第三話:剣と魔法と勉強と①
時が経つのは早いと言うもので、俺たちが異世界に来て、一週間が経過した。
あの後、フィアの言う通り、魔力測定と属性検査が行われることとなり、向かったのは、そういうのを行う専門部署。
そこで、俺たち三人は魔力測定と属性検査を行っていたのだが――
「ぎゃああああっ! また壊れたぁぁぁぁっっっっ!!」
叫ぶのは、この部の長である、ウォーリー・レイムさん。
どういう訳か、俺たちの魔力を計ろうとすれば、次々と壊れていき、その度にウォーリーさんが悲鳴を上げるのだ。
「測定不可能、と」
そんな叫ぶウォーリーの隣で、静かに記録していた女性(もしくは助手)は、そう結論付けて書き終わったのか、ウォーリーさんの頭を叩き、属性検査へと移る。
「何か、その、すみません」
「いや、直せばいいだけだ……」
壊した台数が台数なので、ウォーリーさんが落ち込んでいるのを見ると申し訳なさが出てくるので謝れば、彼は気にするなと言いたげに返す。
「やはり、異世界からの人間の魔力量は、我々現地人よりも多いのかもしれませんね」
フィアの言葉も人前のためか、切り替えたかのようにやや敬語口調だ。
「そういう理由じゃ仕方ないけど、私たちとしては、何か申し訳なくなるわね」
「そうだよなぁ。壊したのは事実だし」
フィアの言葉を聞き、困ったように上を見ながら言う朱波と、尻すぼみに声が小さくなる俺。
基本的に壊していたのは俺だけど、一銭も無いから弁償なんてできないし、気にするなと言われても、改めて言われると、やっぱり気になるし――という循環のせいで、空気がどんどん悪くなる。
「で、でも、次は属性検査ですし、機器も壊れる心配はありませんからっ!」
何とか励まそうとしているのだろうが……それ、下手するとフラグですよ。シルフィア王女様。
「それでは、ここに手を置いてください。その際に魔力が集まるイメージも忘れずに」
先程の記録係の女性に言われ、俺たちは顔を見合わせる。
目の前にあるのは、手を置けと言われた、少し大きめの水晶玉だった。
「あの、私たち魔力の使い方とか分からないんですが」
そこが一番の問題だった。『魔力が集まるイメージをしろ』と言われても、そもそも俺たちは魔力が無い世界の住人だったのだから、どうやって魔力が集まってくるのかなんて分からないし、そもそもイメージで集まってくるのだとしても、肝心の魔力とそのイメージがかけ離れていた場合、魔力は集まらず、魔力判定が零なんてことにもなりかねない(魔力量測定で計測器を破壊していたので、そんなこと無いと思うが)。
しかも、俺たちはここに来るまで、魔力についての知識など、何も無いわけで――……
そんなこともあってか、そんな朱波の言葉に、フィアが「あ」という顔をする。
「そういえば、魔力はおろか魔法についても説明してませんでした」
どうやら、純粋に忘れていただけらしい。
そんな彼女に慌てる騒がず、女性は言う。
「そうでしたか。それでは、風をイメージしてみて下さい」
「風?」
「はい、風です」
女性の言葉に首を傾げれば頷かれたので、水晶の中に風が現れるイメージしてみる。
「その風が、置いた手の方に集まるのをイメージをしてください」
そう言われ、廉は風が集まるのをイメージしながら、水晶玉に手を置いてみれば、何だか丸いガラスを触っているような感覚がある。
次の瞬間、水晶玉が光り出したのだが、そのことに驚いて、とっさに手を引っ込めてしまった。
だって、嫌だぞ。二連続で壊すなんて。
「光属性ですか」
ふむ、と女性は記録する。
「では、次の方。どうぞ」
女性に促され、朱波が恐る恐るといった様子で前に出る。
そして、俺と同じように朱波が風をイメージし、水晶玉に触れる。
――ふわり。
「風属性、と」
女性が記録し、朱波が手を離そうとすれば、水晶玉の中に泡が現れる。
「あら、水属性も?」
水晶玉の泡を見ていれば、バチバチ、と火花を放ち始め、小さな火が現れた。
「あらら、雷属性や火属性まで……」
女性が驚いたように、水晶玉と朱波を見る。
だが、それも再度生まれた風により、泡や小さな火は消されてしまった。
「どうやら、貴女は他のものも使えるらしいけど、相性としては風属性が一番良いみたいね」
水晶玉から手を離した朱波は、そうですか? と首を傾げる。
「じゃあ、次は私」
最後に詩音が前に出る。
「手を置いて下さい」
女性に促され、詩音は水晶玉に手を置く。
水晶玉に現れたのは、俺とは違うタイプの光。
その後は朱波と同じように、水や火などの属性の適性があることも分かった。
「あら?」
「これって、芽?」
不思議そうな女性の声に、俺たちは水晶を覗き込む。
水晶の底に現れた土と、そこから出た植物の芽。
「土属性まであったとは……」
唸る女性に、驚いているのか、よく分からない表情の詩音。
「でも、惜しいですね。闇属性もあれば、お三方だけで全ての属性が使えたかもしれないのに」
「全ての属性……?」
というと? と、首を傾げる。
「火に水、風に地。光と闇。これが、主な属性です」
「そこから、氷や雷などの派生があります」
女性とフィアが説明する。
「廉」
「何だ?」
「もう一回やってみたら?」
水晶玉から手を離した詩音が言う。
「もしかしたら、廉も私たちみたいに出たかもよ?」
確かに、俺はとっさに手を引っ込めたから、もしかしたら闇が出ていた可能性もあるのかもしれないが……観念して、溜め息を吐けば、再検査である。
「分かったよ。もう一回、やってみてもいいですか?」
「どうぞ」
女性に許可を取り、再度水晶玉に触れる。
そして先程、触れたときのように、水晶の中から光が放たれる。
だが、先程のように手だけは離さず、目を細めて、水晶玉を見つめる。
そんな水晶玉の中の光が少しずつ収まっていった後、小さな火や泡が出たことにより、朱波や詩音のように、火や水などの属性が使えると分かった。
中でも、光とは相性が良いらしい。
その後、記録が付けられたのを確認して水晶の玉から手を離した俺は、朱波や詩音とともに女性(とウォーリーさん)に礼を言った後、フィアに連れられ、昼食に向かったのである。






