脇道14 :戦争の功? 飛行船と帆船 飛行船
まだまだ本編迷走中
なので脇道だけ3編投稿します。
戦争の功罪と言う言葉があって。
”罪”には触れませんが、”功”というと必ず”技術の発展”という言葉が出てきます。
戦争は技術を発展させた。
確かにジェット機を始めとする飛行機も、宇宙ロケットを含むロケット技術も、WWⅡで大きく発展しました。
では、それは本当に”功”なのか?
という天邪鬼的な疑問が今回のテーマの発端です。
通常の技術開発、つまり商品としての製品開発は、当然のことながら事業計画に基づきます。
開発費を主とした投資額が、製品の販売利益で回収できるどうか。
もちろん、ファンドやら借り入れやらなどの金融の絡みはありますが、結局は同じ事です。
乳母車からジェット機まで。
当たり前ですが、掛けたお金を回収できないと企業は潰れますからね。
ところが、戦争となると違います。
負ければ全てを失うのですから。
勝つためには、なりふり構っていられない。
お金も時間も人手も怒濤のようにつぎ込む。
採算のことなど考えない。
本当は開発した兵器が有効かどうか、きちんとケーススタディを行ってからするべきでしょうけど。(アメリカはそれが比較的できていたようですが)
まずは開発した物を戦場に出して、ダメならさらに改良して、というように、とにかく時間を優先します。
なぜなら相手も全力で開発していますから。
少しでも遅れれば、相手の開発品に負けてしまいます。
かくて、平和時には障害となる全ての柵が、”勝利”の二文字の前に沈黙します。
技術が驀進するはずです。
一方、戦争における開発という物は、厳しい選択に晒されます。
どちらが戦争に有効か。
ふたつの同じような物があった場合、より戦争に有効な方が優先されます。
駄目な方は顧みさえもされない。
戦時には国内のリソースを総動員しますが、リソースは有限で開発するものは多い。
そうして片方は驀進していき、片方は停滞する。
そうなると技術格差が付きすぎて、停滞した方は消え去るしかなくなります。
では、消え去った方は本当に消えなければならなかったのでしょうか?
戦時の開発の選択は、戦争の論理で行われたものです。
平時の、普通の経済活動の中であれば、別な選択もあったでしょう。
で、あれば。
戦争の”功”は、実は有力な技術体系を潰した”罪”ではないのか?
戦争さえなければ、その技術体系はそれなりの経済的メリットを有してシェアを維持し。
そのシェアを基盤として技術発展し、現代の私たちに恩恵を与えてくれていたのではないか。
その代表としての”飛行船”と”帆船”。
戦争の論理ではなく、平時の経済活動の論理として。
21世紀の技術水準で発展した”妄想の中の”、飛行船と帆船を考えてみよう、というのがこのエッセイの主旨です。
さて、どうなることか。
まずは飛行船からでしょうか。
帆船の話のつまに、ついでに書こうとしただけなので、熱心な飛行船ファンの方には目をつぶっていて欲しいのですが。
軟式飛行船と硬式飛行船があるそうです。
軟式飛行船というのは熱気球に代表される気嚢、バルーンに骨組みの入っていない飛行船のようで、競技用とか観光用でしょうか。
他にも広告用に空を飛んでいる飛行船も該当するのかな。
あれらも商業用と言えばそうなのでしょうが。
ここで考えるのは輸送機器としての硬式飛行船。
かつてのツェッペリン号やヒンデンブルク号のようなものです。
変な彩色はおふざけです。
似合わない。
さて、最初に考えるのは”なぜ、かつての飛行船は衰退したか”でしょう。
デメリットを踏まえてメリットを探さないと、かつての二の舞でしょうから。
ここで簡単に飛行船の特性について書いておこうと思います。
詳細はいろんなサイトにありますので、そちらをご確認ください。
検索すれば直ぐに出てきます。
ここでは一般的な概念まで。
飛行船が飛行する原理は軽いものが浮かぶ、静的浮力、アルキメデスの原理によるものです。
船が海に浮かぶのと同じ原理です。
風船の中に空気より軽い気体を入れると、空気の上に風船は浮かぶ。
空気より軽い気体は水素とヘリウムしかないので2択です。
風船が空気より重いものを持ち上げる場合、風船の浮力-持ち上げるものの質量です。
まあ、実際はこんな単純な物ではありませんが。
で、より重いものを持ち上げようとすると、より大きな風船が必要になります。
小さな船に重いものを載せると沈没してしまいますが、大きな船だと沈まない。
それを踏まえて考えると、商業的にメリットのある輸送機にするにはそれなりの質量の荷物を搭載できなければならない。
つまり相応に大きな飛行船が必要、という事です。
さて、飛行船の衰退を決定的にしたのは、ヒンデンブルク号の事故、だと言われています。
