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第21話:委員会活動



 委員会活動。

 それは、きっと学生なら誰もが経験しているはずのもの。


 俺も中学生の時に一度経験したが、残念ながら驚くほど思い出はない。


 そう、これは俺の私見でしかないが、委員会活動は部活などとは比べるべくもないスポットの当たらない学校イベントの一つだと思う。


 それは一体何故なのか、理由として考えられるのは、委員会の活動内容だろうか。

 正直、どの委員会も活動内容がパッとしない気がするのだ。


 辛うじてスポットが当たっている委員会と言えば、生徒会や風紀委員とかだろうか。


 生徒会と言えば、会議の主催や各部活の予算案決め、そして文化祭、体育祭の主催など華のある仕事だ。


 更にはアニメや漫画にも題材として取り上げられ、唯一スポットが当たっていると言える。

 

 対して、俺が所属する美化委員と言えばどうなのか。


 中庭にある花壇の手入れや校内の清掃、そしてゴミ捨てなど正直面倒にしか思わない内容ばかりだ。

 どれも重要な仕事ではあるが、あまり人の目に留まらないため人気がないのも頷ける話である。


 創作物の中なら、校内のゴミ(不良など)を掃除する事が仕事、みたいな過激な美化委員もいるかもしれないが、現実にはそんなのいるわけがなく。


 ただ人気がないだけの委員会でしかない。


 しかし人気がないという事は、クラスの中心的存在のリア充たちが入る可能性が少ない委員会という事だ。

 だからこそ目立ちたくない俺は、余ったこの美化委員会に入ったわけである。


「ーーえー、今月の美化委員会の活動としてはですが。来週開催される体育祭に備えて、校内の清掃活動により一層力を入れたいと思います」


 教壇に立つ三年生の真面目そうな生徒ーー美化委員長が方針を皆に説明する声が耳に届く。


 俺はただその言葉通りに、掃除でも何でも取り組めばいいだけだ。

 末端の者など、思考せず無心で手を動かしている方が上に立つ者としてはやりやすいはず。


 ただし今は別だ。


 言っては悪いが、事務的な事を説明されるだけなので話がつまらないのだ。

 流石に退屈過ぎて欠伸が止まらないので、周囲の人間観察でもしてみるとしよう。


「来校する方々も多いため、学校の敷地内、つまり中庭や駐車場、体育館の周りや昇降口付近も徹底してゴミ拾いをお願いします」


 早速と言っては何だが、心なしか今の言葉に顔をしかめる者もいた。


 俺の隣に座る同じクラスの女子も、そんな中の一人のようである。


 そして、数人いるスポーツバッグを持っている生徒達は皆、何かしら落ち着きがない。おそらくだが、彼らは早く部活に行きたいのだろう。


 そんな空気を物ともせずに美化委員長の説明が続く中、俺は周囲の人間観察を続けていくと、左隣の列、二つ前に座る生徒に目が留まった。


 色素の薄いアッシュグレイの髪を、肩口で切り揃えたボブカットの女子生徒だ。


 肌は透明感溢れる真っ白な肌に、ちょこんと乗った小ぶりな鼻。眼は眠そうに半開きなのだが、むしろそれがミステリアスさを生み出していた。


 光の当たる加減では銀色の髪にも見えるため、雪の妖精のように見える。

 季節はこれから夏本番を迎えるわけだが。


 そしてスタイルも目測だが、白花クラスである。

 驚くほど育っているのだ。いや、どこがとは言わないが。


 容姿的に言って、彼女が学年一位の成績を持つ女子生徒、月待紬だろう。


 確かに白花に勝るとも劣らない美少女だ。

 白花は可愛い寄りで、彼女は美しい寄りなのでタイプが違うが、確かなのはどちらもクラスの看板となるだけの美貌を持っている事。


 しかし白花の時と今では状況が違う。席も隣ではないし、何より違うクラスだ。

 

 結局関わる事はないはずで。


「えーっとでは、今から各自役割を言いますので。まず一学年と二学年は校舎周りを頼みます。三学年は校内の清掃活動。あ、それと一年生は中庭にある花壇の方もお願いします」


 いや、一緒に活動するというだけで、積極的に関わることはないだろう(二度目)。

 白花と違って、あっちから俺に話しかけてくる事もない。


 そもそも、何故こんな過剰に意識しているのか。全くアホらしい。


 もう余計な事は考えずに自然体でいこう。


 早速、俺は指示を受けた他の生徒らと共に席を立つ。

 下らない思考を捨て置き、俺は欠伸を噛み殺しながら同学年の美化委員の後についていく形で教室を出た。


 


*   *   *   *


 

 


 

 まず靴を履き替え校舎の外に出た俺達は、一人一人ゴミ袋を渡されて昇降口付近のゴミ拾いから始めた。


 二学年の先輩方は体育館周りをするという事で離れていくのを見送り、一学年は先輩方がいなくなったためちらほらと会話する者が増えてきた。


 そうなると、ここで問題が発生する。

 今更だが、俺は藤堂以外に学校で話せる友達がいない。


 いや、白花達をカウントしたらもう少し多いが、ここは友達ではないとカウントさせてもらおう。だって俺から話しかける事がほぼないから。


 そんなぼっち気味の男子にとって、グループ活動なぞ地獄でしかない。


 皆が協力して、又は雑談しながらゴミ拾いする中、俺は一人寂しくその光景を見ながら離れた所で黙々とゴミを拾うだけ。


 校舎の昇降口付近から始まり、校門まで行って一度戻ってくる。

 そして次に裏手にある教師たちの駐車場などのゴミ拾いを行う。

 

