脇道17 :現代の帆船の蛇足、尾鰭かもしれませんが・・・
え~、また脇道です。
なかなかメインテーマが書けません。
前回、現代の帆船、ハイブリッド帆船を書いて。
まだ、書き足りなくて蛇足というか尾鰭を書くことにしました。
まったく、14000文字も書いたのにまだ書き足りないか・・・・。
実のところ、前回「現代の帆船は過去の帆船の在り方に囚われている」みたいなことを書いたのですが。
自分もしっかり囚われていることを、後になって発見したわけです。
そこらの顛末を書いておこうかと思いまして。
なので今回のエッセイの目的は更に進んだ(おかしくなった?変になった?)ハイブリッド帆船の説明です。
その前に前回簡単に触れた、貨物船の経済性について。
もちろん、素人考えです。
優れた貨物船とは何か。
大量の貨物を速く運べること、だけではだめで。
それをなるべく小さな船体、建造費も安く運航費も安い、で行えることでしょう。
まあ、小学生みたいな理解ですが、根元のところの考え方は合っていると思います。
それの目安として考えられる指数が、積荷重量/船の満載総重量、だろうと思います。
もちろん素人の考えた指数ですが、おそらくこれと概念的に同じような指数が、実際の船舶業界で使われているのではないでしょうか。
初歩的な計算である事をお許し下さい。
大体、船の重量的大きさを表す数値が、実は私がよく判っていない。
軍艦の排水量というものは、軍艦が水に浮かんだ時に排除される水の重量=船の重量という感じで判っているつもりですが。
(本当は間違っているかもしれない)
商船の場合の総トン数は、船の容積100立方フィート(約2.83m^3)を1トンとして計算するとかで、よく判らない。
船を構成する100立方フィートの中には1トンより軽い部分もあれば、重い部分もあるでしょうし。
なら、重量に換算せずに容積のままでいいじゃないか、と思うのですが。
だめなんでしょうねえ。
ここら辺の数値を理解するには、実際の数値を使って運航計画や採算分岐などの計算をしてみないと。
つまり使う際の利便性から決まっているのでしょうから、使ってみないと判らないのだろうと、諦めております。
まあ、細かな数値や実際の数値を問題にするわけではなく、概念的な説明に使うので噴飯物かもしれませんが、取り敢えず、これで。
話を進めます。
船の総重量とは、軍艦の満載排水量に近いものと思って下さい。
貨物船 積荷重量
というところで。
前記の指数、積荷重量/船の満載重量を仮に積荷効率とすると、積荷効率がいい貨物船ほど貨物を運ぶ経費が低くなる、と考えられます。
経費というのは運航経費、燃料代や人件費、入港税や係船費用、または建造費の償却、保険料など。
それらを貨物を運んだ運送費収入で賄う訳です。
そして、小さい船ほど経費は安くなるのですが、運べる量も少ない。
一方、大きな船は経費は高くなるのですが、貨物を大量に運べて運送費収入は大きい。
その目安を積荷効率と置いた場合、おそらく船が大きくなるほど良くなるのではないでしょうか。
なので、タンカーもコンテナ船も巨大化に進んでいる、そう解釈しています。
積荷効率を向上させるためには、船の総重量のうち貨物の積荷重量を除いたその他の部分を如何に軽くするか、という事になると思います。
その「部分」というのは、素人考えですが、おそらく。
1.船殻重量
2.動力部重量
3.燃料重量
4.荷役設備
5.航海用装置
6.船員ならび居住設備
主なところはこれで、おそらく後は「雑」に分類される些細な重量だと思います。
多分、大きな重量を占める主要部は見逃してはいないと思いますが。
特に説明は要らないと思いますが、おそらくいろいろな分類の仕方があると思うので。
私の分類内容をざっと書いておきます。
1.船殻重量は船体の重量ですね。
2.動力部重量はエンジン、多分ディーゼルか電動機+発電機でしょう。
それと、それらを伝達する機械、変速ギヤとかスクリュウ、スクリュウシャフトやブラケット、排煙装置も含むでしょうか。
3.燃料重量はエンジンの燃料、重油でしょうか。
燃料タンク自体は船殻重量に含むと思います。
4.荷役設備は、タンカーならば甲板上のパイプライン、コンテナ船ならコンテナを固定する柵?や積んでいる船ならば門形クレーンとか。
5.航海用装置は舵や舵柄装置、アンカーなどやバウスラスター、索具などや、レーダー、無線などの情報処理装置も含むでしょう。
6.船員ならび居住設備は船員自身の重量に居室や厨房、トイレ、浴室などの他それらに使う食料、水などの消耗品も含むでしょう。
で、これらを如何に軽くするかで船舶業界や造船業界で鎬を削っているのでしょう。
船員の数もむやみに減らさないように、法律で規制しなければならないほど厳しいものだと聞いています。
で、その中に。
7.帆装設備
を割り込ませなければならないわけです。
ハイブリッド帆船とは、そういうものですから。
もちろん、ただ割り込ませただけなら積荷効率が下がるだけですから、その分どこかを減らします。
帆装による効果は燃料費の節減ですから、燃料重量を減らすでしょう。
ですが、簡単に減らせるでしょうか?
