脇道4 :左足ブレーキと歩車分離1
「何ものにもとらわれず、何ものをも恐れず、何ものをも憎まず、良心のみに従い、不偏不党且つ公平中正に警察職務の遂行に当ることを固く誓います。」
上記は警察庁職員の服務の宣誓の一部です。
素敵な言葉だと思います。
”正義のために”とか”悪を打ち砕く”とか、無責任で一方的な、アニメやマンガなんかで出てきそうな言葉は一切なく。
とらわれず、恐れず、憎まず、不偏不党、公平中正。
警察を嫌う人も憎む人もいるでしょうけれど、私は警察というものが割かし好きです。
交通違反の切符を切るときも、何か申し訳なさそうにしますし。
悪いのは規則を破ったこちらなのだから、とつい励ましたくなります。
そういう訳で、警察というものを信頼しているのですが、それにしては不可解な事がある。
交通事故を防ぐ、確実でデメリットのない方法があるというのに、警察はなぜ動こうとしないのでしょう。
その方法は表題の通り、左足ブレーキと歩車分離です。
まず、左足ブレーキから行きましょうか。
皆さんはブレーキはどちらの足で踏んでいますか?
多分、右足で踏み換えている、と答えられるのではないかと。
不思議に思いません?
足は2本、ペダルも2つ、何で右足1本で2つのペダルを踏まんとならんのか?
両方の足でペダル踏めば良いだろう。
(え~足が3本ある、という男の人は黙っていて下さい。
真ん中の足に出番はありません。)
多分、教習所でそう習ったからでしょう。
おそらくオートマ限定免許でも。
知っていると思いますが、昔はペダルが3つあったのです。
で、一番左のペダルを左足で踏んだので、右足が右側のアクセルと真ん中のブレーキを兼用していました。
普通の運転ではブレーキを踏むときはアクセルは使いませんから、それで良いのですけど。
それが3つペダルの運転方法でした。
当時は教習所でも、そう教えていました。
現在の販売車両は殆ど、90%以上? オートマチックトランスミッション車なので、3つペダルの運転方法に拘る必要はありません。
では、なぜ、右足踏み替えで教えているのでしょう?
もしかすると、3つペダルを運転するときに備えて、踏み替えに慣らさせている?
え~、オートマ限定免許、という意味でもお判りのように。
3つペダル車は素人に簡単に運転できる物ではありません。
多少右足の踏み替えができるぐらいで運転できると思っているなら大間違いです。
多分、オートマ限定の人が3つペダル車を運転しようとしたら、動かす事もできないでしょうね。
つまり、3つペダルを運転できるようになるには、ペダル操作を1から学び直さなければならない訳で。
そのとき踏み替えを学び直せば良いでしょう。
現状、オートマ車を右足踏み替えで運転するメリットはないのです。
寧ろ、デメリットの方が大きい。
おそらく昔からの教え方のまま、何も疑問を持たずそのまま続けているだけでは、と。
ここで昔の3つペダル車、クラッチ付きミッション車について説明しましょうか。
まずは、内燃機関のトルク特性、という少し難しめの話をします。
エンジンは回転力を産み出す機械です。
エンジンが動くとそこから出た棒がぐるぐる回り出す。
その棒をタイヤにつなげると、タイヤが回って車が走る。
凄く乱暴な言い方ですが。
で、棒が回る力をトルクと言います。
このトルクには強弱があります。
例えばビンの蓋。
固いものだと子供が力を入れて回しても回らない。
大人だと回して開けられる。
子供と大人の回す力の強弱は、つまりトルクの強弱、ということです。
エンジンから出た棒が回す力が弱いと、重い車は動き出さない。
動かす力が最も必要なのは、100km/h以上で走るときよりも、止まっているものを動かすときです。
ここでエンジンのトルク特性という話が出てくるのですが。
エンジンは回ります。
回転数は一定ではありません。
早く回れば遅くも回ります。
それで、トルクの力は回転数によって変わってきます。
で、ですね。
ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどのオットーサイクル機関は、回転数が低いとトルクが小さいのです、面倒くさい事に。
電気モーターなどは回転始めが一番トルクが大きくなるのですが。
つまり、自動車のエンジンは自動車の発進時、動き始めのエンジン回転数が低いところでは、トルクが小さくて車を動かす力がない、ということです。
もっとも力が要るところで最も力がない。
〇〇みたいな特性でしょう。
この〇〇エンジンを使って車を動かすためにいかさま、よく言えばテクニックを使います。
まず、エンジンの回転数をギヤ、歯車を使って小さくします。
回転数1000rpm(分当たりの回転数)、トルク5kg-cm(10cmの横腕の先の500grのものを持ち上げられる力)の時にギヤで1/10に落としますと。
