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ウェザリア王国物語~グラスノース編~ The First person  作者: 夕闇 夜桜
第一章:異世界召喚、篠原廉編
10/10

    剣と魔法と勉強と③

   ☆★☆   


「皆さん、似合ってますね」


 今日は汚れるから、とフィアから渡された服に俺たちが着替えれば、それを見た彼女がそう告げる。


「そういえば、今日は使用武器を決めるんだっけ」

「はい」


 言われていたことを思い出すかのような朱波(あけは)の問いに、シルフィアは頷く。


 異世界に召喚されて三日目。

 俺たちはフィアに連れられ、王国騎士団がいる訓練場に向かっていた。


「レガート」

「殿下!? 何かあったのですか!?」


 フィアが目的の人物を見かけたのか、声を掛ける。

 一方で、話しかけられた相手――レガートと呼ばれた男性は驚いたらしい。


「ふふ、騎士団の面々は元気ですか?」

「はぁ、何とか。それで、何かご用でも?」


 フィアが尋ねれば、相手は頷き、尋ね返す。

 そんな彼に肯定するかのように頷いたフィアは、俺たちに彼を紹介する。


「こちら、我が国の騎士団団長、レガート・レオンハルトです」


 次にシルフィアは彼――レガートさんに対して、俺たちを紹介する。


「レガート。今から紹介する彼らは、我が国の勇者として召喚された方々です。失礼の無いように」

「勇者?」


 レガートさんが首を傾げる。

 俺が『勇者』という点について、疑問を持つのは分からなくはないが、勇者召喚について、騎士団長なのに話が通ってないのはおかしい気もするが、今はとりあえず挨拶である。


篠原(しのはら)……じゃない、レン・シノハラです」

「アケハ・シノノメです」

「シオン・カサガネ」


 それぞれ自己紹介する。


「お、おう。レガート・レオンハルトだ。よろしく」


 レガートさんもどこか戸惑いながら、名乗ってくれる。


「それで、貴方に頼みたい事があるのですが」

「何でしょうか」


 フィアの言葉に、レガートさんが彼女に目を向ける。


「彼らに、指導をしてもらえませんか?」

「えっと……何故、私が?」


 疑問は尤もで、レガートさんが尋ねれば、フィアは彼に説明する。


「彼らの世界には、魔法が無いらしいのです」

「魔法が、無い……?」


 怪訝そうなレガートさんに、フィアは頷いて、説明を続ける。


「魔法だけではありません。彼らの居た世界には、剣も無いらしいのです」

「いや、王女様。本当に無いわけじゃないですって。剣は昔に存在してましたし、魔法は架空のものですけど」


 フィアの説明に不安になった……というわけではないけど、補足しておかないといけない気がしたので、横から口を挟んでおく。

 正直、フィアの説明を少しだけ遮るように発言したためか、不敬罪とか言われるかと思っていたけど、どうやら大丈夫だったらしい。


「なるほど、それで?」

「ですから……」

「あのですね。私たちは貴方たちのように、戦いや戦争を知らない平和な世界から来たんです」


 フィアの説明とレガートさんの反応から、()れったくなったのだろう。横から朱波が説明する。


「もちろん、武器の種類やその扱い方、何が有利で不利なのかさえ知らないんです」

「そんな私たちのために、王女様(・・・)はここへ案内してくれた」


 詩音(しおん)が援護に加わる。


「戦いの最前線のプロである、貴方たちの所に」


 一歩踏み出す。


「ですから」


 頭を下げる。


「彼や私たちに、武器の扱い方を教えて下さい」

「ちょ、ちょっと待て」

「ほら、(れん)も。あんたが一番、使えるようにならないといけないんだから」

「あ、ああ………」


 レガートさんの制止も聞かず、朱波は横目で俺を確認すると、頭を下げるように促してくる。

 いや、うん……間違ってはいないんだが……。


「レガート。私からもお願いします」


 ついには、フィアまでもが頭を下げる。

 ここまで来ると、何だかレガートさんが可哀想になってくる。


「殿下まで!? あーもう! 分かりました! 指導しますから! 頭を上げてください!」


 さすがに、フィアに頭を下げさせたままでは、自分の身が危ないとでも思ったのだろう、レガートさんが叫ぶようにして指導を引き受けることを告げる。


「私たち、ちゃんと聞いたわよ?」

言霊(ことだま)取った」


 隣でニヤリと笑みを浮かべる朱波と詩音に、もしかしなくても、最初からそのつもりだったな、と気づく。

 フィアはフィアで、にこにこと笑みを浮かべているし、レガートさんはレガートさんで、()められたことに愕然としているっぽい。


 だが、さすがは騎士団長というべき人なのだろう。

 その後、鬼教官とも言うべきか、レガートさんを主とする騎士団員たちとの厳しい特訓の末に、俺たちは何とか剣を持てるようになった。

 その際、俺たちの間で「こういうのはチートで片付くんだろ!?」とか「チートは言語や規格外の魔力のみだったらしいわね」という会話をしたような、してなかったような。

 さらに、それを見たレガートさんが、俺たちの会話内容に怪訝そうな顔をしていたらしく、その表情に副団長や団員たちが怯えていたらしいのだが、それについては本人たちだけの秘密らしい。


