分のスイングスピードを身体が覚えるわけです。
ですが。
これも漫然とやってましたね。
頂点付近で打てればいいのだろう。
芯で捉えればいいのだろう、みたいな感じで。
もっと緊張して、振り出しを鋭くして打つべきだったのに。
今思うと、本当に勿体ない事をしました。
まあ、今更ですが。
このエッセイも、野球をやめてから気付いた事を書きたかっただけです。
野球の解説書は、一流の選手がもっと専門的な事を書かれていると思うので。
なので、このような初歩的な事はかえって珍しいかもしれません、と開き直ってたりします。
うちのチームは比較的強かったですが、それはメンバーに才能があったと言うより、基本をきちんと身につけていたからでしょうね。
基本さえ身に付けば才能の有る無しにかかわらず、地方予選レベルだと結構勝てます。
弱いチームが弱いのは、ピッチャーの球が遅いからでもバッターが打てないからでもありません。
基本、特に守備の基本が出来ていない事が原因である場合が多いです。
何しろバント守備が出来ていなくて、バントさえすればいくらでも点をくれるチームもありましたから。
日本のプロ野球選手がMLBに行くと、基本が出来ている、と言われる事があったと思います。
これはおそらく、守備についてだろうと思います。
高校時代に徹底的に守備を叩き込まれる。
足、盗塁にはスランプはないと言いますが、守備、フィールディングやスローイング、カバーリングにもスランプはありません。
特別な才能も必要ありません。
中にはオジースミスや長嶋のような守備の天才もいますが、天才の才能が必要な打球が来るのは本当に稀ですし。
捕れなくてヒットにしても、大抵何とかなります。
普通の人が普通に練習すれば、ちゃんとした守備が出来ます。
それは凄く地味ですが、勝つために一番大事な事です。
昔、サッカーがテーマのマンガでこんなセリフがあったと思います。
「サッカーの試合はボールを追って全員が動く。
野球は捕る人間と受ける人間だけだ。」
ものすごくうろ覚えです。
でも、皆さんの中にも、そう思っている人がいるでしょうか?
そう思っている野球チームがあったとしたら、そのチームはボロ負けします。
大間違いです。
野球の守備というものは、どんな平凡な打球だろうと全員が動くんです。
多分、テレビだけで野球の試合を見ていると判らないでしょうね。
画面に映るのはピッチャーとバッター、打球が飛んだところと送球を受けるところだけですから。
野球場で観戦すると全体を見る事が出来ます。
テレビに映らないところでどれだけの選手が動いているか。
そしてそれが、どれだけ大切な事か。
カバーリングプレイ 1stゴロ
例えば、ノーアウトランナーなしでファーストゴロを打たれる。
ファーストはゴロを捕り、1塁ベースに駆け込むピッチャーに送球する。
ここら辺はテレビでも映っているでしょうから、ご存じでしょう。
では、その時キャッチャーはどこにいるか。
マスクを投げ捨て1塁方向に走っています。
セカンドはどこにいるか。
セカンドの守備位置から、セカンドベースに移動しています。
ショートは2,3塁間少し外野寄りに移動しているでしょう。
サードは守備位置から3塁ベースに付く。
ライトは前進してゴロを捕るファーストの後方に付き、センターも前進して2塁ベースの後ろレフト寄りに、レフトも前進して3塁ベースの後ろのファールグラウンドへ。
合ってるかなあ?
何分、いくつものパターンがあって、しかも数10年前の記憶ですし。
彼らが何をしているかというと、カバーリングです。
エラーが起きた時、その被害を最小限に抑えるためです。
ファーストがエラーして後逸したら、前進したライトが抑えて2塁に送球、バッターランナーの進塁を防ぎます。
ライトがバックセカンを暴投したら、セカンドが後逸したら、ショートがカバーして2塁に送球します。
ショートがライトからの暴投を後逸したら、サードが抑えます。
ファーストが1塁に暴投したら、キャッチャーが抑えて2塁に送ります。
キャッチャーが2塁に暴投したら、またはセカンドが後逸したら、センターが抑えて2塁か3塁に送球します。
センターが3塁に暴投したら、レフトが抑えて3塁に返します。
後逸、暴投。
ボールを受けるべき人が後ろに逸らした時、必ずそこには人がいてボールを抑える。
それがカバーリングです。
このカバーリングは状況によって全て違います。
ノーアウト、ワンナウトとツーアウトは違いますし、飛んだ位置、ファーストゴロ、セカンドゴロからライトフライ、レフトフライ、フライは浅いか深いか。
ランナーの有る無し、1塁か2塁か、一人か二人か満塁か、足が速いか遅いか。
バッターは中軸、それとも下位、点をやっていい場面、1点もやれない場面、前進守備、バントシフト。
状況に応じて、叩き込まれたパターンに従って、迅速に動く。
位置取りはいいか、接近しすぎて横を抜かれたら大間抜け、離れ過ぎていたら足の速いランナーに間に合わない。
落ち着いて、焦らないで、慌てたら必ずエラーをするから。
何パターンもありますから、間違えることもあります。
