脇道6 :アメリカが艦隊戦を戦うとしたら。 量産型戦艦
「日本はなぜ太平洋戦争をしたのか。」の中で、アメリカが大艦巨砲主義で太平洋戦争を戦ったら、という仮定に触れました。
で、その時の仮説、量産型戦艦のイラストを描いてしまいました。
その裏付けというか、まあ、いろいろと考えた事を書こうかなと思いまして。
なぜ、アイオワ級でもモンタナ級でもなく、言うなればつまらない性能の量産型戦艦が出てくるのか、という説明です。
どこの国でも同じなのですが、平時と戦時の軍隊は違います。
特にアメリカにおいてはそれは顕著です。
史実では開戦と殆ど同時にエセックス級の量産を始めました。
エセックス級自体は戦前から企画されていたようですね。
おそらく、日本の翔鶴、瑞鶴に対応したものだったのでしょう。
取り立てて性能に問題がなかったのでしょうが、それでも欠点はあったはずです。
日本は翔鶴級の後、更に優れた性能を目指して大鳳を企画し建造しています。
ところがアメリカはより優れた性能の、例えばミッドウェイ級を作ろうとせず、そのままエセックス級で押し切りました。
戦争というのは量です。
質で量に対抗する、などというのは持たざるものの苦肉の策で、多少の性能差など量の前には沈黙します。
そして量を揃えるならば、同じものを揃えた方がいい。
より良い性能を求めた結果性能が違うものが沢山できるよりも、平凡な性能でも同じものを揃えた方が使い勝手がいいのです。
戦術の連携、兵の習熟、補修時の共用性、生産時の品質向上などなど。
日本は、アメリカ人は能力が低いから簡単なものしか使えない、などと貶しておりましたが。
後、アメリカ製の兵器の特徴は頑丈なことですね。
F6FヘルキャットやB29の耐弾性能の高さ。
空母ヨークタウンがミッドウェイで中々沈まず、結局伊号潜がトドメを刺すしかなかったことなど。
頑丈であれば兵員の死亡率が下がり、その分兵は熟練し強くなる。
損害を受けながらでも基地に帰り着ければ補修することが出来、その分生産するより安く済む。
日本は防御を殆ど捨てるような感じで攻撃力を上げました。
その結果が太平洋戦争です。
攻撃は最大の防御なり、とは日露戦争の頃の海軍で言われた言葉、と聞いたことがあります。
実際は誰も言ったことがないそうですね。
誰かが無責任に言った言葉が一人歩きしたのか。
はっきり言って、きちんと守れない人間の言い訳にしか聞こえない言葉です。
普通、攻撃時、特に攻撃に移る瞬間が最も防御が弱くなります。
攻撃してくる敵ほど倒しやすい、弱い敵です。
剣道で言う後の先、でしょうか。
野球では、バッティングは水ものだけど守備には好不調がない、という言い方をします。だから良いピッチャーを擁して堅い守備のチームを作れば堅実に勝てるという意味ですが。
兵器でも同じです。
攻撃力、例えば戦闘機の機関砲は熟練者が扱わないと効果を発揮しない、つまり当たらない。
逆に守備力、つまり装甲ですが、これはどんな下手くそが使っても効果を発揮します。
長々と寄り道をしましたが、つまりアメリカの兵器の考え方は非常に合理的であったということです。
さて、アメリカは戦時には上記のような、勝つための兵器を量産します。
では、平時にはどうだったか。
アメリカ海軍の戦艦一覧を見ると、2~3隻ずつ建造していますね。
戦艦の艦齢が大体20~30年ぐらいでしょうか?