アメリカのニュージャージー州レイクハーストで発生した炎上、爆発事故はセンセーショナルでした。
この事故で、可燃物である水素を満たした飛行船の安全性は地に落ち、以降飛行船は先進国であるドイツを筆頭に、排除と言えるほど急速に姿を消しました。
それ以降に生まれた飛行船は、熱気球を除けば全て不燃物であるヘリウムガスを使用しています。
実際の火災の原因は水素ではないそうですが、一旦火災が発生すると爆発につながる水素は非常に危険です。
商業運行には使えないでしょう。
ならば、21世紀の飛行船は水素以外の気体を使わなければなりません。
ここで簡単な計算をしますと。
100kgのものを浮かすのにどれだけ掛かるか。
空気1mol、22.4Lで28.8gr、水素 1mol、22.4Lで2gr、ヘリウム 1mol、22.4Lで4grとします。
実際は温度とか気圧で変化する状態方程式が絡んでくるのですが、ざっとという事で。
この場合の浮力が水素28.8-2=26.8gr、ヘリウム28.8-4=24.8grとすると。
100kg、この中にはバルーンの重量や索具も含まれるのですが、これを浮かべようとすると。
水素で約8.4万L、ヘリウムで約9万Lが必要です。
ちなみに大きさからいくと、9万Lで3m四方×10mぐらいです。
で、そのガスの値段ですが。
水素が0.09円/L、ヘリウムが13.7円/L。
水素は水素自動車の燃料供給価格、ヘリウムは風船用ボンベ400Lからの価格。
おそらく飛行船に供給される時は工業製品価格でしょうから、小分けされた玩具価格とはかけ離れているとは思いますが。
それでも水素とヘリウムの価格差が大きい事はお判りでしょう。
上記で100kgのものを浮かせるのに必要なガス価格を計算すると。
水素、約7500円、ヘリウム、約124万円。
実際のヒンデンブルク号のガス容量は20万立方m、2億Lだったそうです。
そこから計算すると載貨重量は水素で約240t、ヘリウムで220t。
そのお値段は水素で約1800万、ヘリウムで約27.5億になります。
これで飛行船のデメリットははっきりしたと思います。
飛行船はお金が掛かる割に運べる荷物の量が少ない。
宮崎アニメのラピュタには、タイガーモス号やゴリアテなどの飛行船が出てきますが、あれらは明らかにおかしい。
どうみてもエンジンルームや船室、ゴリアテに至っては砲塔などの積載物に対し、気嚢、バルーン部分が小さすぎます。
あの程度の大きさで飛べるのなら、ずっと楽になるのに。
現実ではもっと少なくしか、ものは積めません。
それに対して飛行船の価格は高価です。
実際の価格はかなり割り引いて考えるべきですが、ヒンデンブルク号クラスの飛行船を作ろうとすると、本体の建造費を除いてもガス代だけで27.5億かかる。
これに運航費や停泊場の整備などの諸経費がさらに上乗せになります。
運べる量は飛行船本体の重量を含めて220tですから、実質100tもないでしょう。
C-5Aギャラクシー1機で余裕で運べる量です。
運行速度はどうでしょう。
ヒンデンブルク号で時速135kmだったそうです。
ヒンデンブルク号の就航が1936年、それ以前の1930年から飛行船の旅客輸送は行っていました。
リンドバーグが青息吐息で大西洋を横断したのが1927年ですから、当時の大陸間輸送は客船が主でした。
ブルーリボンクラスの客船、ノルマンディーは受賞時の記録29.98kt、55.5km/hでしたので、飛行船は2~3倍の速さでした。
当時は充分、高速輸送機関だったのです。
現代の旅客機B777はマッハ0.84、亜音速近い速度で飛びますから、比較するだけ無駄ですが。
それと飛行船というものはその成り立ち上、高速飛行の出来ないものです。
大きな気嚢、バルーン部分は投影面積が大きく空気抵抗が大きい。
それに対して質量は軽く作られていますから、運動エネルギーは小さい。
空気抵抗に抗して高速を出すには相応の強力な推進器が必要ですが、そんな重いものは載らないし、燃料も足りない。
軍用としてもデメリットが大きい。
遅くて、爆弾が積めなくて、攻撃の良い的。
1ショットライターは某国の攻撃機の蔑称ですが、それよりも遙かにライター。
建造するためには多くの資材が必要(硬式飛行船の枠組みは軽量アルミ合金です)。
戦時において、飛行機と飛行船、飛行機に開発費を投入するのは当然ですね。
飛行船が衰退したのも無理はないと思います。
さて、では21世紀の飛行船はどうあるべきでしょう。
というより、飛行船を生かしておく価値があるか、です。
それにはそれ相応のメリットがなければなりません。
では、飛行船のメリットとは何でしょう?
