脇道16 :戦争の功? 飛行船と帆船 帆船
蒸気船が実用化されてきた頃、それに反対する人たちがいたそうです。
主に英国海軍辺りに、でしょうか。
「石炭がなくなると動けなくなる船に乗れるか!!」
らしいです。
大西洋横断、コロンブスは食糧と水の枯渇で危うく反乱されそうになりました。
水と食糧を充分に積むのでさえ苦労する船に、さらに石炭を積む?
しかもなくなったら動けなくなる?
ホーンブロワーの帆船ものなどを読むと、小さな船で結構遠くまで進出しています。
水と食糧(陸地なら比較的何処でも調達可能)さえあれば、何処までも行ける帆船ならではでしょう。
帆船でなければ、英国も世界に覇を唱える事は難しかったかもしれません。
でも、まあ。
戦場ではどうしようもない。
帆船ものの小説なんかでも、特にイスラム圏相手の海戦では自在に動き回る櫂船(ガレー船、でいいのかな。3段櫂船なんてあったみたいですけど)に苦戦します。
舷舷相摩す接近戦なら別でしょうが、ある程度距離を取った砲戦ならば風に関係なく自在に動ける方が絶対に強い。
蒸気船が出てきた頃、木造船に鉄板装甲を施す事も始まったようで。
アメリカ南北戦争では装甲板を貼った南軍の蒸気船メリマックに、帆装軍艦は為す術もなく沈められています。
大体、火が弱点の木造船に、燃えやすい帆を(耐水性アップのために油も塗り込んである)備えた帆船が、それらのない鉄製蒸気船に勝ち目がある訳ないです。
なので反対意見も空しく、軍艦は動力船の方に一斉に舵を切ってしまいました。
民間船の方はそれでも結構粘ったらしいです。
有名な「魔女のシュミーズ」もとい「カティーサーク」や、「300人の戦い、テルモピュライ」英名「サーモピレー」などの名だたる快速帆船、ティークリッパーが活躍していました。
ティークリッパー。
中国からイギリスまで、従来は1年~2年がかりの行程を、僅か100~120日で結ぶ高速貨物船です。
その目的は、変質しやすい中国産のお茶をいかに早くロンドンに届けるか、でした。
大陸の南端、アフリカ喜望峰や南米ホーン岬を周り、吠える南緯40度の強風に乗ってかっ飛ばす。
その姿は如何にも帆船という、スマートな船体に大きな帆、というものですが。
実はあれ、帆船時代の黄昏、最後に現れた徒花というようなものです。
現在目にする帆船。
実物は各国の海軍の練習船や、日本で言えば海技教育機構の日本丸や海王丸。
模型の世界では好事家の作るボトルシップやプラモデル。
カティーサークやゼー・アドラー。
帆船の型式は帆装仕様で変わるみたいですが、船体はいずれもかつてのクリッパー船のものを模しています。
まあ、私の浅学な認識では、ですが。
余り詳しくないので、愛好家の方から見れば噴飯物の認識かもしれません。
謝っときます、ごめんなさい。
クリッパーと言う言葉から、近代戦艦のいくつかを連想される方もいると思います。
ワシントン条約明けから建造された近代戦艦は、いずれもそれ以前の戦艦と隔絶したと言えるほどの高速戦艦で、それを実現するためにクリッパー船の船体を参考にしています。
それほど速度に特化した帆船で、そのため船体は優美なラインを描き、当時からも熱烈なファンがいたそうです。
特にカティーサークとサーモピレーの速度対決は、英国パブでの定番の話だったそうで。
謂わばヤンキース対レッドソックス、オックスフォード対ケンブリッジ、早稲田対慶応みたいな感じだったのでしょうか。
なので帆船というとクリッパー船を思い浮かべる人が殆どだと思うのですが、帆船全盛期の帆船はクリッパー船とは似ても似つかないものでした。
その形は、ひと言で言えば「樽」ですかねえ。
ウィスキーなんかを熟成するあれ。
あれを横向きに浮かべて帆柱を3本ばかし建てた、という感じです。
実際、コンセプトというか帆船構造の狙い的には「樽」に近かったそうです。
