第一話:異世界・ウェザリア王国にて①ー①
「……っ、」
浮上した意識と共に、ゆっくりと体を起こす。
周囲を見回せば、見たことのない服装の人々が目の前に居て、中には剣(のような物)を持っている人も居た。
そんな周囲の人たちは、こっちを見ながら、「成功か?」「いや、三人いるぞ?」と、コソコソと話している。
どうやら起き上がったのも、そんな状況に気付いたのも俺だけだったみたいで、一緒にいた二人――朱波と詩音はまだ気を失っているらしい。
「朱波! 詩音!」
さすがに周囲を囲まれているような状況下で逃げることも出来なければ、今居る場所が安全だとも言い切れないため、まずは二人を起こすことにした。その際、慌てて声を掛けたのは内緒である。
「う……ん……? 何だ、夢か」
「また寝ようとすんな!」
朱波がゆっくりと起き上がるが、周囲を見て、現実逃避するかのように、体を戻そうとする。
そんなこと俺としては許すつもりはないので、次は詩音に目を向ける。
「おい、寝たふりは止めろ。お前ら、少しは身の危険を自覚しろ」
「まあ、それもそうね」
「廉に正論言われるとは思わなかった」
「お前ら……」
注意すれば、あっさりと二人は起き上がる。
ねぇ、この二人の中で、俺の扱いって何なの?
この状況下でもブレない二人の方が正しいの?
「で、何なの。この状況は」
けれど、俺の心中などどうでも良かったらしい朱波が周囲を見回し、尋ねてくる。
それは俺も聞きたいのだが、誰か説明できそうな人は……と、周囲の様子を見ていれば、一人の少女が前に出てくる。
「それは、私からお話し致します」
――金髪紺眼。
少女を一言で表すには、それで十分だった。
「貴女は、どちら様ですか?」
そんな彼女を見て、朱波が尋ねれば、剣を持っている者たちから殺気が放たれる。放たれた空気から察すれば、どうやら彼女は彼らの守るべき主であり、上司のような人物らしい。
それを理解してか否か。少女は一度、目を閉じ、息を吐く。
そして、目を開き、告げる。
「単刀直入に申し上げます。私たちを助けてください、勇者様!」
頭を下げた彼女に対し、俺たちは呆然となった。
つか、今、何て言った?
「……勇者?」
「えーっと……」
「……」
戸惑うように呟いた俺に、困ったように笑う朱波、無言だが驚いている様子の詩音。
「……あ! 申し遅れました。私の名前はシルフィア・ウェザリア。このウェザリア王国の王女をしています」
どうやら名乗っていないことに今気付いたのか、慌ててシルフィアと名乗った金髪紺眼の少女は、そう自己紹介をする。
「良ければ、貴方がたのお名前を聞いても構いませんか?」
シルフィアの言葉に、俺たちは互いに顔を見合わせた。
信用するかどうかの意志確認である。
――で、どうするよ。
――どうしようか。
――大体は予想できてるけど、もしその可能性が当たった場合……
――うん。たとえ、私たちを騙そうとしている敵であったのだとしても、命には変えられないよね。
――それじゃ、結論は一つだな。
そんな結論が出れば、ほぼ同時に頷く。
「初めまして、王女様。俺の名前は篠原廉といいます。廉が名前です」
「レン、ですね。分かりました」
相手が名乗ったのに、こっちが名乗らない訳にもいかないので、俺が先に名乗れば、シルフィアが頷く。
「私は東雲朱波。朱波が名前です」
「私は笠鐘詩音。詩音が名前」
二人も続いて自己紹介する。
「アケハにシオン、ですね。」
シルフィアは確認すると、小声で復唱する。
そして、何かに納得したのか、シルフィアは小さく頷き、俺たちを見る。
「では、場所を移りましょうか」
「このままでは、お客様に失礼ですから」とシルフィアからそう促されたこともあり、ずっと座りっぱなしだったことに気づいた俺たちは、慌てて立ち上がり、軽く服を叩く。
そして、こちらを確認したシルフィアは、「大丈夫なようであれば、こちらへ付いてきて下さい」と告げ、案内も兼ねた移動を始めるのだった。