番外編 カイロス時間へようこそ~有華国嫁取事情~その2
「どこだ、ここ……」
俺はどこまでも広がる群青の空を見上げた。
見渡す限り、一面の緑。
建物はおろか、人影一つない。
流れる雲の影が地面に模様を落としている。
道はない。
ケモノ道のような、何かが通った跡すらも見当たらない。
「探しましたよ、右依流様っ!」
草むらが揺れて、突然背後から声をかけられた。
「あ?……お前、ナルドか?」
「は?いかにも私は成戸でございますが」
見馴れた超真面目なカルゾ家の執事が刀を下げて、見慣れない着物を着て立っていた。
普段後ろに撫でつけられている前髪がおろされていて、何だか若く見える。
こうやって見ると、こいつも中々イケメンだ。
「……お前、その格好。新手のコスプレか?」
「何のことでございますか?そんなことよりお父上やお方様がお呼びです」
もはや、トレードマークのようになったため息をつく成戸に背中を押される俺。
「お方様……って誰?」
「はい?蒼部様ですよ?」
「ソーヴェ様……が何だって?」
俺の言葉に苦虫を潰したような顔をして成戸は言った。
「妙な冗談はおやめ下さい。ただでさえ、若様のことで頭が痛い毎日ですのに」
「バカ様?」
「はぁ?……まぁ、私にとってはそんなようなものですが。敏尖人様は……」
「ヴィンセント?」
知っている名前のオンパレードなのだが、どうにも状況が掴めない。
何が起きている?
もしかして、ここは俺の知っている世界ではない、とか?
まさか、ね。
「もうすぐ敵国が攻めてくるかも知れぬ時に、本当に貴殿方はのんびりとしておられて……さぁお父上が苛々してお待ちですよ」
「父って誰だ?」
「右依流様、頭でも打たれたのですか?茶楽様に決まってるじゃないですか」
成戸は呆れたように言った。
「あぁ……そうか。悪いな、やっぱり頭を打ったようだ。敵国とは何の事だ?」
「……本当に頭を打たれましたので?」
「そのうち思い出すかもしれん。悪いが教えてくれ」
俺は成戸に頭を下げた。俺の知っている真面目な執事と同じキャラなら、きっと丁寧に状況を教えてくれる事だろう。
そんな俺の意図通りに成戸はため息を吐きつつ説明してくれた。
「頭を上げて下さいよ。また、何か新しいお遊びですか?では一応お伝えしますね。敵は最近、妙に勢いづいている織田という武将です」
「織田……」
我が国ユッカでも怪しい動きをしているオルタヒト将軍がこの世界でも何やら企んでいるのか……?
「もう良いですか?思い出しました?」
「いや、続けてくれ」
何やら言いたげだったが、成戸は先を続けた。
「桶狭間で今川氏を討ち、かの人物は何やら勢いづいて……。次は都に攻め上がりたいようで、都に近い我が国有華に実質の人質を差し出すと申し入れをしてきたのが昨日。まぁかの者が、そんな約定を守るとはとても思われませぬ」
「へー」
なるほど。大体把握できてきたような気がする。
ここは所謂、異世界パラレルワールドというやつなんだろう。
どういう仕組みかはわからないけど、我が国に異世界転移してきたリツコがやって来たのと同じ感じか?
リツコの時はマルサネに入ったようだが、どうやら俺は……この世界の「俺」らしい。
「初めて聞いたようなリアクション止めてもらえます?」
俺の様子を見て不安げに成戸が言った。
だって仕方ないじゃないか。初めて聞く事ばかりなんだから。
「はは。もうちょっと聞かせてくれよ。なぁ、つまり俺はこの国主の息子、ってことでいいのか?」
「いいも悪いもそうですよ!」
「兄たちは?」
「明日定様は隣国へ養子にいかれました。振威座様は唐国留学からまだお帰りにはなっておりませぬ」
「へぇ、アスティ兄さんは養子か。じゃ、まさかこの国の世継ぎって……?」
「何を寝惚けたことを仰ってみえるのですか?貴方様に決まってるじゃないですか、右依流様」
「え?俺~!?三男なのに?」
「さて、記憶喪失ごっこはそろそろ終わりでお願いします。もう軍議がはじまってしまいます。さぁ、早くお戻り下さいませ!」
成戸に強引に馬に乗せられて、有華国の城内に俺は連れて行かれたのだった。




