2.日本はなぜ太平洋戦争をしたのか。アメリカの事情?
フロンティア政策?、GO WEST?
確かにアメリカは西に西にと領土を広げてきました。
西海岸にたどり着き、太平洋を渡りハワイを手に入れ、フィリピンに上陸した。
さあ、次は中国だ、日本だ!!
でも中国は欧州各国が手を付けているから門戸開放政策を打ちました。
その邪魔をしたから日本と戦争をした・・・・。
この理論展開はいくら何でも粗雑にすぎるのではないかと・・・・。
侵略にしろ、軍事行動にしろ、お金がかかります。
基本、儲けがなければ侵略も戦争も普通は起きませんし、起こせません。
独裁国家の首班であれば、つまり王様や皇帝ならば自分の感情で戦争を起こす事もあるでしょう。
が、周りにいる官僚や商人はその戦争で利益を得られる目処があるから賛成、または黙認するのです。
アメリカも同様です。
ただ、清教徒の国であるアメリカは、キリスト教原理主義的行動を起こす場合はあります。
それは対象を「悪」と市民が認定した状況で、そういう時は世俗の事情を無視して徹底的にやります。
なにしろ「酒」すら悪と認定されれば禁酒法を制定する国ですから。
でなければ。
民主主義国家であるアメリカは、国益にならない戦争や侵略は行えないのです。
アメリカ開拓は当初はアパラチア山脈に阻まれて、東海岸の狭い範囲で行われていたそうです。
合衆国の地図を見れば判りますが、東海岸は小さな州が密集しています。
当時の開拓者たちがこの範囲で社会、というか世界を創っていた事が判ります。
この状態でイギリスから独立し、やがてアパラチア山脈を越えて西部に広がります。
要因は移民流入の拡大でしょう。
ヨーロッパ社会から弾かれた、または自ら出てきた(新世界、という言葉がありますね)人たちが東部の社会からも弾かれて西部に雪崩れ込んだわけです。
多分、現代日本のラノベの異世界転移に近い気分があったのではないでしょうか。
やがてカリフォルニアで金が発見されてゴールドラッシュが起こり、太平洋の捕鯨が盛んになってそのためにハワイを獲ったり、日本を開国させたり。
ハワイを獲ったのはパイナップルのため、という話を聞いた事もあります。
食品会社であるドールはパイナップルの利益で大きくなったとか。
それ以外にも砂糖などの熱帯のプランテーションで利益を出しています。
フィリピンは米西戦争でスペインから獲得、協力してくれたフィリピン人たちを裏切る形で植民地化しています。
目的は熱帯植物のプランテーションでしょう。
ちゃんと国益に基づいて行動しているわけです。
では、第一次世界大戦が終了した時点で中国を獲って、アメリカにどのような利益があるのか?
お茶や絹、陶磁器などで大儲けできた時代はとっくに過ぎています。
石油や鉄などの鉱物資源はあるでしょうが、そこまでして手に入れたいほどアメリカは切迫していたでしょうか?
このちょっと前に行われた米比戦争では、兵士の給料を払うのさえためらうほど予算がなかったというのに。
アメリカの主な経済拠点、特に重工業は東海岸にあります。
海を挟んだ対岸には、世界最大の消費地であるヨーロッパがあります。
そしてヨーロッパは初めての総力戦であるWWⅠで疲弊しており、生産力が落ちて物資が不足しています。
当時のアメリカの資金はおそらく東海岸に投資され、そこで大規模な生産と輸出が行われ、さらに産み出された利益は再投資され、そしてローリング20’が起き。
この状況で遠く離れた内乱中の中国に投資しようという人がいるでしょうか?
