番外編 ブルーリベレーション part2
「どうした奏大、ほれ」
隣の席の佳彦が購買でパンを買ってきたらしい。
半分割って、俺に袋ごと渡してくれた。
「ん~?サンキュ。よく買えたな」
ベーカリーの焼きたてメロンパンは1日に10個限定。人気で直ぐに売り切れてしまう。
まだ2時限目だ。いつもなら手に入らない。
「いんや、貰い物」
「なんだ、女か。俺が半分食ったら恨まれるパターンなんじゃ……?」
もう一口かじってしまったが、俺はメロンパンを袋に慌てて戻した。
「大丈夫、三年生だからバレねーよ」
「今度は年上かぁ。相変わらずムダにモテるな、お前」
俺は切れ長の涼しげな瞳、鼻筋のすっと通った佳彦の男前な横顔をじっと見つめた。
こいつ本当に綺麗な顔してるんだよなぁ。吹き出物一つないツルツルの肌。本当にアイドルみてぇ。
こいつが来ると姉貴たちがいつも羨ましがって、スキンケアを聞いてこいとかギャーギャーうるさくて。
女子でもね~し、俺がそんなこと聞けるかよ。
「奏大。お前だって部活の時、キャアキャア女子に言われてるじゃね~か」
「俺は女には夢がねぇんだよ」
「あぁ、あの美人の姉ちゃんたちか。一人っ子の俺からみたら、贅沢な話だけどな」
美人かぁ?姉貴たちも昔から妙にモテるんだよな。
基本、俺と姉達達は同じ作りの顔だから、佳彦みたいに姉達を綺麗だと思ったことはない。
よく似た姉弟ね、と言われるだけあって俺が、女顔だなぁと鏡を見て思うことはあるが。
「いつでも言え。代わってやるぞ」
「イヤ、俺は家事ができないからムリだ」
「ちっ。お坊っちゃまが。大体、家事なんか覚えたら何とでもなるぜ。今は便利な家電が揃ってるからな~」
佳彦は私立エスカレーターでそのまま進学できたのを蹴って、何故だかウチみたいな公立高校を受験した。
ここら辺では有名な高級住宅街に住んでいる、昔風に言うと「良いところのボンボン」だ。
俺なんか、毎日炊事洗濯……。姉貴の下着も洗ってるんだぞ。まぁ、洗ってるのは洗濯機だが。
あいつら、人にやらせておいて俺がうっかり下着も運んじまうと、変態だなんだとなじってきて……。
誰が姉貴たちの下着なんかで興奮するか。
俺が女嫌いになったら、ぜってぇ姉貴達のせいだ。
「俺は不器用な男でな。細かいことは苦手だ」
「良く言うぜ。女相手は超器用じゃねーか」
なんかどっと疲れて机に突っ伏した。
あ~、このまま午後の部活まで寝てえ……。
「なんか、奏大。めっちゃ疲れてんな。ひょっとしてお袋さんに何かあったのか?」
「いんや、まだ目を覚ます気配はないな」
机に頭をつけたまま、俺は答えた。
「そっか」
「疲れてるとしたら、昨日あんまり寝れてなくて……。ぁあっ!そうだ。なぁ、佳彦。ブルー・リベレーションって知ってるか?」
「何だそれ。新しいゲームか?」
「いや、どうやらアプリらしい。不幸のアプリ的なもんって、今流行ってたりするのか?」
「ふ~ん。不幸のアプリねぇ。イマドキはそんなのもあるんだなぁ」
「え……、お前も知らないの?」
「全く」
俺と違って暇な佳彦は流行チェックも余念がない。佳彦が知らないってことは……。これから流行るんかな。
「なんか、勝手に通知がきて起動するんだよ」
「げ、めっちゃ怪しいな」
「だろ?」
「見せてみろ」
「ほい」
佳彦に俺のスマホを渡す。別に付き合ってる女もいないし、佳彦に見られて困るモノもない。
「ん?どれだ?」
「あれ?」
ない。
昨夜も今朝もスマホを起動したらしつこく通知してきた、青いダイヤのアイコンも見当たらない。
「良かったな、ちゃんとアンインストール出来てたんだな」
「う、うん」
おっかしいな~。
「あ、林が来たぞ。次、世界史かぁ。即寝だな」
「お、おぅ……」
世界史を担当する林女史が淡々と入室してきた。
彼女は趣味の世界を念仏のように抑揚のない声で唱えていくので、間もなく殆どの生徒が眠りに入る。
俺は林女史の「中世ヨーロッパの紛争の歴史」を目をこすりながら聞いていた。
もうダメだ。寝よう。
そう思って下を向くと鞄にしまったスマホが、青い光を発しているのが見えた。
「げっ……!」
昨夜と同じ、通知光。
(おい、佳彦っ!これ見てくれよっ……)
隣の同じく、うつらうつらしている佳彦を突っついた。
「…んん?」
佳彦が半目でこっちを向いた。
怖ぇえ。イケメン台無しだな、おい。
(どうした?)
(これだよ、やっぱりアンインストール出来てなかった……、あれ?)
佳彦にスマホを差し出すと青い光は消えていた。
(奏大、寝ぼけてんのか?)
「んっん~、うぉっほん」
(やべっ)
林女史に睨まれて、俺は慌ててスマホを鞄に放り込んだ。
確かに、光ってたんだけどな。
俺はコッソリと再び足元の鞄の中身を覗いた。
やはり、鞄の中でスマホが通知を報せる青い光を放っているのが見える。
……どうなってるんだ?
ひょっとして、このアプリ。
俺以外の人間には見えないようになっているんじゃないか……?




