12.日本はなぜ太平洋戦争をしたのか。 太平洋戦争の戦略、架想戦記風味
太平洋戦争の推移、特に日本軍の最大占領地域の地図を見ていて思ったのですが。
これ、日本は勝つ気あったのかなあ、と。
空母は残したけれどアメリカ太平洋艦隊は潰し、欧米の東洋艦隊、アジア艦隊も撃滅しました。
インド洋のイギリス艦隊も排除して、西太平洋の制海権は確保しました。
陸軍はマレーシア、フィリピン、インドネシア、インドシナ半島を占領して欧米列強の軍事力はなくなりました。
さて、これからどうしましょう?
戦争資源を確保出来たので、後はこの占領地を奪われないように防衛戦を戦い抜く。
これしかありませんが、守り切れると思っていたのでしょうか?
日本の海軍はワシントン条約対英米6割の影響で、対戦艦に特化した艦隊です。
漸減邀撃作戦でアメリカ艦隊と戦って勝つ事だけを目的とした艦隊です。
対潜水艦や対航空機の艦隊ではありません。
防衛戦、つまりシーレーンや根拠地防衛に対戦艦専用の艦艇が役に立つ訳がないですね。
潜水艦による、空母による、陸上長距離爆撃機による通商破壊。
これらにより日本の兵站はズタズタになりました。
それでも潜水艦42隻撃沈はよくやった方だと思います。
まあ、2400隻近く沈められていればどうしようもないですが。
かくて資源の産出地は抑えたものの、殆どのものは海の底に沈み日本の継戦能力は失われました。
ちなみに英米海軍はUボートを700隻以上沈めてドイツとの通商破壊戦に勝利しました。
英米が勝てたのは第一次世界大戦の経験からでしょうが、日本はそれらを全然を学んでいなかったのでしょうか?
何か泥縄で海上護衛総隊とか、対潜哨戒機東海とか作っていますが、これは本当に考えていなかったのでしょうか。
いくら何でもそれはない、と思いたい。
予想していても、理解される訳でもなし、振り分ける戦力もないしで、何もしなかった人がいるのではないかな。
例えば山本五十六とか。
山本五十六は対米戦の見通しを聞かれて
「半年や1年は随分暴れてご覧に入れる。しかしながら2年、3年となれば全く確信は持てぬ。」
と、言ったそうです。
2年目、3年目からはアメリカの増産艦艇が配備され、潜水艦の通商破壊も本格化する、と判っていたのかもしれませんね。
架想戦記などでは、日本がシーレーンを守り切り、再度のアメリカ艦隊の攻勢も跳ね返して講和を結ぶ、という流れになります。
実際には絶対あり得ない話ですが、架想戦記の場合こうしないと勝った事にならない。(笑)
あり得ない点は2つ。
まず、アメリカは一度負けたら二度と負けないという事。
仮に軍事的に手詰まりになったとしても、撤退するだけで講和を結んだりはしないという事。
二度と負けない、という意味は、アメリカという国はもし負けたのならば敗因をきっちり調査して対策を取り、充分以上の戦力を用意してくるということです。
アメリカという国の特徴は柔軟な適応力と分析力、そして最も適切な対策を強力に推し進める国力です。
本当に、大国にあるまじき柔軟な動きが出来ます。
普通大国は国が大きい分、官僚組織も複雑でいろんなところが膠着しているものです。
なので動きが鈍いものですが、アメリカはそこら辺凄く軽い。
例えば真珠湾攻撃が1941年12月8日。
そこからエセックス級空母の量産とモンタナ級戦艦の建造保留までの意志決定が早い。
海軍戦力をそれまでの大艦巨砲主義から航空主兵にあっという間に切り替えた、という事です。
大戦前、日米英の航空母艦を保持している国の中で、おそらくアメリカが一番空母戦力についての理解が遅れていたように思います。
開戦前のアメリカの空母は戦艦を含む艦隊に直属し、戦艦部隊の砲戦の支援が任務でした。
英国海軍がタラント港で行ったように、日本海軍が真珠湾で行ったように、艦載機がそれ単独で戦艦を含む艦船を攻撃するという発想はなかったはずです。
それを真珠湾の後、空母部隊の艦載機だけで攻撃を行う戦術に切り替え実行しています。
真珠湾の前、アメリカ戦艦の対空砲は7.62cm単装高角砲が4基だけでした。
それを改装によって5インチ連装高角砲8基に大増設している。
これからの海戦は航空機主体となると認識して、きっちりと対策を取ったという事です。