そうすると回転数が100rpmになる代わりに、トルクが50kg-cmに増加します。
そうして、エンジンの回転数自体は高く保ったまま、止まっている車のタイヤにつながる部分に、滑らすようにしながら力を徐々に加えて車を動かします。
このエンジンと車のタイヤをつなぐ部分がクラッチといい、3つペダルの一番左側のペダルで操作する部分です。
このペダルを踏み込めば、クラッチ(摩擦の大きいふたつの板がスプリングで押しつけられている)が離れ、エンジンとタイヤの力のつながりは切れます。
クラッチ付きの場合、車の発進はアクセルでエンジン回転を高く保ちながら、クラッチペダルを慎重に持ち上げて、2つのクラッチ板の滑り具合を感じながら車が動くように操作します。
このとき、エンジンの回転数が低すぎたり、クラッチの滑らし方が不足した状態でエンジンとタイヤをつなぐと。
エンジンが急に大きな力を受けた反動で止まります。
ちょっと不気味ですよ。
一瞬、車が弾かれたように動くと、そこで止まります。
この動きは車に乗っていると、まるで車が勝手に暴走しだしたように感じて、怖いです。
心の弱い人は簡単に折れます。
昔は運転免許を取るための、最初の試練みたいなものでした。
現在はクラッチの代わりに流体継手、トルクコンバータがギヤとエンジンの間をつないでいます。
油を満たした密封されたケースの中にエンジン側の風車(油を回すのだから油車でしょうか)とギヤ側の風車が至近距離で、でも接続せずに向き合っている装置です。
エンジン側の風車が回るとその力で油も回り出す。
その油の流れに曳かれてギヤ側の風車も回り出す。
こうして直接つながっていないのに、エンジンの回転力をタイヤに伝えます。
直接つながっていないので、タイヤ側の反力でエンジンが止まるという事は起きない。
楽ちんな装置です。
昔からありましたが、ここ数10年でほぼ全ての車がこれになりました。
なぜ、面倒くさいクラッチ付きが長く使われていたか。
ひとつはオートマはいろいろ面倒な装置で高かった事。
それとまあ、速く走るためです。
昔のトルコンは加速のためにエンジン回転を上げて、タイヤに伝える力を上げようとすると、ずるっという感じで滑るのですよ。
エンジンの力をダイレクトにタイヤに伝えてくれないのですね。
もっともフェラーリみたいな大馬力車の場合は、通常のクラッチでもアクセル操作を間違えると滑りますが。
そういえば、以前中国自動車道でフェラーリなどのスーパーカーの愛好者たちが、多重事故を起こしてぐちゃぐちゃにしていましたね。
私、爆笑させていただきました。
インタビューに出てきたユーザーのひとりかな、しきりに
「皆、この車が好きで一生懸命働いてお金を貯めて買ったんです。」と
主張しておりましたが。
まあ、言いたい事は判る。
お金持ちのボンボンが見栄と格好付けで買ったんじゃない。
本当に好きで情熱を傾けて、一生懸命働いて手に入れたんだ。
ざまあみろ、なんて思うな。
・・・・・・・・・・・。
現場の写真を見ると、快晴、特に路面が濡れている様子もない。
中国自動車道は交通量が少ないし、東名のように路面は荒れていないでしょう。
少し下りのカーブかな。
つまり事故を起こす環境ではありません。
事故車はあっち向いたりこっち向いたりしていましたから、おそらくスピンをしたのでしょう。
・・・・・・・・・・・。
フェラーリのような大馬力車は、少しのアクセル操作ミスで簡単にタイヤが滑ります。
ちょっと踏みすぎたり、速すぎたり、で。
爆笑した理由は、これです。
フェラーリに乗っていい人は、タイヤが滑ってもカウンターなどで適切に対処してスピンを抑え込める人たちです。
この人たちは金に飽かせて(どういうお金かは問いません)フェラーリなどを手に入れたけど、運転する技術、ドライビングテクニックが足りなかったのでしょう。
つまり、お金さえ出せればフェラーリなどに乗っていい、と思い上がっていたという事で。
笑えるでしょう。
つい、クラッチ付きについて長々話してしまいました。
もう、随分長い事クラッチ付きに乗っていない。
コーナー手前でヒール&トゥーを決めてシフトダウンして、アペックスまでじっと耐えて、過ぎたらアクセルをタイヤの滑りを感じながら踏み込んでいき、アンダーを抑えながら立ち上がって次のコーナーに向かっていく。
あの快感は、例え傍目から見れば下手くそでも、中々良いものなのですよ。
では、左足ブレーキについてメリットは。
それはブレーキを踏むまでの時間が格段に違う事です。
普通のブレーキ操作では踏み替えでも問題ありません。
とっさの飛び出し、前方車の急ブレーキ、右左折。
バカの対処に急ブレーキは必須でしょう。
踏み替えと左足ブレーキ。
コンマ数秒の違いでも距離にすれば数mある訳で、その数mが事故を防ぎます。
私はこれで随分、助かっています。
右足ならぶつかっていた、という場面を何度も経験しています。
皆さんはどうですか?
