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ウェザリア王国物語~グラスノース編~ The First person  作者: 夕闇 夜桜
第一章:異世界召喚、篠原廉編
7/10

    異世界・ウェザリア王国にて②ー③

   ☆★☆   


「聖剣?」


 部屋を出た俺たちは、シルフィアに連れられ、移動しながら、彼女の話を聞いていた。


「はい。歴代の勇者となった方々は聖剣と共に、魔王退治をしたと言われています」

「ふーん……」


 この世界にも、やっぱり存在するのか。


「ところで、王女様」

「何でしょう?」

「私たちも同行して良かったんですか?」


 朱波(あけは)が尋ねる。


「はい。勇者であるレン様(・・・)のご友人である貴女方に、無礼な態度を取るわけにはいきませんし」


 ――レン様って……


 シルフィアの言い方に噴き出しそうになる朱波の横で、俺は顔を引きつらせた。


「無礼な態度って……俺たちは、こちらの言い方をすれば平民で、普通なら王族に会えるような立場では無い上に、敬語を使われるようなものじゃないのですが」

「ですが……」


 俺の言葉に、シルフィアが困ったような顔をする。

 そんな俺たちの様子を見ていたであろう、朱波と詩音(しおん)が顔を見合わせる。


「なら、互いに敬語無しにして話せばいいじゃない」

「だがな……」


 いくら本人から気にするなって言われても、慣れないと気になるもんだぞ。

 だが、朱波が溜め息混じりに呆れたような視線を向けてくる。


「私相手に普通に話してるくせに、今更渋るの?」

「うっ……」


 朱波の家は、いろんな意味で複雑だ。だから、朱波のこの言い方は別におかしいわけではない。普通なら(・・・・)、俺たちは朱波と会うことすら無かったのだろうし、性格も今とは違ったのかもしれない。


「それに、年齢(とし)が近いなら、遠慮無用」

「そうそう」


 詩音の援護に同意するかのように、朱波は頷く。


「お前ら……」

「ええい! 男ならグダグダするな!」

「どうするのか早く決めないと、結理(ゆうり)代理のハリセンの刑」


 他人事だと思って、と視線を送れば、朱波ははっきり言い放ち、詩音は圧力を掛けてくる。

 当然、俺がそんな二人に反論できるはずもなく――……


「……分かったよ。ということで、敬語無しで話しましょうか」

「良いんですか?」


 どれだけハリセンが嫌なんだよ、と言いたそうにしていた朱波だが、目を輝かせるシルフィアを見て、どうやら言うのは止めたらしい。


「はい……じゃなくて、ああ」

「分かりま……分かったわ。私も頑張って普段の話し方にさせてもらいます」


 敬語になりかけた言葉を訂正しながらも、俺たちはそう会話をする。

 ただ、シルフィアの場合、あまり変わってないように聞こえるのは気のせいか。


「王女様。私たちにも、その対応でお願いね」

「分か……ったわ。では、行きましょうか。レン様」


 朱波が言えば、シルフィアは頷く。

 だが、呼び掛けるようにして名前を呼ばれた俺としては、未だに慣れないというか、引っ掛かる点があるため、何とも言えない顔になる。


「あ、あのさ、どうせなら『様』も外してくれない?」

「さすがに、それは同意できません。それは、私が決めたことですから」


 あっさりと拒否された。


「なら、仕方ないけど……」


 彼女が決めたことなら仕方ない。

 この様子だと何度頼んでも変わらなさそうだし、頼むのは……うん、諦めた。

 まだ出会って日も浅いから、強くは言えない。それに、意外と頑固そうだしなぁ、とも思いつつ。


「お二人さん、公私混同だけはしないようにね?」

「だ、大丈夫よ。そんなこと無いようにしてるから」


 さすがに、謁見の間などで、今の話し方はマズい。

 だからこその朱波の忠告なのだろうが、シルフィアはそれは無い、と返す。


「……いや、あっちゃあマズいだろ」


 それがたとえ、『うっかり』だったのだとしても。

 それでも――それでも今だけは、こうやって話していたいと思うのも、また事実で。


「さ、王女様。聖剣――」

「あ、あの!」


 気を取り直して、と話し掛けてみれば、シルフィアが遮る。


「どうしたの?」


 詩音が尋ねる。


「せ、せっかくなので、レン様たちも私のことは名前で呼んでもらえませんか?」


 赤くなりながら言うシルフィアに、俺たちは顔を見合わせた。

 何を言われるかと思ったら、名前で呼んでほしいということだった。

 まあ確かに、シルフィアは俺たちの名前を呼んではいるが、こっちは『殿下』だとか『王女様』だとかで呼んでるしな。

 まあ、けど名前ぐらいなら……


「何だ。そんなことか」

「いいよ」

「うん、友達なら当たり前」


 安心して、それぞれが返せば、シルフィアは嬉しそうな顔をする。


「友達……」


 感動したかのように、復唱するシルフィア。

 そんな彼女を尻目に、朱波がこっちに視線を向けながら告げる。


「ほら、廉。名前呼んであげなさいよ」

「何で俺? 同性であるお前たちの方がいいだろ」


 ん? 今俺、何かおかしな事を言ったか?