樽は密閉していれば、どのようになろうと沈まない。
当時の帆船は円断面の船体の、上部分が甲板に水平に切り取られた形状で。
甲板と船内をつなぐハッチは最小限で、密閉できるものだったみたいです。
なので嵐でどれだけ水を被ろうと、帆が横風を受けて船体がどれだけ傾こうと、沈まない。
多分、当時の帆船では30°、40°のローリングは当たり前にあったのではないかなあ。
船の寝具はハンモックが定番ですが、ロープで吊られていて自在に振れるあの寝具は、船がどれだけ傾いても寝ている人間を放り出しはしない。
普通のベッドだと寝ていられないほど傾くからハンモックが生まれたのでは、とも思います。
実際、丸っこい船底にあれだけ高い帆柱。
しかも帆に横風を受けたら首尾線を軸にしたトルクが発生するでしょうから、傾かない方がおかしい気がします。
一方、千石船で知られる日本の船、和船は積載性重視のため甲板がなかったそうです。
江戸幕府が”大船建造の禁”で甲板を貼るのを禁止した、というのは間違いだそうですが。ともあれ甲板なしの和船は「樽」ではなく「桶」でした。
そのため、水を被れば簡単に沈んだそうです。
さて、その「樽」たる戦列艦に人間をいっぱい詰め込んだのが当時の帆船でした。
ヴィクトリーはトラファルガー海戦で圧勝した英国艦隊の旗艦です。
3段砲列に104門の大砲を積んだ当時の一等戦列艦で、3500tに850名の乗組員。
手間の掛かる前装砲が104門もあった上に、当時の海戦は砲撃で決着が付くのは稀で斬り込んで勝負を決める。
人間の数が戦力だった訳です。
因みにWWⅡの頃の日本の駆逐艦 秋月、基準排水量2701t、公試排水量で3470t、乗員273名。
現代の自衛艦 たかなみ、基準排水量で4650t、満載排水量で6300t、乗員が175名。
如何に当時の帆船が乗員満載だったか判ると思います。
戦列艦は海上決戦用の主力艦でしたが、遠洋航海用と言えるフリゲートでもインディファティガブル、1000t程度でしょうか、乗員310名です。
樽のような密閉した船内に詰め込まれた数百名の男達。
帆装操作のロープ引きで汗だくで、真水は当然節約して。
船内環境が劣悪なのは簡単に想像がつくでしょう。
ついこの間まで、船室の上等区画は船尾側だったそうです。
帆船時代からの名残だそうですが、その理由は追い風を受けての帆走は船尾側が風上になるから。
風下だと船内の悪臭が押し寄せてきて堪らなかったそうです。
この時代、女性が船に乗るのは稀だったそうで。
海神の怒りに触れるとか、船が女性だから嫉妬するとか、如何にも男達が乗せなかったように言われていますが。
本当は女性たちに敬遠されていたんだろうなあ。
汚物溜めもかくや、と言われかねないほどの代物が帆船でした。
もちろん、進んで乗る人は殆どいません。(いたのかな?)
かつての英国海軍の水兵は罪人であったり、人狩りにあって強制的に乗せられていたりします。
ホーンブロワーの物語には、ロンドン市内で人狩りにあって逃げられないようベルトを切られた男達が、港に連行されていくシーンがあったと思います。
それでも軍艦の水兵はましだったそうで。
ガレー船、櫂で動く船の漕ぎ手は罪人や奴隷でした。
船倉の櫂の傍の長板に鎖で縛られていて、そこから一切動く事も出来ずに食事も排泄もそこでさせられていたとか。
もちろん死ぬまで。
さらにアフリカから奴隷を運んだ船は、狭い船倉、高さ20~30cmぐらいの隙間に奴隷を、理不尽に狩られたアフリカ現住民たちを、ぎっちり詰め込み航海の間中そのままだったそうです。
確か食事も水も与えられず、排泄もそのままだったと思う。
かなりの奴隷がそこで死んだそうですが、奴隷商人は頑健な個体を選別できると意に介さなかったとか。
アメリカドラマ「ルーツ」の最初の方に、そういう場面があったかな?