この話を地元の警察の交通課課長さんが講演で来たときに話しましたが。
課長さんには判らなかったようです。
課長さん、白バイの出身だと言ったのに。
白バイ警官のハンドル周り見た事がありますか?
必ず指2本をレバーに掛けて乗っているでしょう。
私もバイクの時はそうやって乗っていました。
右手レバーは前輪ブレーキで、とっさの操作にグリップから指を離してレバーを握るのと、そのまま握れるのとでは停止距離が違います。
白バイ警官は先輩からそれを仕込まれているのです。
なのに何故、左足ブレーキが判らないかなあ?
後は、ボケ風味の人の踏み間違いでしょうか。
半分ぐらいは嘘かごまかしじゃないかと思っているのですが。
ブレーキを踏もうとして間違えてアクセル踏んだ、というやつ。
お判りのように踏み換えるから踏み間違えるのであって、最初から左足に任せておけばそういう事は起こりませんね。
因みに、アクセルとブレーキ、両方同時に踏み込めばアクセルがブレーキに負けて車は止まります。
クラッチ付きの時にも話しましたがオットーサイクルエンジンは意外と意気地なしで、ちょっと強く出ると簡単にへたるのですよ。
そういえば、オートマ車で信号停止するとき、皆さんはどうしていますか?
ドライブ、Dレンジのままブレーキを踏んでいる?
そういう人が殆どみたいですね。
私はニュートラル、Nレンジに戻して、パーキングブレーキを引きます。
まあ、クラッチ付きの時からの習慣ですが。
車に掛ける負担を少なくする、と言う意味では私の方が正解です。
ですが、どこかの自動車評論家が、Dレンジのままブレーキを踏むのが正解、みたいな事を書いていましたね。
レバー操作が頻繁になってレバーが壊れるから、ニュートラルに戻すな、だったかな。
バカじゃなかろか。
レバーの操作耐久試験って、おそらく車のライフの総操作回数の数10倍の回数で確認していますよ。
確率の問題からいくと、品質のばらつきで一定数の故障が出るのは防ぎきれない。
例えば車のライフ全てのレバー操作回数を10万回とすると、10万回に耐えるものを作ったとしても数%の確率で壊れるものが必ず出てくる。
数%でも壊れたらクレームです。
しかもシフトが効かなくなるというのは、事故につながる危険な故障です。
ならどうするか。
総操作回数10万回なら100万、200万に耐えるものを作ればいい。
それだったら100万で壊れるものでも10万では壊れない。
まあ、そう簡単な話ではないですが、レバーの強度を上げるのはそんなにコストのかかる話ではない。
そういう手段を取っているでしょう。
多少、操作回数を増やしても簡単に壊れるようなものではないはずです。
Dレンジのまま止まっているという事はエンジンは回り続けており、トルコンの中では油がかき混ぜられているという事です。
この場合、エンジン側の風車は回り続けていますが、ギヤ側は止まっています。
油は、トルコンオイルですが、止まっている風車に叩き付けられ続け熱を持ちます。
ニュートラル時も風車は回っていますが、この時はギヤ側の風車も同期して回っており、オイルの余計な擾乱は起きません。
トルコンオイルは高温になりますと劣化します。
具体的には粘度を失い、トルコンは滑るようになります。
まあ、これもそう簡単に劣化するものでもありませんが。
ブレーキで車を止めているという事はブレーキパッドに負担がかかっている、という事です。
高速で回るディスクに押しつけられるブレーキパッドにしてみれば、大した負担ではないでしょうが負担は負担です。
ニュートラルにすれば車は動こうとしないし、パーキングブレーキは元々外力から車が動かないようするためのものなので、負担にはなりません。
今の車はDレンジ、ブレーキでエンジン停止機能がありますね。
燃料費節減なのでしょうが、実際は車のドライブトレーンにかかる負担を減らすためではないでしょうか。
これならトルコンの負担もブレーキの負担もありません。
私はこの機能を切っていますが。
一時停止で、車の流れに飛び出すタイミングを計っている状態で、加速のタイミングが一拍遅れて怖い思いをしました。
あれ、危ない。
いや、そんなぎりぎりの運転をしなければ良いのですが。
左足でブレーキを踏むのは足が疲れる?