4年ごとに改良を加えながら建造していくと、大体10~20隻の戦艦を保有していることになります。
超弩級戦艦の系譜を見ると、ニューヨーク級からテネシー級まで主砲径35.6cm、14インチ砲を搭載した戦艦を5型、11隻建造しています。
特にこのシリーズではアメリカ戦艦の標準型というものを模索していますね。
ここらへんは明らかに日本の金剛級、扶桑級、伊勢級を意識した戦艦群です。
欧州で主流の15インチ、38cm砲を使わず、砲門数も後期3型は12門と扶桑、伊勢級に合わせてきている。
長門級40cm、16インチ砲搭載戦艦に対しては、コロラド級3隻が対応している。
これから見ても判ると思いますが、平時のアメリカ海軍は相手に合わせて、つまり日本海軍に合わせて、そして日本より多少多い隻数を揃えています。
要は判りやすい戦力な訳です。
相手の持っている兵器と同等か優れたものを、多く持つ。
国際社会や自国の国民という軍事の素人に対し、アメリカは日本に負けない戦力を持っている、と理解させるための海軍です。
新戦艦についてはどうでしょう。
アメリカの新戦艦については迷走しているように見えます。
多分、ワシントン条約明けの日本の新戦艦について、詳しい情報は掴んでいなかったのではないでしょうか?
ノ-スカロライナ級は本来14インチ砲戦艦として設計されたものですが、日本の新戦艦が16インチ砲と聞いて慌てて16インチ砲を載せました。
サウスダコタ級は最初から16インチ砲戦艦として設計されましたが、35000tの条件に縛られてコンパクトにしすぎて無理が出ていたらしいです。
アイオワ級は、金剛級が30kt戦艦で偵察艦隊同士の海戦で不利になるから、と33kt高速を与えられました。
モンタナ級に至っては、おそらく大和級が60000t越えの大艦という情報から企画されたものでしょうか?
幻の日本大巡に対応してアラスカ級まで作ってしまいました。
要は日本の持つであろう戦艦より強いものを、より多く持とうとしているだけに思えます。
さて、もし太平洋戦争が航空主兵ではなく戦艦主体、艦隊戦で行われていたらアメリカの戦艦は史実通りに作られたでしょうか?
史実のアメリカの戦艦建造は実はいい加減、手抜き、投げやりだったのではないか、と私は思います。
装甲に必要な特殊鋼板、つまり装甲板が足りなくてアイオワ級最終艦のウィスコンシンやアラスカなどは適当な鋼板を張っていたと聞いたことがあります。
戦力の主幹が航空兵力に移って戦艦が無用の長物になるのがはっきりしていたので、装甲板の手当もせずに惰性で作っていたのではないでしょうか?
戦時のアメリカは、国力のリソースをきちんと優先順位を付けて振り分けます。
太平洋戦争で言えば、最優先項目は艦上戦闘機、ゼロ戦に勝てる戦闘機を開発することだったそうです。
そのあおりで、水上偵察機などは大戦中を通して1機種だけだったとか。
戦艦建造なんて一番優先順位が低かったのでしょうね。
空母への設計変更すらしていない。
軽巡を空母に改造したインディペンデンス級は建造したのに。
改造しても間に合わないし、中止する手間も惜しんだのではないか、と思います。
もちろん平時のアメリカ海軍の兵力は、使いにくいとはいえ充分強力です。
なので、開戦当初はそのまま日本艦隊と艦隊戦を戦うでしょう。
その結果勝つか、充分優勢だったと判断されれば、そのままの建艦計画で推移すると思いますが。
逆に、大和の46cm砲や酸素魚雷の前に負けることがあれば、多分建艦計画は切り替わるでしょう。
アメリカが戦時態勢を取る。
すなわち同一兵器の大量投入です。
史実でもエセックス級空母の他に巡洋艦を大量建造しています。
重巡洋艦は1線級の性能を持つニューオーリンズ級、ウイチタ、ボルチモア級で計22隻、軽巡洋艦はブルックリン級とクリーブランド級で計36隻。
計画では1万トン級に近いクリーブランド級を52隻も作る予定だったそうです。
それも対空巡洋艦のアトランタ級11隻や、空母に変更されたインディペンデンス級9隻を除いて、です。
ついでに言うと条約型重巡8隻と軽巡10隻も除いています。
この計画から、戦力を日本海軍に合わせる、などの意図はまるでない事が判ります。
日本の重巡は小型の青葉型を含めても18隻しかいない、とか。
日本の軽巡は旧式の5500t型が15隻しかいない、とか。
そういうことは関係なく。
アメリカは、戦時には作れるだけの最大戦力を作ってぶつけてくると言うことです。
大艦巨砲、艦隊戦で太平洋戦争が行われるならば、戦艦も例外であるはずがありません。
必ず大量生産してくる。
その時に作られるのはアイオワ級でもモンタナ級でもないでしょう。
両級とも使いやすい戦艦とはいえません。
おそらく量産にも向いていないと思います。
アイオワ級は速度を優先した設計です。
その分、全長が長く被弾面積が大きくバイタルパートも長い。
装甲が薄く大和級の46cm砲には耐えられないでしょう。
逆にモンタナ級は大きい分、コストも建造期間もかかり過ぎると思います。
つまり数が揃えられない。
それに多分、モンタナ級は設計が古い。
建造するなら設計の見直しが必要になるのでは?
