異世界・ウェザリア王国にて②ー②
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「確認だが、いなくなったのは、男二人に女一人で合っているな?」
「はい」
別室に移った俺たちは、結理たちを捜すため、王様たちに名前とその容姿を伝えていた。
現在この部屋にいるのは、俺たち三人と案内役のシルフィア、王様と第二王子のソーノ殿下である。
第一王子であるフィート殿下がいないのは、所用があり、抜け出せないため、ソーノ殿下が任されたらしい。
「名前はそれぞれ、ヒロト・アマミ、ナツメ・ヒトウ、ユウリ・タカモリで合っているか?」
「はい」
確認するかのように告げられた三人の名前を聞いて、俺たちは頷いた。
ちなみに、捜索対象である三人の名字と名前が逆だが、そのことには俺たちも謁見の間を出た後に気づいて、それぞれ訂正したのである。もし例を挙げるなら、俺の場合はレン・シノハラという具合に。
「でも、その三人も驚いたでしょうね。本来いるべきはずの友人たちが居ないんですから」
「確かにな」
苦笑いして言うソーノ殿下に同意した王様に、俺たちは互いの顔を見合わせた。
「いや、多分そんなに驚いてないと思いますよ?」
「私もそう思います」
きっとそう返ってくるとは思っていなかったのだろう。
そんな俺と朱波の言葉に、顔を引きつらせ、ソーノ殿下が尋ねてくる。
「……友人、なんだよね?」
「友人ですよ。けど、結理なら『廉が一緒なら大丈夫でしょ』的な事を言うと思いますよ?」
「まあ、俺たちも『結理が一緒なら大丈夫だろ』って思ってますから、大丈夫ですよ」
――向こうに結理が居るなら大丈夫。
――こちらに廉が居るなら大丈夫。
今まで一緒だった幼馴染だからこそ、理解でき、安心できる。その内、何も無かったような顔をして、ひょっこり顔を出してきそうだ。
「まあ、男二人も一緒だから、多分、大丈夫」
詩音がそう付け加える。
そう、彼女一人ではないのかもしれない。もしかしたら、一人と二人に分かれているかもしれないが、それでも大丈夫な気がするのは、長年の付き合いからだ。
「……」
「何というか、すごく信頼し合ってるんですね」
今まで黙っていた聞いていたのか、シルフィアが口を開く。
「まあ、俺や結理たちは長い付き合いですから」
「そうか」
「なら、早急に捜さないとね」
王様は笑みを浮かべ、ソーノ殿下もそれに同意するのだが、俺はその点に対して、待ったを掛ける。
「いえ、最低でも彼女だけ捜していただければ、ありがたいのですが」
「他の二人は良いのか?」
訝る王様たちには悪いが、結理だけ先に見つけた方が良いのにも、ちゃんと理由はあったりする。
「良くは無いけど、結理は情報に強いから、結理さえ見つけられれば、他の二人もすぐに見つかると思う」
「いやまあ、そうだけど……ここは異世界だぞ?」
ぶっちゃけ結理に丸投げするかのような発言な上に、無理やりとも言える詩音の援護に、顔を引きつらせる。
自分で言っておいてアレだが、結理にも出来る限度というものがある。さすがに、よく知りもしない世界で一から捜そうとはしないだろう。
「異世界だろうと、元の世界だろうと、関係無い。結理の情報収集能力を考えれば、私たちが今、城のどの辺りに居るのか、知っていると思う」
「そんなに凄いのか……」
王様たちが驚いているようだが、それはさすがに無理な気がする。
確かにそこまで聞けば、凄いと思うのは当たり前だが、はっきり言えば、少し言い過ぎである。
朱波は結理のことになると饒舌になる。
きっとそのことに頭痛がしたんだろう。詩音が頭を抱えて溜め息を吐いた。
「凄いってレベルじゃないですよ。魔法が使えるとなればなおさら――むぐっ!?」
さすがに、そろそろ止めないとマズいと判断して、朱波の口を塞ぐ。
「朱波。お前は少し、落ち着け」
俺に口を塞がれながらも、未だにむがむが言う朱波だが、それも少しずつ収まる。