 皆の笑い声が俺に届くたびに、グループ活動などなくなればいいと思ってしまう。

 そしてこの瞬間だけで、世界が滅んでほしいと何度も願った。


「ぼっちには厳しい世の中だな……」


 小声で呟いたため、離れた場所で会話する美化委員たちには聞こえていないだろう。


 というか、彼らは何故入学して一か月で打ち解けられるのか。俺と同じ美化委員でありながら、陰キャではないのだろうか。

 まさか隠れリア充なのだろうか。


 もしくは陰キャでも、ある程度のコミュ力を皆持っているのか。


 確かに今はコミュ力が大切な世界だ。

 学生なら話が面白ければ、それだけでクラスの人気者になれたりする。そしてコミュ力は、将来的に仕事にも大きく反映される重要なスキルでもあるだろう。


 結論、


「……あー、早く終わってほしい……」


「……うむ」


「大体、美化委員が校内掃除して、誰か一人でも感謝された事あったか?」


「ない」


「感謝もされずになんでゴミ拾いとかしてるの? そもそもあまりゴミもないしな。校内にゴミ捨てる奴とかそんないるわけないだろ。不良校じゃないんだよここは」


「……あ、空き缶みっけ」


「え、あったの? ってあれ……」


 とてとてと歩み寄り、傍で腰を曲げて缶を拾う女子生徒の姿を思わず二度見してしまう。


 もしや適度に相槌を打ってくれていたのは彼女なのだろうか。

 そんな疑問を脳裏に浮かべる俺を他所に、その女子生徒が振り返った事で容姿がはっきり見えた。


 色素の薄い髪色をした美少女。その姿に思わず目を見開く。


「……ゴミ、あったよ?」


 動揺する俺の様子を気にせず、彼女はマイペースに拾った缶を手に歩み寄ってきた。


 その容姿の美しさにしばし硬直してしまう俺に対して、彼女はずっと手を掲げたまま無表情で小首をかしげた。

 

 そしてやっと絞り出した言葉は掠れ気味で。


「……あったか……いや、あるんだな」


「……ん」


 短く頷いた彼女は、次に缶を手に持つビニール袋の中に入れ、額を拭って一仕事した、みたいな顔を見せた。


「ふぅ」


「いや、そんなドヤ顔されてもな。というか、あれ? その袋の中、缶以外入ってないんだけど。ひょっとしてサボってた?」


「……だ、断じてそんな事は……」


 フルフル首を振る美少女に、思わず呆れた眼を向ける。と、そこでハッと我に返る。


 いつの間にかペースに乗せられているではないか。


「……あの、月待さん、でいいんですよね?」


「……そ、そう、だけど。なんで敬語?」


「……いや、それよりも。何で皆と話さないんですか? あっち楽しそうですよ」


 ほらと同学年の美化委員が集まる場所へ指を差すが、その方角を羨ましそうに見た後、彼女はトロンとした眠そうな目を伏せてしまった。


「……わ、わたし、コミュ障だから……」


「は?」


「は、話せる友達、いない……」


 頬を染め、恥ずかしそうに俯く彼女の姿に思わず目を見張る。


「……え、だって一組の人気者だって……」


「ん? そ、そんな事ない。みんな、わたしを見てひそひそ話すだけ……」


 ズーンと落ち込む彼女を見て、思わず一つの可能性が頭を過る。

 そういえば、川瀬から聞いた彼女の異名は、”眠り姫”だった。


 という事はつまり、ミステリアスな美貌を持つ学力一位の美少女、月待紬の正体とはーー。


「……も、もしかして休み時間に寝てるのって、寂しいのを紛らわすためだったり?」


 すると、彼女は大きく目を見開き、理解者を見つけたと言わんばかりに目を輝かせた。


「よ、よくわかったね……もしかして貴方もそうなんでしょ?」


「え、い、いや、俺は違ーー」


 否定した瞬間、シュンと身体を縮ませ、ワイシャツに包まれた大きな胸の前で両手を組んで悲し気に目を伏せる月待に、俺は慌てて頷いてしまった。


「ーーま、まあそうとも、言えるか?」


「や、やっぱり! さっき捻くれた言葉垂れ流してたから、そうだと思って、ゆ、勇気を出して話しかけたの……!」


 いや、勇気を出して話しかけたって、最初「うむ」って頷いただけだろとツッコミたかった。が、彼女の嬉しそうな顔を見ていると、自然と言葉に詰まり何も言えなくなった。


 流されるままの俺に、月待は一歩近づき上目遣いでじっと見つめてくる。

 見つめ返すと、まるで水面に浮かぶ月のような、ぼんやりとした美しい瞳に俺の呆けた表情が映っていた。


「……あ、貴方の名前は……?」


 期待を含んだ視線が、俺を捉えて離さない。


「た、鷹宮。鷹宮仁……」


「……ん、たかみや、じんくん、ね……」


 口の中で何度か反芻した後、彼女はうんと大きく頷き、トロンとした焦点が定まっていない瞳をふにゃっと細めて笑った。


「ーーお、覚えました……!」

 

 その表情に見惚れながらも、一つ分かった事がある。

 ”眠り姫”なんて大層な異名など、この女の子にはいらないという事だ。


 


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― 新着の感想 ―
[一言] コミュ障ヒロインは最高! (小説中に限る)
[良い点] この子一番可愛い
[一言] 眠り姫(寝ているとは言ってない)
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