そこで量産型の戦艦が新設計されると思われます。
その戦艦に求められる性能は。
大和級の46cm砲にある程度耐えられる。(射程距離20000m想定)
モンタナ級と同等か、それに近い防御力。
金剛級と同等かそれ以上の速度。
30~31kt程度。
設計も含めて、2年以内に8隻程度が戦力化出来ること。
この条件に一番近いのがサウスダコタ級です。
改サウスダコタ級という形ですが、実際にはアイオワ級を始め各級の良いところを集めてまとめられるでしょう。
外形はサウスダコタ級を大きくして余裕を持たせ、出力増強と合わせて高速度を得る。
上部構造物はサウスダコタ級のコンパクトさをそのまま生かして(少し大きくして)、小さなバイタルパートに重装甲を施す。
主砲はモンタナ級の50口径Mk.7を流用、副砲5インチ砲も54口径Mk.16を採用して砲戦能力を上げる。
対駆逐艦用として有効な40mm機関砲を搭載する。
砲戦時には弱点となる航空兵力、艦載機やカタパルトは搭載しない。
などなど。
コンセプトは「大和級を含む日本艦隊と海戦して互角に戦える戦艦」です。
勝つ必要はありません。
互角の戦いを続けていけば、物量の差で戦争に勝てます。
とまあ、そういう感じで描いてみたのがこのミズーリ級(架想量産戦艦)です。
一応、12隻まで量産する予定、としました。
もちろん、アメリカが装甲板の生産能力を引き上げない、などという手抜かりをするはずがありません。
まあ、前からアメリカの新戦艦には不満があったのです。
どれもこれも、どこかしら欠点があってバランスが悪い。
一番バランスがいいのはノースカロライナ級ですが、速度が30ktいかない上に装甲が耐14インチ砲弾仕様ではとても長門や大和の相手は務まらない。
サウスダコタ級は無理にコンパクトにし過ぎて格好が悪く速度も遅いし装甲も不足。
アイオワ級は速度を求めすぎて船体が長細すぎ。
サウスダコタ級で培ったバイタルパート最小化の建艦思想に喧嘩売ってるとしか思えない。
モンタナ級に至っては何であんな設計をしたのか・・・・・。
40cm砲を12門積むメリットって何です?
排水量を6万トンにしてまで12門にするメリットってあるのですか?
もしかして、大和級が6万トンだからそれに対抗して船体を大きくしたら、スペースが余ったのでもう一基砲塔積みました、ってんじゃなかろうか?
大和級は46cm砲を砲戦に必要な9門積むために、それでも苦労して6万トンに収めたのですよ。
とまあ、所詮妄想、ただの絵だけですが。
それなりにバランスは取れていると思います。
大和級は論外ですが、ヨーロッパの一流戦艦、ドイツのビスマルク級、フランスのリシュリュー級、イタリアのヴィットリオ・ベネト級などに対抗出来るかな、と。
イギリスはねえ、キングジョージⅤ級よりは未成艦のライオン級の方がいいでしょうか。
仕様としては重装甲と高出力機関の分、他の船より重い設定ですが。
どうでしょう?