さて、英国海軍ですが、そういう帆船軍艦にイギリス貴族の子弟は上級士官として乗り込む訳です。
ヨーロッパ貴族はもとは騎士であり、武に依って立つものです。
当然、貴族の子弟は騎士としてあらねばならず、英国の場合その多くは海軍軍人になります。
現在のロイヤルファミリーの王子も(ダイアナさんの息子たちですが)海軍に所属して、ヘリコプターのパイロットなどしているのではなかったかな。
貴族の子弟、いわゆる貴顕ですが、成り立てのペーペーが優遇される訳もなく過酷な艦内環境で水兵たちと一緒に暮らす事になります。
イギリスは「メシまず」とか言われています。
この間もクールジャパンだったかな、どこかのテレビで「イギリス人が味を語るな」とか言われていたりしました。
イギリス人の上流階級の子弟の多くが名門パブリックスクール、イートン校とかハーロー校とかラグビー校とかで寮生活をおくりますが、そこの食事が栄養満点だけど粗食だそうです。
彼らは粗食とスポーツで身体を鍛える。
過酷な艦内環境に耐えるために素食なのか、粗食に耐えてきた海賊が貴族になったからそのままなのか知りませんが。
世界の富を集めた大英帝国の食文化がしょぼいのは、まあ、上流階級が美食に興味がなかったからでしょう。
または、英国海軍軍人として美食に耽溺する事を良しとしなかったか。
ホーンブロワーの物語の中に、外国の要人を船内に招いて食事をするシーンが出てきます。
若い士官、貴族の子弟ですが、無意識に堅パンを机の角にコツコツと打ち付けるという失態をしてしまう。
いつも堅パンの中に巣くった虫を追い出してから食べているので、つい習慣で、だそうです。
中世のロンドンの街を歩くときは上と下に注意して、だったかな。
どっかに書いてあったような気がする。
ヨーロッパの家屋にはトイレがなかったそうで、それはベルサイユ宮殿も例外でなかったのは結構有名な話です。
排泄は寝室のベッドの下の壺にする。
メイドさんはそれを窓から外に捨てる。
落ちているものと落ちてくるものに注意して、だそうです。
ペストが流行ったら大量死するはずだ。
上流階級の生活も、それからさほど違いがあったわけではなかったのでしょう。
英国貴族は「メシまず」で「汚くても平気」だったから海軍が強かった、と言えるかもしれません。
美食家で潔癖症だったら、まあ、発狂するでしょう。
WWⅡの前、英国ジョージ6世の戴冠式に日本の条約型重巡、妙高クラスの足柄が派遣された事がありました。
「飢えた狼」というニックネームを付けられたというエピソードは結構有名ですが、同時に居住性の悪さも批判されています。
私は最初は「文明国のイギリス人が後進国の軍艦にケチを付けた」と思ったりしていたのですが。
考えてみれば、英国海軍は足柄などと比較にならないほど居住性の悪い帆船を運用してきた歴史があるわけです。
なので今では、これは経験者からの忠告だったりしたのかな、とも思っています。
でもまあ、ここらへんは帆船全盛期の軍艦の話で、民間の帆船はクリッパーという高速船に発展したのは前述したとおりです。
軍艦の場合、日清戦争やその前の普墺戦争のリッサ海戦から装甲動力船が使われていますが、商船の場合はWWⅠの頃でも結構な数の帆船が運用されていました。
ゼー・アドラー。
WWⅠのドイツ帝国海軍、ルックネル船長の帆船仕様の通商破壊船ですが、その獲物の半数近くは帆船だったそうです。
ティークリッパーは南緯40°の強風帯を利用してアジアからヨーロッパまで短時間で結んでいました。
現在の感覚で見ると、なんで北半球からわざわざ赤道越えて南半球まで来るんだ、と思うのですが。
当時はアジアからヨーロッパに行くには、アフリカ喜望峰か南米ホーン岬を越えなければならないわけで、どっちにしろ南に行く必要がありました。
それが変わったのはスエズ運河とパナマ運河が出来て、南の大陸突端を越えなくてもアジアからヨーロッパに行けるようになってからでした。
同時にティークリッパーも存在価値を失いました。
いくら吠える40°を使っても、運河越えのルートの方が速かったのです。
同時にスエズは無風地帯で帆船は航行できませんでした。
それまでのティークリッパー船は積み荷を茶から羊毛に変え、南半球のシドニー-ロンドン間のウールクリッパーとなりましたが。