「廉、やり過ぎ。朱波、気を失っちゃったじゃん」
「あー……悪かった」
やれやれ、と言いたげに、朱波を引き取っていく詩音を見ながら謝れば、話が逸れたから戻すぞ、と王様に声を掛けられる。
「それで、後は三人の容姿ですよね?」
詩音が尋ねれば、王様たちは頷く。
「ああ、そうだ」
「じゃあ、最初は大翔から」
王様が頷いたのを確認し、詩音が順に告げていく。
「大翔は、茶髪に茶色の目」
ソーノ殿下のメモが書き終わるのを待つ。
そして、彼が書き終わったのを確認した詩音が続ける。
「棗先輩と結理は、私と同じ黒髪に黒眼」
ソーノ殿下が再び紙に書いていく。
ちなみに俺たちの見た目を説明すると、俺は茶髪に黒眼、朱波は黒髪のポニーテールに茶眼。そして、詩音は黒髪黒眼である。
「うん、書けたよ。ありがとうね」
「いえ、こちらこそ。捜してもらうので、協力するのは当たり前です」
お礼を言ってくるソーノ殿下に対し、詩音は横に首を振り、そう返す。
「そう言ってくれて助かるのだが……勇者殿はどうした」
王様の言葉に、詩音がこっちを向いて、溜め息を吐いた。
「廉、いつまで固まってるの」
そして、こちらに来ると、
『廉、私には分かってるから』
そう呟かれた次の瞬間、びくりとし、思わず慌てて周囲を見回す。
どうやら先程の驚きを上手く上回ってくれたらしい。
そして、ニヤリと笑みを浮かべた詩音に気づき、理解する。
「おまっ、詩音っ……!?」
「いい加減、慣れなよ。私がちょっと長く説明しただけで固まるの、止めてくれない?」
「……ああ、そうだな」
妙に凹んだ様子の俺に、不思議に思ったのだろう、詩音に視線を向ける。
「あ、別に変なこと言ってませんよ?」
単なる声マネですから、と、詩音は付け加えた。
「結理の、でしょ?」
「あ、朱波。起きたね」
いつから起きていたのか、伸びをしながら横から言う朱波に、詩音は気づいたのか、声を掛ける。
「うん、軽く死にかけたね」
あいにく幽体離脱しかけたよ、と言う朱波は凹んでいる俺に目を向ける。
「廉、諦めなさい。あんたは結理にも詩音にも勝てないんだから」
「言うな。分かっていたことだから」
朱波の言葉に、少しばかり復活してきたが、それでもダメージはあったらしい。
「……」
「……」
だが、女性陣二人は違ったのか、二人してこっちを見てくる。
「な、何だよ」
怪訝そうに尋ねれば、互いに顔を見合わせた朱波と詩音は、ぷっ、と噴き出す。
「いや、何でもないよ」
「そうそう、気にしない気にしない」
朱波と詩音がそう言う。
「……何か納得できねぇ」
見るだけ見ておいて、何にもなし。
二人はにこにこと笑みを浮かべているだけ。
けど――……
「まあ、いいか」
溜め息を吐きながらも、そう告げる。
結論から言えば、このチームがバラバラにならないのなら、理由なんて何でも良かった。
「仲が良いんだな。お前たちは」
王様の言葉に、俺たちはは彼に目を向ける。
「まあ、幼い時からの付き合いですから」
そう、幼い時からの付き合い。
朱波や詩音はともかく、小学校に入る前から俺は結理と知り合いで、彼女を通じて朱波や詩音と知り合い、中学を卒業するころには、今の六人の関係が出来上がっていた。
「国王様たちも会えば分かります。もし、全員が揃ったとき、私たちの言っていた『凄い』という意味が」
「なら、それまでの楽しみにしておこう」
詩音の言葉に、王様が笑みを浮かべると、この場を黙って見守っていたんだろうシルフィアに目を向ける。
「シルフィア」
「はい」
王様に話し掛けられ、シルフィアが返事をする。
「案内は任せる」
「分かっています。お任せ下さい」
そう伝えられ、シルフィアは頷いた。
それに対し、内心首を傾げるのだが、きっと、俺たちの知らない間に、何らかのやり取りがあったのだろう。
「では、こちらに」
そうシルフィアに促され、俺たちは王様たちに頭を軽く下げた後、部屋を出るのだった。