シートバッティング、またはシートノックというのは、これらのカバーリングを覚えるための練習です。
場合によってはわざとエラーをして、きちんとカバー出来るか確認する。
漫然とやっていると、球が来た時に慌てて逸らしたりして、ものすごく怒られます。
実際のところ、やってる方はつまらない。
真面目に走ってポジションに着いても、大抵はエラーなど起こらず無駄になりますから。
言うなれば無駄の積み重ねであって、サボりたくなるし練習も疎かになりがちです。
でも、これが出来ていないチームはボロ負けします。
大量失点には必ずフォアボールとエラーが絡む、と言いますが。
実際のところ、よほどピッチャーとバッターのレベルが違わない限り、1イニングに何本ものヒットを打たれる事はありません。
仮に1イニングに3本の単打を打たれたとしても、失点は1点です。
それが4点にも5点にもなるのは、フォアボールでランナーを溜め、エラーで返してしまうからです。
エラーが起きて、カバーが居なかったら。
ボールは簡単に無人のグラウンドを転がります。
ベースランニング一周15~17秒の世界で、ボールに追いついて投げるまでの8~10秒がどれだけ致命的か。
長打、2塁打、3塁打は、普通の試合では片手の数ほども出ませんが、カバーのないエラーはあっさり長打と同じ失点を与えます。
それがイニング毎に出たら、ボロボロになるのは判るでしょう。
カバーリングさえ出来ていれば、ひとつやふたつのエラーは、ヒット一本かフォアボール1個程度にしかなりません。
痛手ではあるでしょうが、まだ充分凌げます。
ボールの処理、キャッチングやスローイングは確かに守備にとって大事な事です。
ですが、野球の守備の真髄はカバーリングにあります。
豪華客船の救命ボートや大規模建築物の非常階段と同じ。
普通はなくても問題がない。
でも、万が一の時にないと悲惨な事になる。
野球ですと、まあ負けが決まります。
地味で、無駄で、疲れるプレイ。
エラーをするであろう、間抜けな誰かのフォローのために。
でも、これをしっかりと練習で身につけ、試合で誠実に実践する。
おそらく、高校野球でしか学べない事だと思います。
うちの高校は公立校ながら結構強くて。
確か、校長室に昔の甲子園大会の準優勝旗のレプリカがあったと思います。
伝説のプロ野球のスーパースターの甲子園出場を阻止した事もあります。
そのスーパースターのエピソードは知っていましたが、それをしたのが先輩たちとは知らなかった。
結構嬉しかったというか、誇らしかったですね。
ホームランはぶち込まれたそうですが。
社会人になった頃、後輩たちが甲子園に連れて行ってくれました。
野球部OBで集まって応援に行きました。
甲子園の応援ってハードですね。
関西に住んでいた事もあって、甲子園球場には何度か行った事もありました。
行く前には、あそこの売店であれを買おう、とか思っていたのです。
ですが、弾丸応援ツアー。
社会人だけだったので、時間を節約したのかもしれませんが。
登山に弾丸登山とか言う、ベテランなどが眉をひそめる登山方法があるそうです。
なるべく装備を節約して荷物を軽くして、とにかく速度優先で登って降りる。
何かが少しでも狂ったら、遭難直結の危ない登山方法だそうですが。
まさしく、それ。
夜、集合場所に集まったら直ぐバスに乗って、夜間走行で甲子園球場に試合開始直前に着く。
試合が終わったら、そのままバスに乗って深夜に帰り着く。
バスから降りたのは試合時間だけ、甲子園滞在も試合時間だけ。
まあ、甲子園球場には駐車場はありませんし、余っている土地もありませんし。
次の試合の応援団のバスも来ているしするので、余裕がないのは判ります。
ハードでした。
甲子園球場の応援団は、みんなこんな感じなのでしょうか?
食事をどうしたか、なんて、覚えてもいません。
でも、まあ。
最高でした。
夏の甲子園の大会歌。
「雲は湧き、光溢れて」
真夏の真っ青の空に、スタンドの向こうには夏雲が真っ白で。
当たる物全てが光り輝くような、強烈な陽光が降り注いで。
その中で後輩たちは1回戦を勝ってくれました。
なので、勝利を讃えて校歌が斉唱されました。
歌いました。
思いっきり大声で。
中年のおっさんの歌など誰得ですが・・・・。
それでも本当に、野球をやっていて良かった、と思いました。
こうして、野球部の先輩や後輩たちの中で、その一員として歌う事が出来る。
大会歌は最後、
「嗚呼、栄冠は君に輝く」と終わります。
川原泉さんは作品の中で
「わしらは栄冠になんか輝かなくてもいいのだな」と、描いています。
(うろ覚えです、済みません。)
栄冠が輝くのは「甲子園優勝チーム」だけという意味なのでしょうが・・・・。
私はこの歌の「君」は、全ての高校球児の事を指していると、個人的に思っています。
高校3年間を野球に打ち込んできた全ての少年たち。
ですから。
いつも後逸ばかりして球を追いかけていた、いつもどん詰まりしか打てなくて痛い思いをしていた。
この下手くそだった私にも、栄冠は輝く、と思うのですよ。