その頃には新しいクリッパー船が作られる事はなくなっていました。
帆船は老朽化に伴い、引退して数を減らしていったのです。
木造船は建造するのに大量の木材資源が必要です。
朝鮮半島の山々から森が消えたのは、元寇時の日本侵略船団を建造したためといわれていますし、スペインの地に森がないのもかつての無敵艦隊アルマダの船材になったせいとも言われています。
船材に適しているのは成長の遅い巨木ですし、建造時にはフレームをなじませるため船台で数ヶ月放置する、という工程も必要だったそうです。
木造船の大船建造には強度面での技術的限界もありました。
18世紀後半から19世紀にかけて、木造船は建造が難しくなっていったのです。
そして鉄鋼船に帆柱を建てる船主はいなかったのでした。
フランスだけは補助金制度と船員資格の関係で、鉄フレーム+鉄帆柱の木造船を建造していたそうですが。
こうして帆船は衰退していきました。
現代でも帆船は存在しています。
もちろん、現代の帆船は鉄鋼船で高張力鋼製帆柱ですが。
古いタイプ、帆装を人力で操作する帆船は主に練習船として海軍や学校などで使われています。
日本丸や海王丸、チリ海軍のエスメラルダやポルトガル海軍のサグレス、インドネシア海軍のビマ・スチなど。
殆ど動力船しかない船舶業界で帆走技術など学んでも何の役にも立たない、といわれながらも存在しています。
何というか、シーマンシップが身に付くそうです。
商用としては。
クルーズ船としてはスタークリッパー社が、5000t5本マストのロイヤル・クリッパーをフラグシップとした4隻のシップ型帆船を運用しています。
ネックは船の小ささでしょうねえ。
かつては富裕層の独占だった豪華客船クルーズも、現代では庶民、中流階級にも届く価格になっています。
というか、これらのボリュウム層をカスタマーに取り込めたおかげで、現在のクルーズ業界の活況があるのですが。
そのキーが巨大客船、10万t越え、による費用対効果の向上です。
帆船ではその方法は採れない。
流石に10万t越えの帆船は作れないでしょうし、第一そのような巨大帆船は帆船の情緒を損なうでしょう。
難しいところだと思います。
他にはフランスの海運業者が108隻の古い帆船でワインを運んでいる、という記事がWikiに載っていました。
古い帆船。
索具や綿帆を使っているのでしょうから、まんまかつての帆船の操船方法で運行しているのでしょう。
船員は確保できているのでしょうか。
確かに海軍では帆船で実習しているようですが。
人員は、カティーサーク約1000tが28名で運用できていたそうですから、それほど人手はいらないのかな?
燃料代などにメリットがあるそうですが、主な目的は環境への配慮、アピールにありそうですが。
他にはスポーツですか。
ヨット、セーリング競技に出場している帆船。
アメリカスカップなどは以前注目された事がありましたね。
結構大きなお金が動くみたいで、船体や帆は炭素繊維系などの先端素材で作られています。
ここらへんの技術の蓄積は、21世紀の帆船開発にとって追い風でしょう。
さて、ここらへんまではクラシカルな帆船です。
21世紀の技術を使っているにしろ、基本的なシステムは従来の帆船と変わらない。
では、新しいシステムの帆船は、というと。
より効率的な帆船となると昔の表現で機帆船、現代ではハイブリット船といわれるものでしょう。
このエッセイの主題は、もし、戦争で淘汰されずに帆船が生き残っていたら現代の技術でどのようになっていたか、です。
クルーズ帆船もスポーツヨットも確かに現代の技術で建造されていますが、敢えて古いシステムというか、伝統的な帆船をなぞって存在しています。
そういうような存在を例えれば。
オーディオで言えば、CD全盛の現代にレコードとレコードプレイヤーとか。
腕時計で言えば、クォーツと電動モーターシステム、デジタル主流なのに手巻きの機械式時計とか。
ニッチというか、趣味の世界で古いものが生き残るのは、ある意味当たり前です。
そういうものではなく、現代の物流システムの中で、純粋な費用対効果で帆船が存在出来るか?
ではその帆船とはどういうものか?
巨大タンカーやコンテナ船、または自動車運搬船やLPG運搬船など。
現代の海洋物流の主役たちの中に帆船は存在し得るのか?