貨物船 その他の重量+帆装設備
帆走して燃料30%減らせるとして、燃料タンク容量を30%減らし、燃料も30%減らす。
帆装設備を追加して減った積荷重量が、燃料タンク+燃料30%減で増えた積荷重量と同じであれば積荷効率は変わらない。
更に燃料代30%減で利益が出ます、が。
まず、どの商船主もしないでしょうね。
帆装の場合、必ず燃料が30%減らせるわけではない。
天候次第です。
もし、風もなく、燃料もなくなれば漂流するしかなくなる。
更に言うと、現代物流業界で時間に制約がないはずもなく、風の具合が悪くてスケジュールに遅れが生じそうになれば、全航程動力航走する場合もあるでしょう。
怖くて燃料タンク容積の削減など出来ない、と思います。
燃料自体も満タンに入れて、航海が終わって燃料に余りが出たらその分を利益とする、しかないのではないかなあ、と。
つまり現代のハイブリッド帆船は、少し燃料代が安くなる代わりに、積荷効率が悪く、建造費の高い船、にしかならないという事になるのです。
貨物船 エコノウィンド
そこから考えると、エコノウィンドという積載型帆走システムは合理的です。
船舶の積み荷の場合、おそらくですが満載にならないケースもあるのだろうと思います。
貨物船は運航スケジュールがかなり厳密に決まっているでしょう。
何月何日に何処其処を出港、と公示して運送依頼を受注しているのではないかな、と。
謂わば新幹線が乗客の予約を待つように、貨物船も運送の予約を待っている。
でしたら繁忙期を除き、空席も出ると思います。
それは自動車運搬船の様に、特定の顧客がいても同じでしょう。
そのような空荷スペース、または空荷重量が生じたときにエコノウィンドを搭載して帆走すれば、燃料の節約ができます。
積み荷スペースと重量を圧迫することなく、空荷スペースと重量を無駄にすることなく。
この場合、エコノウィンドはレンタルでしょうね。
できれば港ごとに備えておいて、積み荷状況次第で簡単にレンタルできるのが望ましいでしょう。
ビジネスモデルとしては成立しそうですが、化石燃料の使用量削減にはあまり寄与しなさそうな気がします。
前回妄想したハイブリッド帆船は、航路を限定して長期間の安定した帆走を前提とするものでした。
貿易風と偏西風のみを用いて大陸間を往復する
帆走を主とすることで、大幅な化石燃料の使用量削減が可能になると思います。
それにより、帆装時にデッドウェイトになる動力部、燃料タンクをバッサリ削除しました。
これが出来たのも、統合電気推進システムIEPが民間船まで普及してきたことが大きいでしょう。
一般的なディーゼルエンジンですと、主な重量物であるエンジンを削除すると、他に何を残しても船は動かなくなります。
ポッド推進器の場合、重量物である発電機を削除しても、外部からの給電によって動かすことが出来ますので(原理的には)、かなり重量とスペースが削れるはずです。
貨物船 ハイブリッド帆船(前回)
上図が統合電気推進システムIEPを用いた貨物船の重量比。
下図はそこから燃料タンクと発電機を削除し、バッテリーと帆走設備を追加した前回の妄想案です。
もちろん比率は、なるべくそれらしくしたつもりですが、でたらめです。
造船技師でもない素人に、大体でも各部の重量など判るはずがありませんし。
ですので、下図では積み荷重量が増えている、積荷効率が向上しているように見えますが。
まあ、こうなったらいいなあ、という願望です。
実際のところ、これぐらいメリットがなくてはハイブリッド船は普及しないだろうとも思いますが。
貨物船 ハイブリッド帆船(前回動力航走)
で、大洋を渡りきったら、動力航走に切り替えます。
積み荷を降ろした場合は、空いたスペースと重量に発電システムを積み込みます。(上図)
おそらく燃料は少なくて済むはずです。