真珠湾の後、アメリカの海軍戦力は空母だけになりました。
それなのに大西洋から戦艦を呼び戻しもせず、不慣れなはずの機動部隊の運用を始め、日本軍の拠点にヒットエンドラン攻撃を始めています。
ろくな艦載機もありませんでした。
戦闘機はゼロ戦に敵わないF4Fワイルドキャットだし、雷撃機は足が遅くて使い物にならないTBDデバステイター。
唯一、急降下爆撃機SBDドーントレスだけは素晴らしい機体で、大戦前期のアメリカ機動部隊の対艦攻撃力は、この機体が全て賄っていたと言って良いでしょう。
その状態で半年後には史上初となる空母機動部隊同士の珊瑚海海戦をほぼ互角に戦っています。
1942年8月にはサウスダコタ級戦艦の最終艦アラバマが竣工しています。
つまり遅くても1943年には慣熟訓練が済み、40cm砲戦艦6隻による戦艦部隊が運用可能になっていたのです。
隻数は少なくとも全艦28kt以上を出し40cm砲で揃えられた戦艦艦隊は、充分日本艦隊を艦隊決戦で打ち破れるだけの能力を持っていました。
ちょうどこの頃、アメリカの可動空母は一時的に0になっていたときです。
アメリカにも大艦巨砲主義者はいたはずです。
というより、空母機動部隊の思想がなかったのですから、殆どの人間が戦艦を主軸にした艦隊決戦主義者だったはずです。
戦艦復権の舞台は整っていたはずですが、アメリカ海軍にそのような動きはなかったように思います。
つまり、アメリカ海軍の殆どの人間が航空主兵の優位性を認め、潔く大艦巨砲主義を捨てたという事でしょう。
これがアメリカの本当の強さです。
例えば架空戦記で良くある航空主兵ではなく、戦艦主体で太平洋戦争が開戦したとして。
緒戦の艦隊決戦で、もしアメリカ艦隊が戦艦大和や酸素魚雷の前に敗北したとするならば。
アメリカは次にはきっちり対策して圧倒してくるでしょう。
方策としては、そうですね。
多分、モンタナ級やアイオワ級の建造を中止して、改サウスダコタ級戦艦というべき4万トン級戦艦を量産してくる。
一度海戦をしたならば、日本艦隊に勝つために必要とされる戦艦の性能は割り出せますから。
アイオワ級やモンタナ級のような、ある意味無駄な性能の戦艦はまず作らないと思います。
量産の効く、普通の戦艦を12~16隻ほど建造するのではないでしょうか。
確かに大和や武蔵を沈める力はないかもしれませんが、別に沈められないからって勝てない訳ではありません。
充分に損傷を与えれば数ヶ月間はドッグ入りするでしょうし、その間は日本の制海権に致命的な孔が空く訳です。
日清戦争、黄海夏の海戦では日本海軍に定遠、鎮遠の2戦艦を沈める力はありませんでした。
ですが、北洋艦隊を圧倒し制海権を奪い戦争に勝つ事ができました。
それに海戦で沈められない訳でもない。
無理に沈める必要もありませんが。
日本艦隊に倍する戦艦がいるならば艦隊を2セット作り、連戦すればいい。
A艦隊が最初に戦い充分日本艦隊を痛めつけた後で、B艦隊が続いて戦う。
B艦隊が終わったら補給を終えたA艦隊が引き継ぐ。
大和、武蔵といえど、弾切れになったら後はタコ殴りです。
空母で言えばエセックスと大鳳、戦車で言えばシャーマンとタイガー、潜水艦で言えばガトー級とイ号、戦闘機で言えばヘルキャットとゼロ戦。
上記のようにアメリカの兵器は特に優れている訳ではありません。
寧ろ性能的には劣っているものもあるでしょう。
しかしアメリカの兵器は頑丈で整備性が良く、量産が効く。
アメリカは数の威力と使い方を良く知っています。
例え性能が劣っていても、量と運用で勝つのがアメリカのやり方です。
日本海軍は酸素魚雷、従来の魚雷に比べて長射程、高速、大炸薬の魚雷を開発しました。
しかしながら魚雷は本来、あまり命中率の高い兵器ではありません。
砲弾と比べて命中までの時間が長いという事は、それだけ敵の未来位置の変化が大きいという事であり。
海中を進むという事は、水流の影響を大きく受けてジャイロと舵で補正するとは言え直進性が余り良くないという事であり。
せっかくの長射程でありながら、史実では駆逐艦隊は敵艦に肉薄攻撃をしています。
ですが本来の酸素魚雷の使い方は別でした。