ひとつには、運航費の安さ、だと思います。
飛ぶのにエンジン推力、燃料が必要な飛行機に対し、飛行船は何も必要としません。
静的浮力で浮かんでいる飛行船は、いつまでも浮かんでいられます。
さらに運行するのにも、さほどお金が掛からないはずです。
ヒンデンブルク号は当時の最速交通機関として、速度を求めました。
そのため空気抵抗を最小にする紡錘形状を採り、推進用のエンジンも備えました。
でも速度を求めないならば、風力、帆を使って飛んでも良いはずです。
飛行船は大きな気嚢を必要とするので、どうしても大きくなります。
その大きい気嚢を空気抵抗の障害物としてではなく、推進力の源である帆として使えばそれはそのまま飛行帆船になります。
帆船の項でも説明しようと思っていたのですが。
帆船にとって一番の問題は凪、無風状態になる事です。
いろんな帆船ものの小説でも、(ホーンブロワーシリーズとか)凪の状態に陥った帆船がピンチを迎えるシーンが描かれています。
実際、風というのは自然の摂理で人間がどうしようもないものでした。
この自然の摂理というものに頼らなければならない点が、帆船のデメリットだったでしょう。
ですが、現代では違いますよね。
現代では気象衛星や気象学の発達などにより、ワールドウェザーマップ、全世界天気図を作る事ができます。
つまり、何処で、何時、どちら向きに、どの程度の風が吹いているか把握できるわけです。
さらに予報図も作れますから、何時いつに何処に行けばどのような風に乗れるかの予測もつきます。
行き当たりばったり、神頼み風頼みの航海しかできなかった昔の帆船に対し。
現代の帆船は、効率よく風を辿って運航計画を立てる事ができるのです。
これは空中帆船たる飛行船でも同じ事です。
帆船として風の中を行くというのは、飛行船の強度的にも良い事です。
海の帆船の場合、水の抵抗に抗して進むため風を受ける帆、帆柱と船体の間に応力が発生します。
風が強くなれば、時には帆柱を折ってしまうほどの。
ところがその様な抵抗の一切ない空中帆船では、風の中を風と同じ速度で飛ぶ事ができます。
なので飛行船から見ると、無風の中を飛んでいるように思えるでしょう。
風斬り音などなく、実に静かな飛行になります。
もっとも風上に間切るときは、それなりの負荷と騒音は出るでしょうが。
飛行帆船が高度どれぐらいで飛ぶのか判りませんが、風を辿って行くのであれば航海中は殆ど晴天でしょう。
ヒンデンブルク号では表皮に受ける太陽熱が課題でしたが、現代ではそこはそのまま太陽光発電パネルになります。
巨大な気嚢帆(バルーンセイル?)をコントロールするモータや姿勢制御のスラスター、船内の各種機器のエネルギーにとして使えるでしょう。
まあ、ある程度の蓄電池は必要でしょうが。
飛行船のメリットに、着陸場所を選ばない事があります。
同時にデメリットとして着陸が難しい事でもあります。
ツェッペリン号などの写真を見ると、広大な敷地に高い鉄骨の塔があり、そこに船体の先端を係留しているのが判ります。
ツェッペリン号などの当時の硬式飛行船は横に長い紡錘型をしており、その長い船体を地上に横たえるほど降下しないと船体下部の客室から地上に降りられませんでした。
ですが、横に長くなければそれほど広い敷地は必要ありません。
船体、気嚢部分から船室や荷室が離れていれば地上に降りるのも難しくはないでしょう。
例えば、高層ビルの屋上などでも充分発着場になります。
逆に着陸が難しい事でもあります。
飛行帆船は飛行中は風に乗って動く事ができます。
なので竜巻などの乱流にでも遇わない限り、風によって船体にダメージを受ける事はないでしょうが、係留時は別です。
係留、地上につなぎ止められると風の力をもろに浴びます。
左右に振り回されるならまだしも、ダウンバーストでも喰らって地上に叩き付けられたら。
21世紀の新・飛行船ツェッペリンNTも繋止中に破損している船があります。
なので着陸はそのような突風の吹かないところ、吹かない時を狙って速やかに行う必要があります。
気嚢、バルーン以外の船室などは切り離して交換する形にしたほうがいいでしょうか?