長距離無寄港航海ではありませんから、燃料補給はこれから巡る港でいくらでも可能でしょう。
積み荷が満載で発電システムを積む余裕がない場合は、発電タグをつなぎます。(下図)
10万トン越えの貨物船に対して1000t程度のオーシャンタグですと、絵の大きさ的にはこんなもんでしょうか。
形状は港内タグです、済みません。
ここまでは前回の妄想案の繰り返し、積荷効率から見たハイブリッド帆船です。
前回の妄想案をアップした後に、私はある疑問に囚われました。
「なんでローリングや転覆の危険があるのに、船上に真っ直ぐ高く帆を張るの?」
まあ、船の発達の歴史から見ても、そこしかないから自然にそうなったのだろうとは思います。
そして、そこしか帆が張れる場所がないから、それによって生じるローリングには充分な耐性を持つ船型で対応した、と。
ですが、現代の貨物船、特にコンテナ船などにとってはローリングは禁物ですよね。
前回の妄想案では船幅をできるだけ広くすることによって、更に双胴船にすることによって対処しました。
ですが、できればローリングが生じないところに帆を張りたい。
木製の帆船時代には不可能だったとしても、現代の技術なら出来る場所があるのではないか?
で、これです。
海面帆ハイブリッド船
え~と、読者様のあきれ顔が目に浮かびますが、まずは話を。
ハイブリッド帆船を考えた後に、ローリングを抑える方法が更にないか、と考えました。
そこで思いついたのが、南太平洋の現住民のカヌーでアウトリガー・カヌーというものです。
細長い船体のカヌーが転覆しないように、船幅から腕木が突き出してその下にフロートが付いている。
詳細はアウトリガー・カヌーでググって下さい。
チャイナマックスがある以上船幅をこれ以上大きくはできないが、外海ならばいくらでも
広く出来る。
収納式のアウトリガーを付ければいいんじゃないか。
まあ、そう考えたわけです。
で、前述の疑問と相まって、アウトリガーの上に帆を張ればいいんじゃね、という発想に行き着いたわけです。
更に、左右にいくらでも長く出来るのだから、無理に高くして帆の面積を稼ごうとしなくてもいいよね。
アウトリガーを収納して埠頭に着岸したときに、帆が高いと荷の積み下ろしの邪魔になるよね。
まあ、こんな感じです。
海面帆 帆の動き 上面図
問題点など、山ほど出てきます。
荒天時の荒波にセイルブーム腕木が耐えられるわけがない。
海面近くに張られた帆、海面帆Sea Surface Sailが荒波を被って直ぐ破れるだろうし、破れなければ索具を壊すだろう。
いくら帆の面積があろうと、海面近くでまともな風を受けられるはずがない。
フロートが波に煽られたら簡単に破損脱落するだろう。
など、など・・・。
そんな事はない、などと反論できる根拠は私にはありません。
ですからこれは一つの提案です。
ハイブリッド帆船にとって、「海面帆」というのは有力なアイデアだと思います。
実現したらメリットが大きい。
それを納得して貰えて、実現に向けてコンセンサスが取れたら。
前記の課題は、きっと誰かが何とかしてくれるはずです。
海面帆 バリエーション各種
一応、いくつか。
ブームを船首ではなく船尾の方に付けて、風を船体に阻害されることなく受ける。
フロートは1つでなく複数に分けて、波の影響を分散させる。
ブームは真横ではなく少し前方に角度を付けて取り付け、針路がずれても自動で復帰するようにする。
ブームは1対でなく複数の組み合わせにし、ブームにかかる荷重を抑えながら帆の面積を確保する。
ブームに可倒式ピラーを付け、ブーム展開後に帆を高く張れるようにする。
フロートとブームの接続は小水線面積式にし、水の抵抗を極力減らす。
フロートは本船の吃水ギリギリまで深くし、海面の波の影響を受けづらくする。