日本海軍は漸減邀撃作戦において、弾幕攻撃と言えるような長射程を生かした戦術を考案しています。
多数の魚雷を遠距離25000mぐらいでしょうか、から同時発射し、その射線で構成した網で敵艦隊を捉える戦術です。
その戦術担当艦として軽巡北上などを片側20線の重雷装艦に改造しています。
ですが、仮に海戦で実行出来たとしても日本海軍の戦力では合計で400射線に届いたかどうか。
逆にアメリカにその戦術を見抜かれて、やり返される未来が見えてしまいます。
アメリカは酸素魚雷を使えると判断したら、おそらく量産して来るでしょう。
酸素魚雷は、空気で予備燃焼させる、というアイデアがブレークスルーだったはずです。
それさえ判ってしまえば工業力に優れたアメリカが複製するのは訳がない。
それを、例えば前大戦で100隻以上量産したクレムソン級駆逐艦に5連装発射管(フレッチャー級に搭載)を4基ぐらい積んで、それを60隻ほど揃えてくるとか、どうでしょう。
アメリカなら余剰駆逐艦60隻を改造する事など簡単な事だと思うのです。
で、日本海軍がやりたかった事をやり返される。
艦隊の前方、左右45°の位置から発射されたそれぞれ600射線、計1200射線の魚雷射線網は確実に日本艦隊をズタズタにするでしょう。
他にもアメリカ版フリッツXをB29に搭載して空爆するとか、それでもダメなら日本艦隊の上空に原爆を投下するとか。
アメリカが対応してきそうな戦術はいくらでも浮かんできます。
そしてアメリカは必要ならば大抵の課題を克服して、あらゆる手段を取ってくるはずです。
原爆の開発に、平気で国家予算の数割を投入してくる国です。
この、アメリカに対抗するにはアメリカ以上に柔軟で早い動きが出来なければダメですが。
航空主兵が明らかになった後でも大艦巨砲に拘って戦争の足を引っ張り。
島風なんて、凡そバカな船を作らせていますね。
結局、サマール島沖の砲戦でろくな戦果を挙げられなかった日本海軍に対抗する術があるでしょうか?
アメリカは二度は負けない、というのはそういう意味です。
まあ、架想戦記などではアメリカに”柔軟な対応”などされると勝ち目がありませんので、史実通りの対応しかしてこないでしょうが。
後はまあ、真田さん式「こんなこともあろうかと。」でしょうか。
もうひとつのあり得ないは、アメリカの講和です。
架想戦記では何度も日本軍に撃退されたアメリカが「講和を結び」的に簡単に終わるケースが多いようですが。
ベトナム戦争、長い間南ベトナム軍とアメリカ軍が北ベトナム軍と戦い、結局アメリカ軍が撤退して南ベトナムが滅び統一された戦争ですが。
この戦争、アメリカは北ベトナムと講和など結んでいませんよ。
撤退した後も経済封鎖やら何やら。
講和して戦争責任やら賠償やら、そういう事する気がないのでしょう。
朝鮮戦争もそうで、取り敢えず戦闘行為はやめましょうの停戦条約だけで、戦後処理たる講和交渉など行っていません。
ですので”アメリカ人兵士の捕虜を返せ”は本来言いがかりなのです。
返して欲しければ講和交渉のテーブルを用意しないと。
で、日本軍に何度も撃退されたアメリカは講和を結ぶでしょうか?
最悪、ハワイを諦める積もりであれば、軍を本国に引き揚げるだけで停戦状態は作れます。
戦後処理が必要な講和を結ぶメリットはアメリカにはありません。
寧ろ戦争状態は継続のままの方がいいでしょう。
太平洋戦域での戦闘を停止して、その間にヨーロッパの戦争を先に片付ける。
そして連合国全て、ソ連も含めて、その全兵力で日本に大反攻をかける。
停戦期間中に建造、製造、訓練した大兵力もぶつける。
アメリカは史実でもそれをしようと思えばできました。
それをしなかったのは。
太平洋艦隊がやられてそのまますっこんでいるのは、アメリカの世論とアメリカ軍のプライドが許さなかった、のと。
軍事的には、機動部隊という新しい戦術に対する習熟と戦歴の蓄積でしょうか。
多分、アメリカ海軍の中には機動部隊戦術が今後の海軍戦略の基幹になると考えて、それの確立を目指した人間がいたと思います。
それには対等の相手と激戦を行った方がよりよいデータが取れる。
大兵力で蹂躙するのはいつでもできたでしょうから。




