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第16話:デート<中編>



 二人並んで歩くと、白花と俺では否が応でも釣り合わないと実感させられる。


 薄く化粧を施した白花は、何時にもまして周囲から注目を集めていた。


 例えば一組のカップル。

 彼女持ちの男子がすれ違った白花に目を奪われ、そんな彼氏の足を彼女が踏みつけ現実に引き戻す、そんなやり取りをしているカップルを視界の端でとらえたり。


 仕事途中なのか、スマホを耳に当てて電話している背広姿の男性が傍にいる白花に見惚れ、思わずスマホを落とす、なんてことも。


 白花はそんな周りに全く気付いておらず、駅弁コーナーに興味津々といった様子だが、乗り遅れるという事でしょうがなく手を引いてその場から離れる。


「え、何? 駅弁初めて見た人?」


「い、いやー、駅とか行ったの久しぶりで」


 えへへと頭の後ろに手を当てる白花に、思わず呆れた眼を向ける。

 そもそも友達と遊ぶとき、駅を利用していないのだろうか。


 能天気にも程があるが、きっとそういう所も男には魅力に感じるのだろう。


 そんな事を考えている間に、駅のホームに着いた。二人並んで静かに電車を待つ。


「あ、手……」


「……悪い」


「……ううん」


 手を引いたままだったのに気付き、すぐに手を離す。すると、白花は首を左右に振り、目を伏せてどこか残念そうにした。


 そういう反応をされると、勘違いしそうになるからやめて欲しい。


 結局、モテない男子が美少女と付き合うなんて事は、創作物の中だけの話なのだから。


 それからしばらく会話をせずに電車を持つ。ふと白花の様子を見ると、上目遣いで俺を見つめる彼女と視線がぶつかった。

 透き通った瞳に、吸い込まれそうになる。


 直後、電車が来たので二人同時に目を逸らして我に返る。

 そしてすぐに電車に乗り込んだ。


「……ふあ、ひ、人がいっぱい……」


「……これは、ちょっとヤバイな」


 電車の中はほぼ満員だった。

 人の波に流され、白花が遠くに行きそうになるので再び手を掴んで引き戻す。


 そして視線を集める白花が、万が一痴漢などに合わないよう壁際に彼女を連れていく。そして手を電車のドア付近につき、背中で彼女を隠した。


 これで周りからは俺の背中しか見えないはずだ。


 警察沙汰になれば、俺の計画にも響く。

 ここは強引にでも守らせてもらおう。

 

「こ、これ、壁ドン……」


 ぽかんとする白花が何か言った気がするが、満員電車の中ではうまく聞き取れなかった。

 10分程度電車に揺られ、目的地に着いた。


 電車を降りて駅構内を歩きつつ、映画館をスマホの地図で調べる。改札を抜けて一先ず外に出た。


「よし、ここから徒歩で3分だ。行くか」


「う、うん。というか、何見るの?」


「……アニメ映画はなー、まだやってるのはーー」


「いや、確かに好きだけど、あたしアニメ以外も見るもん!」


 好きなら別にいいと思うが、隣でジト目になった白花はスマホで現在上映中の映画を検索し始めた。


 今は丁度階段に差し掛かった所なので、ながらスマホは止めた方が良いと思うのだが。


「アメコミも好きなんだよね。アクションとかすごくて!」


「……それで貴方が楽しいなら良いですけどね。俺も割と好きだし」


「え、ほんとに⁉」

 

 普通、恋人同士なら恋愛映画とか見るんじゃないだろうか。知らんけど。


 しかし、もしこれから白花と付き合う男は、外見とのギャップについていける人物じゃないと苦労するだろうなと思った。


 まあ俺達は恋人でもなんでもないので、どうでもいいし俺がそんな事を心配するのは余計なお世話というものだ。


 きっと白花は俺の事を友達として見ているのだろう。だから素直に素を出せるのではないだろうか。


 そもそも白花は、今日が一体何の為のデートなのか忘れている。

 俺をリア充にするだの学校では息巻いていたのに。


 いや、俺としては忘れてもらった方が都合が良いので、このまま何も言わずデートを続けるとしよう。


 ふと、隣の白花に意識を向ければ、彼女は何故かもじもじと縮こまっていて、


「……ね、ねぇ鷹宮くん。手、繋ご。ヒール慣れなくてさ……人も多いし、階段長いから」


 頬を赤らめ、そっぽを向きながら言う白花に心臓が跳ねつつ、動揺を悟られないよう口を開いた。


「じゃあなんで履いてきたんだよ」


「そりゃ女の子ですから……」


「……?」


「ーーいいから! こんなにお願いしてるのにダメなの?」


 上目遣いは止めて欲しい。

 こんなにと言うほどお願いした訳じゃないが、可愛さに免じて手を繋がせていただきます、はい。


「……分かった。じゃあ繋ぐか。手汗気持ち悪いとかいうなよ?」


「大丈夫。そういう時はあたしから離すから」


「……そーですか」


 しっかりと白花の手を握る。

 先ほどは咄嗟の事で感触その他もろもろ感じる暇はなかったが、今度は柔らかくて思ったよりも小さな手の感触がはっきりと伝わってくる。

 