それは踏み替えと同じように、踵を上げて踏もうとするからです。
アクセルと同じように踵を床に付けて、つま先だけで踏めば良いのです。
それでもペダルの上で足首を上げているのは疲れます。
ですから、普段はペダルの横につま先を置いといて、市街地や前走車との車間が詰まっているとき、つまり急ブレーキが必要そうな時だけペダルの上に持ってきています。
左足でブレーキ操作のような繊細な動きが出来る訳がない?
できますよ。
貴方は歩けるでしょう。
歩くという行動は右足と左足、別々の操作を同時に行う行動です。
それも山道や泥道、雪道などでは繊細な操作が要求される。
体重、自分の重心を意識しながら踏み降ろすスピードや足を付ける場所に気をつけて。
時には走る、など短時間で繊細な操作を、しかも足首だけでなく、膝、腰など複数の箇所を同時に。
操作をミスればこけます。
ブレーキ操作は足首だけの操作です。
多少、足首を伸ばすときにスピードや力加減が必要ですが、それだけです。
練習場所がない?
ありますよ。
私はクラッチ付きからオートマに乗り換えるときに自主練習しました。
場所は一般道。
郊外でなくても時間が遅くなれば、後ろに車がいない状態には良くなります。
その時に左足ブレーキを試します。
うっかり急ブレーキになっても、後ろに車がいなければ無問題。
傍から見ると普通に走ってきた車が、何もないのに急ブレーキで止まるように見えますが。
気にしなければ勝ちです。
道路交通法上も違反ではないはずです。
危険運転?
いや、ただ止まるだけだし。
そうしてブレーキペダルの感触を左足に覚え込ませて、徐々に簡単なブレーキ操作は左足に任せていきます。
それでも最初の頃は、とっさの操作で右足が出ましたが。
このように左足ブレーキは交通事故防止に効果があり、デメリットはほとんどないと思うのですが。
習得も難しくないと思うのですが。
なぜ、警察はこれを勧めようとしないのでしょうか?
クラッチ付き車両の販売を阻害する?
いや、オートマ限定免許を作った時点で今更ですよね。
警察は運転方法の指定をしない?
各教習所の自主判断に任せる?
まあ、それが正解かも。
昔だったら建前、言い訳と怒るところですが。
確かに警察が、左足ブレーキの方が優れた操作方法なのでそちらに切り替えるように、とはっきり指示を出したら。
「間違った運転方法を教えられた」だの、「踏み替えブレーキだったから事故を起こした」だの、自分の責任を警察になすりつけようとする人が出てきそうですね。
でも、日本の官公庁にお得意な方法があるでしょう。
通達とか覚え書きとか。
「近頃、このような左足ブレーキという操作方法が取り沙汰され、警察で確認したところ一定の効果が見られた。
今後、交通事故防止の観点から、各教習所と情報を共有するために連絡を行う。」
強制も命令もしないけど、こう考えているから。
やるのはそれぞれの自主判断に任せてこちらは責任取らないけど。
各教習所はちゃんと忖度して、切り替えますよ。
彼らも判っていたはずで、でも勝手に動いて怒られるのが怖かったり同業に非難されるのが嫌だったりしただけでしょうから。
なので、警察にはお願いしたい。
そういうの出して。
それで死なずに済む人が一定数、必ずいるはずですから。
新谷かおるの「ガッデム」で、オートマ車でラリーに出る主人公が
「オートマ車で速く走るコツは、左足でブレーキを踏む事だ。」と
どや顔で言っています。
今はF1もオートマが主流のようで、F1ドライバーももちろん、左足ブレーキです。
山道のコーナーなんかでブレーキを踏みながら、アクセルを開けて回転を上げておくと、アペックスからの脱出加速が速くなります。
まあ、そんなオタクじみた事はしなくても。
「え、お前ブレーキ右足なの。
おれ、左足ブレーキだぜ。」
ちょっとした優越感が味わえますね。
左足ブレーキだけで一回分を使ってしまった。
歩車分離は次回にしますね。