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第13話:計画破れて




 この計画を立てた上で、誰よりも協力が必要なのは白花だ。


 彼女が俺のパーフェクトプランを容認するかどうかで話は変わってくる。


 俺の計画に賛同してくれるかどうかは五分五分だと思う。しかし彼女自身、いつまでも令賀丘に通っている事を隠し通せるとは思っていないはずだ。


 だからこそニセの恋人を用意する。更にその人物が、白花と外見上釣り合う人間でなければ完璧な納得は得られない。


 龍前奏多は白花のためだと言えば、きっとニセ恋人の件は了承してくれる。やはり、最大の難関はそれを白花が受け入れるかどうかだ。


 既に時期は、新たな高校生活にも慣れ始めた五月の中旬。

 中間テスト一週間前を切ったこの忙しい時期に、面倒な案件に自ら首を突っ込む事になるとは思わなかった。


 三沢くんとの約束により、俺は新川と接触を控える必要がある。

 だが昼休みの話し合いの時、今日の勉強会だけは何とか許してもらえた。


 そして今現在、帰りのHRが丁度終わりを告げた所だった。


 日直の号令に従い解散となる。

 ガヤガヤと騒がしくなる教室だが、すぐに生徒の多くが教室を出て行く。テスト期間だからか、皆真っすぐに家に帰る者が多いだろう。


 そんな中、俺の机に真っ先に小さな女の子がやってきた。童顔のクリッとした大きな目が特徴の美少女、新川由愛だ。


「鷹宮、今日も図書館でいいよな?」


「ああ、だけどちょっと用事があるから、先に行っててくれ。これ、古文のノート。要点はまとめたから、俺がいなくても勉強できるはずだ」


 バックから一冊のノートを手に取り、新川に渡す。すると、彼女はキョトンとして上目遣いで俺を見た。


「まさか作ったのか……? たった一晩で……?」


「まあな」


「あ、あたし一人のために、何もそこまでしなくても……!」


 急に慌てだした新川に、柔らかい眼を向ける。


「大した労力じゃない。それに、俺にとっても復習になったし」


 それは事実だ。新川のためとはいえ、まとめていくと自分でも勉強になった。


「……あ、ありがとな、鷹宮……」


 そう言って、新川はノートを大事そうに抱えた。

 それから、俺は教室の入り口近くの席で準備している藤堂の方を見て、


「先に藤堂と川瀬と図書館に向かってくれ。俺は少し、白花に用事があるんだ」


 すると、隣で聞き耳を立てていた白花はビクっと大袈裟に肩を竦めた。


「な、何かね、鷹宮くん……」


「すぐ終わる。だが、大切な話だ」


「……分かった」


 白花は緊張したように堅い表情で頷く。何の話か分かったのだろう。

 そのやり取りを交互に見て、新川が僅かに口をすぼめた。


「お前ら、何かあったか?」


 その質問に、あからさまに目を泳がせる白花に対して、俺は努めて無表情を返す。


「いや、何も」


「……ウン、ナニモナイヨ」


「何で片言なんだ?」

 