 朱波は固まり、詩音はあーあ、と言いたそうな顔をしているが、一体何が駄目だったのか、教えてもらいたい。


「朱波」

「ん、何?」


 詩音が話し掛ける。


「私たちは何て呼ぶ?」

「そうね……」


 朱波もどうするのか、考え始めたらしい。

 相手は王女様だが、その本人から名前呼びをしてくれと言われている。

 下手な呼び方をすれば、不敬にさえなるかもしれないのだから、悩みどころではあるんだが……さて、どうする?


「……フィア?」

「はい、何ですか?」


 呟きに返事が聞こえたためか、朱波が驚いたようにシルフィアを見る。


「……」


 そして、こちらに目を向けてきたので、ニヤリと笑みを浮かべてやる。

 一瞬、固まったのを見ると、どうやら気づいたらしいが、慌てて弁解しようとする。


「いや、王女様。今のは――」

「先程のように呼んでくれませんか?」


 訂正するために咄嗟に『王女様』と呼んだ朱波に対して、先程の呼び方が気に入ったのか、シルフィアは期待に満ちたキラキラした目で朱波を見つめる。

 ふむ、これは――


「フラグ、立った?」

「私はノーマルだ!」


 そんな二人を見た詩音の言葉に、朱波は反論する。


「あのさ、フィア?」

「はい」


 だが、朱波はそのままでいるつもりはないのか、顔を引きつらせながら、シルフィアに尋ねる。


「廉には何て呼ばれたい?」


 朱波の言葉に、え、と固まるシルフィア。


「そ、れは……」


 シルフィアは赤くなりながら、こっちをチラチラと見た後、朱波たちに目を移せば、にっこりと微笑まれていた。

 何というか、まあ……可哀想に。

 朱波の奴、シルフィアのことを完全にイジってやがる。


「す、好きなように、呼んで下さい」


 結局、一杯一杯になったらしいシルフィアがそう告げれば、朱波はこっちを見てくる。


「だってさ、廉」

「そう言われてもなぁ」


 お前が言わせたようなものなのに、何で俺に振るんだ。

 ……いや、俺も関係してるから、他人事ではないんだが。

 さてどうしたものか、と悩むように上を見上げれば、綺麗な天井が目に入ってくる。


「そうだなぁ……」


 (しば)し、思案する。

 けど、考える必要も無かった。


「俺も『フィア』って呼ぶことにするよ」


 呼び方は二人と変わらないけど、それでもシルフィア――フィアは嬉しかったのか、それとも別の感情なのか、笑顔で返してくる。


「これからよろしくお願いいたしますね。勇者様」

「ああ」


 フィアから手を差し出され、俺はその手を受け取り、握手をする。

 ……とまあ、ここまでであれば、綺麗に纏まっているように見えるんだろうが、こんな空気ですら無視をして、現実に戻すのがうちの女子たちである。


「さて、話を戻すけど、聖剣について続きを話せてもらえる?」


 そう朱波に尋ねられ、フィアは頷いた。


   ☆★☆   


「先程、歴代の勇者が居ると言ったけど、実はそんなに居るわけではないの」


 フィアは再び歩きながら、説明をする。


「まあ、私が知らないだけかもしれないけど――この国には、聖剣はありません」


 その言葉に、俺たちは目を見開いた。


「え、それってどういう――」

「順を追って、説明します」


 話を聞いていれば出てくる当然の疑問に対して、フィアは話し始めた。


「先代の勇者、名前はアースレイ。彼が使ったとされるのは、一般的な剣だったそうです」


 そして、旅の途中で手に入れた剣も使い、魔王を倒した。


「他国では、自分の(ところ)に聖剣があると言っている(くに)があるそうですが、その大半は偽物だったり、正体不明の材料で作られていたり、(いわ)く付きの物までありました」


 フィアの話を、黙って聞いていく。


「そもそも、聖剣は勇者の出身国が所有及び保管をすることになっています。そして、先代勇者のアースレイはこの国の出身なんです」

「つまり、本来なら、この国に聖剣があるはずだった、と」


 フィアは頷いた。


「けれど、今はその聖剣がない」

「その通りです」

「そのことについて、先代勇者は何も言わなかったの?」


 二人の会話を聞きながら、朱波は尋ねる。

 自分の剣が無いんだから、アースレイが文句を言ってもおかしくはなさそうなのだが……

 だが、そんな疑問にも、フィアは首を横に振る。


「いえ、特には」

「そう……」


 そこで新たな疑問が湧いてくる湧いてくる。


「あれ? それじゃあ、私たちはどこに向かってるの?」


 朱波の問いに、フィアは笑みを浮かべる。


「この国には、魔法があります」

「知ってる。俺たちを召喚したぐらいだしな」


 本当にいきなりのことではあったけど、世界から世界を移動するという事象が、もし魔法や魔術でなければなんなんだ、と言いたいぐらいである。

 だが、フィアが言いたいことはそういうことではないらしい。


「となれば、最初にやるべきことは一つ。魔力測定と属性検査です!」


 フィアが、元気よくそう言い切った。

 そして――……


『――――』


 そんな俺たちの様子を、誰かが見ていたことに、この時の俺たちは気づくことは無かった。


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