   ☆★☆   


 異世界生活四、五、六飛んで七日目。

 先に言えば、やっていたことはあまり変わっていない。


 四日目。

 俺たちは、午前に魔法の練習し、午後に騎士団に交じり、剣の特訓。

 その際、


『ふふ、何か面白いことやってるわね』


 と姿を見せた精霊に驚き、とっさに朱波が契約してしまい、朱波は精霊に関しての勉強のため、一人図書室で籠り、詩音は魔法の先生から防御魔法と相性が良いかもしれん、と告げられ、防御魔法の練習をすることになった。


 五、六日目。

 魔法の練習に朱波が戻り、通常の魔法と精霊魔法を撃ち合っていた。

 俺の場合、午後はいつも通り、騎士団での訓練に参加。

 仲の良い騎士の友人も出来た。


 そして、七日目(いま)


「冒険者ギルド、ですか?」

「この国に無いの?」


 今では物語に無くてはならない施設と行ってもいい『例の場所』について尋ねれば、フィアが困ったような顔をする。


「一応、あるけど……あんまりお勧めしたくないかな」

「何で?」


 フィアの言葉に、首を傾げる。

 危険だとか言うのなら、ある意味予想通りではあるのだが。


「冒険者は荒くれ者が多いって、言われてるの」

「だろうな」


 その点については予想済みだ。


「後は、レン様たちがまだ剣や魔法に慣れていない、っていう理由もあるのだけど……」

「あー、それも納得できるわ」


 痛い所を突かれたとは思う。

 一通り出来ないと、ギルドに行ったとしても、依頼すら受けられない可能性もある。


「けどさ、多分だけど、冒険者として動き回れば、結理(ゆうり)たちも見つけられると思うんだよね」


 腕を組んで言う朱波に、同意するように俺は頷く。


「確かに一理あるな」

「そう思うなら、真面目に剣や魔法の練習をしてください。アケハ様たちは、もう応用まで出来る様になったんですから」

「なっ、本当か!?」


 フィアの言葉に驚くしかない。

 俺、まだ合格点出されてないんだけど!?


「あんた、変な時に真面目なくせして、こういう時は不真面目だからいけないのよ」

「悪かったな」


 いつもの癖で返してしまったが、あれ、と思う。

 今回は自分の命にも関わるため、比較的真面目にやってるはずだったんだけどな、とは思っていたのだが、朱波たちから見れば、不真面目に見えたのだろうか?


「なぁ」

「何?」

「どうしたの」

「何ですか?」


 話し掛ければ、三者三様に返ってくる。


「……その、俺はそんなに不真面目に見えたか?」


 間が出来る。


「……ぷっ」


 それは、誰が噴き出したのか。


「あー、うん。ごめんごめん」

「まさか、そこまで真面目に考えるとは思わなかった」

「すみません」


 謝る朱波に、苦笑いする詩音とフィア。

 何なんだ。


「ほら、最近の廉って、部屋戻っても力抜いてないように見えたしさ」

「必死なのは分かったけど、違和感があった」

「それで、冗談の一つでも言ってみよう、ということになったんです」


 朱波、詩音、フィアの順に説明する。

 それを聞き、ああそうか、と理解した。

 俺自身が倒れたら元も子もないのだと。


『死なないで』


 泣き叫ぶような幼馴染の声が頭の中で響く。


「そう、だよな。倒れたら意味ないもんな」


 拳を握りしめ、気合いを入れる。


「そうそう。再会前に倒れられてたまるもんですか」

「うん」

「はい、私も早くお会いしたいですし」


 そう言いながらも、朱波たちは笑みを浮かべた。










 そして、そんな俺たちを見ていた騎士団員たちは、というと――


「レンの奴、許せん……」

「羨ましくないぞ、コノヤロー!」

「俺だって俺だって……」

「これは、詳しく事情を聞く必要がありそうだな」


 と、怒ったり、泣いたりしていた。


   ☆★☆   


「これが、この一週間にあったこと」


 暗闇に蝋燭(ろうそく)の灯りで浮かび上がる影の主。

 影の主は窓を開け、風を感じる。


「明日から、また楽しい一日になるといいわね。勇者様」


 影の主は窓を閉め、灯りを消し、部屋を出る。


 金の髪を靡かせて。



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