SF?ファンタジー?飛行船が出てくる創作物では、飛行船を収容する巨大な格納庫が出てくるものもあります。
まあ、ジャンボジェットを入れる格納庫もあるのですから、作れない事はないでしょうが。
整備基地でもない限り、要らないものでしょう。
下手にそういうものが必要となったら、着陸場所を選ばない、何処にでも行ける飛行船の利便性を損なってしまいます。
さて、一応描いてみました。
帆の形はクラブクロウセイルという、南太平洋の現住民の使っていたというマイナーものです。
原型は一枚布ですが、効率を考えて3枚にしました。
このクラブクロウセイルが横帆で、推進力を生む帆になります。
それ以外には方向安定性を確保する縦帆。
横倒しにならないように、縦に長いものですから、水平安定性のための水平翼。
いずれも翼のような翼断面をしており、この中に浮くためのものが詰まっています。
これらが気嚢、バルーンになります。
で、デカいです。
全高で248m、全長で274m。
ヒンデンブルク号が全長245mですから、全長はそれ以上ですね。
高さはサンシャイン60の239.7mより高い。
言うなれば、東京ドームの屋根を持った豪華客船飛鳥Ⅱにサンシャイン60が載ったようなもの?
とても、正気の沙汰とは思えない。
いや、妄想ですから。
船体を三角にしてヨットのような形状にしつつ、ヒンデンブルク号と同じくらいのバルーン容積を確保しようとしたら・・・・・・・・・・。
こうなりました。
もちろん適当です。
フレームは細く見えますが一応、2m径です。
まあ、地上の建造物だったら絶対こんな形には作らなかったでしょうね。
風圧でぶっ壊れるのは目に見えているし。
第一、重量に耐えられるわけがない。
ですが、飛行船なら有りです。(だと思います)
基本風に逆らわずに風に乗って動くものですし、主要搭載物たる帆が気嚢、バルーンで空気より軽いのですから。
風圧も重量の問題も大丈夫じゃないかなあ、と。
ここら辺、飛行船のメリットですね。
航空機の場合は、飛行中と着陸中では重量のかかり方が違ってきます。
飛行中、全ての重量は揚力装置たる主翼に吊り下げられるのに対し、着陸中は胴体、または主翼のメインギア、主脚に支えられる。
2種類の重量支持構造が要ります。
飛行船は飛行中、着陸中にかかわらず、常に全重量は気嚢、バルーンに吊られます。
支持構造は1種類だけです。
帆装について、Wikiを囓った程度ですから、もちろん適当というのもおこがましいほどのいいかげんさです。
まあ、少し弁明させて貰うと。
追い風、順風時の帆装は風を受ける帆さえあればいい。
(とんでもない暴言を言っている自覚はある)
問題は風上に切り上がるのに必要な縦帆で、これは風に対して翼形をしていなければならない。
翼形に膨らんだ帆の表面を風が流れる事によって、飛行機で言う揚力と同じ力が帆に働き、風の流れと垂直の方向に帆を引っ張る。
まあ、このように理解しています。
実際は風上に向かって45°で切り上がっていくのですから、理屈がおかしい気もしますが。
そのためには縦帆が必要で、ラテンセイルからバミューダ帆装とか、まあWikiの範囲で考えたのですが。
致命的に使えない。
帆というのは布で自在に変形しますから、右舷側に膨らむのも左舷側に膨らむのも、風次第です。
なので右舷前方からの風にも左舷前方からの風にも、帆柱つまり、鉛直軸を中心に帆を回すだけで対処できる。
一方、飛行船の帆は、中身は浮力材の構造物ですから変形しない。
翼形を一度決めてしまったら、右前方からの風に対応出来ても、左前方からの風には翼形不適で使えません。
まあ、対称翼形という方法もなきにしもあらず、ですが。
なので、まあ。
首尾線を軸に回転するクラブクロウセイルにした訳です。