 そのまま黙り込んだ白花は足を止め、何故か俺の手をにぎにぎしてきた。


「あの、白花さん……?」


「はっ! い、いや手、結構硬くて……もしかして何かスポーツでもしてた……?」


「……やってたのはセパタクローとカバディくらいかな」


「ん……?」


 本気で首を傾げた白花に思わず苦笑してしまう。今のはボケだったのだが、流石にマイナー過ぎて処理できなかったようだ。


 気を取り直して、何故か俺の顔を見て固まっている白花の手を優しく握り、映画館まで連れていく。


 徒歩3分程度なので、駅から信号を渡ってすぐだった。建物内に入って自動ドアを潜ると、どうやら一階はゲームセンターになっているようだ。


 二階に映画館が併設された作りとなっている。


「へー、一階はゲーセンなんだね」


「興味あるのか?」


「……うん、ある」


 恥ずかし気に白花は頷く。

 その表情は少し幼げに見え、容姿は全く似てないのに紗由と被って見えた。


「映画見た後、昼飯食ったら少し遊んでいくか」


「いいね! それ!」


 テンション上がった様子の白花に苦笑して、二人でエスカレーターに乗って二階の映画館へ。


 今日は一応デートという名目だが、ゲーセンに行くのはどうなんだろう。そう思わなくもないが、白花の性格からいって()()()()ではあった。


「うわ、結構混んでるなー、ここも」


 二階に上がり、ついに映画館に到着。

 白花の言う通り、今回はアメコミの映画が盛んなようで、大々的に宣伝しているようだ。


 とりあえず、これで見る映画は決まりだろう。


 館内にはグッズコーナーもあって、ヒーローやらヴィランやら人気のグッズが販売されていた。入り口付近に置かれた看板で、映画の上映時間を確認する。


 どうやらあと15分後に上映とあるので、急いで買う必要があるようだ。


「それじゃあ映画券買ってくるわ」


「いやいや、あたしも行きますよ」


「……ポップコーンとかいいのか? もう時間ないぞ」


「あ、欲しい! けど……やっぱ、いい」


 顔を輝かせた白花は、しかし次の瞬間に俺と繋いだ手を見て、何かを躊躇するように顔を俯けた。

 

 流石に一応異性の前で菓子をパクパクと食えないのだろう。しかし、欲しいと勢いよく言っている時点で今更だ。


 それに、映画館に来て何も買わないで入るのも味気ない。ポップコーンは俺のと一緒にすると言えば、白花も遠慮なく食べるだろう。


「混んでるけど、上映時間になってすぐ始まるわけじゃないからな。どうせ10分くらいはCMとか無駄な時間だろ。少しくらい遅れてもいいか」


「う、うん。だね!」


 嬉しそうにはにかんで頷いた白花を横目に、受付の順番が俺たちに回ってきたのでパネルを操作していく。


 席の場所をチェックして、


「先に白花が選んでいいぞ」


「いや、隣空いてるとこでいいじゃん。こことか」


「え、隣に座るの?」


「は……?」

 

 一段、声が低くなった白花に内心ビクッとしつつ、


「いや、俺って隣に誰かいると張っ倒したくなるんだ。それに俺、映画は一人で見る派だから」


「そんなの知るか! 今日は一緒に隣で見るの!」


 アホなの? という眼差しでこちらを見た白花は、自分でパネルを操作して空いている隣り合った席を選んだ。


 ともかく、怒られつつもこれで発券完了。

 学生という事で少し値段が安くなり、紗由へのプリン代が浮いたなと気分が良くなる。いや、そんな事今はどうでもいいな。


 次にジュースやらポップコーンやら色々買って、ついにシアター内へ入った。


 席に着くと同時に、白花が俺の手をギュッと握って。


「ね、鷹宮くん。楽しみだね!」


 小声ではしゃぐという器用な真似をする白花に優しい眼を向ける。

 既に館内は暗くてよく分からないが、きっと彼女は今、満面の笑みを浮かべているだろうと想像して薄く笑った。


 そして映画が始まる。


 楽しかったデートも、既に中盤戦に突入した。これまで俺の計画に支障はない。


 気を緩め、一先ず館内で買ったメロンソーダをストロー越しに口に含む。


 それから数分後。黙って映画を見続ける俺は、白花の動きが気になって目を止めた。

 

 隣で映画に集中するあまり、目を輝かせた白花はなんと俺のジュースをとってストローに口を付けた。

 その事実に、思わず二度見してしまう。いや、信じられずもう一回確認するが確実に俺のジュースだった。


 二人して同じメロンソーダを頼んでいたからか、まだバレていないようである。

 この事実は、きっと墓まで持っていった方が良いだろう。スクリーンを見ながら、そっとため息を吐いた。


 

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