いるとしたら東海岸の経済活動から弾き出された2流の資本家ぐらいでしょうし、それが対日戦にアメリカ政治を誘導できるほどロビー活動が出来るとは思えないのです。
アメリカは戦争がしたかった。
アメリカの経済は大恐慌でガタガタになっており、ルーズベルトのニューディール政策ではアメリカ経済の復興が難しい事が判っていた。
戦争を起こす事で軍需産業に需要を産み出し、仕事を作り出して失業者を吸収する。
民需が冷え込んだ不況時は公共投資で需要を産み出すのが定石ですが、アメリカの場合国土の再開発程度の投資では足りなかったのでしょう。
さらに多くの投資を行うには、戦争という非常事態に持ち込むしかなかったのだと思います。
とは、いえ。
当時既にアメリカはレンドリース法を成立させ、イギリスやその他連合軍に軍需物資を供給しています。
アメリカの経済はそれで多分活性化しており、わざわざ参戦する必要はなかったのではないか、とも思います。
アメリカ人兵士の戦死は政権への批判につながり、厭戦気分が起きて大統領の足下をひっくり返しかねない。
それでも参戦する必要があったのは、レンドリース法のせいでしょう。
本当は軍需物資を売却したかった。
でも、ただでさえ前の大戦での復興が充分でないヨーロッパで、さらにアメリカが引き起こした大恐慌のせいで、お金があるはずがない。
それを無理にでも売りつけたのがレンドリース法で、ルーズベルトは「火事のお隣にホースを売りつけるのはダメだから貸します。」と言っています。
そうなると戦争終結後にアメリカが得るのは、大量の使い古しの使う予定のない軍需物資か(レンド、貸したものが返ってくる)、返済期間の恐ろしく長い融資か(イギリスは21世紀になってもまだ返財額が残っているそうですが)。
参戦して当事国になれば、国内経済を破綻させないでそこらへんをうまく調整できたのかもしれません。
少なくとも失業者を兵士として公職に就ける事は出来たはずです。
ですが、当時のアメリカ国内には厭戦気分が蔓延していました。
第一次世界大戦が終わってまだ30年。
10年前の世界恐慌の影響がまだ残る、疲れて、暗かったろうアメリカ社会。
また辛い戦争(兵士の大部分である陸軍は、砲声が轟く、狭くて湿ってて汚い地面の下の塹壕戦が主体でしたから)をしようとは誰も思わなかったでしょう。
だからアメリカから宣戦は布告できなかった。
日本から宣戦を布告して貰いたかった。
そうしてアメリカは日本に宣戦を布告し、同盟国であるドイツとイタリアにも宣戦を布告し、ヨーロッパの戦争に参戦できました。
ついでにだまし討ちをした悪い東洋の猿を非難して、アメリカの世論を戦争に誘導する事が出来ました。
日本の在米大使館で宣戦布告の文書の処理が遅れたので、開戦30分後の宣戦布告になってしまい「だまし討ち」の非難を受ける事になった。
遅れさえしなければ、日本は謂れなき非難を浴びずに済んだのに。
こういう話を聞いた事もありますが、多分ちゃんと30分前に提出しても同じ事だったでしょう。
受け取った時間を偽る、わざと足止めする。
または、真珠湾での民間人の被害を多大に発表する。
いたいけな子供の犠牲者をねつ造する。
たまたまねつ造する必要がなかっただけで、ルーズベルト大統領は必ずアメリカ市民に訴える、日本軍の非道な行為を宣伝したはずです。
それがアメリカのシナリオだったのですから。
おそらく。
では、ヨーロッパの戦争に参戦したいがためだけに、日本を挑発したのでしょうか?
日本の大陸進出、中国侵略とも言えますが、それに干渉してきたのは大恐慌よりずっと以前です。
門戸開放政策自体はモンロー主義やらハワイやフィリピンやらで出遅れたアメリカの虫のいい主張だったと思いますが、その時点ではアメリカも真面目に(?)イギリスやフランス、ドイツと並んで中国に進出しようとしていたのだと思います。
ただそれ以降、満州事変や日中戦争におけるアメリカの反日政策は進出のためとは思えない。
中国に投資するより、本国の東海岸で欧州復興需要に投資する方がずっと儲かるはずですから。
それに投資するにしても日本と対立して投資するより、共同で投資した方が効率がいいはずです。
桂・タフト間で満州とフィリピンに関する合意は出来ているのですから、中国に関する合意が出来ても不思議ではない。
一説によると蒋介石は日本と講和をしたがっていた、といいますから、日米中の合意による対共産勢力形成と、鉄道を含む中国大陸共同開発もできたのではないでしょうか?
そういう案もあったかもしれませんが、多分アメリカは拒否し、おそらく日本も拒否した。
それが太平洋戦争につながったわけですが。
日本は多分、欧米の力を借りる事なく中国を侵略したかった。
アメリカはおそらく、日本に中国を侵略させたくなかった。
日本は欧米抜きで中国を取り込み、大国になりたかった。
アメリカは自身の中国進出をダメにしても、日本の中国取り込みを妨害したかった。
では、なぜ日本は大国になりたかったのか?
その答えの先に「日本が太平洋戦争をした理由」があるように思います。