これもWikiの「ポリネシアの例」という絵を見て勝手に使い方を想像しただけなので、実際は大違いかもしれませんが。
どっちにしろ、ただイラストにそれらしいものを付けたかっただけです。
もし、何かでこれが検討されるとしたならば。
数千年の歴史を持つ帆走技術と、NASAを始めとする世界のトップ頭脳が鎬を削る翼形技術がコラボするでしょうから。
素人がちょっと考えても無駄なだけです。
ただのイラストの賑やかし、とでも思ってください。
船室は帆のいっぱい付いたトライアングルの下に付いています。
バラストとして一番下のところですね。
一応、重心点?浮力点?直下を考えています。
小さく見えますが、長さ80m、高さ8m。
ちょっとした旅客機並みの大きさです。
羽根が付いた飛行機形状なのはご愛敬。
いざとなったら切り離して滑空して脱出するとか、帆装船体とは別に姿勢制御して安定を保つとか、いろいろいいかな、と思いまして。
真ん中の箱部分を切り離して交換する事で、飛行船の弱点、係留時間を短くする事も考えています。
真ん中の箱部分は用途に応じて使い分けます。
客室ユニットを付けて旅客輸送を行ったり、コンテナを付けて貨物輸送、車両や小型船舶を取り付ける事も可能でしょう。
汎用性を持たせて、幅広い需要に対応出来るようにします。
客室ユニットの場合、船室はかなり自由にデザイン出来ます。
飛行機と飛行船、実は大きな違いがあって。
飛行船は重量は制限されるけれど、容積は制限されない。
なのでひとり当たりのスペースはかなり広く取れます。
空気抵抗を小さくしたい飛行機が、容積をぎりぎりにするのとは大きな違いです。
もっとも、高速輸送機関たるツェッペリン号などは空気抵抗を小さくするため、船室も小さくしたのでしょうが。
映画「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」に飛行船が出てきますね。
あの中の内装がまるで客船の中のようでした。
当時は旅客を運ぶ乗り物は、馬車を除けば鉄道と客船の2択だったのでしょうが。
乗船時間と運賃を鑑みて、近い方の客船仕様にしたのでしょう。
おそらく、乗船券は高額だったのでしょうね。
インディは拳で支払っていたので、いくらかは判りませんでしたが。
まあ、他にも。
空気抵抗を考えないので、空気の薄い高空を飛ぶ必要がありません。
高度1000~2000mで運行するならば、与圧室も必要ないでしょうし、それに伴う機体の破裂も考える必要もありません。
与圧した機体は強度が足りないと、御巣鷹山の日航機のように破裂します。
なので客室ユニットは、飛行機よりかなり軽く出来ます。
第一、余り高く飛ぶと降りるときに困ります。
降りる方法がありません。
水素飛行船は水素を放出して降下したようですが、ヘリウムなど現代の飛行船は浮力物質を放棄はできません。
せいぜい、空気を吸入して圧縮してバラストにするか、スラスターで強引に下向きに押すか。
高度が低ければ飛行船からロープを落として、それで牽引して貰う方法も採れます。
まあ、順当な方法としては、1000mほどの高度の山の中腹に着地するというところでしょうか。
他には船体の姿勢をコントロールする電動スラスターを、船体頂点に5箇所。
電動スラスターで推力が不足した場合の非常用として、遠心式コンプレッサーを使ったジェットエンジンを2箇所装備します。
電動スラスターはほぼ全球方向に推力指向可能、ジェットエンジンは取り付け軸を中心に水平方向に360°が指向範囲になります。
電源は帆表面に貼付した軽量、柔軟な太陽電池パネルと蓄電池。
船室に付いている主翼内側は、飲料水などの他は、蓄電池スペースです。
以上、積載重量約100tとして、この飛行船に需要はあるでしょうか?
