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第4話:体育の授業で



 本日最後の授業、体育。


 高校指定の紺色の体育着に着替え、藤堂と共に体育館に向かう。


 今日の体育はバスケだ。

 廊下に出て体育館に向かう傍ら、二組クラス男子の中心、龍前は猿谷と共に仲良く談笑しながら体育館に向かっている。

 俺と藤堂も、クラスの男子の最後尾について廊下を進む。


 前を歩く龍前に、今度は別の生徒が近づいた。あの生徒は藤堂が言っていた三沢という名の生徒だった。

 三沢は龍前に肩を組みに行き、そのままひそひそ何やら会話していた。


「……」


「龍前はどう思ってるんだろうな」


 突然の藤堂の呟きの意味が良く分からず、俺は眉をひそめて問い返した。


「なにが」


「白花は誰に対しても明るいが、それでも特定の誰かにわざわざ絡んだりはしない。お前、気に入られたな」


「……嫉妬なんてしないだろ龍前は。俺は路傍の石ころだぞ」


 しかしそれがフラグだったのか、俺の言葉に反して前を歩く龍前が、背後を振り返って俺と視線を合わせた。

 彼の隣にいる三沢が、こそこそと耳元で囁いている。


「……大変だな、お前も」


 他人事のように呟く藤堂の言葉に、俺はただ顔をしかめた。




 渡り廊下を通って体育館に着いた。本当なら身体を動かしたくないので体育の授業を休みたいが、試合が始まれば立っているだけでいいのだ。

 どうせパスなんか来ないし、俺も積極的に動かない。


 予鈴がなり、ついに授業が始まる。体育の授業は俺達二組だけでなく、一組と合同で行われる。龍前達も、他クラスのイケメンと何やらふざけ合っている様子。


 そんな折、体育の先生が来て、授業は開始された。

 まずはいつも通りランニングから。女子とはランニングまで一緒に走る。


 そこからは体育館を半分ずつ分けて、それぞれ体操に続く。

 それが終わればボールを持ってパス練習だ。俺は藤堂と組んで適当にボールをパスする。


 藤堂はボールを捕球した後、世間話するように口を開いた。


「今日お前、家に来るか?」


「いや、いい。紗由を一人にできないから」


「ま、そうだよな。一応、言ってみただけだ。姉貴がお前いつ来るかって聞いてきてうるせーから」


「……虐められる未来しか浮かばないんだが」


「ありゃ姉貴なりの照れ隠しというか、何と言うか……」


 藤堂の最後の方の言葉は何やら小さくて聞こえなかった。ちなみに紗由とは俺の妹だ。今年受験の彼女の傍には、兄としてできるだけいてあげたいと思う。


「よし。じゃあ早速試合だ。チーム決めは任せる。好きに組んでいいが、ちゃんとバランスはとれよ」


 笛の音と共に、体育教師の声が耳に届く。それから龍前が二組、温和なイケメンが一組の男子を仕切ってチーム分けを始めた。

 俺は流れに任せるように、言われた通りのチームに入る。


 2クラス合わせて男子36名で、六人一組で6チーム。ほぼ数分で戦力を均等に分けたチームを決めた事に、龍前の優秀さが表れている。


「えーっと、確か()()、だったか?」


 声をかけてきたのは、そのクラスの中心、龍前奏多だった。

 名前を間違えているが、どうせほとんど関わらないので訂正しなくてもいいだろう。しかし、もし悪意を持ってそう言ったなら面倒な事になりかねない。


 クラスの中心的存在とは、それだけ教室では大きな権力を持つのだから。


「よろしく」


「……あ、ああ、同じチーム同士、よろしくな」


 伺うような眼で龍前は俺を見据え、それから他のチームメイトにも挨拶を交わしに行った。


「三沢は敵かー。アイツがいれば楽勝だったのになー。確かバスケ部だったろー?」


「でもこっちには龍前がいるんだ。どうにでもなるよ」


 龍前以外のチームメイトの会話を聞き、三沢がバスケ部だという事実が判明した。

 その後、体育教師が再び笛を吹いたのを合図に、チームごとのリーダーが集まってじゃんけんを始めた。どのチームから試合をするのか決めているのだろう。


「よし、じゃんけんで勝ったチームからな。一試合目は龍前チーム対三沢チームだ。始めるぞー」


「三沢、手加減してくれよ」


「いやいや、龍前に必要なのか?」


 親し気に会話をし始めた二人を尻目に、俺は体育館の端に背を預ける。

 バスケの試合は五人いればできる。しかしチームは六人だから、一人余るはず。


