番外編 ブルーリベレーション part8
「ただいま」
「おかえり」
俺が帰ったら家の灯りがついて、部屋中に味噌汁の香りが漂っていた。
「母さん……。退院おめでとう」
「ありがとう。心配かけちゃってごめんね」
エプロンの端で涙を拭く母さん。
「もうそれはナシ。それより今日の飯は何?手伝うよ」
俺は手を洗ってキッチンに入り、母さんの隣に立った。
「大丈夫よ。今まで奏がずっとご飯作ってくれてたんでしょ?」
「あ、うん」
「あんたも部活とかあっただろうに。お姉ちゃんたちの分までありがとうね」
「まぁ、それは今にはじまったことじゃないから」
俺は首をすくめて言った。姉ちゃんたちは自分等のことは何にもやらねぇ。いっつも俺に押しつけるだけだし。
「もう、お姉ちゃんたちは相変わらずねぇ」
「奏は困ってる事、ないの?」
「何々、突然」
「ほら、学校のこととか……」
とっさに優姫のことが浮かぶ。
「……何にもないよ」
「なに?今の間」
天然でボンヤリしているようで、母さんは意外に鋭い時がある。
「思春期のデリケートな少年だからさ。そこは触れないで」
「デリケートねぇ」
おどけて言う俺。明らかに誤魔化しがミエミエだったが、母さんはそれ以上聞いてこなかった。
「ただいまぁ」
和奏姉ちゃんが帰って来た。
「おかえり。早いじゃん」
「今日ぐらいはね。病院行けなかったし」
玄関でヒールを脱ぐと、キッチンに母さんの好物のプリンの箱を持って行った。
さすが、長女。
乏しい小遣いの俺は退院祝いまで頭が回らなかったなぁ。
「はい、おめでとう」
「ありがとう、和奏。わぁ、嬉しい。久しぶりだわ。ここのプリン」
母さんは箱の店のロゴをみて相好を崩す。
「でしょ」
和奏姉ちゃんは冷蔵庫からお茶を出すとお行儀悪く、足で冷蔵庫を閉めながら得意げに言った。
「食後のデザートね。買ってこなかったからちょうど良かった」
母さんは嬉しそうだ。
しまった。こんなことなら花でも帰りに買ってこれば良かった。
「歌音は?」
「塾だと思うけど……」
「ただいまぁ」
あれ、歌音姉ちゃん帰って来た。
「どしたの?塾は?」
「まだ振替権利残ってたから、土日に回した」
「へぇ……」
「今日ぐらいは家に居ないとね」
土日ぐらい休みたいって、土日にはいつも振替を入れない歌音姉ちゃんが?
うちって、何だかんだで家族の結束強いよなぁ。
「奏大!早く。先に食べちゃうよ~」
全員帰宅したので、玄関の内鍵を閉めて戸締まりを確認した俺はダイニングにパタパタと戻って家族全員で久しぶりに夕食を囲んだ。
不幸なんかなかったんじゃないかって?
まぁ、俺だけハンバーグが生焼けだったり、和奏姉ちゃんにお茶をひっくり返されて俺のおかずがお茶まみれになったり、なぜか人数分買ったハズのプリンが一つなくて、当然俺が姉ちゃんたちに譲ったり……。
そんなに、不幸と言えるほどのことでもなかったかな。
あぁ、やっぱり。
スマホの画面に「まぁまぁ不幸」の文字が。
プチ不幸もまぁまぁ不幸も地味なことばっかり。
これ地味だけど、毎日続くと凹むぞ。
あと残りは「ガッツリ不幸」と「ドン底に不幸」?
もう、早くクリアしてこの憂鬱な日々からサヨナラしたいんだけど、「ガッツリ」「ドン底」って何だろう。
ちょっと、怖すぎる……。