それを考えるのがこのエッセイの主題で。
まあ、それに一番近いのがハイブリッド船なのだと思います。
なので、私の妄想案もハイブリッド船になります。
ネットの知識をかき集めて、でっち上げてみることにしましょう。
どうなることか。
現状、帆船と動力船のハイブリッド船といえば新・愛徳丸でしょうか。
写真をそのまま貼れれば良いのですが、著作権法が怖いので一旦イラスト化して掲載します。
総トン数約700t、乗員8名の内国航路のタンカーです。
中東から原油を運んでくるというわけではなく、コンビナートから石油製品を各地に運んでいる、という船でしょうか。
3つ折りに畳まれている帆は最大で50%近くの燃料代を節約できるそうです。
ただし、初期投資の多さや積荷量の制限があり、この一隻で建造は終わっています。
帆装のハイブリッド船に可能性があるかの、実証実験だったのでしょう。
絵は余りにも酷過ぎますので詳細はネットでご確認ください。
それ以外にはイラストにあるような各種ハイブリッド船が検討されています。
注目すべきはオランダの会社で、40フィートコンテナに収まるセイルユニットと言えばいいのか、積載可能な帆のシステムを販売しています。
他にもイラストのような案も検討されています。
東大だかどこかの大学みたいですね。
船首辺りに帆柱を1本建てて合成樹脂製らしい帆を付けていますが、これを船体全体に設ける案もあるようです。
方向性としては間違っていないと思いますが、ただコンセプトがなあ、と思います。
基本的に現代の機帆船、ハイブリッド船は燃料の節約を目的としていると思います。
前記の新・愛徳丸は最大で50%近くの燃料が節約できたそうですが、これは全航程において、というわけではないでしょう。
最大で、とあるのですから、風の状態が最良の状態で瞬間的にか、然もなくば一定時間においてだと思います。
では、全航程において平均的にはどの程度燃料代が節約できたのでしょうか。
一方、建造費は別にしても帆装設備を搭載しているという事は、少なからず積荷量が減って損をしているという事です。
節約できた燃料代が積荷量が減った損分より上回っているのならば、ハイブリッド船に取り敢えず運用上のメリットはあると言うことですが。
多分、なかっただろうなあ、と。
それに加えて帆装設備で跳ね上がった(おそらく)建造費の+α分の償却があるわけです。
商業ベースではおそらく、採算が採れなかったのではないでしょうか。
これは新・愛徳丸に限った事ではないでしょう。
動力航走を主とし帆走を従として燃料代の節約を目的としている限り、ハイブリッド船にメリットはないでしょう。
帆装設備が軽くコンパクトでありついでに安価であれば、節約した燃料代で利益が出るかもしれません。
それから言えば40フィートコンテナひとつ、簡単に搭載できるエコウィンド製の帆走ユニットはコンセプト的には正しいのですが。
では、あのユニットだけでどの程度の燃料が節約できるのでしょうか?
帆走で大きな力を得るには、それ相応の巨大な帆が必要です。
カティーサークなどは巨大な帆を広げて、さらにトップセイルの横にスタンセイルまで広げて風を受けていました。
帆装設備というものは、どうしてもコンパクトには出来ない物だと思うのです。
それでも各種ハイブリッド船が開発、検討されているのは、化石燃料使用を抑えて地球環境の改善をするため、なのでしょうが。
商業的にメリットが、それも大幅なメリットがない限り、ハイブリッド船はシェアを獲得する事は難しいと思います。
環境負荷を抑えている、という姿勢は企業の好感度を上げてくれはするでしょうが、ワインなどの商品でもない限り付加価値としてのお金にはならないものです。
ハイブリッド船だからと言う理由で、割高な輸送費を払ってくれる荷主は多分いないでしょう。
では、どのようなハイブリッド船なら生き残れるのか。
まずはコンセプトを考えてみましょうか。
まず前提として、帆装設備は船舶の構造の中で大きな比重を占めるという事です。
重量的にも、スペース的にも、建造費的にも。
である以上、帆装設備はそれ相応の大きな働きをして貰わなければ割に合いません。
つまり帆走を主とし動力航走を従とする、ということです。
また、現代の技術はそれを可能にしています。
今までの動力船の推進システムは、船腹に大きなスペースが必要でした。
軍艦ならば古いものならばボイラーと蒸気タービン、それと変速ギヤ。
現代でもディーゼルエンジンやガスタービン、電動機などに大きな区画を割いています。