帆は一枚布ではなく、複数の曲面帆で向かい風でも推力を稼ぐようにする。
ブームと本船をつなぐヒンジブームは可動式にし、ローリングで無理な荷重がかかって破損するのを防ぐ。
など、など。
海面帆システムの原則は。
1.船体の横に帆を張る。
2.帆と帆を支えるものの重量をフロートが受ける。
3.入港時などに備えて畳むことが出来る。
この3点です。
この3点が海面帆システムの最低条件と言えるものです。
まあ、特に決まりがあるわけではありませんが、この3点を抑えなければ海面帆システムのメリットは出ないでしょう。
後は自由ですので、改良案はいくらでも出てくるはずです。
で、肝心のメリットはと言うと。
まず、高い帆柱による転覆の危険と、大きなローリングをなくせます。
特にセイルブーム腕木を有機的にコントロールすれば、従来のフィンスタビライザーやアンチローリングタンクより効果的なローリング制御が出来るでしょう。
次に、帆装設備を積荷量を損なうことなく搭載できます。
帆装設備を搭載するという事は、貨物船の持つ浮力を喰うということです。
船殻によって確保された浮力を、積荷重量を始め必要な設備の重量に振り分けて貨物船という物は成立しています。
ですが、海面帆システムの場合、帆走システムの重量は自前のフロートの浮力で賄えます。
船殻の浮力を振り分ける必要がない。
下図のように、帆装設備を従来の貨物船に追加する、という形になります。
貨物船 ハイブリッド帆船(海面帆)
最後のメリットとして。
おそらく海面帆システムは、既存の、つまり就航済みの貨物船に後付けできます。
船上に帆装設備を垂直に建てる場合、帆柱を建てるために相応の強化を船殻に行わなければなりません。
これは船の設計段階から組み込まなければならないはずです。
帆柱と帆の重量、帆が受ける風力によるトルクは、全て帆柱の基礎部分に掛かるのですから。
エコノウィンドユニットのように、余り帆走力のない場合は簡単な設置で済むかもしれませんが。
海面帆の場合は、帆装設備の重量はフロートが受け持ってくれます。
ですから、問題になるのは船体の取り付け部分、ヒンジブームと、セイルブームをコントロールするガイドレールの強度だけでしょう。
簡単ではないでしょうが、追加工事で設置可能ではないか、と思います。
メリットはお判りでしょう。
もし、船主がハイブリッド帆走船を導入しようと考えた場合。
現状では新しい船を建造するしか方法はありませんが、後付けが可能なら既存の船を改造するだけで済みます。
帆装設備導入のためのハードルは格段に下がるでしょう。
この事実は、ハイブリッド帆船普及へ大きなアドバンテージになるはずです。
さらに海面帆システムの発想を推し進めた場合、セイルシップ?、帆船?、紛らわしいなあ、セイルタグと言いましょうか。
セイルタグという構想もあり得るかもしれません。
セイルタグというのはその名の通り、帆装設備で商船を引っ張るタグです。
タグするのは大陸間、大洋ですから総重量数千トンから万トン越えの巨大なオーシャンタグです。
海面帆 セイルタグ
ご覧の通り、海面帆とそれを支えるセイルブームとフロートだけで構成された船、と言えるかどうか、海上浮遊物です。
海面帆に太陽電池を仕込んでバッテリーを備え、コントロールブームで帆の角度を変えたりします。
何というか、船舶工学に喧嘩売ってるような粗雑な構造ですが、機能から言えばこれ以上のものは必要ないもので。
構造強度などは別途検討するという事で(他の誰かが)話を進めます。
これを貨物船の前部、または後部に装着します。
図は前部に装着した例です。
貨物船 ハイブリッド帆船
貨物船側としては牽引部分にそれなりの剛性が必要でしょうが、まあ、それだけで済みます。
脱着可能、帆装時だけレンタルで取り付けるタグです。
