番外編 ブルーリベレーション part6
「どうした、奏大」
佳彦がまた机に突っ伏してる俺の頭にパンを乗せた。
この重量。
今日はクリームパンっぽい。
「う~ん。お前さぁ不幸か?」
俺はパンを頭に乗せられたままの格好で佳彦に尋ねた。
「はぁ?どうしちゃったの、お前。昨日お前の母さん、やっと目が覚めたんだろ?」
「あぁ、うん」
「病院で何かあったんか?LINEの既読つかなかったから」
「悪い。何かスマホの調子が悪くて。母さんは多分、数日で退院になると思う……」
「そっか。良かったな」
「あぁ。サンキューな」
俺は昨日の地味なプチ不幸攻撃で疲れ果てていた。
昨夜、佳彦に何とかLINEはしたが、スマホが怖くて今朝から開けていない。
今朝、あの青いアイコン通知が不気味に光っていた。
また、不幸のミッションとやらがあるに違いない。うかつに開けるとまたはまりそうで……。
「あ、優姫じゃん」
佳彦が教室の入り口に向かって手を振った。
「どうせお前に用事だろ」
「そうか?今日は委員会もないんだが。奏大じゃねーの?」
ツクン。
何気に胸に刺さる佳彦の言葉。
俺なわけねーよ。と言いかけて飲み込む。
鈍い俺でも分かるのに。敏いお前が気づかないわけないだろ。
あいつがいつも、見てるのはお前。
優姫の目は、いつも佳彦を追っている。
「奏!お母さん、目が覚めたって?」
意外に佳彦の言う通り、優姫が尋ねてきたのは俺だった。
グループLINEを見たらしい。
てゆーか、俺は佳彦の顔を見に来る口実だろう。
いいんだ。ひねくれてると言われても。
その通りなんだから。
「おう」
「良かったね。お祝いにジュースぐらいは奢るよ」
優姫に手招きされる。
サラサラのロングヘアとおっきい瞳。ちょっと天然が入った素直なところも気に入っている、俺の幼馴染。
あ~、今日も可愛いなぁ。
「オゴリ?珍しい。明日は雨かもな……」
俺は思わずにやけそうになる顔を手で押さえながら、わざとぶっきらぼうに答えた。
好きなものを選べと言う優姫について購買部へ並んで歩く。
「あっ、猫じゃん」
校舎の影からヒョイと現れた猫を優姫はワシャワシャと撫ではじめた。生徒にエサをもらい、かなり人になついているのだろう。
仰向けに寝転がって、もっとやれといわんばかりに腹を出した猫を優姫は延々、撫でていた。
昔から妙に動物好きで特技のように動物にはなつかれる。
俺はそんな優姫を見てるだけで、なごんでしまう。
俺もこいつになついている動物と同じなんだろうか。
優姫が佳彦と付き合うことを想像するとやりきれないが、変に俺の重苦しい気持ちをぶちまけて今の関係を壊したくない。
とりあえず、俺は当面幼馴染ポジションをキープできれば良いだろう。
そんな俺の淡い希望も、いつの間にか発動していた「今日のミッション」に打ち砕かれた。
「あのさ、奏。相談があるんだけど……聞いてくれる?」
「え?」
優姫が珍しく、真剣な顔で俺を見た。
猫はいつの間にか、居なくなっていた。
「あのね……」
「普通に不幸」
いつの間にか、スマホが起動していたらしい。
普通の不幸は長年片思いをしていた幼馴染に予想通り、俺の親友が好きだと打ち明けられることだった。