商船ならばディーゼルエンジンが主でしょうか。
そこからギヤを介してスクリュウまで長いプロペラシャフトを要します。
ところが今では推進器自体は小さなものがあります。
ポッド推進器、商品名で言えばアジポッドでしょうか。
舵の先にモーターとスクリュウを付けたものです。
相応に巨大な物ではありますが、それでもジェット旅客機のエンジン程度の大きさのもの4つで、全長345m、14万8千トンのクィーン・メリー2を動かす事が出来ます。
もちろん、クィーン・メリー2はこれだけでは運航できません。
船内にはこの推進器に電力を供給する、相応に巨大な発電機が備えられています。
ですが、ものは電力です。
バッテリーなり発電ユニット搭載なり外部供給なり、それなりに自由がききます。
つまり、現代においては動力推進システムは”軽くコンパクトで安価”(従来と比較して)になってきているのです。
これは動力航走を”従”として動力ユニットがデッドウェイトになる期間が生じても、船舶の運用コストにかける負担は小さいという事を意味します。
日本橋下を流れている水が、はるかにロンドンまで通じている。
これは林子平の海国兵談の一部をもじった言葉ですが、その通り海路に制限はなく、かつての帆船は全ての海に通じていました。
向かい風だろうと微風の湾内だろうと、複雑な帆を操作して巧みに難水面を攻略していましたが。
今、それをしたらダメです。
帆装ハイブリッド船は向かい風に間切ったりはしないそうですね。
ジグザグに間切るぐらいなら動力航走で進んだ方が効率が良い。
多数の船が行き交う港内や狭い海峡などで、もたもた帆など操作していたら迷惑だし危険でもあります。
全ての水面に行くのは動力船の領分です。
帆船は、つまり帆走を主とし動力航走を従とする船は、航路を選ばなければなりません。
そういう航路、ありますよね。
ティークリッパーの独壇場、吠える南緯40°。
太平洋にも大西洋にも西に向かって常に吹く偏西風と、東に向かって吹く貿易風があったはずです。
この気流帯を常に利用する、太平洋、大西洋を往復する大陸間の貿易船。
長期間の帆走も見込めますし、荷量も多いと思われますので船殻も大きく、つまり費用対効果も高く出来ます。
ちょっとビジネスモデルを考えてみますね。
大西洋航路の場合、アメリカ側の出発港はボストンが良いでしょう。
そこから貿易風に乗って帆走し、アイルランドのゴールウェーに入港します。
そこで発電ユニットを積み込んで、以降はポッド推進器による動力航走に切り替えます。
ヨーロッパの各港。
ハンブルグやロッテルダム、ル・アーブルやロンドン、繁忙港では係留時間や入港時間が細かく制限されているでしょうし、行き交う船も多いでしょう。
それらを巡るのに帆走で出来るわけがありません。
動力航走で行います。
で、アメリカからの荷を降ろし、アメリカ向けの荷を積んだらリスボンに向かいます。
そこで発電ユニットを降ろし、偏西風に乗って帆走し、ジャクソンビルに入港します。
ジャクソンビルで発電ユニットを積み、アメリカ東海岸の各港を動力航走で周りボストンに行きます。
ボストンで発電ユニットを降ろし、再び大西洋帆走航行に向かいます。
太平洋航路の場合はロサンゼルスが出発港ですね。
そこから偏西風に乗ります。
途中、ハワイホノルルにも寄れそうです。
アジアの到着港はフィリピンのバラナン。
リゾート施設しかないようですが、地形は港に向いています。
そこで発電ユニットを積み、アジア各港を巡ります。
アジア側の出発港は八戸が良さそうです。
そこで発電ユニットを降ろし、北太平洋の東向きの風に乗りアラスカ沿岸を下ります。
アメリカ側の到着港はバンクーバーかシアトルか。
そこで発電ユニットを受けとり、アメリカ西海岸を動力航走で下りながらコンテナを授受し、ロサンゼルスに入港します。
発電ユニットをそこで降ろして、アジアに向け帆走を開始します。
少し細かく設定しすぎましたか。
まあ、実際のところ、帆船貿易の頃にはそれぞれの大陸に大洋横断船の受け入れ港があったでしょうし、そこの方が適しているかもしれません。
地球規模の風の流れを動画で表示してくださる、良いサイトを見つけてしまったので、つい。(ありがとうございます)
もしハイブリッド船貿易が盛んになり、それぞれの発電ユニット受け渡し港がハブ港になれば。
ハイブリッド船は大洋横断専用船となり巨大船化が進み、費用対効果はさらに上がるでしょう。
懸念事項としては”凪”でしょうか。
現代の高精度の天候予測技術を用いても、昨今の異常気象では外れて凪に捕まる事もあるでしょう。