もちろん、外した状態でも転覆する事なく浮いていられます。(そういう設計をします)
前回のビジネスモデルですと、大西洋航路ではボストンとリスボンで、太平洋航路ではロサンゼルスと八戸で装着します。
で、ジャクソンビル、ゴールウェー、シアトル、バラナンで外します。
前回では説明を省きましたが、各大陸の出発港と到着港間にはその間を往復する連絡船があります。
発電ユニットを運搬する連絡船です。
アメリカ東海岸ならば、出発港であるボストンで降ろした発電ユニットを、到着港であるジャクソンビルに運ぶ。
当たり前ですが、この連絡船がないと発電ユニットが出発港に溜まるだけですから。
リスボン-ゴールウェー間、ロスアンゼルス-シアトル間、バラナン-八戸間にも就航しているはずです。
この連絡船の帰りの便が、今度はセイルタグを牽引して出発港に運びます。
セイルタグはセイルブームを畳んで細くして。
複数のユニットをまとめて曳航しないと採算が採れないでしょうから、なるべく小さくなるようにします。
それでも大きいので大変な作業になりそうですが。
海面帆 セイルタグ(上面図)
ビジネスモデルとしては、前述のエコノウィンドと同じものです。
ただしこちらは貨物船の浮力を必要としないので、いくらでも大きな、つまり帆走力のあるものを設定できます。
これをやはり前述のポッド推進器式の貨物船と組み合わせると、積荷効率が非常に良い貨物船が出来上がります。
大洋を横断する時はセイルタグを装着して、港湾を巡る時は発電ユニットを積み込んで。
航走に必要な動力源の大部分を外付け、船殻の浮力を使わずに賄う事ができます。
船の建造費も抑えられるでしょう。
セイルタグや発電ユニットの取得費や回航費、管理費などはレンタル会社がレンタル代で回収する事になります。
船主が船舶建造時に負担する必要はありません。
まあ、レンタル代はかなり高額になりそうですが。
さて、ここまでハイブリッド帆船を積荷の効率の面から見てきました。
妄想案がどこまで実現可能か次第ですが、ポッド推進器とセイルタグ、そして大陸横断貨物船に限定して考えると。
おそらく既存の貨物船をかなり上回る積荷効率の貨物船が実現できそうです。
では、ハイブリッド帆船の未来は明るいか、というと。
まだ、最大の難問が残っています。
速度の問題です。
現代の貨物船はかなりの高速船です。
総トン数が50万トンを超えるタンカーでも巡航速度14~16ノット、25~30km/h、コンテナ船ですと25ノット、45km/hにもなります。
25ノットという数字に、ピンとこない人もいるかもしれません。
約100年前第一次世界大戦の頃、高速戦艦としてデビューしたクイーンエリザベス級の最大速度が25ノットでした。
戦艦長門も高速戦艦でしたが、最大速度は26ノット程度です。
なお、この速度は最大速度であり巡航速度ではありません。
現代の豪華クルーズ客船の巡航速度が20~22ノット、フェリーで20~25ノット程度。
コンテナ船の速度は、現代の商船の最高速に近いと言えます。
これは現代の物流事情が大きく関係します。
現代の経済において「在庫」は損失です。
融資、つまり借金をして生産されたものは販売するまでの間、利息が掛かります。
実際の企業の投融資は複雑怪奇ですから一概には言えませんが、動いていない資産は利息損失や利益逸失など損害を与えるものと考えて良いと思います。
で、航海時間が長いという事は、その間は在庫と同じ状態と考えられるわけです。
荷主としては、荷は早く販売先に送って資金を回収したい。
高速船は建造費やいろいろな面で高額で、相応に輸送費は高くなるでしょう。
ですが上記との兼ね合いで、25ノットという高速コンテナ船が一般的になったのだろう、と考えられます。