輸送機としての100tという積載量は、決して小さくない量です。
これを輸送機で運ぼうとすればかなりのコストが掛かります。
それと制約も多いでしょう。
飛行場の制約、着陸可能な滑走路に時間制限、使用料や荷下ろしに必要な設備やそのコスト。
船舶で運ぶ場合は100tなどは大した量ではありません。
ですが、港で荷下ろしして目的地まで運ぶには、10tトラック10台に分けて運ぶ必要があります。
全ての場所が10tトラックがアプローチできるほど、インフラが整っているとは限りません。
港や道路などのインフラが整っていない山間地、砂漠のオアシス、海洋の中の小島。
暴風雨や地震の被災地への救援物資、山林火災の消化液。
または分割出来ない重量物の輸送。
鉄道車両や航空機の胴体部分、組み上げた橋桁や高層ビルの建材、トンネル掘削のための大規模シールドマシン。
どのような場所であろうと、100tの荷を空中から静かに降ろしてくれる飛行船の輸送は需要があるでしょう。
ヘリコプターが同じ輸送方法を行えますが、現在最大の輸送量はMi-26の26tですし、多額の燃料費と強烈なダウンウォッシュがあります。
飛行船の輸送の方がメリットがあるでしょう。
旅客輸送では。
時間と輸送量では航空機には敵いません。
ですが、クルーズ船としてならば可能性はあります。
もちろん、船内設備の面では現在のクルーズ客船とは勝負になりません。
ヒンデンブルク号には軽合金製のピアノが載っていたそうですが、そこらが精一杯でしょう。
ですが、現代の電気器具ならばエアコンディションを始めとする各種サービスを、さほどの重量を必要とせずに出来るはずです。
それに元々クルーズ客船の船内娯楽は退屈な航海、海しか見えない、の無聊を慰めるものです。
高度1000m程度、騒音を伴わない飛行船ならば都市上空も飛行可能で、乗客に充分な景観を提供するでしょう。
クルーズ客船には不可能な内陸の観光地へもアクセス自在です。
乗客定員が少ないのが(40~50人ほど)ネックですが、需要があれば隻数を増やせば良いだけです。
多分、需要があり、実現すれば飛行船は充分なシェアを獲得できそうです、が。
実際のところ、ガスの値段はどうしようもない。
建造費、初期投資、が大きければ、全ては画餅に終わります。
ヘリウムしか使えないのだから、ヘリウムの値段がとんでもない以上、飛行船は実現不可能でしょう。
現実問題として、現代の飛行船は小型なものでニッチな需要を狙っていくしかなかったのですが。
もっとも。
それでしたらこんなエッセイは書いていませんので。
実は、2択ではなく3択だったのです。
野尻抱介氏に「ふわふわの泉」という星雲賞を受賞した名作SFがあります。
有名な作品ですから、ネタはばれましたね。
第3の選択肢は「真空」です。
1mol 22.4L、水素で2gr、ヘリウムで4gr。
対して真空は0gr。
当たり前ですが、何を今更。
真空はどんな気体より軽いのです。
ですが、飛行船に今まで使われなかったのは、それ相応の理由があります。
歴史上有名な科学の実験「マクデブルクの半球」をご存じですか?
どこかでイラストを見た事もあるのではないでしょうか。
両側8頭、計16頭の馬がくす玉を引っ張っている絵。
あれ、実はくす玉ではなくて銅の半球で、ふたつ合わせた球の内部が真空で、それを引き離すのに馬16頭が必要。
そういう実験です。
離れた瞬間、銅の半球はぶっとんで暴れたんじゃないだろうか。
凄く危ない実験だったような気もしますが、問題はそこではありません。
真空を維持するのに、くそ重そうな銅の半球が必要だった事です。
真空を維持するのに、真空の浮力を遙かに上回る重い容器が必要。
飛行船の気体(?)に使えるわけありませんね。
で、その解決案も「ふわふわの泉」。
本当に、優れたSFというのは技術発展に寄与する、と思います。
マイクロカプセル。
極微小の球体にすれば、荷重のかかる表面積も3乗で小さくなる(で、合ってるでしょうか?)。
作中のカプセル材はダイヤモンドより硬い、というとんでもないものですが、実は似たようなものはあります。
有人潜水調査船「しんかい6500」。
これに使われているシンタクティックフォームと呼ばれる浮力材。
内部は直径88~105μmと直径40~μmのガラスのマイクロカプセル(マイクロバルーンという)です。
1cm平方当たり680kgfの水圧が掛かる深海で潰れずに形を保つ。
大気圧に充分、耐えられると思います。
問題は、ガラスがどの程度の重量か。
どうやって作るか?でしょうか。
「ふわふわの泉」では、主人公の女子高生が偶然製法を発見しました。
そんなうまい話はもちろんないでしょうが、開発の方向性と可能性はあっているのではないかと思います。
もし。
もし、飛行船が航空産業の1業種として存在していて、更なる発展を目指して技術革新を進めていたら。
当然、新しい浮力材としての真空利用を考えたでしょうし、マイクロバルーンの開発を行っていたかもしれない。
「ふわふわの泉」では、ふわふわのおかげで社会が大きく変化しました。
それはとても素敵な世界です。
今、その世界がないのは、戦争が飛行船を潰したから、と考えるのは穿ち過ぎでしょうか?
つま、のはずが主食並みになりました。
帆船についてはまた今度。