その場合は、バッテリ-で動力航行を行います。
太陽光発電も併せて利用しますからバッテリーは搭載しますし、その量も満充電で半日ぐらい動ける程度には積んでおきます。
最悪、バッテリーが空になっても凪を抜け出せなければ、ヘリなり動力船なりでバッテリーユニットを運んで貰う方法もとれます。
さて、成立しそうなビジネスモデルを構築して、ハイブリッド船のコンセプトが固まったので、これから絵を描き出すのですが。
それにしても。
新・愛徳丸って何がしたかったのだろう。
季節や地形で気候の安定しない陸地近くの内国航路で、頻繁な入出港があって、費用対効果の見込めない小型船。
ビジネスモデルとしては最初から成立していませんよね。
やはり、帆走システムの耐久テストと地球環境改善のアドバルーンだったのでしょうか。
さて、帆走主体のハイブリッド船、妄想案です。
コンテナ船です。
12000TEUというのでしょうか、40フィートのHi-Cubeコンテナで5148個、通常の20フィートなら12012個積載可能という設定です。
全長300m、全幅60m、吃水22m、総トン数は10万tを越えるでしょうか。
パナマ運河もスエズ運河も通る予定がないので、パナマックス全長294.1m、全幅32.3m、吃水12mも、スエズマックス全幅50m、吃水20.1mも無視です。
インド洋にも行きませんのでマラッカマックス吃水20.5mもオーバーします。
ただ、中国沿岸港には行くでしょうから、チャイナマックス全長360m、全幅65m、吃水24mは守りました。
コンテナ船は荷崩れが起きると船が壊れますので、ローリングは極力抑えなければなりません。
ローリングを抑える装置、フィン・スタビライザーやアンチローリング・タンクを備えている船もあります。
高い帆柱でローリング必須の帆船とは、実は相性の悪い船種です。
なので全幅を大きくし、ローリングを減らせる双胴船にしました。
チャイナマックスさえなければ、100m幅ぐらいにしたいところです。
バルバスバウなどの船首構造は全て内側に設け、外側は波の起こらない平板状になっています。
帆柱は舷側上にラーメン構造のケージを設け、その上に並列4セット、8本立てました。
船の中心線上に立てる従来の帆柱とは大きく異なりますが。
従来の帆柱、中心線上の帆柱は、船の構造材の中で最も強度のある竜骨上に立てられていたのだと思います。
ですが、ブロック工法で作られる現代の貨物船には根性のある竜骨はありませんよね。
それどころか船体の中央部は空っぽ、荷を積むための広大な空間になっています。
現代の貨物船は、船の外形、船殻で立方体を形成し構造強度を確保しています。
同時に、貨物船の甲板は荷を扱う作業場です。
真ん中に帆柱が立っていたらすごく邪魔になるでしょう。
なので甲板中央部が広く取れ、構造材でもある舷側に帆柱を立てました。
ケージを設けたのはコンテナ作業の邪魔にならないようにするためですが、それでも港にあるガントリークレーンは使えないかもしれません。
帆柱は8本全てを上部で連結し、一体化して強度を上げています。
で、ジャッキによって倒れるようにしました。
高さ制限と動力航走時のためです。
湾口に横断橋がある港では(サンフランシスコのゴールデン・ゲート・ブリッジとか横浜ベイブリッジとか)入港するのに高さ制限がある場合があります。
ゴールデン・ゲート・ブリッジに激突する船は多分いないでしょうが、横浜ベイブリッジだと、以前来日したクィーン・メリー2のように入港できない船もあります。
それと、高い帆柱は畳帆していても風の影響を受けます。
動力航走時には狭い水路や多くの船が行き交う水面も走るでしょうが、その状況で突風を受けて針路が乱れるととても危険です。
甲板上のケージにはガントリークレーンを設けてあります。
コンテナ船の中には自前のクレーン(門形クレーンというえらく頑丈そうなもの)を備えているものもありますが、通常はデッドウェイトになるクレーンは備えません。
今回取り付けたのは帆柱が邪魔で港のクレーンが使えない可能性を考慮してですが、一番の理由は、折角ケージがあるのに付けないのは勿体ない、です。
自前の荷下ろしクレーンがあれば、埠頭の順番待ちをする必要はないでしょう。
ただし、発電ユニットを積むか港から電力供給を受けないと動かせませんが。
帆装は8本の帆柱に、それぞれ曲面の帆桁に一枚帆を取り付けます。
炭素繊維で編んだ帆布などは丈夫そうで良いのですが、耐候性などはどうなのでしょう?