他にも航海の回数というメリットがあります。
当たり前ですが同じ距離を航海する場合、高速船の方が航海時間は短くなります。
これは年当たりで考えた場合、航海の回数が増える事を意味します。
1年に10往復できる高速船と、6往復しか出来ない低速船では、輸送費収入が大きく違うでしょう。
1航海当たりの輸送費利益が低速船より劣っていたとしても(高速船の方が経費が大きくても)、回数をこなせる高速船の方がトータルの利益は大きいという事になります。
さてそういう状況で、ある意味速度は風任せのハイブリッド帆船はというと。
帆船時代にビューフォート(正確な名前はボーフォートらしいですが)というイギリスの海軍軍人が作り、現代でもいろいろ手を入れられて使われているという。
ビューフォート風力階級というものがあります。
日本の気象庁風力階級も、これの翻訳ものだそうです。
よく風力5とか、天気予報で使われている。
風力7になると気象庁は「ヤバいですよ」と、海上風警報、つまり船舶に注意を促すそうですが。
その時の風速が28~33ノットです。
高速帆船たるティークリッパー。
そのトップのサーモピュレーは平均15ノット、時には蒸気船と併走して16ノットを出したそうです。
彼らが利用した吠える40°の風速は、風力9、41~47ノットという記事をやっと見つけました。
サーモピュレーの出した16ノットが吠える40°、41~47ノットの大強風下のものなのかどうか。
いろいろ調べが足りないのは承知の上ですが。
帆船の速度が風速と同じ、などという事はあり得ないでしょうから。
ハイブリッド帆船は、帆走だけならば10ノット出るか出ないか、という事だろうと思います。
これはまあ、どうしようもないかな、と。
海洋の風は陸地近辺より安定しているとは言え、常時28~33ノットが出る訳ではないでしょう。
速度を確保するならば、動力航走との併用がどうしても必要になる。
動力設備を切り離す事は出来ないという事です。
それでも風力が5、17~21ノットだとしたら、15ノットで航走するとして、帆走は動力航走の補助にはなるでしょう。
それ以下の風速なら、帆は却って動力航走の邪魔になる。
結局のところ、帆走は従来のコンセプト通り、動力航走の補助、燃料の節約手段にしかならない訳です。
そしてそのシステムならば、積荷効率の点で既存の貨物船には勝ち目がない。
偏西風の吹くところ、貿易風の通り道は、必ずしも大陸間の最短経路ではありません。
風に沿って行くならば結構な回り道になるはずです。
そこも航海速度という事から言えば、遅くなる要因です。
小水線面積双胴船(SWATH)仕様にして本船の抵抗を極力減らして。
海面帆システム、セイルタグで目一杯帆の面積を大きくして。
船側で出来る事はここまででしょう。
後は、海洋に吹く風が速い事を願うしかない。
時間が掛かってもよい、と言うような荷があればいいのですが。
他には、工場船ぐらいしか思いつかない。
出発港で原料を積み込んで、航海中に加工して到着港で製品を降ろす、船です。
航海中の時間を生産に当てる。
陸地の工場に比べて、税金や土地取得の費用はなくなりますが。
でも、工場のシステムがデッドウェイトですし、工場を稼働するための動力源も要りますし。
ここまでにしておきます。
後の問題は、帆船、船の仕組みでは解決できない事だと思いますし。
何としても達成しなければならない企画だったりするなら、これから塗炭の苦しみが始まるのですが。
気儘な(誰も読まない)エッセイですので、ここで放り投げる事にします。
ここまで読んで下さった方。
ハイブリッド帆船の明確な未来というものを、提示できずに終わりました。
ごめんなさい。
誰か、優れた方がこの問題を解決してハイブリッド帆船の未来を切り開いてくれるはずです。