 俺は誰にも告げず得点板の方へ向かうが、


「た、鷹宮くん、いいよ。そこは僕がやるから」


 駆け寄ってきたのは眼鏡をかけた男子生徒。眼元を覆うくらいの黒髪で、見るからにオタクっぽい少年だ。

 だが、こういうヤツに限って眼鏡を外して髪を上げれば、超絶イケメンだとかいう設定があるかもしれない。


 ここはラブコメ主人公くんに譲るべきか。


「……分かった」


「う、うん。じゃ、頑張って……」


 何故か言いづらそうに視線を俯けた彼の様子に疑問を感じつつ、俺はコートに向かう。

 すると、男子と同様に隣のコートでも女子の試合が始まろうとしていた。


 それを見た龍前がクラスの中心である白花に声をかけていた。


「あ、白花んとこも始まるの?」


「おー、龍前! 見せてやるよ、バレー部の実力を!」


「いや、バスケ関係ねーけどな」


 親し気に会話を始める二人は、入る隙などなく見るからにリア充同士の会話という印象を受ける。その様子を遠くからぼんやりと見ていると、


「おーい、鷹宮くんも!」


「……」


「頑張ってね。ま、活躍できるとは思わないけどー」


 茶化すように口元を手で押さえて、ぷぷぷと笑う仕草をする白花。その姿に内心イラっとしつつ、男子たちからの視線が一斉に注がれるのが痛い。

 何だか物理的にも刺されるような視線の数に、これ以上ないくらいの嫌がらせだなと思う。


 白花にはただ会釈するだけに留めると、龍前がポカンとした顔でこちらを見ていた。

 そんな今までとは少し違う絡みがありつつも、時間は滞りなく進んでいく。


 先生の笛の音と共に、バスケの試合が始まる。

 しかし、かといって特にすることはない。いつも通り俺はどうせ立っているだけで、あとは適当にコートを走り回っていればいい。


 しかし、今回の授業は予想に反して、俺の元にパスが回ってきた。


「ドリブルで進め!」


 龍前に言われるがまま始めるが、三沢くんがプレスしに来てあっという間に俺からボールを奪い、そのままドリブルに持ち込んでシュートを決める。


「ふぅ、ま、こんなもんか」


「ひゅー、三沢くんかっこいい!」


「止めろ、お前ら」


 茶化される三沢は笑みを浮かべて、そのままの表情で俺と視線を合わせた。


「あー、どんまい、鷹野! 次また頑張ろうな」


 龍前に肩を叩かれるが、次と言われてもまた同じ結果になるのが目に見えているのだが。


「龍前、おい。このままじゃ負けるぞ」


「なんかおかしくね、龍前」


 他のチームメイトも怪訝そうに見つめる中、龍前は切り替えたように声をあげている。

 しかし結局、俺はその後もひたすらチームの足を引っ張り続けた。試合のない女子連中は人気者の龍前の試合を必然的に見るようで、その中でもミスを連発する俺に失笑を向けている。


「あの人、鷹宮、だっけ。ミス連発してるんだけど」


「見ててかわいそー。でも、反対に三沢くん超かっこいいね。流石バスケ部って感じ」


「でも龍前くんもやっぱりかっこいいわ。ほんと何でもできるよねー」


 しかし、何事にも終わりは来る。嫌な時間も大好きな時間も代わりなく過ぎていくのだ。


 学校のチャイムが鳴り、授業の終了を告げる。

 俺はそのまま目立たないように藤堂の元へ足を運ぶ。彼は誰とも群れず、体育館の端に背を預けて試合を見ているようだった。


「災難だったな」


 何故か笑みを浮かべていて、面白そうな藤堂の態度に俺は恨みを込めつつ内心の考えを明かす。


「……全ては席替えからだ。あれがなければこんな事にはなってなかった」


「かもな。ははっ、見るからに敵視されてたもんなぁ」


 ククと腹を抱えて笑う藤堂を横目に、俺は体育館の壁に背を預けてズルズルと座り込む。


「まあ、お前ならもっとやりようはあっただろうがな。今回は()()()()()()()振舞ったわけだが」


「失敬な。俺は精一杯やったよ」


「そうだな、道化(ピエロ)として精一杯頑張ったな。お前がいいならそれでいいさ。その解決法でもな。だが、俺ならもっと面白くなる手法をとるね」


「説教乙」


「はぁ、ま、俺のいう事なんか聞くはずないか」


「そうだぞ、お前のいう事なんか誰も聞かねーよ。誰も、な」


「……こいつ、マジで殴りたい」


 額に青筋を浮かべた藤堂を横目で見て、仕返しができたと内心笑った。



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