できれば、薄型、柔軟性ありの布状太陽電池パネルが開発される事を期待して、それで帆が作れれば、と思います。
ウェアラブルコンピュータ用のものが開発されていると思うのですが。
帆の面積はフォアマストはブリッジからの視界を考慮して小さく帆桁4段2250平方m、メイン、ミズン、ジガーのものは帆桁5段で3000平方m。
合計で22万5千平方mになります。
帆は帆柱を中心に左右90°に回動でき、帆桁を上に上げる事で縮帆を行います。
帆柱を倒すときは、全ての帆桁を最上部に引き上げ、外側に90°回転させて畳帆します。
双胴船の吃水下には中央に重量物たるバッテリーを置きます。
こいつは帆装時にはデッドウェイト気味ですが、舵やフィンスタビライザーの駆動、レーダー、通信機、生活設備を動かすのに要ります。
その電力は太陽光発電パネルで発電し、蓄電します。
その前後には、前後左右4箇所、パイプで連結されたアンチローリング&ピッチングタンクが来ます。
フィンスタビライザーは双胴の内側に前後2箇所。
コンテナの積載は一応吃水線上だけを考えていますが、喫水線下も必要でしょうか。
動力システムは船内にスペースを取らないポッド推進器システムです。
ポッド推進器は双胴の真ん中の水路に、船首と船尾に2箇所。
もちろん、舵も兼ねます。
いわゆる両頭型双胴船ですね。
舵を船首側に置いても普通の船体では意味がありませんが、双胴船のように船体の中央に水路がある場合は効果があると思うのです。
(思うだけです。
本当かどうかは知りません。
船舶工学専門の方、ごめんなさい。)
通常の船尾にある舵では、針路を変える、つまり曲がるときは船尾を一旦曲がる方と逆側に振り出してから曲がります。
もし、船首側の舵が効くのであれば、普通の自動車のように船首が先に曲がり出すでしょう。
より自然なターンになると思います。
ポッド推進器は通常は360°回転できるように設置されますから、真横に向けてバウスラスターとして接岸、離岸作業にも使えるでしょう。
180°回転させての後進も簡単です。
それどころかそれぞれを90°逆方向に向ければ、その場転回、戦車などが行う超信地回転も出来るかもしれません。
巨大で幅広い、つまり狭い港内で動きが制限される船体がこのような動きが出来れば、操船もかなり楽になるはずです。
発電ユニットは40フィートコンテナ規格のケージの中に、ディーゼルエンジンを納めたもの、を想定しています。
もっとも、クィーンメリー2の発電機は巨大でしたから同じ程度の発電をさせるなら、それなりの数の発電ユニットコンテナが必要でしょう。
ですが、クィーンメリー2は客室設備にも大量の電力が必要だったでしょうから、純粋な動力用の電力はそれほどでもないかな、と甘く考えていたりします。
あの船、26ノットの高速船でもありましたし。
こちらは港湾巡りですから、それほど速度は要りませんし。
もちろん発電機用の燃料タンクもコンテナゲージに納めて、発電した電力をコントロールするユニットもコンテナで。
通常の荷物コンテナの間に積むような形で搭載します。
他にも発電船、みたいなものも考えていたりします。
つまり巨大な発電機と燃料タンクとコントロールユニット、それだけを積んだ船。
コンテナ船と電力ケーブルをつないだだけの、引っ張らないオーシャンタグみたいなものでしょうか。
帆走の到着港と出発港で荷物の受け渡しをしないのであれば、入港する必要のない洋上で連結する発電船の方がお得です。
入港すればそれだけでお金が掛かりますし。
ただし荷下ろしなどで入港するときは、切り離さないとダメでしょうね。
危険ですし。
切り離してバッテリ-航走で入港して、港で改めて発電ユニットを積んでも良いでしょうし、そのまま出港して外海で再び連結してもいいでしょう。
他にも小水線面積双胴船(SWATH)仕様も考えられます。
荷室を完全に吃水線上に限定するならば、水線下は浮力装置に出来るでしょう。
そう考えるならば、そこを水素タンクにしてしまっても良いかもしれません。
空気を入れるより少ない容積で同等の浮力を得られるでしょうし、爆発事故や火災の可能性も水中にあれば大事にはならないでしょう。
もちろん、水素タンクは隔壁で細かく分ける事が条件です。
でないと、爆発、浸水、そのまま沈没、ですから。
水線下が軽量だと単胴船では簡単に転覆しますが、双胴船なら無問題です。
SWATHの目的は、もちろん高速度などではなく、少ない風力でも充分な速度を得るためです。
造波抵抗などの航行に伴う抵抗が小さくなれば、風が弱くても充分な速度が確保できるでしょうし、そうなれば帆装設備も小さく出来ます。
などなど。
現代の帆船はまだまだ技術開発の余地があるでしょうし、それは帆船の価値を高めるものでしょう。
初期投資は大きそうですが、一旦ビジネスモデルが確立すればシェアは広がるでしょう。
環境のため、という看板はお金にはなりませんが、こういう流れの場合は後押ししてくれるはずです。
なので、ここで終わります。
正直、描いてて面白くない。
理詰めでハイブリッド船をデザインしてみましたが、帆船の優雅さなど欠片もないんですもの。
もし、優雅な帆船の事を期待してこのエッセイを読まれた方がいたら、申し訳ない事をしたかな、と。
最初は4000文字足らずから始めたエッセイが今では14748文字。
内容がずるずるとだらしなくなったからでしょうか。
読まれた方には申し訳ないと。
改善、するかなあ?
これで脇道の種は尽きました。
本編しっかりしないとエタ、一直線ですね。
取り敢えず完結しておきます。