 ぼやきつつ、それ以上新川は詮索しなかった。

 それにほっとしながら、俺と白花は連れ立って教室を出た。


 廊下を歩くと、やはり白花は人気なのか他のクラスから出てきた生徒達に挨拶される。女子や男子問わず、その交友関係は広いようだ。


 それからしばらく歩き、校舎の奥の方へやってきた。ここら辺は授業の実験で使う薬品などを管理する部屋がある所だ。

 人の気配もないし、教室からは大分離れた影響か生徒の声も届かない。ただ、無駄に夕日が差し込んでいるせいで、妙に幻想的だった。


 振り向いた白花の明るい金色の髪が、夕日に照らされ輝いた。しばらく見惚れていると、


「あ、あの、話って……?」


 白花はしきりに周囲を気にして、それからモジモジと手をすり合わせた。

 その瞬間、我に返った。


 考えてみれば二人っきりなのだ。

 緊張もするし、もしかしたら嫌なのかもしれない。手早く終わらせよう。


「……そうだな、この辺でいいか」


 一応、周囲を見渡して、人がいない事を再度確認してから口を開いた。


「昨日の件、考えてみた」


「……か、考えたって、どういうこと?」


「もし三沢先輩とやらに白花が通う高校がバレた時の対策だ」


「……」


 唇を噛みしめ、白花は顔を背ける。それから力なく廊下の壁に背を預けた。


「……そんなの、どうにでもできないじゃん」


「それができるんだな、これが」


 一度、言葉を切ってためを作る。


「……白花、ニセの恋人を作らないか?」


「は……?」


 呆けた顔で俺を見る白花に、間髪入れずに続けた。


「このまま学校生活を送っていても、いつかは三沢先輩とやらにバレる。その時、これは俺の予想だが復縁を迫ってくるはずだ」


 三沢先輩とやらが白花が通う高校をわざわざ調べているのは、おそらくそういう理由からだろう。というか、それしか思い浮かばない。

 俺様系のイケメンという性格上、わざわざ殴った事を謝罪しに来るとも思えない。


「い、いやいや、その話と今の話がどう関係してるの?」


 困惑と動揺、二つの感情が絡み合った複雑な瞳と眼を合わせる。


「つまり元恋人を完全に諦めさせるには、もう既に新しい恋人がいるという状況が欲しい」


「……だから、ニセの恋人……」


 ぼーっと俺を見て、ぽっと頬を朱に染める白花。その反応に疑問を覚えつつ、俺は最後の条件を述べる。


「で、そのニセの恋人は龍前に頼もうとーー」


「はぁ⁉ いやいや、あり得ないよ!」


 瞬間、白花は壁から背を離して詰め寄ってくる。


 優しい白花の事だ。龍前に迷惑をかけたくないと思っているのだろう。アイツなら喜んでニセの恋人を引き受けてくれると思うが。


「いやいや、ニセの恋人は龍前以外あり得ない。アイツなら容姿的にも釣り合うし、何より隣に並ぶとお似合いだからな」


「……やだ」


 白花は首を横にブンブン振る。それから不満を訴えるように頬を膨らませ、


「ほ、ほら、龍前に悪いじゃん。み、三沢先輩は暴力とか躊躇なく振るう人なんだよ? き、危険に巻き込んじゃうかも……」


「……いや、もし暴力を振るってきたら藤堂を貸そう。アイツは外見通り喧嘩が強い。だから大丈ーー」


「じゃ、じゃあ!」


 急に大声で俺の言葉を遮る白花。それから彼女は一歩進み、俺を上目遣いで見上げた。


「ニセの恋人役は……」


 白花はドルルルルルと口で効果音を挟み、


「ーーキミに決めた!」


 ビシッと指を差す白花に、俺はその指をむんずと掴んで下に曲げる。


「白花さん、そこには地面しかないですよ?」


「キミに決めた!」


 今度は逆の左手で俺を指差してくる。勘弁してほしい。


「……いや、恋人役は誰でも良いわけじゃない。確かに俺はお前の事情も知ってるが、白花と釣り合っている人物じゃないとダメなんだよ」


 すると、白花はグッと大きな胸の前で拳を握り、


「諦めるなよ! 鷹宮くんだってお洒落すればリア充の雰囲気イケメンくらいは模倣できるよ!」


「……雰囲気イケメン……」


「それにそれに、知らない人を巻き込むのはね……やっぱ気が引けるというか?」


 白花は眉をくいっと上げて笑う。何だか急に調子が出てきたように感じた。

 しかし、その表情にはイラっとしたのできっぱりと断る。


「いいや、ダメだ。元恋人が敵わないと認める程の男じゃないと」


「じゃあじゃあイメチェンしてみて、鷹宮くんがあたしに釣り合うかどうか見極めてみようじゃない!」


「は……?」


「鷹宮くんはまずその眼元まで伸びる髪をどうにかした方がいいね。もうそれが陰キャっぽいというか……」


 白花は顎に手を当て、唸りながら俺の周りを歩く。そして服装や髪など、上から下までチェックされる。

 というかまだ髪は分かるが、服装チェックなど制服のブレザーだからする必要ないと思うが。

 

 しかし、大きく頷いてニヤッと笑った白花には、どうにも嫌な予感を感じた。


「今度の週末、鷹宮くん改造計画を実行します」


「……何ですかそれは」


「陰キャの鷹宮くんがリア充になるべく様々な事を経験する計画です」


「待ってください、俺が考えたパーフェクトプランはどこに行ったのでしょう」


「そんなもの知りません。これは強制イベントです。クリアしないと未来はありません」


「え、未来はないって俺死ぬの?」


 白花は楽しそうに笑うだけ。


 それから彼女は勢いよく一歩を踏み出し、くるっと回って俺の方を振り返った。その瞬間、再び夕日がバックに差し込み、幻想的な美しさを生み出す。


「じゃ、そういうことで!」


 花のように微笑んだ白花を見れば、言いたい事全てが脳裏から吹き飛んでしまった。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 言い出しっぺの法則やで?
[一言] ツヅキをヨミタイ…(*´Д`)ハァハァ
[一言] ちょっとキツかったけど、やっと面白くなってきた セリフや行動に違和感を感じる事は多いですがこれからの展開には期待してます
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